太郎と姫子はおじいさんにお使いを頼まれた。隣町で大きな呉服店を営み、かつおじいさんとは年来の友人である一体さんにおつうが作った反物を届けて欲しいと云う使いである。おじいさんの手紙とおばあさんが作ってくれた握り飯を持って太郎と姫子は隣町へと歩いていった。
「太郎、まだおつうのこと忘れられないの?」
「うん」
おつうは『寿命が来た』と言っていた。きっと山に帰り、ひっそりと死んだのだろう。そう思うと姫子も切ない。
「でもね太郎、おつうは私たちを見ているよ。かっこいい男の子であるのを見せてあげないと」
「うん、おいらもう大丈夫」
やがて隣町への一本道に出た。すると
姫子、誰かいる」
近づいてみると、白い着物をまとい、通せんぼしている女がいた。
「私は雪女よ。ここは通さないわ、へん!」
「何でそんな意地悪をするの?私たちここを通らないと隣町に行けないのに」
と、姫子。
「じゃあ、銭を出しな。何なら…」
姫子の背負う荷物を見る。
「その反物を私にくれたら通してやるよ」
「どけブス!」
太郎が怒鳴ると雪女は激怒。
「言っちゃいけないことを言ったねボウヤ。凍って死んでしまえ!」
姫子は太郎の手を繋いで大急ぎで逃げた。何とか雪女の吹雪攻撃を避けられたようだ。
「はあふう…太郎、本当のことを言っちゃ駄目じゃないの」
「だって…」
反物を取られては、おつうに申し訳ないと思い、太郎は言ってしまったのだろう。
「とにかく走ってお腹が空いたわ。お弁当にしましょう」
「やった!」
道端に座り、おばあさんがくれた握り飯、その包みを解いて食べようとしたら
「あっ!」
姫子の手から一つ握り飯が落ちてしまった。その握り飯は路傍の穴に落っこちてしまった。
「あ~ん!おばあちゃんが作ってくれたお握りがぁぁ~ッ!!」
「ほら」
太郎はさっそくカッコいい男の子であろうとしたか、姫子に一つ分けた。
「ありがと、半分こにするね」
太郎がくれた握り飯を半分に割っていると穴から変な歌が聞こえた。
『おむすびころりん、すってんて~ん♪』
そして穴から可愛らしい子ねずみが顔を出した。愛らしい顔にはご飯粒がついている。
「こ、こんにちは、ねずみさん」
と、姫子。
「『みに』と云う名前があるわよ。それよりお握り美味しかった~!私ハッピーよん」
「でしょう。私たちのおばあちゃんが作ったんだから。でももうあげないよ」
「もう満腹だからいいわよ。それより一飯の義理は果たすわねん。こう見えても義理固いのよ。雪女のおせちに困っているようね。実は私たちもなんだよね~」
「そうなの、みに、何かいい知恵ないかしら」
「オッケー!お姉ちゃん協力するわ。私たちの背丈では無理なんだけど、人間のおチビちゃん二人なら何とかなるかも。これを使ってごらんよ」
ねずみのみには、姫子に手鏡を渡した。
「おせちは眩しい光に弱いわ。お日様に照らして、あとは分かるでしょ」
「おいら、やる」
太郎は姫子から手鏡を渡された。再び隣町への一本道に差し掛かり、そして雪女のおせちが出た。
「また来たな。私をブスと言った罪は重いよ。覚悟し…」
太陽の光を手鏡に反射させて、おせちに照らした。まぶしくてたまらないおせち。
「うわ、ちきしょ!ねずみどもに知恵つけられたな!」
「おいらたちを通せ!」
「か、鏡をしまえ子供~!…ん?」
太郎の持つ手鏡に自分の顔が写っているのを見るおせち。
「な、何ていい女なんだろう私…」
「へ?」
「これよこせ」
おせちは太郎から手鏡をひったくり、自分の顔にウットリしながら去っていった。
「……」
「…鏡、割れなきゃいいんだけど」
姫子の言葉は中々キツい。さて、かくして二人は隣町に到着し、一体さんの経営する呉服屋に着いた。
◆ ◆ ◆
「おう、長串村のじいさまのとこにいる太郎と姫子ではないか。よう来たな。まあ上がりなさい」
一体さんは二人に饅頭とお茶を出した。
「いただきまーす!」
太郎は美味しそうに饅頭を食べる。
「二人ともお手伝いしてえらいのう。して、何のお使いだね」
「はい、おじいさんに頼まれました。この反物を届けるようにと」
姫子はおつうの作った反物を差し出した。そして預かっていたおじいさんの手紙も渡した。
「こりゃあ何と見事な反物じゃ。おうおう、これは是非ウチの店で扱わせて欲しい」
そして手紙を広げて読んだ。
「ふーむ、これ姫子」
「はい」
「手紙にはおじいさんから注文されている品が書かれている。しかし、今その品は店にない。数日中に仕入れて、村に持っていく。この反物の代金もその時に持って行く。お金は今出せないこともないが、幼いお前たちが持つには大金すぎる。私が品と一緒に届ける。待てよ、今それを書いた手紙を渡すゆえ」
「分かりました」
太郎はまだ食べている。
「わはは、よほど気に入ったようだな太郎。よしよしお菓子も包んであげような」
「やった!」
一体さんから手紙とお菓子の包みを渡され、太郎と姫子は家に帰った。そして数日後。
「まいどお~!」
太郎の家に一体さんがやってきた。
「一体さん、わざわざすまんな」
「おやすい御用にございます。それにしても先日は見事な反物ありがとうございます。これが反物の代金にございます。注文の品の代価は差し引いておきました」
「こんなに…。よろしいのですかな」
「はい、それと注文の子供たちの」
「ありがとう。太郎と姫子、ここに来なさい」
「「はーい!」」
太郎には丈夫な布地で作られた新しい着物が与えられた。いつも野山を遊びまわり、着物をボロボロにしてしまい、時に小さな切創傷も出来てしまう。それを防ぐため丈夫な布地で作られた子供用の着物を一体さんに注文した。新しくて丈夫な着物に目を輝かせる太郎。しかしいささか寸法を間違えたようで
「ありゃ、ちょっと大きいか」
苦笑する一体さんとおじいさん。
「なに、子供の成長は早い。今にちょうど良くもなるじゃろう」
姫子には
「わあ、きれい!」
日常は野良着を着ている姫子だが、おじいさんが一体さんに注文したのは上衣が純白で下衣が朱色の巫女装束だった。一度見た巫女の艶やかさに憧れた姫子の気持ちをおじいさんとおばあさんは知っていたのだろう。大喜びして新しい着物に見せ合う太郎と姫子。おじいさんとおばあさん、一体さんも微笑んだ。
「やっぱり、姫子ちゃんは女の子ですなァ。あんなに喜んで」
「ははは、高い買い物だったけれども子供たちが喜ぶ顔には変えられんよ」
「ほんに…」
「それにしても、巫女装束はウチにあったんですが、太郎の着物の布地が最近全然入ってこないのですわ。だから少し時間をもらったんですよ」
「ほう」
「調べてみて分かりました。最近都で出ている大きな竜のせいらしいのです」
「竜?昔話なんかに出てくる怪物のことかね?」
「はい、突如に京の都に大きな空飛ぶ竜が出てきましてなあ。人間を鬼にしているのですわ。その鬼どもがまた暴れ者で町や村々を壊し、人の魂を吸い取って鬼にして増やし、都では大変な騒ぎになっています。あの布地はナマクラ刀なんぞ通さないほど丈夫で、かつ燃えにくいよう作られております。だから今まで都では火消し屋がもっぱらに使うくらいだったのですが、護身用に重宝されだし、あの布地が飛ぶように売れて品薄となったようで」
「なんと…」
「おじいさん、この長串村は大丈夫かのう…」
おばあさんの怯えに一体さんが答えた。
「残念ながら対岸の火事と云うわけにもいかんようです。気を付けて下さい。どうやらこっちにも向かって来ているみたいです。話によれば、ここからそうも遠くない屏風岩にも砦を作っていると云うことですわ」
「それは困ったのう…。老い先短い我らは良いが、太郎や姫子に何かあったら…」
「おじいさん、縁起でもないことを」
「あ、ああ、すまない」
「それでは私はこれで…」
一体さんは帰っていった。すると太郎は言った。
「おいら、竜を倒す」
「なんじゃ聞こえていたか」
姫子も怯えておばあさんに抱きつく。
「おやおや、さっきまであんなに喜んでいたのに、そんなに怖がって」
「だっておばあちゃん…」
「心配いらないよ。いざと云う時は儂たちで守ってあげるからね」
「うん…」
「おじいちゃん、おいら、竜を倒す」
「竜と云うのは大きいのだぞ。それに恐ろしい術で人を襲うのじゃ」
「都ってどこ?」
「ここからずうっと西にある京の都のことじゃ。人がたくさん住んでいる」
「ふーん」
「さあ、姫子、ばあさん、そろそろ夕餉の支度を。腹が減ったわい」
「はい」
◆ ◆ ◆
太郎と姫子は新しい着物がよほど気に入ったのか、今日はその着物のままで眠った。おじいさんとおばあさんは二人の寝顔を見て、そして囲炉裏の前に来て話した。
「ばあさん、一体さんの話、どう思う」
「作り話をされる方ではありません。すべて本当でしょう」
「儂もそう思う」
おじいさんは棚から箱を下ろした。その箱には太郎が生まれたお椀と姫子が生まれた竹が大事に入れられていた。それを見つめるおじいさんとおばあさん。
「姫子は嫁にやるまで、太郎は一人前の男とするまで。それまで立派にお育てすると仏様に誓った我らじゃ。竜や鬼などにむざむざ襲わせやせんぞ」
「儂もいざと云う時には命を賭けて…!」
やがて、おじいさんとおばあさんも眠りについた。その夜、太郎は一度眠ったが、一体さんの話が気になり目が覚めた。囲炉裏の方に行くと姫子も起きていた。
「姫子」
「太郎も気になって?」
「うん…」
「私たち子供がどうこう出来ることじゃないけど…。やっぱり何か胸騒ぎがするの」
ふと、囲炉裏を横を見ると見慣れぬ箱があった。おじいさんがしまい忘れたようだ。開けてみた姫子。そこにはお椀と竹筒があった。
「……?」
「はろ~ぐっどいぶにんぐ」
「「………!!」」
オカッパ頭に赤い前掛け、異国の黒い眼鏡、サングラスをかけている童子が突然現れた。どこか知らない国の言葉を話す変な童子。金太郎であった。いきなり現れて姫子はビックリ。
「きゃーッ!ど、どろぼう!」
「のんのん」
チッチッと気障に右の人差し指を振る金太郎。姫子は少なくとも悪人ではないと思ったか、そのまま黙った。そして金太郎は竹筒とお椀を指し、太郎はお椀から、姫子は竹筒から生まれたのだと話す。
「うっそ~!私たちはここで生まれたのではないの?」
「いえ~す」
普通の少女には衝撃の事実。しかし姫子とてもう八歳。そして八歳児とは思えないほど利発だった。自分たちの両親にしては老いすぎていると分かっていた。私と太郎はおじいさんとおばあさんに拾われ育てられている。薄々は分かっていたのだろう。でもおじいさんとおばあさんは大好きな姫子だった。
「おい、お前」
と、太郎。ふくれっ面をしている。
「おいらと姫子はおじいちゃんとおばあちゃんの子」
そんなお椀と竹筒から生まれたんじゃない、そう言っている。ついてこい、太郎と姫子を外に連れ出した金太郎。外には彼がいつも乗っている熊の熊吉が待っていた。乗れ、と云う手振りの金太郎。太郎と姫子は熊吉の背に乗り、家より一寸の、いつもおばあさんと姫子が洗濯をしている川へとやってきた。熊吉から下りた太郎と姫子。
「何よ、いつもの川じゃない」
「川上にGOだ」
「川上へ?」
姫子が振り向くと、もう金太郎と熊吉は姿を消していた。驚く太郎と姫子。
「あいつ、不思議」
「ほんと」
「でも悪いヤツ違う」
悪いヤツは熊と仲良しになれない。太郎はそう思った。姫子もうなずく。
「意地は悪いけどね。さて、じゃあ言うとおり川上に行ってみましょう」
「うん」
真っ暗な夜、ひたひた…。二人の足音だけが闇に吸い込まれていく。川上に向かう二人。この辺は太郎と姫子の遊び場。しかし夜に来るのは初めてだった。
「そろそろ滝が…」
と、姫子が言うや、二人は目が飛び出るほどに驚いた。滝が光っている。月一つ出ていない闇夜なのに。
「どうなっているの。川が光るなんて知らないよ」
「おいらも初めて見た」
「あれ?」
「ん?」
「川面に月が映っている。おかしいわ。月が出ていないのに」
太郎は川辺の小石を使って放った。コンと当たった。腰に差している棒を伸ばして、その物体を取った。皿だった。
「姫子、皿だ」
「きれいなお皿…。何か透き通るよう」
その皿を眺めていると、滝の上からすすり泣く声が聞こえてきた。川のせせらぎと思ったが、どうやら泣き声だ。
「ちょっと見てくる」
野生児太郎は断崖絶壁である滝の落ちる山肌をヒョイヒョイと登り、やがて山頂の竹林に出た。そして見つけた。竹にもたれ、貧相な背中を震わせて泣いている変なのを。
「しくしく…しくしく…」
(こ、怖くなんかない)
太郎は声をかけた。
「おい」
振り向いたのは河童だった。泣いている。
「どうした?」
「うっ…うっ…大事なお皿を無くしてしまったんです。滝が光った時に水を止めるのがじいちゃんの代からおいらの一族に伝わる使命。しかし、いざ滝が光って、さあやるぞと思えばおいらの頭からお皿が無くなっちゃていて。皿がないと力が出ない。父ちゃん母ちゃんとじいちゃんに合わせる顔がないです。うっ…うっ…」
「これやる」
太郎は先ほど拾った皿を出した。目を輝かせる河童。
「きゃ~っ!きゃ~っ!こ、これ、これですよ!これ!私のお皿!何とお礼を申して良いのやら!じゃ、私は水を止めないといけないので、これで失礼します」
「水止めるのダメ」
太郎の家の洗濯が出来なくなる。それを察した河童は答えた。
「心配いりません坊ちゃん。ほんの少しの時間止めるだけですから」
「何で?」
「さあ~じいちゃんたちもそれは知らなかったのですよ。確か『ひの…』何とか云う神様からのお告げだったとか。我ら河童一族はそれを受け継いできたのです」
「ふーん」
河童は立ち去った。そして太郎が山を降りると水の流れは止まっていて、滝の後ろに大きな穴が現れていた。奥の方から光が見えた。
「太郎、行ってみましょう」
「ん」
二人は中に入った。そんなに大きな洞穴ではなかった。恐る恐る光に向かって歩く太郎と姫子。やがて見つけた。
「な、なに、このお鍋の化け物みたいなのは!?」
太郎と姫子が見たのは光を放つ大きな鍋だった。鍋に近づく姫子。
「金太郎が現れたのも、河童さんの使命も、みんなこの鍋によるものなの…?」
大きな鍋には文字が書かれてあった。姫子は声を出して読んだ。
「『龍の宮にて忌まわしき暗黒の化身よみがえる。私はこの地に復活し過ちをただす者なり』…何かの伝言かしら」
姫子の声が洞窟に響く。その時、鍋の蓋がポンと開いた。太郎が鍋によじのぼる。鍋の中を見にいった。好奇心旺盛とは云え恐れを知らない童子である。
「何か見つかった太郎?」
「ん、これ」
姫子に見せる太郎。それは綺麗な腕輪と首飾りだった。やがて腕輪は太郎の腕にスッポリとはまってしまい、首飾りは宙を舞って姫子の首にストンと落ちてぶらさがった。
「取れないぞ!?」
「私の首飾りも!!どうなっているの~!?」
二人が外そうとしても外れない。やがてあきらめて洞窟を出た。太郎たちが出てしばらくすると川の流れが聞こえてきた。滝が元通りになったのだろう。太郎と姫子にやっと眠気が襲ってきた。姫子が眠そうなので太郎がおんぶして家に帰っていった。小さな太郎の背でスヤスヤと眠る姫子。
「ちぇ、おいらも早く寝たいや」
そろそろ家に帰り着くころ、姫子が目を覚ました。
「太郎!」
太郎も異変を感じたらしい。二人は走って家に向かった。そして見た。
「な、なんだあれ!!」
「あれが…一体さんの言った鬼!?」
おじいさんとおばあさんは玄関先で鬼に囲まれていた。般若の面に長い白髪、黒装束。それが鬼だ。鬼の手には銅鐸がある。それをおじいさんとおばあさんに向けている。どういうつもりかもしれないが少なくともおじいさんとおばあさんに危害を加えるのに間違いない。
「ひ、ひええ!お、おじいさん!」
「ば、ばあさん」
おじいさんは続けて小声で『子供たちは?』とおばあさんに訊ねた。おばあさんは唇だけ動かして『いない』とだけ答えた。どこに行ったかは心配だがまさに不幸中の幸い。おじいさんは妻を庇うように抱きしめた。
家の庭のしげみに隠れていた太郎と姫子。姫子は太郎の肩に手を置いた。その手を握る太郎。
“おじいさんとおばあさんを助けよう!!”
太郎と姫子は目でお互いの思いを伝えた。そして太郎は腰に差している棒を握った。しかし
「すと~ぷ!!」
何と再び金太郎が現れ、二人の前にマサカリを振り下ろし地に突き刺した。サングラスを外し、この時は異国の変な言葉で話さなかった。
「いいか、よく聞け。魂を吸い取られた人間は鬼になってしまう。しかし魂が戻れば人間に返ることができる。今ここで飛び込んでもお前らに勝ち目はない。お前たちまで魂を奪われるぞ!!」
「そこどけ!!」
「どいて金太郎!私たちにとっては大切で大好きなおじいちゃん、おばあちゃんなの!鬼にやられるのを見ていられない!!」
「…仕方ない」
(姫様、御免!!)
金太郎は太郎と姫子に当て身を食らわせた。二人は倒れた。そして気を失う寸前に見た。おじいさんとおばあさんが鬼の持つ銅鐸に吸い込まれていくのを。
((おじいちゃん…。おばあちゃん…!!))
一寸して気がついた太郎と姫子。当たり前だが家の中は誰もいない。太郎は悲しさのあまり泣き出した。そして金太郎に怒鳴る。
「やい、何で止めたんだ!」
「俺にすら勝てないお前たちが鬼にどうやって勝つ」
「うるさいやい!」
「金太郎、どうすればおじいちゃんとおばあちゃんを助けられるの?貴方は知っているはず」
「屏風岩の鬼たちの砦に行き、銅鐸を奪うしかない」
「貴方も…」
金太郎が並外れて強いことは姫子には分かる。一緒に来てくれれば頼りになる。しかし金太郎は首を振る。
「俺は助けない、助けられない。お前たちがやらなければならぬことなのだ。特に…」
太郎を指差す金太郎。
「太郎、お前が」
「え…」
「どういう意味?金太郎」
姫子の問いかけに答えず、サングラスをかける金太郎。
「ぐっ~どらっく」
そして熊に乗って、マサカリをかつぎ立ち去ってしまった。太郎と姫子は途方にくれる。
しかししばらくして家の外から石を引きずるような音が聞こえた。姫子が外を見ると、それはいつもおばあさんがお供えをしていた六体のお地蔵さんたちだった。お地蔵さんたちは姫子たちの家の前にきび団子と小判を置いて何も云わず去っていった。
「お地蔵さま…」
太郎もお地蔵さんたちを見送る。姫子はお地蔵さんが置いていったものを胸に抱いた。
「そうね、いつまでも悲しんでいても仕方がないね…」
「うん」
「おじいさんとおばあさんを助けにいかなきゃ」
「いくぞ!」
二人は夜明けを待って屏風岩に行くことを決めた。太郎と姫子の波乱に富んだ大冒険が始まる。