むか~し、昔…。長串村と云うところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。二人には子供がとうとう授からなかったので、毎日お地蔵様に、お祈りをしていました。
“親になりたい…。子がほしい…”
そんなある夜、おじいさんは夢を見ました。夜空にひときわ輝く星が告げたのです。
『じいさま…。明日、おまえは女の子を授かるであろう』
同じ夜、おばあさんも夢を見ました。
『ばあさま…。明日、おまえは男の子を授かるであろう』
◆ ◆ ◆
長串村に朝がやってきた。おじいさんとおばあさんは昨夜見た変な夢を話していた。
「何とばあさんも同じ夢を?」
「何と、おじいさんも」
囲炉裏を挟んで朝ごはんを食べていた二人は奇妙な偶然に驚くばかり。
「仏様が寂しい儂たちに楽しい夢を見せてくれたのじゃろう」
寂しそうにおじいさんは笑った。ありえない、今日我ら夫婦に二人も子が授かるなんて。
「しかし男の子と女の子、一人ずつの子。さぞや我が家も賑やかになりましょうね…」
「そうだな。ばあさん、想像するだけでも楽しいではないか」
「そうですね。それで十分」
空になった椀を置いたおじいさん。白湯を飲み干し、よいしょと立ち上がった。
「さて、そろそろ芝刈りに行くか」
「では私は川に洗濯へ」
「気をつけて行くのじゃぞ」
「おじいさんも」
おじいさんは背負子と鉈を持ち、山へ芝刈りに向かった。
「ふうふう、この歳では山登りも大変じゃわい」
やがて多くの枯れ枝が落ちている場所へと着いた。おじいさんは一本一本拾い、背負子に結いつけた。一仕事終えて、やれやれと腰を降ろして弁当を食べようとした時、黒い巨体がおじいさんに迫った。
「ひ、ひえ!く、熊じゃあ!」
逃げるどころか腰を抜かしてしまったおじいさん。しかし
「すと~っぷ!まいべあ」
オカッパ頭に赤い前掛け、異国の黒い眼鏡、つまりサングラスをかけている童子が現れた。自分の体重以上にありそうなマサカリを軽々と担いでいる。どこか知らない国の言葉を話す。熊は大人しくなった。
「まいねーむいず金太郎」
「助かったよ、ありがとう金太郎さん」
サングラスを外した金太郎。
「俺の子分の熊吉です。驚かせて申し訳ない」
「ほほう、熊が子分とはすごい童じゃなあ」
褒め言葉に微笑む金太郎。
「では、おじいさん。帰りの道中に気をつけて」
「金太郎さんもな」
サングラスをかけて熊にヒラリと乗りマサカリを担いだ金太郎。おじいさんに最後
「しーゆーあげいん」
と、言って立ち去った。おじいさんには意味不明な言葉だろうが。おじいさんは芝を背負って山を下り出した。しかし不思議なことにいつも歩きなれている山道で迷ってしまった。
「こりゃ参ったぞ…。夜まで帰れなければ大変なことになるわい」
やがて雨が降り出した。
「せっかくの薪が濡れてしまう。まったくついてない」
雨を避けるように歩いたおじいさんは竹林に到着した。そろそろ辺りも暗くなってきた。
「困ったのう。雨は何とかしのげそうじゃが…ん?」
おじいさんはやや遠方で光を見つけた。
「なんじゃろ…」
その光に近づいたおじいさんは見つけた。白色に輝く竹を。
「おおお…。何とも不思議な竹よ」
おじいさんは持っていた鉈で光る竹を注意深く切ってみた。すると
「おお…!?」
竹の中にはスヤスヤと眠るかわいい赤子がいた。
「ま、まさにお告げの通りじゃ!こんなめんこい赤子が!」
おじいさんは赤子を竹から抱きかかえた。すると雨は止み、おじいさんの前に帰り道が月の明かりに照らされた。
「感謝いたします仏様、儂ら夫婦が必ず健やかにお育て致します」
◆ ◆ ◆
さて、川に洗濯に行ったおばあさん。途中の道に六体のお地蔵さんがある。いつもお供えをしてから川に行く。六体のうち、一体に笠と蓑がなかったので、おばあさんは家から持ってきた笠と蓑をお地蔵さんにかけた。そして手を合わせて川に向かおうとすると
『ありがとうおばあさん、今日は川で良いことがありますよ』
と、お地蔵さんがおばあさんに言った。おばあさんはそんなことが目当てでやったことではないのだが
「ありがたく…」
そう言って川に向かった。いつもの洗濯場について、おばあさんは洗濯を始めた。すると
「…ん?」
川の上流からどんぶりが流れてきた。しかも蓋がされている。どんぶりはおばあさんの方に流れてきて、洗濯場でピタリと止まった。おばあさんはそのままにしておけず、そのどんぶりを拾った。少し重い。
「もしや、これがお地蔵様の言われた良いことなのかのう…」
やがて洗濯も終えて、おばあさんはどんぶりを持って家に帰る。お地蔵さんの前を通ったので、どんぶりのことを報告すると
『どんぶりの中に熱湯を注ぎなさい』
と、お地蔵さんに教えてもらった。意味の分からないままおばあさんは家に帰り、囲炉裏に火を熾してヤカンに水を入れて熱した。
(どういう意味じゃろう…。とにかくお地蔵様のお告げゆえ、やってみなければ)
ヤカンのお湯が沸くのを待っていると、おじいさんが帰ってきた。
「ばあさん!見ろ、このめんこい女の子を!」
「まあ!おじいさんこの子をどこで!」
「山の竹林で竹の中に眠っていたのじゃ!お告げどおりじゃ!」
おばあさんも女の子を抱かせてもらった。スヤスヤと眠る寝顔が愛しくてたまらない。
「何とめんこい…」
「ばあさんや、儂らで立派に育てよう!」
「もちろんですとも」
そうこうしているうちに熱湯が沸いた。
「ちょうどいい、茶を入れてくれ。喉が乾いたわい」
「あ、待っておじいさん。実は…」
おばあさんはお地蔵さんのお告げをおじいさんに聞かせた。
「ふむ…。このどんぶりに熱湯を…」
「お告げだし、やってみましょう」
「ふむ」
おじいさんは蓋を開けてどんぶりの中に熱湯を注いで、そして蓋をしめた。
「…何も起こらないが」
「しばらく待ってみましょう。それよりおじいさん、この子に名前をつけてあげないと」
「そうじゃな、何て名前が良いだろう」
二人して女の子の名前を考えていると、やがて熱湯を注いだどんぶりがグラグラと揺れた。
「…なんじゃ?」
ポーンッ!と云う音と共に男の子がどんぶりの蓋を突き破って飛び出てきた。
「ひゃあ~ッ!今度は男の子じゃあ!」
びっくり仰天のおじいさんとおばあさん。
「何と我ら夫婦は幸せな。おじいさん、この子たちを儂たちで育てましょう」
「そうじゃそうじゃ!」
どんぶりから生まれた男の子は『太郎』、女の子は『姫子』と名づけられ心優しい老夫婦に育てられていくことになった。
◆ ◆ ◆
さて月日は流れ、太郎と姫子は五歳になった。二人が野山で遊んでいたところ、悲しい鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「なんだろう、太郎、行ってみましょう」
「うん」
すると一羽の鶴が罠にはまり、足を挟ませていた。血も出て痛くて動けず、鶴は鳴いていたのだ。
「かわいそう」
姫子は罠を外そうとするが、少女の力では無理。
「太郎、おじいちゃんを呼んできて」
「おいら、やる」
「え?」
太郎は罠の歯を鶴から離してやった。子供ではとうてい無理そうだったのに、すごい力だ。
「すごい太郎、力持ち!」
「えへへ…」
鶴は嬉しそうに鳴き、そして空へと飛んでいこうとしたが体が弱っていた。太郎は持っていた水筒から鶴に水を飲ませた。鶴はやっと弱々しくも空へと飛んでいった。
翌日の夜、長串村に雪が降った。囲炉裏で暖まりながら夕食を取る太郎たち家族。その夕餉時、家の戸が小さく叩かれた。おばあさんが出ると
「家を凶作で無くした者です。何でもいたします。ここに置いていただけませんか」
と、痩せた若い娘が来た。足に重傷も負っている。
「これはいかん。ばあさん、急ぎ足を手当てしなければ」
「はい」
「姫子、粥を作ってあげなさい」
「はい!」
女の名前は『おつう』と言った。歳は十七歳くらいだった。やがて老夫婦と姫子たち
の手当てを受けて回復していった。
「おばちゃん、もう大丈夫か」
「せめて、お姉さんと言って」
太郎の言葉に苦笑するおつう。おつうはその後に家に留まるとなり、田畑を手伝い、老躯ではきつい仕事を率先して行い、そして太郎と姫子の面倒をよくみた。太郎と姫子はおつうに懐き、おつうも太郎と姫子を愛した。特に太郎はおつうの大きい乳房がとてもお気に入りで、よく触らせてもらっていた。
太郎は頭の成長が少し遅く、七歳になっても口があまり回らず、無論字も書けなかった。しかしおつうは根気よく教えた。
「いいのよ、太郎。焦らない焦らない。ほら、これが『たろう』よ。もう一度書いてごらん」
「う、うん」
たどたどしい字で、ようやく『たろう』と書けた太郎。
「よく書けたわ。えらいわよ」
「うん!」
太郎と姫子がそろそろ八歳になろうと云う時だった。おつうは母屋から離れて夜に物置小屋で機織をするようになった。けして中に入ってはいけないと家族に念を押して。時におつうの乳房が恋しくなり、太郎は入ろうとしたが、姫子に止められた。
「男の子は女の人との約束を守るものよ!」
「うん…」
やがて、太郎と姫子は八歳になった。その朝だった。おつうは見事な反物を二巻持ってきた。おじいさんとおばあさんは目を見張った。
「なんと見事な…」
売れば大金となる見事な反物だ。
「おじいさん、おばあさん、太郎、姫子」
「なーに?おつう」
と、太郎。
「私…もう行かなくちゃ」
「「え?」」
「もう寿命だから…。時が来たからもう帰らなければ」
太郎たち家族には何を言っているのかさっぱり分からない。その時、おつうの体が煙に包まれた。何と美しい鶴となった。姫子は
「あの時の…!」
三年前に野山で太郎が助けた鶴と分かった。
『太郎、姫子、おじいさんとおばあさんの言うことをよく聞くのですよ…』
おつうは空へと飛び立って行った。目には涙が浮かんでいた。誰よりも別れが辛かったのはおつう自身だ。
「おつうーッ!行かないでよーッ!!」
太郎は泣いて追いかけた。しかしおつうは振り返らなかった。
『男の子だったら泣かないで。おじいさんとおばあさん、姫子を大事にするのですよ。さよなら、太郎』
「おつうーッ!!」
やがておつうの姿は空の彼方に消えていった。
「うえーん、ひどいよおつう…」
「行ってしまった…」
おじいさんも肩を落とした。もはやおつうは家族だった。太郎たちの家に残った二つの反物。太郎に助けてもらったことと三年一緒に暮らした家族たちへの恩返しだった。
新・鬼ヶ島、連載開始です。基本的にゲーム通りのストーリーです。全8話です。最後までお付き合い願います!