ゆきのん編です。どうぞ。
今日は朝から曇っていた。
蒸し暑く、ジメッとした空気の中俺は雪ノ下雪乃との待ち合わせにむかっていた。
着いたのはどうやら俺の方が早かったらしく、待ち合わせ場所の喫茶店でコーヒーを頼み本を読んで過ごす。
少し本の世界に入りかけた頃、待ち人が来たようだった。
「お待たせしてしまったかしら」
「ん、いやまぁ平気だ」
「座っても?」
「どうぞ…」
「せっかくだしここで少しゆっくりしていきましょうか」
「ん」
お互い本を読む。会話もさしてしない2人だし、これはこれで居心地は悪くない。
なんつーか場所を変えた奉仕部の活動みたいだと思った。由比ヶ浜がいなけりゃ飲み物も紅茶ではなくコーヒーだが。
時間がゆっくり流れていく感じが心地いい。
お互いキリのいいところまで読んだ後会話が始まる。
「雨、降らなければいいわね」
「そうだな。そろそろ読書家には嫌な時期に入るな」
「そうね。本読むのは家だけになってきそうだわ」
とたわいもない会話をする。
「さて、そろそろ次のコーヒーでも飲みに行きますか」
と今日の本来の目的地である猫カフェへと向かう。まさかのカフェからカフェの移動である。
曇り空が広がる空の下を2人で歩いていく。
雪ノ下は俺の一歩後ろを下がって歩くということに気づいたのはいつだろうか。
歩くスピードを調整してゆっくり歩いてもそれは変わらない。雪ノ下の普段の歩くペースに合わせて歩くというのも、もう慣れたことだった。
☆☆☆
「にゃー」
と少し先に居る猫にこっちにおいでという意思を持って話しかけている雪ノ下。まぁその意思は俺の勝手な想像なんだが。
「お前、自分で近付いた方が早いだろ…。ほれ行ってこい」
「いいのよここで。貴方は側に置いておかなきゃ危ないもの」
「危険物扱いしないでね…。俺とか超安全よ?」
「どうかしら。凄く心臓に悪いと思うけど」
「それは俺の目のことを言ってるのか」
「ふふっ、内緒」
その微笑みに思わず自分の頬が紅潮するのがわかる。
くそっ、なんか恥ずかしい。
すると俺の近くに一匹の猫が寄ってきた。俺はその猫を抱え、猫の手を取ると雪ノ下にむかって、ほれほれと動かしていく。
「……。にゃー」
と俺の目の前でやっているからか少し照れが見えながらも猫に話しかけていた。
ほらっ、と猫を渡す。この猫は人に慣れているらしくさっきからほぼされるがままだ。
そして雪ノ下は猫を受け取ると膝に乗せ、優しい顔つきでゆっくりと猫の背中を撫で始めた。
紅茶のティーカップと、猫の背を撫でる雪ノ下の姿はどこかの貴族にすら見える。
やっぱりこいつ育ちがいいんだろうな。
「なにをにやけているの?」
「ん?いや別に。なんかそういう姿が似合うなと思ってな」
「そうかしら?なんだか今日は時間がゆっくり流れている気がして穏やかな気分だからかしらね」
「あーそれさっき思ったわ。なんか落ち着くよな」
きっと、この雰囲気は雪ノ下としか出せないだろう。
他の奴らでは何か話さなければと慣れないことを考えることもあるしな。
そんなやりとりを何度か繰り返し、ふと時計を見る。
気付いたらもう結構な時間が経っていた。
「クーラーが効きすぎて少し冷えるわね」
「じゃあ、もう割と時間も経ったし行くか?」
「そうね」
雪ノ下は猫にまで別れの挨拶をし、店を出た。
☆☆☆
店を出ると雨が降っていた。
朝の天気予報降水確率30%って言ってたのに…。
「結構降っているのね。夕立かしら」
「かもな。今日はもう帰るか」
「そうね、こんな天気だもの」
「じゃあ、またな」
と俺が走り出そうとしていると雪ノ下から声がかかる。
「待ちなさい。あなた傘は?」
「見ての通りないが」
「はぁ。仕方ないから私の折り畳み傘に入って行きなさい」
「…いいのか?」
「部員に風邪を引かすわけには行かないもの」
と駅まで2人で歩いて行く。
行きは俺の一歩後ろを歩いていた雪ノ下も今ばかりは下がっていたら濡れてしまう為、俺の隣を歩く。
この距離の雪ノ下は新鮮だ。
少しドキドキする。
…どうかこの心臓の音が雪ノ下に聞こえていませんように。
次は一色いろは編の予定です。
もしよかったら感想、評価など頂ければ幸いです。