牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

9 / 48
第8話

ー三月ー

 

小五の最後の冬休み、オレは父さんから三度目の転勤を言い渡された。慣れとは怖いものでもう驚きはしなかった。でもこの大阪で知り合った人達と離れるのはめちゃくちゃ悲しい

 

お正月、オレ達家族は怜の家族と竜華さんの家族と一緒に過ごしていた。この三年間一番親しくしてもらっていたのはその人達だった。最初は洋姉や絹姉と一緒に過ごすと思っていたが、今年は雅恵さんが家にいるということで家族水入らずで過ごすことになったらしい

 

そして年が明けた新年にうちの親から怜と竜華さんのご家族に転勤のことを報告した。怜は顔には出ていなかったが竜華さんは涙を流していた。しまいには「うちも長野行く!」と言い出したのには驚いた。竜華さんは普段はおとなしいんだけどたまにアグレッシブになるんだよな

 

その後、愛宕家の人達やオレ個人だけど憩さんと松実姉妹にもこのことは話しておいた。みんなからは共通して「また会いにきてね!」と言われた。オレはその言葉だけで嬉しかった

 

さて、オレは今度の新天地の“長野”に新幹線で向かうため駅に来ている。見送りはいいと行ったのだけど愛宕家族がついてきてくれた

 

「短い間でしたがお世話になりました」

 

「何を言うてはるんですか。世話になったのはこっちのほうですよ」

 

母さんの挨拶に雅恵さんがそう返す

 

「私が留守の間、この子達の面倒を見てもらってほんまにありがとうございました」

 

「いえ、二人のおかげで楽しかったですよ」

 

「ほら絹、泣かんと翔にあいさつしいや」

 

洋姉は変わらない、いつも通りの姿なんだが絹姉の方は雅恵さんに抱きついて涙を流している

 

「翔!麻雀続けるんやぞ!それでまたこっちに来たときはうちがボコボコにしたる!」

 

「辞めないよ。んでそうならないようにオレも強くならないとな」

 

「翔く〜ん!」

 

「おわっ!絹姉」

 

洋姉にそう言い終えた瞬間絹がオレに抱きついてきた

 

「絶対……ぐすっ…絶対、また会いに来てや!」

 

「あぁ、また来るよ」

 

「うぅ…うえぇぇぇぇん!!!」

 

「き、絹姉!?」

 

泣き止んでくれたかと笑顔を見せながらそう言うと絹姉はまた泣き始めてしまった

 

「では愛宕さん、私達はそろそろ」

 

「そうか。お元気でな」

 

「そちらも」

 

父さんの言葉にオレも絹姉の頭を一撫でして父さんと母さんに続いて改札をくぐった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大阪を出て二時間、長野の地に足を踏み入れた。電車を乗り継ぎ最寄りの駅に着いて、駅から歩いて十分ぐらいのところに新しい家があった

 

毎度同じく家具やらは全て運び込まれていた。オレは母さんから指定された自分の部屋で荷物を整理する。だがその片付けの最中にアルバムを見つけてしまいそれを懐かしく見ていたら母さんから呼び出された

 

「翔〜、ご近所さんに挨拶に行くよ〜」

 

「わかった〜」

 

時計を見るとなんと一時間も経っていた。部屋の中はまだダンボールで一杯のままオレは母さんと挨拶回りに行った

 

「父さんは?」

 

「会社に行ったわよ。なんか急に呼び出されたんだって」

 

「大変なんだな」

 

「まぁね。でもよほどのことがない限りは最低でも三年はここに留まるつもりだって言ってたわよ」

 

「そっか」

 

確かにオレももう来年は中学生になるわけだから、まぁ最悪一人暮らしも考えるかな…

 

「じゃあお隣さんからね」

 

「あいよ」

 

母さんについて行ってお隣さんの表札を見てみると、“福路”と書いてあった。あぁまたこのパターンか…

 

ピンポーン

『はーい』

 

母さんがチャイムを鳴らすと中から返事があり、そのドアが開いた

 

「こんにちは、今日隣に越してきた菊池です。えっと、ご両親の方はご在宅ですか?」

 

「あ、はい。今呼んできます」

 

そこへ出てきたのは右目を閉じてもう原作の雰囲気を醸し出している福路 美穂子(ふくじ みほこ)さんだった。そして今度は一緒に呼ばれた両親の方々が出てきた

 

「どうも、隣に越してきた菊池です」

 

「どうも福路です」

 

「あ、これつまらないものですが…」

 

「これはありがとうございます。立ち話もなんですから、中へどうぞ」

 

「いえ、まだご挨拶の途中なので」

 

「そうですか。ではまた改めてお誘いします」

 

「ありがとうございます」

 

福路(母)さんのありがたいお言葉に母さんはお礼を言う

 

「それでその子は…」

 

「あ、うちの息子の翔です。翔」

 

「菊池 翔です。よろしくお願いします」

 

「どうもご丁寧に。中学生かな?」

 

「いえ、次小学六年です」

 

「あらそう。じゃあ美穂子よりも年下なのね」

 

オレは中学前にして身長が175cmになっていた。そのせいかよく間違われる

 

「じゃあそちらの子が」

 

「娘の美穂子です。今年中二です」

 

「よろしくお願いします」

 

福路さんのお母さんに紹介された福路さんは行儀よくお辞儀をする

 

「ではまた改めてお伺いします。話はまたそのときにでも」

 

「そうですね。あ、よろしければ夕飯ご一緒しませんか?」

 

「いいですね。では主人が帰ってきたらお邪魔させていただきますね」

 

「はい。お待ちしていますね」

 

どういうわけか夕飯を一緒に食べることになった。そして去り際に福路さんと目が合うとなぜか顔を赤くして目をそらされてしまった

 

 

 

 

 

 

 

ー夜ー

 

父さんが帰ってきて母さんからの説明を受けて三人で福路さん家を再び訪れた。そしてリビングに案内されてソファに座らせてもらった

 

「昼間はご挨拶に来れずすみませんでした」

 

「いえいえ」

 

「では夕食の支度をしますね」

 

「あ、手伝いますよ」

 

「いえ、お客様にそんな…」

 

「美穂子ちゃんでよかったかしら。そんな気遣いはしなくていいわよ?それに翔はある程度の家事はできるから安心して」

 

「それなら」

 

「ていうか、母さん達が家事やらなくなったんだろ?」

 

「あら、そうだったかしら」

 

オレの指摘に母さんはとぼける。オレはまぁいいやと思って福路さんと一緒にキッチンに入った

 

夕飯の支度をし始めて数分後、親達はお酒が入ったからなのかバカ笑いが聞こえ始めた。特にうちの親から…

 

「まったくあの人達は…」

 

「ふふっ、楽しそうですね」

 

「そうですかね。ただうるさいだけですよ」

 

「でもうちの親も楽しそうです」

 

「ならよかったですかね…」

 

そんな親に呆れていると福路さんが声をかけてくれた

 

「それにしても菊池くんは本当に手際がいいですね」

 

「翔でいいですよ。まぁ毎日のようにやってますからね」

 

「そうなんですか。では翔くんと呼ばせてもらいますね」

 

「あと敬語もいいですよ。福路さんの方が年上なんですから」

 

「ふふっ、優しんだね。私のことも美穂子でいいわよ」

 

「じゃあ美穂子さん、次は何をすればいいですか?」

 

「あ、なら次は…」

 

美穂子さんとの仲は少し縮まったかな

 

その後夕飯を作り終わってリビングに運ぶと案の定父さん達は呑んでいて、軽く酔っている状態だ

 

「父さん…母さん…」

 

「あ、翔〜。ご苦労さ〜ん」

 

「迷惑かけてないだろうな…?」

 

「あら大丈夫よ。いろんなこと聞かせていただいて、すごく楽しいですよ」

 

「そうですか。ならよかったです」

 

美穂子さんのお母さんにそう言ってもらってようやく安心できた

 

「とりあえずご飯できたから」

 

「ありがとう」

 

「美穂子〜、なんか新婚さんみたいね」

 

お母さんにそう言われて顔を真っ赤にして恥ずかしがる美穂子さん

 

「お母さん…!」

 

「うぅぅぅ…美穂子もそのうち嫁に行ってしまうのか…」

 

そして新婚という言葉を聞いて想像してしまったのか美穂子さんのお父さんが泣き出してしまった

 

「お父さんまで…」

 

「よかったな、翔」

 

「なにが?」

 

「またお嫁さん候補が増えたな」

 

「人聞きの悪いこと言うな!別に集めとらんわ!」

 

父さんがニヤけながら言ってきたのでオレは絶対的に否定した

 

「まったく…早く夕飯食べるぞ」

 

夕飯のときでもうちの親はニヤてるし、美穂子さんは顔真っ赤で俯いたままだし、美穂子さんのお母さんは「あらあら」と笑顔のままどんどんお酒飲むし、美穂子さんのお父さんはずっと泣いてるし…そのとき改めて酒が入った大人はめんどくさいと思った

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。