牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第6話

フラグは完全に当たってしまった。だって旅行で泊まる旅館が完全に“松実館”て書いてあるし…

 

なぜ奈良に旅行に来たのかというと父さんがせっかくだから有名なお寺や神社には行っときたいだろとのことで来たのだ。なぜ旅館かというと風情ある奈良に泊まるならホテルより旅館だろと言われた。だからってよりにもよって松実館とは思わなかった

 

「いらっしゃいませ!」

 

「予約していた菊池です」

 

「ようこそおいでくださいました!」

 

「あらあら、これはこれはまた可愛い女将さんだね」

 

オレ達が玄関にある暖簾を潜るとそこにはいきなりお出迎えをしてくれた松実 玄(まつみ くろ)本人がいた。オレの記憶が正しければまだ小四のはずなんだがもう接客が板についているようだった

 

「ありがとうございます。ではお部屋に案内いたしますのでこちらへどうぞ」

 

言葉遣いも丁寧でホントに小学生とは思えない様子だった。オレ達家族はそんな松実さんに部屋に案内される

 

「こちらが菊池様のお部屋となります」

 

「ありがとう」

 

「私は松実 玄と申します。何かお困りの事があればお呼びください」

 

「玄ちゃんていうのか〜。今いくつなんだい?」

 

「十歳です」

 

「なら小学四年生か。翔の一個上だな」

 

「そうなんですか!?」

 

父さんがオレの方を向いて言ってきたことに松実さんは驚く

 

「何か変ですか?」

 

「い、いえ…大人っぽいですね」

 

「よく言われれます」

 

松実だんは恥ずかしくなったのか頰を少し赤くして聞いてきた。オレってそんなに大人っぽいのか?自分ではわかんないものだな

 

「そうだ!玄ちゃん、翔にこの辺を案内してあげてくれないか?」

 

「えっ?」

 

「は?」

 

父さんの言葉に松実さんもオレも戸惑いってしまった

 

「私は構いませんけど…」

 

「父さんと母さんはどうするんだ?」

 

「父さん達は疲れたから少し休むよ」

 

「母さんも同じく」

 

父さんが行ったことにあくびをしながら同意する母さん

 

「はぁ…わかったよ」

 

父さんと母さんは「じゃ」と言ってオレの荷物も持って部屋に入っていった

 

「松実さん。無理しなくていいですから。オレは一人で散歩でもしてきますから」

 

「いえ!この松実 玄、精一杯案内させていただきます!」

 

松実さんは手を前に出してグッとしながら張り切って言った

 

「じゃあお願いします。改めて菊池 翔です。翔でいいですよ。年は松実さんの一個下です」

 

「松実 玄です。私のことも玄でいいですよ。よろしくお願いします、翔くん」

 

「はい、玄さん。あ、敬語もいいですよ。オレの方が年下ですし」

 

「わかった!じゃあ行こっ!翔くん!」

 

いきなりテンションが上がった玄さんはオレの手を取り歩き出した。でもすぐ止まってオレの方に向き直った

 

「そうだ翔くん。ついてきて」

 

「さっきから手を引かれてる時点でついていってますよ」

 

「あ、そうだね」

 

でも玄さんはオレの手を離そうとはしなっかった

 

玄さんに案内されたのは旅館の二階にあり誰かの部屋だ

 

コンコン

「お姉ちゃん、入るよ」

 

『玄ちゃん?どうぞ〜』

 

お姉ちゃんってことは。まさか…

 

「玄ちゃんどうしたの〜…ってえ〜!その子誰〜…」

 

「こっちは今日泊まりに来ていただいたお客様のお子さんの翔くんで〜す!」

 

「ども」

 

その部屋にはまだ九月の半ばなのにもうコタツとヒーターが出してあって熱気で包まれていた

 

やっぱり松実 宥(まつみ ゆう)さんだったかー

 

「それでこっちが私のお姉ちゃんの松実 宥お姉ちゃんで〜す!」

 

「ど、どうも…初めまして…」

 

「お姉ちゃんはすっごい寒がりなんだ」

 

「確かに涼しくはなったけど、まだ九月の半ばだけど」

 

「お姉ちゃん外出るときもほとんどマフラー巻いてるんだよね」

 

「はわわわわわわ」

 

お姉さんはいきなり見ず知らずのオレが来たことでめちゃくちゃパニくってて、コタツの布団を顔に覆っている

 

「でもこうしてコタツ見てると入りたくなりますね」

 

「えっ?あ、えっと…どうぞ?」

 

「何で疑問形?じゃあ少し失礼して」

 

オレも暖房とかよりコタツで丸くなる派だ。だからそこにコタツがあったら入りたくなるのは仕方ないよな

 

「あぁ〜、でもやぱっりまだ暑いかな」

 

入ったはいいけどオレにはまだ暑いと感じてすぐに出てしまった

 

「お姉ちゃん、私今から翔くんを案内してくるけど一緒に来ない?」

 

「えええええ!?外寒いよ〜」

 

「ちょうどいい気温だと思うんだけど」

 

これで寒いとか真冬どうしてんんだろ…

 

「無理強いはしないので、でもたまには外歩いた方がいいですよ。何なら手繋ぎます?オレ体温高いのであったかいかもしれないですよ?」

 

オレは冗談で手を出したが、お姉さんはその手を取った

 

「ホントだ。あったかい…なら私も行こうかな」

 

「…マジっすか」

 

オレは完全に冗談で言ったつもりだったので驚くしかなかった

 

「とりあえず二人とも着替えた方がいいですね。オレは玄関で待ってますから」

 

オレはそう言って部屋を出て旅館の玄関に移動した

 

それから十分しないうちに二人も来た。さっき玄さんが言ったようにお姉さんはマフラーを巻いてきた

 

「お待たせ〜」

 

「うぅぅぅぅ。やっぱり寒い」

 

お姉さんは体をブルブルいわせながらオレの手を取ってきた

 

「松実さん、本当に繋ぐんですか…?」

 

「えっ?ダメなの…?」

 

「…うっ!いえ…」

 

オレから言い出したことだから何も言えねぇ

 

「そうだ。松実さんだと玄ちゃんもそうだから私も宥でいいよ〜」

 

「わかりましたよ、宥さん」

 

繋いでみるとわかったが、宥さんの手はひんやりしてて本当に寒がりってことがわかった

 

「じゃあこっちの手は私がもらいます!」

 

「えっ!ちょっ!玄さん!?」

 

なんか宥と繋いだ手の反対の手を玄さんに握られた

 

「じゃあ出発しましょう!」

 

「お〜」

 

「えっ、マジでこのまま…?」

 

オレは何やらヤバい状態のまま何の抵抗もできずに出発してしまった

 

 

 

 

 

 

旅館に帰ったオレは昼間の疲れでうつ伏せ簿状態で倒れた。玄さんは何かテンションが高すぎてめちゃくちゃ引っ張り回された。宥さんはあまり変わらなかったが焼き芋とかあったかいものを食べているときはすっごい笑顔だった。楽しかったけどめっちゃ疲れた。最後に玄さんと宥さんと連絡先を交換して解散となった

 

「どうしたんだ?翔」

 

「女子って活動力がすごいんだなって思って」

 

「あぁ、母さんも昔はすごかったぞ?やれどこかに行きたいだ、やれここで遊びたいだともう休むときがなかったな」

 

「姉も妹もいなくてよかった」

 

「何言ってんだ。妹は知らんが姉ならたくさんいるだろう」

 

「あぁ、そうでした…」

 

父さんの言ったことに一瞬考えて、そういえば()()()()はいたわ…と思い出す

 

「そういえば母さんは?」

 

「今温泉に行ってるよ。翔も行くか?」

 

「そうだな。行こうかな」

 

オレは着替えと風呂用具一式を持って部屋を出た

 

温泉には露天風呂があって、ちょうど目の前に紅葉した山が見えたのでいい景色だった。つい長風呂してしまった

 

風呂上がりに涼むために旅館内をうろうろしていたら、とある部屋に麻雀が行われていた。興味を持ったオレはその部屋に入るとおじちゃん達と一緒に売っている玄さんを発見した。家族麻雀ならまだしも、知らない人たちの対局中に話しかけるのはマナー違反なので黙って見ることにした。そしてオレは玄さんの手牌を見てビックリした。マジでドラが集まってる

 

その対局は最後に玄さんが倍満を和了って終了となった

 

「玄さんすごいな。何でそんなにドラが弾けるんだ?」

 

「ん〜。自分でもよくわからないんだよね。昔おばあちゃんにドラは大切にしなさいって言われて以来、ドラを切らなかったからかな」

 

「そうなんだ」

 

「翔くんも麻雀できるの?」

 

「まぁ人並み程度には」

 

「本当か坊主!」

 

玄さんと話しているのが聞こえたのかおじさんの一人がオレを坊主と呼んだ

 

「麻雀できんのか?」

 

「まぁ…」

 

「なら入れ!」

 

オレは半ば強制的に入れられた。まぁその対局はそのおじさんに大三元食らわして終わったけどね

 

「翔くんすごいね!」

 

対局が終わってすぐ玄さんが駆けてきた

 

「ありがとう、玄さん」

 

玄さんはとにかくすごいを連呼していた

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、奈良の名所を回って一度旅館に戻り、温泉に再度使ってからチェックアウトした

 

「翔くん、また来てね!」

 

「今度はあったかくなってからでいいよ〜」

 

「宥さんのあったかいの基準はどれくらいなんです?」

 

オレは最後に「また来ます」と言って車に乗った。車が出発して姿が見えなくなるまで玄さんと宥さんは手を振ってくれていた

 

 

 


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