牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第5話

怜の事があってからもう二ヶ月ぐらい立ったかな。怜の容態は順調によくなっているみたいだ。竜華さんが怜にオレの連絡先を教えたみたいで、怜からのメールの数がありえないほど増えていた。日中オレが学校に行っている間でもやたら「暇〜」だの「退屈や〜」だのとたったそれだけの文字で送られてくる。

 

怜だけならよかったんだが、なぜか竜華さんともメールのやり取りが増えた。しかもたまに電話をかけてくる。まぁその話の内容はほとんどが「怜がなー」で始まる。やれ今日こんな話をしただの、やれ昔はこんなことをしただのと怜との仲良しさを一、二時間聞かされる

 

さて、オレは今母さんと近くのスーパーに買い物に来ていた。しかし今日はもう二人ついてきている

 

「今日は何食べようかね」

 

「肉で決まりやな!」

 

「何言うてんねん、お姉ちゃん。今日は魚やろ!」

 

姉妹仲良く言い争ってるのは姉の愛宕 洋榎(あたご ひろえ)と妹の愛宕 絹恵(あたご きぬえ)だ

 

オレも最初は驚いた。怜の事もあってバタバタしてて全く気づかなかったんだが、母さんとご近所回りをしていたらなんと向かいの家の表札に“愛宕”とあったのだ。オレはまさかなと思いながら母さんについて行った。母さんが呼び鈴を鳴らして出てきた人を見て確信に変わった。だって完全に雅恵(まさえ)さんなんだもんよー!

 

雅恵さんは今はまだ現役のプロ雀士で家に帰れないときにうちで二人をみることになったのだ。なぜなら近くで同じぐらいの年がいる家がうちだけだったかららしい

 

そして今日も雅恵さんは遠くで試合があって、今日中に帰ってこれそうにないとの連絡があったので二人はうちにきた

 

「絶対肉や!」

 

「魚!」

 

まだやってるよ

 

「「翔(くん)はどっちやと思う!?」」

 

「オレ?オレはどっちでもいいかな」

 

「どっちでもて何や!男ならバシッとと決めんかい!」

 

「翔くん、お姉ちゃんみたいに男らしくな!」

 

「せやせや...って!うちは女や!」

 

普通の言い合いから漫才に発展してしまうのが愛宕家クオリティだ

 

「はぁ、洋姉も絹姉も譲る事を知らないのかよ」

 

「「譲らん!」」

 

「ハハハハ!相変わらず二人はおもしろいね!」

 

オレにはわからんが母さんには二人の漫才はお気に召しているようなんだ

 

「じゃあ笑わしてくれた御礼にどっちも作ってあげる」

 

「ほんま!?」

 

「京香さん太っ腹!」

 

「どうせ片方はオレが作るんだろ?」

 

「あらバレた?」

 

「バレバレだ」

 

まぁいつもの事だからいいけどね

 

 

 

 

家に帰るとオレは早速夕飯の用意を始めた。その間、洋姉と絹姉は母さんと一緒に三麻をしている。雀卓は愛宕家の物を借りている。うちも全員麻雀やってるんだから買えばいいのに…まぁこんな感じでオレがが料理しているときは母さんが、母さんが料理しているときはオレが二人の相手をしていた。ちなみに洋姉も絹姉も料理はからっきしダメだ。洋姉なんか「うちはキッチンには立たん!」と日本男児みたいなことを言っていたな

 

「くるでぇ!1発くるでぇ!って!なんでここで 西 やねん!」

 

一人で料理しているとそんな一人漫才みたいな声が聞こえた。あのテンションにはついて行けんわ…

 

「それや!ロン、3900(ザンク)おおきに」

 

「あちゃー…またお姉ちゃんかい」

 

だが最終的には洋姉は和了るんだからすごいよな。今回は、いや今回も絹姉が振り込んだみたいだな

 

「母さ〜ん。いいよ〜」

 

「ん。わかったわ」

 

ちょうどその対局が終わったあたりで声をかける。オレは母さんと入れ替わりに席に座る

 

「洋姉はまた調子良さそうだな。さすが」

 

「せやろ〜!さすがやろ〜!でもな、いつもうちの一番持ってく翔には言われとうないわ!」

 

「二人とも強すぎるわ〜。京香さんもやけど…」

 

オレ達との対局中絹姉はトップになったことがあまりなかった

 

「絹には覇気が足らんねん!」

 

「いきなりの精神論かよ。もうちょいマシなアドバイスしてやれよ」

 

「…翔くんは優しいな〜」

 

全く役に立たないようなアドバイスを送った洋姉にオレは呆れていると絹姉が涙目になりながらそう言ってきた

 

「さて、始めようか」

 

「おっしゃー!」

 

「今度は負けん!」

 

二人ともやる気は十分。全自動ではないので三人で牌を混ぜ山を作る。そこからはいつも通り親のオレからから順々に牌を混ぜ取る。三麻は普通のより牌を多くツモるので役ができやすい。当のオレは

 

{一萬九萬二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒六筒八筒八筒西}

 

となっていた。うまくいけば親の三倍満いけるな

 

オレは山から牌をツモり、それは{二筒}だった。オレはそれを手牌に加え{西}を切った

 

次に絹姉がツモり、切った牌は{北}だった。その次の洋姉も切ったのは{北}だった

 

今オレの手牌は

 

{一萬九萬二筒二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒六筒八筒八筒}

 

こうなっている。オレは{二筒五筒七筒}を考えながら牌をツモった。それは{七筒}だった。オレはその代わりに{一萬}を捨てた

 

次の絹姉は{西}を捨てて洋姉は{白}を捨てる

 

{九萬二筒二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒六筒七筒八筒八筒}

 

今の手牌はこのようになっている、次に狙ったのが来ればリーチかけるか。そんな事を思いながらツモった牌は{赤五筒}だった。オレはすかさず{九萬}を横向きに起き「リーチ」と宣言した

 

たった三巡目の親リーチに驚いているのは絹姉で洋姉は変わらない表情をしていた。絹姉は元物の{一萬}を捨てて洋姉も元物の{九萬}を切った

 

{二筒二筒二筒三筒三筒四筒四筒五筒赤五筒六筒七筒八筒八筒}

 

オレは最初からロンで和了れるなんて思っていなかったので、さっきと全く変わらない思いで牌をツモる。その牌の感触でオレはその牌を表に向けて置く

 

「ツモ」

 

同時に自分の手牌を二人に見せる。そして役を宣言する

 

「立直、一発、ツモ、断么九、一盃口、清一色、ドラ1。36000だ」

 

予想通りの結果で和了れた。この結果に絹姉は驚きすぎて声が出ないようだった。洋姉も顔には出ていないが汗をかいている

 

その後も二、三局やって母さんから呼ばれたのでそこで終了となった

 

「そういえば絹姉、メガネ変えた?」

 

「えっ!そ、そうなんよ。よく気づいたな〜」

 

「そりゃあこんだけ毎日のように会ってたら気づくだろ」

 

絹姉のメガネが黒縁から赤の光沢がかったものに変わっていた。夕飯を食べている最中にオレはふと思い出したので聞いてみた。するとそれは事実でなぜかそれを指摘された絹姉は頰を赤らめる

 

「絹のやつ、張り切って選んでたんやで?」

 

「お、お姉ちゃん!それ以上はあかん!」

 

「…?メガネって張り切って選ぶもんなのか?」

 

「翔はもうちょっと女心を知った方がいいわね」

 

女心?女心とメガネに何の関係があるんだ?オレはう〜んと唸りながら考えたが全くわからなかった

 

「よくわからんが、絹姉のそれはよく似合ってるよ」

 

「あ、ありがとう…」

 

絹姉の顔はさっきよりも赤くなっていった。この部屋そんなに暑いかな

 

「あ、そういえば翔。言い忘れてたんだけど、再来週に家族で旅行に行くからね」

 

「旅行?どこに?」

 

「“奈良よ”」

 

その瞬間オレは「あ、これフラグかな…」と思ってしまった

 


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