牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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2年ぶりの投稿となりました
そして次回の投稿には間が開くと思われます
申しわけございません


第41話

 

未だ雨の降り続く中次鋒戦が終わって昼食タイムとなった。一応絹姉に昼休みってことを洋姉に伝えてって連絡はしたけど大丈夫だろうか...

 

さて、次はいよいよ中堅戦。洋姉に部長が挑む形になるだろう。こう言っては部長に失礼だが実力的には圧倒的に洋姉に軍配があがる。だが別に部長が勝てないなんて思っていない。それに今は団体戦。5人で強いほうが強い

 

「バナナ...よし。トイレ...よし」

 

事前に部長自身が作っておいた『試合前にやっておくことリスト』のすべてにチェックをし終えて最後に紙を結んだ

 

「さーて!そろそろかな!」

 

「もう行くんか?」

 

「まだ昼休み15分ありますよ?」

 

「そうなんだけどね...早く打ちたくて気が急くのよ。行ってくる」

 

そう行って部長は控室を出て行った。気が急く。言い方変えると焦りにも聞こえましたよ、部長...

 

「咲、部長の様子どう思う?」

 

「...いつもの部長ではない気がしたよ」

 

「やっぱりか...」

 

緊張、焦り、プレッシャー。多分人よりそれを感じてるのは部長だ。三年にして初めての全国。一回戦とは違い相手には全大会のベスト5の内2校がいる。それにチームメイトはみんな年下。先鋒戦、次鋒戦を戦った後輩たちは善戦して現在はトップ。でも2位以下との点数は一回戦みたいに大幅に離れてはいない。いろんな思考が今の部長の中で混ざってるんだろう

 

「部長が席に座ったじょ!」

 

「控室を出てから随分とかかりましたね」

 

和が今言った通りあれだけ早く控室を出たはずの部長が席に座ったのは4人中最後。道に迷うわけもない。だとしたらここから会場までの廊下、もしくは会場のカメラに移らない場所で何分も立ち尽くしていたということになる。これがなにを意味するのか...

 

「あ、試合始まるよ」

 

『中堅戦、開始です!』

 

ー東一局ー

 

部長は案の定ばちくそに緊張してるみたいだ。手牌の一番端にあった{三萬}が見えちゃってる。今までの部長なら、ってか普通の雀士ならあるはずない失態だ

 

「出鼻挫きリーチ!先んずれば人を制すや!」

 

5巡目リーチ。相変わらず早いねー。しかもテンション高っ!周りの迷惑とか考えない人だからなー

 

とりあえず他の三人は元物出し

 

「くるでー一発くるでーって何で{六筒}やねん!」

 

一人漫才やってるみたいだよなー洋姉って

 

「それロンや。5200」

 

あらら、{六筒}が見えてからの{三筒}切り。悪くないけど洋姉のひっかけにまんまと引っかかっちゃったねー

 

「後ひっかけサクサク〜。後ひっかけの洋榎とはウチのことやで!」

 

・・・

 

「親流れた」

 

「回すよ〜」

 

「ま、和了れたんは偶然なんやけどな」

 

「うるさいそこ!」

 

「っ!」

 

洋姉のボケが通じないなこのメンツ。はるるは滅多に笑わないし、鹿倉さんは超がつくほどの真面目先生タイプだし。部長はそういうノリ持ってると思うけど今はね〜

 

そして部長が全く和了らないまま南三局に突入した。いつの間にか最下位だし

 

「ロン。18000」

 

「なっ!」

 

「何やその面。微塵も聴牌気配感じ取らへんかったんか?()()()()()()()()()()()()()()()

 

ー南三局 一本場ー

 

おっ、部長の顔つき変わったな

 

「やっとインハイらしい麻雀になりそやな」

 

「親、早くツモって」

 

洋姉も感づいたか。そんでもってやっぱし退屈してたか

 

そして六巡目、洋姉が生牌の{東}を切った直後に部長の下に2枚目の{東}。部長はそれを手牌に残し{九索}を切った。すると次の巡で連続で{東}ツモ。からの{一萬}ツモで聴牌。そして一度は{六萬}を切ろうとする部長だったが止め{赤五萬}を切ってリーチをかけた

 

「そんな!平和と一盃口と{赤五萬}をまとめて捨てるなんであり得ません!」

 

「でもホッとしたよ」

 

「え?」

 

「さっきまで部長らしくなかったからハラハラしたよ」

 

「うんうん!そうだじぇ!」

 

「そういえばそうですね。さっきまではいつもみたいなハラハラする打ちが少なくて安心してましたけど...ってハラハラが逆じゃないですか!」

 

「おー!ノリツッコミとはいつの間に!」

 

そんな会話の中画面内では洋姉が当たり牌の{東}を止めやがった。相手の和了り牌わかるってオカルトでも持ってるんか?美穂子さんみたい

 

「ツモ!4100・8100。ちょっとは調子出てきたかしら」

 

ー南四局ー

 

「さてと」

 

「あれ、翔くんどっか行くの?」

 

「ちょっと差し入れと挨拶にな」

 

まだ対局は終わってないがオレは会場へ向かった

 

『中堅前半戦終了!大きく稼いだ姫松高校。一気にトップに躍り出ました。二位は宮守女子の鹿倉選手。ややマイナスですが二位をキープ。三位も変わらず永水女子。最下位は大きく凹んだ清澄高校。後半の挽回に期待です』

 

とのアナウンスが終わるぐらいに会場に到着した

 

「あ、洋姉」

 

「お、翔やんか。どや?ウチのすんばらしい打ち筋は」

 

「あぁさすがだよ。ま、戦績的にはオレの方がまだ上だけどね」

 

「何や言うやんけ。その内シバき倒しちゃるわ」

 

「楽しみにしとく。ウチの部長はどうよ」

 

「あぁ最初の方は何やこいつって思っとったけど、おもろくなりそや。ま、ウチには敵わんけどな」

 

「そりゃそうでしょ」

 

「あ、菊池くん!」

 

「鹿倉さん、お疲れ様です」

 

「何や翔、知り合いやったんか」

 

「東京に来てから練習試合でね」

 

「この試合終わったらこっちの控え室来てね!豊音もエイちゃんも喜ぶから!」

 

「わかりました」

 

「翔こっちにもやで。ウチだけ会うたなんて言うたら絹に何言われるか」

 

「大丈夫。そっちにも行くから」

 

二人はそれぞれの控え室に向かって行った

 

「はるるー」

 

オレは差し入れを掲げながらはるるを呼んだ。はるるはオレを認知した途端勢いよく立ち上がりこっちへ駆けてきた。ちなみに部長はオレがここにきたこととはるるの行動に二重で驚いているようだ

 

「よっ、お疲れさん。ほいこれ黒糖」

 

「ありがと。でも今は」

 

はるるは黒糖を取るのではなくオレの腕にスルスルッと絡みつき肩に頭を乗せた

 

「はるる?」

 

「翔はいつも姫様やはっちゃんばかり構うから」

 

「そんなことないぞ...いつもはるるの隣に座ってるじゃないか...」

 

「それじゃ足りない」

 

「一応はるるの敵なんだが」

 

「今は休憩中。そんなこと関係ない」

 

離してはもらえないようだ。この位置カメラの死角で良かった〜

 

「最後和了ったのはるるか?」

 

「そうだけど、見てなかったの?」

 

「ここにくる途中だったからな」

 

「じゃあ何でわかったの?」

 

「あの鳴きと手牌見たらすぐわかった。振り込んだのは鹿倉さんだろ」

 

「正解」

 

「やっぱりな。洋姉はぜったいやらねぇだろうから」

 

「翔、あの姫松の人と知り合い?」

 

「あぁ前に大阪に住んでた時にな。でも鹿児島の方が先だから、はるる達に会ったのが先だな」

 

「そう。ふふっ♪」

 

はるるはホントに表情豊かになった気がする

 

「さて、オレはもう戻るよ」

 

「もうちょっと」

 

「だーめ。この試合終わったらそっち行くから」

 

「...わかった」

 

はるるは不本意といった表情で席へ戻って行った。そしてオレが控え室に戻ったぐらいに後半戦がスタートした

 

「リーチ」

 

「ポン」

 

会長の調子はちゃんと戻ったようだ。その証拠に前半戦みたいなミスもないし最初から責められてる。でも...

 

「ロン。1300」

 

「はい」

 

鹿倉先輩の捨てた{四索}ではるるが和了る。安手で他家の勢いを止めたり色々理由は考えられるけど、こうも和了り牌がわかるって鹿倉先輩も相当ヤベーな

 

ー東四局ー

 

気づけば後半戦も南極に入りそうなところ。結局部長は和了らせてもらえず他家のツモ和了りの親被りなどで持ち点は削られる一方。しかも...

 

「リーチしとこか〜」

 

「チー」

 

相手が張ったら安手で流すのがはるるの型。でも...

 

「それや。ロン」

 

やっぱり洋姉には効かないみたいだな。さすがとしか言いようがない

 

「清澄には通用したみたいやけど、一緒にしてもらったら困る」

 

「そういうのいいから点数申告」

 

「はっ、5200です...」

 

それにしても何で洋姉は部長のこと目の敵みたいにしてんの?鹿倉先輩も大変だな

 

「っしゃー!!!」

 

南場に入っても洋姉の気の強さと自信は健在。でも部長も緊張からの硬さはもう見られない。まぁ大丈夫かな

 

ー南四局ー

 

いよいよオーラス

{四萬五萬六萬七萬九萬五筒八筒東東東} {二萬横一萬三萬}

点数少なそうだけど悪くはない

 

「カン」

 

「「「っ!」」」

 

オタ風の{東}を大明槓したことにより全員びっくり。そもそも槓をするメリットはツモを一回増やせることと槓ドラを開けてドラを増やせることとされている。でもタイミングを間違えると役無し+相手の手にもドラが乗るかもしれない。誰もが咲みたいに槓してからすぐ嶺上開花で和了れるわけでもない。でも今回は知ってか偶然か開けられたのは{北}。よって部長がドラ4で最低でも満貫になった

 

その2巡目、部長から初めて赤い牌が川に出る。しかも{赤五萬}。通常赤なら残すため三色だったり一通だったりの線が消えるように思えるが逆にそれを狙うのが部長らしい打ち方でもある。らしくなってきたかな

 

「ツモ。3000・6000」

 

最後は部長は{赤五筒}をツモって跳満を和了って終了となった

それにしても鹿倉先輩の聞き察知能力はすごい。部長が和了る前に鹿倉先輩の手には{赤五筒}がきており一度はそれを切りそうになっていた。しかし踏みとどまり現物で対処していた。洋姉もさすがだな。もう次にどうなるかわかってるかのように部長がツモる前には目を閉じていた

 

『中堅戦決着!名門姫松、最下位から一気に浮上。続いては二位清澄、そして三位は宮守、四位に永水と1つずつ順位を落としています。姫松がトップに立ちましたが二位以下の点数の差はまだ小さい。今後も十分に波乱の可能性をお秘めています』

 

さてさて清澄控え室では長いこと部長の戻りを待っている

 

「部長戻ってこないね」

 

「待っててもしょうがないのでもう行きます」

 

「しっかりのぅ」

 

「頑張って」

 

「ぶちかましだじぇ!」

 

「行ってこい」

 

「何言ってるんですか翔さん」

 

「ん?」

 

「会場までのエスコート、お願いしますね」

 

「え...」

 

「お・ね・が・い、しますね♪」

 

「あ、はい」

 

和ってこんなキャラだったか?それになんか怒ってる?

 

「それじゃあ行きましょうか、お嬢様」

 

「お!は、はい...」

 

あ、戻った

 

「翔くん...」

 

「咲!?」

 

「顔が怖いじぇ...」

 

控え室を出て待っていたのはテレビのカメラや記者だった

 

「出てきたぞ!原村だ!」

 

「おい、あれって」

 

「菊池選手だ!原村と並んでくるぞ」

 

「こりゃいい写真が撮れるぞ!清澄美少女美少年カップル誕生!」

 

記者の方、聞こえてるよー。ほら和照れちゃってんじゃん

 

「だってよ和」

 

「へっ!い、いや私は...でも翔さんがいいのなら...」

 

あーあ

 

ー姫松控え室ー

 

「原村人気なのよ〜」

 

「菊池くんも大人気やな」

 

「絹ちゃんいなくてよかったのよ〜」

 

「本当に...」

 

ー永水控え室ー

 

「翔くん...」

 

「翔...どうしてですか...」

 

「翔、あんたは全く...」

 

霞は笑顔ではいるがかなりご立腹、初美はシュンとしてしまっているカオス状態の中巴は頭を抱えていた。今だ眠っている小蒔の顔も何だか悲しそうに見える

 

「翔くん。どういうことか説明してもらわないとね」

 

「翔...」

 

「ほらほらはっちゃん。これから出番なんだから」

 

「翔くんが原村さんと歩いてるってことは会場に来るのよね。はっちゃん、確かめてきてくれる?」

 

「はっ!お任せなのですよ!」

 

「ちょっ!はっちゃん!?」

 

巴の静止も届かないまま初美は消えてしまった

 

ー宮守控え室ー

 

「むぅ原村さんだけずるい!私だって翔ちゃんとくっつきたいのに!」

 

「Oh...」

 

「はぁ〜ダルい」

 

「あんた達落ち着きなさい」

 

(ここまで人気があるのも大変なことだね...)

 

ー会場ー

 

「じゃあ和、頑張ってな」

 

「はい!」

 

そのまま和は中に入った

 

「あ、翔くん!」

 

「絹姉」

 

後ろからは姫松の副将である絹姉がこっちに駆けてきていた

 

「はいストップ」

 

「えーなんで〜...」

 

「いくら仲良くても今は敵校同士なんだから」

 

「むぅ...なら今からでも清澄に転校する!」

 

「おバカなこと言わないの。期待してくれてる洋姉や姫松の皆さんに失礼でしょ」

 

「期待...」

 

「そうでしょ。特に洋姉にとっては自慢の妹なんだから」

 

「自慢...翔くん、ウチ頑張るで!」

 

「あぁ、でもウチの和も強いぞ?」

 

「望むところや!じゃあ行ってくるね翔くん」

 

「あぁ行ってらっしゃい」

 

会場に入る手前で和を見送りそのまま中を伺っていると和と部長が話す中突然面をつけた巫女服の子が現れた

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

それに驚いた和の声が会場中に響渡った。あ、初美姉さん。ってエトペン飛んでったーーーーー!!!!!!!?

 

「翔!」

 

「オフッ!ど、どうした?初美姉さん」

 

エトペンの行方を追ってたら初美姉さんの突進くらった

 

「あれはどういうことですか!?」

 

「あれ...?」

 

待って、飛んでったエトペン気になりすぎて思考が

 

「原村とカップルってどういうことですか!」

 

「カップル?あぁあれか。記者が勝手に言ってるだけな。オレに彼女なんていないから」

 

「本当、ですか...?」

 

「ホントホント。だから変なこと考えてないで楽しんできな」

 

「ん〜♪やっぱり翔のなでなでは気持ちいいのですよ〜♪」

 

「そりゃよかった」

 

「ちゃんと私の活躍見てるんですよ?」

 

「あぁ、バッチリ見せてもらうよ。まぁ勝つのはウチだけど」

 

「ふふっ受けて立つのですよ!」

 

はぁ〜楽しそうだな。オレもあん中で打ちたい

 

「菊池くん」

 

「臼沢さん、お疲れ様です」

 

「いや私これから打つんだけど」

 

「それもそうですね、失礼しました」

 

「相変わらず礼儀正しいね」

 

「そうですかね?」

 

「うん。ねぇ」

 

「はい?」

 

「試合終わったら、こっちに来てくれる?」

 

「こっち?あぁもちろん。試合終わったらご挨拶に伺いますね」

 

「そう...じゃあまた後でね」

 

「はい」

 

臼沢さんまたあのモノクル。大丈夫かな

 


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