牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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今回ちょっと短いです


第40話

 

「リーチ!」

 

長かった優希の東一局が終わってしまい東二局に入った。最初の手牌で一向聴になったものの他家三人に全員{西}を切られてしまい四風連打で流局になるかと思いきや、優希が聴牌を崩して強気に出た。そして九巡目に張り替えが完了してリーチをかける

 

そして一瞬だが小瀬川さんが手牌の右側の{九萬}から左側に移して{一筒}を切った気がした。これは一瞬考えたのかそれとも違うのか

 

「一発ならず」

 

優希が一発で上がれなかった。まだ東場で鳴きでズラされたわけでもないのに…これは流れが優希には来てないということか

 

十一巡目…

 

なかなか当たり牌が出ない優希に対して小瀬川が聴牌。迷えば迷うほど手が高くなる。【迷い家】…遠野の地方の山中に幻の家があったという。その家はへ訪れた迷い者に富貴を授けると言われている。しかし全ての者ではない。欲を持つ者には与えず、持たない者に与えるという

 

「深いとこにいたな。ツモ、3000・6000」

 

『東二局、宮守小瀬川選手がハネ満ツモ。一気にプラスに戻しました』

 

「あっちゃ〜。二回もチャンス潰されたんか」

 

「優希…」

 

そして70分後…

 

ー南四局ー

 

『いよいよ先鋒戦もオーラス!』

 

半荘一回目はあの後も優希と小瀬川さんの上がりで終了。そして二回目も優希は大きなミスなくトップを維持できている

 

六巡目…

 

「あ、やべっ…」

 

「?翔くん?」

 

「どうされたんですか?」

 

「あ、いや…」

 

口に出しちまった。でもこれはやべぇぞ…小蒔姉さんが()()()()()…そしてその瞬間…

 

「リーチ!」

 

優希がリーチ…しかしそれよりも大きな衝撃がオレの中に走る

 

「はっ…!」

 

「咲もわかったか…」

 

「うん…」

 

「ん???」

 

咲の驚いた顔を見ればすぐわかった。それとは反対に和はなんの話だかわかっていない様子だ。首を傾げて疑問の表情を浮かべている

 

『片岡選手、一発ツモとはならず。戒能プロ、片岡選手はトップ目から積極的にリーチ打ってきましたがこの攻めは…戒能プロ…?』

 

『憑いてますね』

 

『はい?』

 

解説者のプロもわかってんのか。ていうことはプロもそっち側の人ってことか…

 

「ロン」

 

「ふぇっ!」

 

「24000」

 

『先鋒戦終了!永水女子がオーラスでトップの清澄高校にの三倍満を直撃。最下位から一気に二位に浮上。現在のトップは岩手県代表の宮守女子。ベスト8をかけた戦いは次鋒戦に突入します!』

 

まぁ最期のあれは仕方ねぇわ。オレらみたいな一般人は逆立ちしたって神様には勝てねんだから。ん?誰だー!!!お前が一般人とか本当の一般の人たちに謝れって言ったの!!!!!オレは正真正銘の一般人だ!!!!

 

そんな心の中で一人芝居をやっていると控室のドアが開いた

 

「おかえりなさい」

 

「おかえり」

 

「ただいま帰ったじぇ…」

 

入ってきた優希の目には涙が浮かんでいた

 

「うぅう…トップなのにリーチしたのは失敗だったじぇ…リー棒分まくられた…」

 

「何言ってんの、大健闘よ。一年生が強豪校の先鋒相手にほぼ原点で帰ってきた。それだけで十分。続きは私達に任せて」

 

優希はまだ悔し涙を浮かべるものの部長の言葉に軽く頷いた

 

 

 

 

 

 

 

ー永水女子 控室ー

 

試合から戻ってきた神代 小蒔は備え付けられているソファに姿勢良く座って目をつむっている

 

「姫様はまだ眠ったままですね」

 

「まさか二度寝がくるなんて」

 

「珍しい」

 

「小蒔ちゃんなりに頑張ったのかもしれないわね」

 

そんな笑顔で眠っている小蒔を見守っているのが薄墨 初美、狩宿 巴、滝見 春、石戸 霞の四人だ

 

「それって姫様が自分で寝ようと思って眠りについたってことですか〜?」

 

「意図してできたことはなかったけど、今まで公式戦で小蒔ちゃんに神様が降りてこないまま試合が終わることはなかった。だから戦い自体は負の状態で終わることはなかった」

 

「じゃあ今回、それを目の前にして恐れた姫様の心が特別な働きを生んだということでしょうか…」

 

「姫様、いつも心境のお屋敷でお付きの六女仙と遊ぶために麻雀を始めたって言ってたのに」

 

「今の本心は別」

 

「勝つこと。少しでも長く私達とこの大会を楽しんでいたいのかも」

 

霞からの話を切った三人は小蒔の方を振り返る

 

「どちらにしても優勝すれば長く遊べるってもんですよ〜」

 

「えぇ、そうね。でももしかしたら、ただ単に翔くんにいいところを見せたかっただけかもしれないわね」

 

「あぁ」

 

「ありえる」

 

ここでも清澄高校の一年、麻雀部所属の男子生徒、菊池 翔が話に上がるらしい

 

「そういえば今日この会場に翔もきてるんですよね〜?」

 

「実際に今清澄と対戦してるのだからいるでしょうね」

 

「あとでこっちに顔出すべき」

 

「そうね。この試合に勝った後で呼び出しましょうか」

 

「賛成ですよ〜」

 

「何してもらいましょうかね〜」

 

「考えとく」

 

次に翔が永水女子の面々に会うときは一苦労も二苦労もしそうである

 

「…翔くん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ー清澄高校 控室ー

 

「ほいじゃ、そろそろ行ってくるかいね」

 

「頑張ってください!」

 

「よろしくね」

 

「任せときんさい」

 

次鋒戦に向かうため制服のリボンを締め直し後輩や部長から声をかけられるそして出る前に優希の肩に手を置いた

 

「今度こそホンマに仇取っちゃるけぇの」

 

「うん!絶対だじぇ!」

 

県予選ではできなかった後輩の仇を今回は成し遂げると断言する染谷先輩。あ、オレ声かけんの忘れた…

 

『さぁ次鋒戦スタートです!親家は現在トップの宮守女子、エイスリン・ウィッシュアート選手。永水からは次鋒、狩宿 巴選手。永水女子は現在二位につけています』

 

さてさてこの次鋒戦、ほとんどの人は留学生のエイスリンさんに注目するんかね。まぁ咲や衣姉さんみたいに嶺上や海底バンバン和了る人はイヤでも注目するけど、エイスリンさんは目立つ和了りをするわけじゃない。でもこの前の練習試合、ほとんどの曲で門前で聴牌していた。エイスリンさんになんでか聞いてみたけどそのときは「I tell you when we see again(今度会ったら教えるね)」とはぐらかされてしまった。まぁ熊倉さんが「あれはまた会う口実作りだね」なんて呟いてたな…

 

七巡目…

 

「チー」

 

先に動いたのは染谷先輩。それもエイスリンさんの対抗策の鳴きを使ってきた

 

断么九、平和(タンピン)一盃口(イーペー)捨ててチー」

 

「普通はあり得ません…」

 

ま、和じゃなくても普通ならそう思うわな。でも清澄麻雀部、特に染谷先輩と付き合いが長い部長はわかっているのだろう

 

「ツモ。300・500」

 

ー東二局ー

 

七巡目…

 

「ポン。ドラ、たくさんよ〜」

 

染谷先輩が切った{赤五筒}を姫松の真瀬さんが鳴いた。今回も染谷先輩が何か感じ取ったんかな。それにしても玄さんほどじゃないけど真瀬さんもドラ集めるよな

 

十巡目…

 

「ロン。2000」

 

やばっ、染谷先輩の和了り見て全員意味不明って言いたげな顔してる。エイスリンさんに至っては頭の上に10個ぐらい?が見えそう。笑いそう…

 

染谷先輩は卓上を一つの絵として覚えてる。いくら相手が常識の外側にいる人でも染谷さんのイメージから外れる打ち方をしないのであればいくらでも対処できる。でも咲みたいな常識外の人間や、意外にも鶴賀学園の妹尾さんのような初心者には苦戦してしまうが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁついに次鋒戦も後半戦オーラス。次鋒戦開始時に三位につけていた清澄、オーラスを迎えトップに出ています!』

 

四巡目…

 

「チー」

 

エイスリンさんは未だに染谷先輩の不可解極まりない鳴きに対応できていないでいた

 

八巡目…

 

「ポン」

 

染谷先輩が切った牌を巴さんが鳴いた。そして…

 

「ロン。3900。これで終わりじゃの」

 

最後はエイスリンさんが切った{七萬}で染谷先輩が和了って終了した

 

『次鋒戦終了!清澄高校染谷選手、オーラスを3900点で締めてトップで中堅戦へバトンタッチです』

 

「やったじぇー!!!染谷先輩!!!」

 

控室では優希が飛び上がり、咲も拍手で染谷先輩を称えている

 

『宮守女子エイスリン選手、清澄に逆転を許したものの103500点で現在二位。永水狩宿選手は順位を一つ下げ三位に。姫松高校真瀬選手、前後半共に堅実な打ちまわし。順位は変わらず最下位ですが三位との差を詰めています』

 

順位は今アナウンサーさんが言った通り。でも正直この点差ならあってないようなものだとオレは思う。なぜなら、次の中堅戦で出てくる人が出てくる人だから…あの人はオレが知ってる中でもトップ10には入る強者だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー姫松高校 控室ー

 

一方そのころ菊池 翔が考えていた本人はと言うと…

 

「さぁて、場もいい具合にあったまったみたいやし。ここは一つ格の違いっちゅうもんを、見したるで!ほな行ってくるで」

 

翔ほどの実力者(本人は否定するかもしれないが)が強者と呼んでいる愛宕 洋榎は意気込み十分に会場へ向かおうとする

 

「待ってお姉ちゃん…」

 

「なんや絹?心配いらんて。大船に乗ったつもりでウチに任しとき」

 

そんな洋榎を妹である愛宕 絹恵が呼び止める

 

「えっと…今から、お昼休みなんやけど…」

 

「…えっ……」

 

毎日どっかしらでボケが出る。狙ったものもあれば天然で出すものもある。これが愛宕家クオリティだ。すると突然、絹恵の携帯が鳴り出した

 

「ん?こんなときに誰からや?」

 

一ボケかまし洋榎が尋ねる。しかし携帯の画面を見る絹恵の表情で洋榎のみならず控室にいる全員が悟ってしまった。送り主は奴だろうと…

 

「翔くんやー♪」

 

全員「やっぱりか…」と思ったのは秘密である。しかしながら単にメール一本で携帯を高々と上げて眩しすぎる笑みを浮かべる絹恵を見るにその差出人、菊池 翔に対する絹恵の気持ちはすぐにわかってしまう

 

「はぁ…今対戦中やのに…」

 

「そうは言ってもそのおかげで絹ちゃんの気の持ちようが変わるのは事実なのよ〜」

 

「でも本人は全く気づいてないんですよね?」

 

「不憫やわ〜」

 

部長である末原 恭子、先程次鋒戦を戦った真瀬 由子、先鋒戦で失態を犯しデコに落書きされた上重 漫、監督代行の赤坂 郁乃がそれぞれ思ったことを話し合っている

 

「んで?翔はなんのようなんや?激励とかちゃうやろな」

 

「ん〜?♪はい♪」

 

話す言葉一つ一つに♪が出てきそうに意気揚々としている絹恵が携帯画面を洋榎に見せた。そこには…

 

『これ見せて

 

 

洋姉へ

 

この後昼休みだから会場に出ないように注意してな

 

翔より

 

 

P.S. 姫松のみなさん、いつも洋姉がお世話をかけます。絹姉も大変だな…』

 

とあった…弟には全てお見通しであったらしい…

 

「えぇ弟さんに出会いましたね、部長」

 

「さすがなのよ〜」

 

「もう思考読んでるんでしょうね」

 

「ウチに来てくれないかな〜」

 

「翔め…今度痛い目見したる…」

 

「翔くんがウチのことを労ってくれた〜♪」

 

姫松高校のメンバーは今日も平和である

 


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