ー2年後ー
あれから2年の歳月が経った。オレは小学三年生となり身長も伸びた。2年前にこの地に来て最初は戸惑ったが人間慣れるもので今はこの生活に楽しんでいる
最初に巴さんに言われた通りオレは学校終わりの放課後と親のいないときの休日は霧島神鏡で過ごしていた。まぁ六女仙のみんなにも瞑想やら舞やらとオレにはよくわからないことの練習があるのでそのときは一人で宿題とかまぁ何かしらやっていた
六女仙のみんなもこの2年で変わった。初美姉さんよりも背の小さかった霞姉さん(最初に会ったとき以来姉さんと呼ぶようになった)は背も高くなりすごく大人っぽくなった。巴さんは髪が長くなって腰まで伸びていた。初美姉さんは前と全然変わっていない。背丈も性格も…小蒔姉さん(仲良くなってから姉さんと呼んでほしいと言われ、こう呼ぶことになった)は前より距離が縮まりたまに昼寝の時間にオレの膝枕を所望するぐらい親密になった。はるるはあまり表情が変わらないのはいつものことだが、二人でいるときはたまに笑顔を見せるようになった
また新しい出会いもあった。オレの一個下で霞姉さんや小蒔姉さんと血縁である石戸 明星(いわと あきせ)と同じく一個下で明星の親友の十曽 湧(じっそ ゆう)に懐かれるようになった。最初は六女仙がみんないないときに勉強を教えたり遊んだりしていたらいつの間にか「兄様!」と呼ばれるくらい懐かれていた
「「兄様!」」
噂をすればなんとやらで、その二人がこっちに駆けてきた。オレは二人を抱き止め何があったのか聞いてみる
「どうしたんだ?二人とも」
「んん〜♪兄様の香り〜♪はっ!聞いてください兄様!湧ちゃんが!」
「兄様〜♪いい匂い♪はっ!兄様!明星のやつが!」
なぜか一度オレにくっついて匂いを嗅いだ二人がそれぞれ相手の名前を叫んだ
「落ち着け。何があったんだ?」
「兄様は明星の方が好きですよね!なのに湧ちゃんが!」
「何言ってるの!兄様は湧の方が好きだよ!ね!兄様!」
何の話だよ。でも二人は答えてくださいとでも言うかのような眼差しでこっちを見てくる
「オレは二人とも好きだぞ。でもオレはそれよりケンカしている二人を見るのはイヤだな」ナデナデ
「兄様…///」
「えへへ〜♪」
二人の機嫌は良くなったようだ。よかったよかった
「兄様!遊ぼ!」
「でも二人はこれから舞の稽古じゃなかったか?」
「そうですよ、湧ちゃん」
湧は忘れていたのかオレを遊びに誘ったがこの後二人は予定があるのをオレが指摘する。湧は明らかに残念そうになる
「今日はオレも見学に行くから、二人とも頑張れよ」
「「本当ですか!!!」」
「えっ、あぁ」
二人のテンションが急上昇した
「絶対ですよ?兄様!」
「今日は最高の舞を見せてあげる!」
「あぁ。楽しみにしてるよ」
明星と湧は舞の稽古の場所に走っていった
「まさか明星達まであぁなっちゃうとわね」
「霞姉さん。瞑想はもう終わったの?」
「えぇ」
明星と湧が走っていったのを見届けるとそこに霞姉さんがきた
「早く行ってあげて。小蒔ちゃんが待ってるわ」
「え、昨日もしなかった?」
「今日もしてほしいそうよ」
「マジか」
霞姉さんが言っているのは週一のオレの仕事(?)の小蒔姉さんに膝枕をするのだ。昨日したはずなんだけどな…
「はぁ…じゃあ行ってくる」
「えぇ。よろしくね」
「わかった」
霞姉さんはいつも通りの笑顔であるが、少しいつもとは違う気がした
「霞姉さん」
「何かしら?」
「霞姉さんもたまにはわがまま言っていいんだよ?」
「っ!」
霞姉さんは六女仙の中でも一番のお姉さんだ。姉妹でいう長女的な存在だ。だからいつも自分は我慢して他人を優先するんだ
「姉さんもまだ子どもなんだからさ」
「ふふふ、年下の子に言われてしまったわね」
「あ、それもそうか。ごめん、忘れてくれ」
「いいんですよ。ですが、そうですね…少し甘えてみましょうか」
「ん?」
霞姉さんはいきなり腕を組んできた
「姉、さん?」
霞姉さんは高学年になって、その…他の人より、体の発達が早すぎ。だから今や豊満になった胸に腕が埋もれてオレの理性が!!
「どうしたの?」
「い、いや…」
「ふふふ、じゃあ行きましょう♪」
この人絶対わかっててやってるだろ!
「姉さんも?」
「あら、わがまま言ってもいいのでしょう?」
「いいけど、何するの?」
「私も小蒔ちゃんと一緒に膝枕してもらおうかしら」
「…マジで」
オレの膝、耐えられるかな
そしてオレは霞姉さんに引っ張られて小蒔姉さんのいる部屋に連れられた。そこに着いて小蒔姉さんはオレを見るや目をキラキラさせて早く早くとせがんでくる。オレはそこに座り右足に小蒔姉さんの頭を、左足に霞姉さんの頭を乗せてそのままの状態を約三時間続けた
ー八月ー
オレはまた父さんの転勤で引っ越すことになった。それを聞いて仕方ないとは思いつつも小学校で友達になったやつらや何より霞姉さん達と離れることになるのが豊ねぇのときと同じぐらいとんでもなくツラかった
そしてそのことを六女仙のみんなと明星と湧の妹組二人に伝えるときがきてしまった
「みんな…話があるんだ。オレは来月、引っ越すことになった」
『っ!!』
オレの言葉を聞いたみんなは驚いた表情をする。そして妹組二人は泣き出してしまった
「そう。寂しくなるわね…」
「悲しいのですよ〜」
「あーもう。二人とも泣かないの」
「翔くん…行ってしまわれるのですね…」
「…」
オレは泣いている明星と湧の頭を撫でる
「まだ一ヶ月いるから…なっ?」
泣いている二人にそう声をかける
「じゃあ今日は二人を泣かせたお詫びとして翔くんにご飯を作ってもらいましょうか」
「えっ?」
「賛成ですよ〜」
確かに明星と湧が泣いたのはオレのせいかもしれないけど…でもまぁ事実だし、やりましょうかね
「わかりました」
オレはまみさんに許可をもらい厨房に入ってみんなに感謝を込めて料理を作った
そしてそのときが来てしまった。オレは霧島神鏡に顔を出さず朝から荷作りをしていた。大きなタンスやベッドはもう既に送っているので、あとは昨日まで使っていた歯ブラシやらシャンプーやらをカバンに詰めていた
「翔、挨拶に行くから用意して」
「わかった」
荷物も全部用意が終わって母さんから声をかけられた。どうやらご近所さんやお世話になった人達に挨拶しに行くみたいだ
近所の方々やオレの通っていた小学校関係、そして次がいよいよ霧島神鏡のみなさんだ。もう登り慣れた長い階段を登りみんな待つ部屋を目指した。母さんの後に続いて部屋に入った。そこにはここでお世話になったみなさんが勢揃いしている。その中には霞姉さん達もいた
「みなさん、これまで大変お世話になりました。特に翔のことは」
「いえいえ。翔くんのことはこちらとしてもいい刺激となりました。こっちこそ感謝していますよ」
オレはその言葉にビックリして霞姉さん達の顔を見る。霞姉さんと巴さん、初美姉さんの年長組はいつも通りの笑顔で、はるるもいつも通り無表情。でも小蒔姉さんと明星と湧の妹組は顔を赤くして俯いていた
「翔くんだけでも置いていって構わないのですよ?」
「それはご勘弁を。この子は私達の大切な子ですから」
「そう。それは残念ね」
冗談交じり…冗談だよね…?まぁその問いに真面目に答えた
「さて、私達はこの辺で失礼します。本当にありがとうございました」
「お世話になりました」
「えぇ。霞、お見送りお願いね」
「はい、お母様」
霞姉さん達六女仙と明星と湧が見送りをしてくれるのか、オレと母さんについてきた。そして鳥居の前でオレは振り返りみんなに体を向ける
「みんな、ホントにありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
「また来るのですよ〜」
「体に気をつけつけて」
「翔くん。お手紙書きますね」
「…元気で」
「「兄様〜!」」
妹二人は最後にオレに抱きついてきた
「私、兄様のこと忘れません!」
「兄様も湧達のこと忘れないでね!」
「あぁ。忘れるもんか」
そしてオレは母さんと長い階段を下り、父さんと合流して次の地、“大阪”に向かった