牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第36話

暑さはどんどん強まるばかり。アウトドアスポーツをする人達はこの炎天下での練習や試合は堪えるであろう。まぁ麻雀部は外でやることはないから快適な室内で行われるけど

 

さて、今は清澄、龍門淵高校、風越女子、鶴賀学園の四校で合同合宿を行っている最中である。一日目は自由行動になったが二日目からは一局一局対戦相手を変えつつの特打ちとなっていた。また清澄のメンバーは完全に全国には素人だ。そのため既に全国を経験した龍門淵の皆さんや美穂子さん達に特訓をつけてもらっている

 

しかも今回の合宿にはスペシャルゲストとして藤田プロが参戦している。なので格上の人を相手にできる数少ないチャンスだ

 

合宿は今日で三日目に入っている

 

「それだじぇ!ロン!立直、一発のみ。2600だじぇ!」

 

「ぶふっ!安い一発もあったもんだな!」

 

「そういうのは私を倒してから言うんだな」

 

「そうそうその意気。もっと強くなってくれ」

 

一方では優希が純さんを相手に鳴かれても調子を崩さないようにする特訓

 

「ツモ!門前、断么九、平和(メンタンピン)、三色、ドラ2!4000・8000!裏は捲らないでおいてやるー」

 

「その形の平和で八翻だと裏のっても点数変わらないからね」

 

「裏ドラサービスだし!」

 

「ほいじゃ2000バックで」

 

一方では染谷先輩のレパートリーを増やすためなるたけいろんな人と打つ特訓が行われているようだ。オレはというと…

 

「おにぎりとサンドイッチ作って来ました」

 

「オレと美穂子さんの合作です。お召し上がりください」

 

「ちょっ!翔くん!」

 

「ははは!照れない照れない」

 

オレはみんなの分の軽食を美穂子さんと作っていた

 

「いただくわ」

 

誰よりも早くそれに手をつけたのはうちの部長だった。それに続いてみんなも一旦手を止めこちらへやって来た

 

「あなたのところのキャプテンはいいわね〜。気が利いて麻雀も料理も上手くて」

 

「あげませんよ?」

 

部長と吉留さんの会話を聞いて美穂子さんは照れている

 

「じゃあ気が利いて麻雀も料理も上手い翔は僕がもらおうかな」

 

「へ?あの、一さん?」

 

いつの間にやらオレの隣に位置取っていた一がオレの腕に自分の腕を組みながら変な発言をする。ていうかお盆持ってるから腕引っ張るのやめてくださいよ

 

「ならうちがもらってもいいっすよね?」

 

「モモまで」

 

「ダメです!」

 

「モモちゃんも何言ってるの!翔くんは私のだよ!」

 

「咲さんのものでもありません!」

 

ん?咲さん?

 

「和はいつから咲のこと名前で呼ぶようになったんだ?」

 

「はい?一昨日からですかね…?」

 

「そっか」

 

「翔くん!」

 

「うおっ!」

 

「翔くんは誰と一緒にいるの!?」

 

咲の一言に一さん、モモ、咲、和、それとなぜか隣にいる美穂子さんまでオレに顔を向けてきた

 

「モテモテね」

 

「部長も変なこと言ってないで助けてくださいよ…」

 

「「「「「翔(くん)(さん)!!!!」」」」」

 

「だぁー!オレは誰のものでもねぇよ!」

 

「さきー!しょー!ころもと遊ぼー!」

 

「ほら、姉さんが呼んでるぞ?」

 

「…」

 

咲は何も言わず頰膨らまして行ってしまった

 

「ふぅ〜」

 

「まだ終わってないよ…?」

 

「へ?」

 

「咲ちゃんは離脱しましたがまだ私達が残ってるっすよ…?」

 

「翔さん…?はっきりさせましょ…?」

 

「…」

 

一さんもモモも怖いし和もいつもとは雰囲気違うし美穂子さんは黙ってるの逆に怖い…

 

「でも、ほら!オレも衣姉さんに呼ばれたし…」

 

「…わかった」

 

「ほっ」

 

これで解放されるかな

 

「今回は、っすよ…」

 

「え?」

 

「後ではっきりさせてもらいますからね…」

 

「…」

 

ダメだ。この合宿が続く限りオレの寿命も削られていく…

 

「うわっ!あの卓すごい…」

 

「入りたくないな…」

 

「じゃっ!私が入って久々に本気だそうかしら!」

 

部長も入ろうとしているが呼ばれたのはオレなわけで持っていたお盆をとりあえず空いているテーブルに置いてオレも衣姉さん、咲、藤田プロが座っている卓に入ろうとする。しかしその前に透華さんがフラフラっとやってきて入ってしまった

 

「とーか!」

 

「お願いしますわ」

 

透華さん?透華さんだよな…でもいつもとは何か違うような…もしかして…

 

「ツモ。4000・8000」

 

やっぱり打ち方もいつもの透華さんじゃない。おそらくあの状態の透華さんになっちゃったんだろう

 

ギュッ

 

「一さん?」

 

「翔…僕、あんな透華嫌だ…」

 

「…わかった」

 

その透華さんを見て一さんがオレの袖を握ってきた

 

「咲、変わってくれるか?」

 

「翔くん。わかった」

 

「悪いな」

 

オレは透華さんを元に戻すべく咲と交代した

 

「姉さん、透華さん、藤田プロ。お願いします」

 

「しょーだ!」

 

「あ、あぁ…」

 

「お願いしますわ」

 

オレはゆっくりと腰を下ろす。藤田プロはまだ今の透華さんに驚いているようだ。そして透華さんとのある意味二度目の戦いが始まった

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

「透華!」

 

「お、目覚めましたか?」

 

「夢?夢落ちですの!?」

 

覚えてないのか…

 

「衣と清澄の人とプロ相手に連荘してた」

 

「夢じゃない」

 

あ、言い忘れてたけどここは龍門淵の皆さんが泊まってる部屋で部屋には今まで寝ていた透華さんと一、智紀さんとオレがいる。そして一さんがさっきの対局の牌譜を透華さんに渡す

 

「牌譜を取っていた人がいたんだ。透華、四ゲーム目で翔に負けて気を失ったんだ」

 

透華さんは何のリアクションも取らず受け取った牌譜をジッと見つめている。ちなみに衣姉さんと純さんは風呂に行っている

 

「こ、こんなのわたくしじゃありませんわ!却下ですわ!」

 

「透華…」

 

すると不意に透華さんは牌譜を床にばら撒いてその結果を完全否定した

 

「これでは原村 和とスタイルが全然違いますわ!」

 

「「そっち!?」」

 

思わずツッコミを入れてしまったら一とハモってしまった

 

「っ!あれは!」

 

「ん?」

 

「なんかあるんですか?」

 

「噂をすれば高遠原中学」

 

「え?」

 

「原村 和のいた中学」

 

「あぁ、それで」

 

「関係ないですわ!」

 

でもなんでこんなところに中学生が?しかも和と同じ学校

 

「じゃあオレはそろそろ戻りますね」

 

「えぇ、わざわざ申し訳なかったですわね」

 

「いえ」

 

透華さんも目が覚めたことだし清澄の部屋に戻ろうと部屋を出ると一もついてきた

 

「どうしました?」

 

「ん?最後にお礼をね。透華を戻してくれて本当にありがとう」

 

「どういたしまして。でもいつもの透華さんに戻ってよかったですね」

 

「うん」

 

と言い終えたところで一さんはオレの肩に手を置いて背伸びしながらオレの頰に顔を近づけた

 

チュッ

 

「これは今日のお礼だよ♪もっとしてほしいならしてあげるけど?」

 

「い、いえ…十分です!」

 

またこのパターンか…結構驚くから控えて欲しいんだけどな…オレはそんなことを思いながらその場を離れた

 

 

 

 

清澄の部屋にはもうさっきの中学生は来ていた

 

「あ、翔くん」

 

「あら、菊池くん。ちょうどいいところに」

 

「はい?」

 

「あなたも入ってあげてちょうだい」

 

そこには既に麻雀を打つべく中学生の小さい子の方と和と咲が卓についていた

 

「オレが入っちゃっていいんすか?」

 

「えぇ。手加減は無用よ」

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 

部長に言われて気合を入れる

 

「タコス美味しいじょ」

 

「ありがとうございます!」

 

さて、どんな打ち手なんだろうな

 

ー東一局ー

 

「ツモです!6000オール!」

 

東初(トンパツ)に速攻の高打点。優希みたいだな。もう少し様子を見るか

 

ー東一局 一本場ー

 

「はぁ…今度はまほっちか…」

 

「まほっち?」

 

まほっち?なんだそりゃ?どうやらもう一人の中学生が説明してくれるようだ

 

「こいつ和先輩に影響されてネット麻雀やってて。スーパーまほっちっていう名前でやってるんですよ。でも激弱で。レーティングは1200代なんです」

 

「1200…」

 

う〜ん…ネット麻雀のことはわからん

 

「リーチ!」

 

お、そんなこと考えてたら和のリーチ

 

「「「不聴(ノーテン)」」」

 

聴牌(テンパイ)

 

綺麗に降りたな。まるで和みたいだ。優希は人の胸を揉むのをやめろ

 

ー東二局ー

 

「ロンです!二本づけで8600です」

 

和が振り込んだ?珍しいな。ていうか今度は部長みたいに多面張(タメンチャン)を捨てて単騎待ち。これで確定かな

 

ー東三局ー

 

「あれ?もしかして宮永先輩が待ってるのって{五萬}ですか?」

 

「えっ?」

 

「まほ、嶺上(リンシャン)で和了れるような気がします」

 

なるほど。今度は咲ってわけね

 

「カン!」

 

嶺上開花(リンシャンカイホー)、自摸、ドラ2。2000・4000です!」

 

そういうことね。理解したよ。確かに人のスタイルを真似することは悪いことじゃない。じゃあそろそろオレもやらしてもらおうかな。なぁ、咲?オレと咲の視線がそこで合わさる

 

ー東四局ー

 

「それ、カンです!嶺上…ツモならずです…あっ!これ、完全に役なしになってしまったのです…」

 

いや、別に言わなくてもいいよな

 

「ロン。12000」

 

「ひゃっ!」

 

「ごめんね。ロン。24000」

 

「あぅっ!」

 

「ま、こんなもんだろ。ロン。32000」

 

和がハネ満、咲が三倍満、オレが役満をそれぞれ和了った

 

「安直なカンはしないように教えたはずです」

 

「で、県予選で見た宮永先輩の嶺上開花がものすごくて・・宮永先輩が近くにいると意識しちゃって…まほもああいう風に打ちたいって思っちゃうのです…」

 

まぁ咲みたいにバンバン嶺上開花決められたら羨ましくなるわな

 

「今のはそうでもなかったですけど、全局ではまほ少し嶺上開花で和了れるかなって思ってしまったりもしたです…」

 

「そんなオカルトありえません」

 

それがありえるんですよ、原村さん

 

「まほちゃんはいつもそうでしたね。私や優希の打ち方を真似てもうまくいくのはのは一日に一回あるかないか」

 

憧れが強すぎて模倣に走るのかな

 

「人真似の前に自分自身の底上げした方が…」

 

「うぅぅぅ…」

 

あ、泣きそう

 

「別に人真似が悪いってわけじゃない。でも真似る人は選びな。君は素質は十分だ。でも咲とは次元が違う。だから真似るなら和や優希の方がいい。タコスで縁起を担ぐもよし、ひたすらネットをやるのもよしだ」

 

「先輩…」

 

「和も先輩なんだからそんな否定的なことばっか言ってやるな」

 

「…言いすぎました。あれから四ヶ月どれだけ成長したのか、ここからですね」

 

「…はい!」

 

「いい先輩じゃないか」

 

オレはそう言って和の頭を撫でる

 

「や、やめてください!」

 

「あ、わりー」

 

「あ、別に撫でるのをやめてという意味ではなく…」

 

「お、おう」

 

撫でたのを怒られたと思って手を離したら和が自分でその手を頭に戻した

 

「お前はなんかアドバイスないのかよ、宮永先輩?」

 

「…」

 

「宮永先輩?」

 

「…」

 

「はぁ…これでいいか?」

 

「うん♪」

 

呼びかけても返事をせずにオレの方をジッと見つめてくるだけの咲にも和と同じように頭を撫でてやった

 

「ほら、アドバイスは?」

 

「う〜ん…好きな役を見つけること、かな」

 

お、意外とまとも

 

その後結局まほちゃんは三局やって全部最下位だった。ちなみにオレは全部一位。でもなんで部長はこの子を呼んだんだ?わかんね…

 

「菊池くん、ちょっといいかしら」

 

「はい?」

 

「私と打ってくれない?」

 

「部長とですか?いいですけど」

 

「じゃあ行くわよ」

 

「へ?ここでじゃないんですか?」

 

「他校の人も誘うのよ。ちょっと出てくるわね」

 

そして部長に連れられて再び龍門淵の部屋へ。さっきのことがあったから少し躊躇うな

 

「こんにちは〜」

 

「お客さんだ〜。あ、しょ〜」

 

「よっ、姉さん。風呂はどうだった?」

 

「うむ、快適であった」

 

「やぁ、翔。僕に用かい?」

 

一さんはわざとらしく自分の頰を指差してオレに尋ねてくる

 

「今回は部長の付き添いです」

 

「そっか。それは残念」

 

「いらっしゃいまし」

 

部長は透華さんを見つめて何も言わなかった

 

「何ですの?」

 

「天江さんと麻雀したくてね」

 

「本当か!?」

 

「もち!」

 

「わー!」

 

「よかったな、姉さん」

 

そしてつ次に鶴賀の部屋にやってきた

 

「ゆみー、今日もよろしく」

 

「ななな、なんで下の名前で呼び捨てっすか!?」

 

「昨晩仲良くなってな」

 

「昨晩!?仲良く!?」

 

「落ち着けよ、モモ。別に何かあr「翔くんっす!!!」ぐはっ!」

 

モモの強烈なタックル(抱きつき)がオレの鳩尾にクリーンヒット

 

「も、モモ…お前…」

 

「しょ〜!大丈夫か!?」

 

倒れたオレにモモが跨ってる状態で衣姉さんが心配してくれてオレの上半身を揺さぶる

 

「早く降りろ!」

 

「嫌っす!翔くん全然私に構ってくれないじゃないっすか!」

 

「歳を考えろ!」

 

「モモ、菊池くんの言う通りだ。早く降りるんだ」

 

「…わかったっす」

 

加治木さんのおかげでようやく降りてくれた。しかし正座の状態でシュンとしている

 

「わかった。あとでまた来るよ」

 

「本当っすか…?」

 

「あぁ」

 

「約束っすよ…?」

 

「わかった」

 

とりあえず慰めの意味で頭を撫でてやり後で少し話すぐらいの時間を取ることを約束した

 

そして次は風越の部屋

 

「翔くん」

 

「ごめんな。うちの部長が」

 

「ううん」

 

「ちょっとー、私のせい?」

 

「他に誰がいるんすか」

 

ここには美穂子さんを誘いに来たようだ。なぜか最初は躊躇っていたが池田さんに背中を押されて参加してくれた

 

部長は全国に向けてできるだけ強敵と言える相手と打ちたかったらしい。でかメンツ揃ってんだからオレいらなくね…?

 

終わったあとはキツかった…モモと話してるとこを一さんに見られてなぜか付き合ってる疑惑が浮上しその噂を聞きつけた咲、和、美穂子さんがオレのもとに駆けつけて来て説明しても聞く耳持たないし…当のモモはずっと笑顔でオレの弁護してくれないし…

 

それから何とかわかってもらえて次の日の朝、各々自分の高校への帰路についてとても充実した四校合同合宿はこれにて終了した

 




いよいよ次回から全国です。どんな出会いが待ち受けているんでしょうか!

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