牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第30話

大将前半戦は咲による二連続嶺上開花(リンシャンカイホー)という側から見たらありえない和了りで始まった。しかもわかる人にはわかるだろうがもし咲が回避していなければ槍槓(チャンカン)だってきまってたかもしれない。どっちにしろ凡人からみたらありえないことには変わりない

 

ー東三局ー

 

この局で咲は{西}を今度は暗槓(アンカン)していた。流れからするとまた嶺上開花で和了るパターン。しかしその前に咲は目線を河にやってそれを和了るのをやめた

 

「おりたかな?」

 

「宮永さんが、躊躇ってる」

 

「さっきはうまく躱したけどまた槍槓があるかもって思ってるのかな」

 

「咲ちゃんらしくないじぇ」

 

「槍槓なんて狙って出せるもんじゃないんじゃけどな」

 

そんな幻想を植え付けることを考えていたとしたら鶴賀の大将さんもなかなかやるな

 

「カン」

 

およ?おりたかと思ったら次の巡で咲がカンを宣言。これにはオレも少しビックリ

 

「ツモ。嶺上開花」

 

『さ、三度目の嶺上開花!何が起こっているのでしょうか!』

 

「咲ちゃん!」

 

「宮永さん!」

 

「和了りおった!」

 

まだ鶴賀に{一索}が入ってなくてよかった。入ってたら国士で親の役満食らうとこだったな

 

「無聊を託つ。清澄の大将は手強いと聞いてウキウキしてたのに、乏しいな闕望したよ。そろそろ御戸開きといこうか」

 

っ!この感じ…!始まるか…しかも最悪なことに今日は満月…咲、戦いはこっからだぞ…

 

そして次の局、その力は他家(ターチャ)に及んでいた。衣姉さん以外の三人は配牌(ハイパイ)から一向聴(イーシャンテン)止まり。鳴くに鳴けない状態のようだ

 

「チー!」

 

咲の捨てた{六筒}を鶴賀の人が鳴いた。しかしその結果…

 

「リーチ」

 

衣姉さんのラスト一巡でツモ切りリーチ。今の鳴きで完全に|()()《ハイテイ》コースになってしまった

 

「あらら、誰も鳴けないか」

 

『?』

 

「…」

 

思わず口に出してしまったことに部長以外の人が疑問の表情を浮かべる。部長は変わらずテレビを見ている

 

「その役の意味は海に映った月を掬い取る。海底撈月(ハイテイラオユエ)

 

決まってしまった。最後に和了ると役がつく。これが天江 衣

 

ー東四局ー

 

この局も十六巡目まで鳴いてズラすこともできないし、かといって自力で和了ることもできない。しかもこのまま進めばまた海底牌をツモるのは衣姉さんだ

 

「カン!」

 

あちゃー。風越の人がカンして咲が欲しい牌が取られちゃったよ。でも最後の海底牌も王牌(ワンパイ)に取り込まれた。これで海底と嶺上開花を同時に潰したか

 

「ポン」

 

「なっ!」

 

「{北}ポン{北}ポン」

 

衣姉さんが咲の切った{北}を鳴いて海底コースに戻ってしまった

 

「ツモ。海底撈月」

 

今回の和了りは海底のみ。でもカンドラ三枚。風越の人がカンしなかったら海底は防げてたし咲が和了れたかもしれない

 

「失礼」

 

風越の人はカンしたときに王牌に取り込まれた牌を確認した。おそらくカンではなくポンにすればよかったと思っているのだろう

 

『二連続海底ツモ!龍門淵高校天江 衣の二連続海底ツモで再び龍門淵高校がトップに躍り出ました』

 

「ここまで嶺上、嶺上、流局、嶺上、海底、海底だじょ」

 

「偶然にしても酷すぎます」

 

「エニグマティックだじぇ」

 

嶺上の花が咲いて海底の月が輝く、まるで花天月地だな

 

ー南一局ー

 

親は衣姉さんか。まだ海底しか出してないけど、親だしそろそろ打点の高い和了りも出してきそうだな

 

「チー」

 

開始早々風越の人が鳴いて、その後も三連続萬子ツモ。そして…

 

「ポン!」

 

衣姉さんからも鳴く

 

『手の進まない鳴きからその打牌。凡ミスだな』

 

そう。風越の人は鳴きからあまり有効牌の増えない{二萬}を切ってしまった。それからは鳴けず有効牌も来なかった

 

『天江選手は十巡目に平和(ピンフ)を張って以来ずっと(ダマ)ですね。リーチしないのはトップ親だからですか?』

 

『いやいや』

 

「ポン」

 

『えー!』

 

『こうするんだよ』

 

咲から鳴いて平和の黙から役なしに。透華さんや和のようなデジタル打ちには理解できないだろうな。しかもこれで海底牌をツモるのは衣姉さんになった

 

「カン!」

 

咲が嶺上開花で和了るためではなくカンした。でもそのおかげで聴牌。でもカンドラは衣姉さんが鳴いた{六萬}。しかしこれで衣姉さんが海底コースからズレた

 

「チー」

 

また海底コース。しかも{赤五筒}が見えた七対子(チートイ)から直撃なら最低でも12000は持っていかれるな

 

『しかしここ数局、天江以外の手の止まりようが異常ですね』

 

『去年はこんなことなかったな。一向聴地獄だとか手が進まないとかよくボヤくやからがいるが、一人が八巡程手が進まない程度のことならそれなりにあることだ。ボヤくなと言いたい。だがこの状況はなんだ。三人が三人流局寸前まで聴牌できない。それが三局連続で起こっている』

 

そして最後のツモ。咲は和了れなかった。そして鶴賀の人がツモる。{九索}を切れば聴牌のところをなんと切ったのは{五筒}だった

 

「ロ、ロン!2000点です」

 

聴牌を捨てての差し込み。あの状況から聴牌を捨てることと咲の当たり牌を予測した技量はすごいものだな

 

衣姉さんは驚いた様子で立ち上がる

 

『あの局面で差し込みとは、鶴賀の部長なかなかやるな』

 

『鶴賀の部長は加治木ではなく蒲原ですよ?』

 

『え!?蒲原が!マジで!?』

 

その驚きは失礼ではないだろうか…

 

ー南二局ー

 

さっき咲に差し込みを見せた鶴賀の人はいきなり{三筒}を切るというセオリー外から始まった。まぁ普通に打ってもそのうち一向聴地獄、ならセオリーから外れてみるのも一つの手だ

 

「リーチ!」

 

そしてたった八巡目に鶴賀のリーチ

 

「ロン。立直、一発、裏裏。12000」

 

そのリーチに風越が一発で振り込み。これで風越の点数は60000点を切ってしまった

 

そしてこの和了りを機に、衣姉さんは本性を現した

 

「っ!」

 

「?どうしました?翔さん」

 

「いや、大丈夫だ…」

 

やっぱり和は感じていないのか。対局室でも鶴賀の人は立ち上がり咲も驚いた表情で衣姉さんを見ている。風越の人は何が起こっているかわかってないようでキョトンとしている

 

「あの、翔さん…?」

 

「ん?どうした?和」

 

「よ、よろしければ…お休みになりますか…?」

 

和は顔を赤らめながら自分の膝をポンポン叩いてオレに提案してきた

 

「えっと…提案は嬉しいんだが、みんなもいるから…」

 

「そうですか…」

 

「あぁ〜…こ、今度お願いするよ…」

 

「本当ですか!?」

 

「お、おう…」

 

「約束ですよ?」

 

「わかった…」

 

断られたことで残念がったと思いきや今度は期待の笑みを浮かべる和

 

「あら〜?和も随分大胆になったわね」

 

「はっ!え、えっと!今のは!うぅぅぅ…」

 

和は今度は恥ずかしがって顔を赤くしている。てかみんな咲の応援に集中しなよ

 

ー南三局ー

 

さっきの局、鶴賀は衣姉さんの支配に逆らって和了ったと思っているだろう。しかしそれが自力で和了ったのではなく、衣姉さんによって()()()()()()()()()()()()()()()()と誰も考えないだろう

 

「ポン」

 

衣姉さんがいきなり鶴賀から{一筒}を鳴いたおそらくここから姉さんの本領発揮かな

 

「ポン」

 

そう思っていたら衣姉さんが風越から{五筒}を鳴いて二副露(ツーフーロ)。しかも{赤五筒}が二枚見えた

 

そして次の巡で風越が{一索}を切ったそのとき…

 

昏鐘鳴(こじみ)()が聞こえるか?ロン。12000!」

 

きたか。衣姉さんの本質は海底ではなく打点の高い和了りだ

 

「世界が暗れ塞がると共にお前達の命脈も尽き果てる」

 

風越は二連続でハネ満を振り込む形となった。てか相変わらず衣姉さんの言うことはたまによくわかんなくなるな

 

ー南四局ー

 

もう前半戦オーラス。咲は振り込んでないにしても一位の衣姉さんとは大分差がついちゃったな

 

「ポン!」

 

全局同様姉さんによる早い段階での鳴き。しかもダブ南

 

「ツモ。3000・6000!」

 

ビー!

『前半戦終了!龍門淵高校天江 衣、独走状態。他校を一気に突き放しました。勝負はこのまま決着か?それとも他校が巻き返すのか?残るは後半戦半荘一回です』

 

圧倒的とはこのことかな。でもオレ的には咲はもう少し善戦できてもおかしくないんだけど…あ、もしかして…

 

『ただいまより五分間の休憩に入ります』

 

『しかし圧倒的展開となりました。龍門淵の天江 衣、二位の清澄宮永になんと27000点もの差をつけて現在トップ。後半戦、このまま龍門淵が押し切るのか?名門風越は絶望的とも思える点差の壁を超えられるのか?それとも新参二校が龍の尾を掴むのか?』

 

衣姉さんは悠々と対局室を出ていった。風越自身の点数に絶望を感じているのか卓に伏している。咲はなにか慌てた様子で部屋を出ていった。はぁ…やっぱりそういうことか。それに続いて鶴賀の人も出ていった

 

「さてと、ちょっと出てきます」

 

「ん、わかった」

 

「私も行きます」

 

オレに続いて和もぬいぐるみを置いて立ち上がり一緒に控え室を出た

 

「和も気づいてたのか?」

 

「?何にです?」

 

「咲の調子」

 

「はい…なんとなくですが、部活のときや合宿のときとは違って…なんというか、おとなしいと言うか…」

 

「そうだな。なんとなく言いたいことはわかったよ」

 

まぁ今からそれを確かめに行くんだけどな。咲のあの慌てようからしてトイレかな?でもどうせあいつのことだから迷ってんだろうな

 

「こっちかな」

 

「え、そっちは対局室とは逆方向ですよ?」

 

「う〜ん。なんかこっちにいる気がするんだよ。勘だけどな」

 

「そ、そうですか…」

 

ま、信じられないよな。あっ

 

「いた」

 

「え、ホントですね…」

 

「咲ー」

 

「宮永さん!」

 

「…翔くん!原村さん!」

 

咲がいるというオレの勘を頼りに進んだ方にホンに咲はいた。オレもビックリ。だってほとんど適当だったし…

 

「なにしてるんですか!?大将戦の途中なんですよ!?」

 

「まぁまぁ和。どうせ迷子になってたんだろ?」

 

「…う、うん」

 

「また迷子ですか…」

 

和は相当心配していたようで、対局室に戻らずほとんど逆方向のこんなところをうろついている理由がただの迷子と聞いて少し呆れているようだ

 

「宮永さん…」

 

「うん?」

 

「覚えていますか?初めて私達が麻雀を打った日のことを。あのときのあなたは中学生大会チャンピオンだった私のプライドを粉々にしたんですよ!?」

 

「でも、あれは…」

 

そこでオレは咲と目が合ってしまう

 

「確かに翔さんのせいというのは聞きました」

 

あれぇ〜?オレのせいなの?

 

「でも合宿の日のことを忘れたんですか!?あなたは本当に強かった。あの日のあなたはどこに行ってしまったんですか?あの自身に満ちたあなたは!?」

 

あれ?もしかして和はわかってないのか?

 

「は、原村さん」

 

「はい!」

 

「あぁ、和。その、なんだ。咲は別に調子が悪いわけじゃないぞ?」

 

「……え?」

 

「前半戦はその、お、おトイレ我慢するのに集中しちゃって…」

 

「…」

 

「このおバカ。対局始まる前に行っとけよ…」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

オレは咲のおバカ加減に頭を抱える。和はそう聞いてさっきの自分のセリフを思い出して恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にしている

 

ピンポーンパーン

『間も無く大将後半戦を開始します。出場選手は速やかに対局室に戻ってください』

 

「ほら、行くぞ」

 

「急ぎましょう!」

 

「うん!」

 

和は咲の手を握り走り出す。咲もそれに引っ張られて行ってしまった。オレ置いてけぼり……仕方ない、一人で戻るか

 

「翔くんっす!」

 

「のわっ!」

 

控え室に戻ろうと歩き出した瞬間、後ろから大声と共に何かが抱きついてきた

 

「モモ!」

 

「はい!私っす!」

 

「危ないから後ろから勢いよく抱きつくのはやめてくれ」

 

「前ならいいんすか?」

 

「揚げ足を取るんじゃない。前からもダメに決まってんだろ」

 

「えー…翔くんは意地悪っす」

 

「いや、普通だから」

 

そういえばモモはだっから来たのだろう?モモも鶴賀の大将さんのとこにいたのかな?

 

「あ、モモ。副将戦お疲れ。すごいじゃんか、個人点数トップなんて」

 

「えへへ〜♪翔くんに褒められたっす♪」

 

なんともいい笑顔をするモモ

 

「さてそろそろ後半戦始まるし、戻りな」

 

「あ、そうっすね…」

 

「そう残念がるな。会いたかったらいつでも来ればいい」

 

「本当っすか!!?」

 

「あぁ、もちろんだ。咲や京太郎も呼んどくよ」

 

「……」

 

「ん?モモ?」

 

なぜかモモは黙ってしまった

 

「…………

 

「へ?」

 

「翔くんのバカーー!!!!!」

 

「んがっ!!!」

 

何を言ったか聞こえなかったから耳を近づけたら今度は大声でバカと言われた。なぜだ?解せぬ。てか耳痛い…

 


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