牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第27話

次鋒戦が終わり、今清澄は最下位。まぁ部長がなんとかしてくれるでしょう

 

昼休みが終わって対局室には続々と選手が入っていった。風越と鶴賀は知らないけど龍門淵からは一さんが出場するようだ。そこで対局室に入った一さんはカメラに向かって睨んでいる。それがカメラの外のオレに向いていること何を意味しているのかオレにはわからなかった

 

『県予選決勝中堅戦。折り返しを制するのははたしてどの高校か!』

 

全員が卓について中堅戦が始まった

 

ー東一局ー

 

部長の手牌は

{二萬五萬三索八索九索九索一筒五筒五筒七筒八筒發北} {五筒}

となっていた。どうもイマイチの手配でスタートとなった

 

七巡目、部長は{三萬}をツモる。だが五巡目にドラ側の{二萬}を切ってしまっていた

 

そして次の八巡目、ドラの{一萬}を引いて完全に裏めった状態となってしまった。普通はそこで即座に切るのだが部長は手牌に加えた

 

その後の九巡目に{四萬}を引き

{一萬三萬五萬九索九索九索四筒四筒四筒五筒六筒七筒八筒}

となった

 

「リーチ!」

 

部長は五面張を捨ててドラ単騎でリーチをかけた

 

『え、えぇと…清澄高校竹井 久、中堅戦最初の先制リーチです!』

 

『ドラ単騎、地獄待ちか…』

 

この五面帳を捨てての単騎待ちは実況の人も驚いているようだ

 

「ドラ切った方が待ち多いんじゃ…」

 

「ヤオチュー牌のドラ単騎自体はわりと普通はだじょ」

 

「部長はここぞというときは悪い待ちが多いけぇ」

 

「え?」

 

「初めて聞いたじぇ」

 

「そういやぁ、和が入部したばっかりの四月ごろ部室のパソコンで部長の牌譜を見つけて、えらい噛み付いとったのぅ」

 

「和的には理解できないし意味不明な打ち方でしょうからね」

 

和には考えられない待ちだからな。どうせこのことも偶然やら錯覚やら言うんだろうな。まぁ今では嶺上開花ばっかで和了る誰かさんを見てるせいで少しはその異常現象も考えるようになったがな

 

『さぁ、清澄高校竹井 久のリーチに対して他校はどう出るか。龍門淵高校国広、現物を処理』

 

さすがは一さん、ムリだと思ったら即降りるその感じ、嫌いじゃないです

 

そして次の風越の人は{五索赤}をツモった。これでもし聴牌をとるならいらない{一萬}を切らないといけない。だがそれは我らが部長の当たり牌である。さぁどうする?

 

「通らばリーチです!」

 

「…通らないな、ロン!」

 

部長はわっるそうな笑顔を見せてから手牌を見せ裏ドラも確認する。それは{九萬}裏ドラも乗った

 

「立直、一発、ドラ4。12000」

 

他家の三人は揃ってありえないとでも言いたげな顔をしている。だがそのありえないが部長にとっての普通なんであろう

 

『龍門淵と鶴賀の手牌を見る限り、もし多面帳を選んでいたら確かに和了れそうにはなかったかもしれませんね』

 

『先々鶴賀が{九筒}を振るかもって程度だな』

 

『しかし、それにしても驚くべきチョイスです。一気にアドバンテージがなくなりました、風越女子!そして龍門淵はいきなりの最下位!』

 

最下位といってもこのまま終わるわけじゃないだろ?一さん

 

ー東二局ー

 

十二巡目

 

今回も部長は聴牌していた。今度は黙で。するとこれもまた風越の人が{赤五筒}を切ってやってしまう

 

「リーチ!」

 

「ロン。断么九、三色、ドラ3。18000(インパチ)

 

今度は部長の親番でまたも風越の人がそれに振り込んでしまった。これで風越は二位に転落、鶴賀が一位となった

 

ー東二局 一本場ー

 

「聴牌」

 

「聴牌」

 

「不聴」

 

「不聴」

 

一本場は流局となった。しかしながら部長は今回も四面帳を捨てての単騎待ちで張っていた

 

ー東二局 二本場ー

 

「ツモ」

 

十巡目、部長はツモった牌を指で弾いて上に飛ばし、手牌を開いて飛ばした牌をおもいっきし卓に叩きつけた

 

「4200オール」

 

マナーは悪いがこれで…

 

『ひっくり返ったな』

 

『こ、これで清澄高校が一位に!中堅戦開始早々竹井 久による怒涛の反撃です』

 

「あっという間じゃ!」

 

「さすが部長だじぇ!」

 

やりますね、部長

 

「そしてそして龍門淵高校がまさかの離された展開」

 

実況はそう言うがこのまま終わる一さんじゃない。そのうち本性を現すな

 

ー東二局 三本場ー

 

九巡目、一さんは一度カメラに目を向けてからツモった気がしてが気のせいかな。というかこの対局でテレビ越しで一さんと何度も目が合ってる気がする

 

「リーチ!」

 

そして一さんは気合の入ったリーチを宣言する。部長はそれに対して現物を処理。あんなめちゃくちゃな打ち方してても降りるときはきっちり降りるみたいだ

 

「ツモ!3300・6300!」

 

一さんにも火がついてきたかな。いきなりのハネ満はすごい

 

さて、そろそろ和を起こしに行くかな

 

「そんじゃ和を起こしに行ってきます」

 

「おう、よろしく」

 

染谷先輩に一言言ってから部屋を出た

 

 

 

『中堅前半戦終了。前半の獲得点数は清澄高校の圧勝だと思われましたが、龍門淵高校が少しずつ追い上げ現在四校の点数はほぼ横並び。試合はまるで降り出しに戻されたようです』

 

前半が終わったか

 

『しかし風越女子はこれまでの圧倒的優位をあっという間に吐き出してしまいました!』

 

この休憩で美穂子さんが部長のことを教えるだろうから後半は前半戦ほどうまくはいかないでしょうな

 

そうだ。衣姉さんにペンギン預けてたんだった。オレは透華さんに電話をかけた

 

『もしもし』

 

「あ、透華さん?」

 

『あら、対局中に相手校に電話するなんて、マナー違反なのではなくて』

 

「うっ…そりゃぁないですよ」

 

『ふふっ、冗談ですわよ』

 

「はぁ…ところで衣姉さんは戻ってますか?」

 

『えぇ、先ほどなぜか原村 和のペンギンを持って帰ってきましたわ』

 

「そっか。それで?」

 

『今から返しに行くとそのペンギンを持って出て行ってしまいましたわ』

 

もうか!?連絡するって言ったのにな

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

『こちらこそ』

 

オレは電話を切って仮眠室に急いだ。するとその途中で和がこっちに歩いてくるのを見つけた

 

「おーい、和」

 

「あ、翔さん」

 

「起きてたんだな」

 

「はい」

 

「それ、もう受け取ってたのか」

 

「はい?あぁ、今さっきそこで小さな女の子が持ってきてくれました」

 

ならまだそこにいるかな?

 

「そっか。和、悪いが先に戻っててくれ」

 

「?わかりました」

 

「すまんな」

 

オレは和が戻ってきた道を戻っていった。そして階段を下りたところに衣姉さんはまだいた

 

「姉さん」

 

「ショーか」

 

「ありがとな。わざわざ届けてくれて」

 

「あぁ。でも友達にはなれなかった…」

 

「ん?和が断ったのか?」

 

「いや、衣がお願いする前に行ってしまった」

 

「そっか。大丈夫、また機会があるさ」

 

「うん…」

 

衣姉さんは明らかに残念そうな顔をしている。どうすればいいか。オレはとりあえず頭を撫でる

 

「…ショー?」

 

「そんな顔するなよ。別に友達になりたくないなんて言われてないだろ?」

 

「そうだが」

 

「なら大丈夫だよ。それとも義弟(おとうと)の言うことは信用できないか?」

 

「そんなことはない!」

 

「なら信じてくれよ。それよりも衣姉さんはこれからの試合だろ?」

 

「衣の相手になるのはここにはショーしかいなかろう」

 

「そうかな?」

 

「っ!」

 

姉さんはオレのニヤけ顔を見て表情を変えた

 

「いるのか…?」

 

「あぁ。保証する」

 

「そうか!」

 

オレの言葉でテンションがあがったのか衣姉さんはいつもオレや透華さん達と麻雀をやるときみたいな笑顔をする

 

「じゃあ、また後でな。ちゃんと透華さん達のとこに帰るんだよ?」

 

「わかっている!」

 

オレはピョコピョコと走っていく衣姉さんを見てから控え室に戻った

 

 

 

「戻りました〜」

 

「どこ行っとんたん?和はもう帰ってきとるぞ」

 

「すいません。部長はどうですか?」

 

「前半ほどには和了れんようになっとる」

 

やはり前半で部長の打ち方はわかっちゃったからみんな現物で降りるようになったかな

 

「リーチ」

 

そこで部長ではなく一さんがリーチをした。親だからみんな少し警戒するかな

 

「リーチ!」

 

『清澄高校竹井 久、{七索}ツモ切りで振り込むかと思いきや、三色を捨てて追っかけリーチ!し、しかしこれは!』

 

『{四萬}は三枚切れてるから和了れないな』

 

『空テンリーチです!悪待ちにもほどがあるぞ!』

 

確かに和了れない。でもそれが()()()()()のリーチだとしたらだけど…

 

『流局。南二局は流局です』

 

そしてその局は部長の狙い通りだろう、流局となった

 

「聴牌」

 

「っ!」

 

部長が見せた手牌を見て一さんは驚いたのか身を乗り出した

 

ー南二局 一本場ー

 

『南二局、連荘です。先ほどの局は他家の清澄がうまく下ろすことに成功しましたが、今度はどうなるか』

 

鳴いて低い点数で親リーを止めたり親より先に和了る戦法はよくあるけど、空テンリーチで止めるなんて芸当そうできない。やはり部長も只者ではなかったか

 

このままならうちと龍門淵が抜け出すかな

 

「じゃあ今度は咲を起こしに行きますね」

 

「え?もう少し寝かせておいてあげてもよろしいのでは?」

 

「和。お前は優しいな。でも内心はお前の試合、見てほしいって思ってるだろ?」

 

「っ!」

 

「咲も寝起きでいきなり試合なんてことになる方がヤバいからな」

 

オレはそう言い終えて仮眠室に向かった

 

 

 

 

『中堅戦終了!各校の順位は中堅戦開始とはまるで真逆。上位と下位の交代劇。特に清澄高校竹井 久の活躍には眼を見張るものがありました!』

 

ヤベッ!中堅戦終わっちまった!早く咲を起こさねば!

 

仮眠室では咲が情けない姿で眠っていた

 

「お〜い、咲〜」

 

「んみゅぅぅぅ」

 

「なんだそれ。ほら、咲!和の試合始まっちまうぞ?」

 

「ほぇ…?」

 

ようやく起きた。だがまだはっきりとは起きれていないようだ

 

「ほら、和に最後の激励に行くぞ」

 

「はっ!うん!」

 

和という言葉で咲はようやくしっかりと起きたらしい。そして対局室に向かう

 

「うぉっ!咲!下!下!」

 

「え?下って…きゃっ!!」

 

咲は勢いよく起き上がったのでスカートを履いていないまま立ってしまった。それをオレの視界に入ってしまった

 

「…もう、翔くんのエッチ……」

 

「今のはオレのせいじゃないだろ!」

 

「ふふっ、冗談だよ。翔くんにならいくらでも見せてあげる♪」

 

「バカ言ってないで早くスカートを履け!!!」

 

まったく…オレはこんな子に育てた覚えはないぞ!オレはスカートを履いた咲とこれから和が対局する対局室に急いだ

 

『全国高校生麻雀大会県予選決勝、ついに副将戦に突入します』

 

オレ達が廊下を進んでいるとアナウンスが入った

 

『圧倒的トップで入った中堅戦からまさかの最下位。逆襲はなるか?名門、風越女子二年、深堀 純代(ふかぼり すみよ)』

 

『順位は三位ながら上位とは僅差。健闘中の無名校、鶴賀学園は一年の東横 桃子』

 

お、ようやくモモのお出ましか。どんな打ち手になってるかな?

 

『そして、ここにきて順位がランクアップ。実力を出し始めたのか、前年度県優勝校。龍門淵高校二年、龍門淵透華』

 

今思ったら透華さんの打ち方って和に似てるよな。デジタルというかなんというか

 

『そして、トップの清澄高校は昨年の中学生大会優勝者、一年生の原村 和。この力は高校でも通用するのか?』

 

ヤベッ!急がねぇと!対局室はすぐそこだ

 

「原村さん!」

 

「和!」

 

「っ!宮永さん!翔さん!」

 

危ねぇ…間に合った

 

「頑張って!原村さん!」

 

「思いっきりやってこい」

 

「原村さん!意気込みは!?」

 

和はオレと咲に応えるかのように腕を振り上げた

 

『副将戦開始三分前です』

 

「対局者以外は退出願います」

 

アナウンスと同時に係の人に退出を促された

 

「はい。じゃあ戻るぞ、咲」

 

「うん」

 

出る前にもう一度和を見てから部屋を出た

 

「あら、翔さんではありませんか?」

 

「あ、透華さん」

 

「原村 和、楽しみですわ」

 

「オレも楽しみにしてますよ」

 

対局室の外で透華さんに出会った。そして一言ずつ交わして透華さんは中へ入っていった

 

「…翔、くん」

 

「ん?おぉ、モモ。モモも副将なんだな」

 

「え?モモちゃん?」

 

オレ達が進もうとしている咲からモモがやってきた。オレに触れているわけではないから咲は気づいてないらしい

 

「…そんなことより、風越の先鋒さんとは…どんな関係っすか…」

 

「え…」

 

「…どうなんすか」

 

「た、ただのご近所さんだ。別にこれという関係じゃないぞ」

 

「ねぇ、モモちゃんどこ?」

 

咲はキョロキョロと見渡しているがオレにははっきり見えている。なんだか黒いオーラを纏ったモモが目の前にいるのを…

 

「…怪しいっすね」

 

「はぁ…まったく…」

 

「あっ…」

 

「あ、モモちゃん…ってなんで頭撫でてるの、翔くん!」

 

「なんか機嫌が悪そうだから」

 

「こ、こんなこと、されたって…嬉しくな…えへへ♪」

 

「モモちゃん、すっごい顔緩んでるよ…?」

 

オレがモモに触れたことによって咲にも認識できるようになったらしい

 

「今のところはこれで勘弁してくれ、な?」

 

「しょ、しょうがないっすね〜♪」

 

モモの機嫌はどうやら治ったようでルンルンと部屋に入っていった。代わりに咲が頰を膨らませている

 

「もう!翔くんはいつもそうやって!」

 

「な、なんだよ…」

 

「罰として戻るまで私の頭撫でて!」

 

「なんでそうなる!」

 

「撫・で・て!」

 

「はぁ…わかったよ」

 

オレは控え室に戻るまでの間咲の頭を撫で続けた。その間咲は眩しいくらいの笑顔であった

 


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