牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第26話

 

 

先鋒戦は予想通り美穂子さんのぶっち切りで終わったな。やはり三年生、優希や純さんとは経験が違った。しかし一回も振り込んでないってすごいよな…

 

「ふぁ〜」

 

「あら、お眠?」

 

「今朝早かったうえに昨日あまり眠れなくて…」

 

「う〜ん、それは困ったわね…咲の出番まで七時間以上、和の出番まで五時間はあるから、二人とも仮眠室で寝てきたら?」

 

「えっ?」

 

「そんな!先輩達の応援もしないで寝るなんて、とてもできませんよ」

 

「和、応援よりも眠くて集中力に欠けたぬるい麻雀する方が先輩達にとってイヤなんじゃないか?」

 

「そうね。菊池くんの言う通りよ」

 

ガチャ

そこに対局室から優希が帰ってきた

 

「た〜だいま〜。今帰ったじぇ…」

 

「おかえり。頑張ったの」

 

「…」

 

今の優希にその言葉は逆効果ですよ?染谷先輩…

 

「…咲、和。仮眠室行くぞ」

 

「え?」

 

「わかりました」

 

咲にオレの意図は伝わっていないようだが和は理解したようだ。そしてオレと和で咲を引っ張り部屋を出た

 

「原村さん。仮眠室には行かないんじゃ…?」

 

「優希は気が強い子だから同い年の私達の前では大泣きできないと思ったんです。ですよね?翔さん」

 

「まぁな。オレ達がいなくなればあそこには先輩しか残らないしな」

 

「そっか。そうだね」

 

美穂子さんと純さん相手に二位フィニッシュしただけでも大健闘だ。自信を持っていいぞ?優希

 

「でも…」

 

「ん?」

 

「なにか忘れてる気がするけど…」

 

「寝る前のトイレか?」

 

「違うよ!」

 

仮眠室の前に着くと同時にアナウンスが聞こえた

 

ピンポンパーン

『間も無く次鋒戦を開始します』

 

「始まりますね」

 

『さぁ!リードを維持できるか?風越女子二年、吉留 未春(よしとめ みはる)』

 

『巻き返しなるか?鶴賀学園二年、妹尾 佳織(せのお かおり)』

 

『前年度優勝校、龍門淵高校二年、沢村 智紀』

 

『清澄高校二年、染谷 まこ』

 

『間も無く試合開始です!』

 

次鋒戦は全員が二年生の対決となった。鶴賀学園の人は知らないけど智紀さんは基本的なうち手出し風越女子の人も牌譜を見た限るじゃ特にわけのわからない打ち方をしているわけではなかったから染谷先輩には手頃な相手だろうけど、さてどうなるかな

 

オレは仮眠室に入って咲と和の布団を敷いてやった

 

「じゃあ中堅戦の後半ぐらいに和は起こしにくるよ」

 

「え?一緒にいてくれないの?」

 

「は?まぁオレは寝る必要ないしな」

 

「そうなんですか…」

 

二人は露骨に残念な顔をする

 

「二人の分もちゃんと応援しとくさ」

 

「…ホントに行っちゃうの?」

 

涙目になってもダメなものはダメだ。こんな一つの部屋に思春期の男女が一緒に寝るなんて言語道断

 

「寝るんだったら最低でもスカートは脱ぐだろ。オレがいたんじゃあ脱げんだろ?」

 

「?私は気にしないよ?」

 

「幼馴染のお前はそうかもしれんが、ここには和もいるだろ。な?和?」

 

「へっ!?わ、私は…その、翔さんがよろしければ…」

 

おいおい、顔を赤くして何を言おうとしてるんだい?原村さん?

 

「とにかくダメだ。じゃあな」

 

オレは埒があかないと思って強引に話を切り上げ部屋を出た

 

『さぁ、四人が卓につきました。間も無く次鋒戦が始まります』

 

そして

 

ビー

『試合開始です』

 

次鋒戦がちょうど始まった。オレはそのアナウンスを聞きながら控え室へ戻った

 

 

 

「戻りました〜」

 

「おかえり」

 

「おかえりだじぇ」

 

どうやら優希は泣き止んでいるようだ

 

「染谷先輩はどうですか?」

 

「それが…」

 

部長は言葉が出ないようでどうしたのかと思ってテレビの画面を見てみると清澄の点が−16000と表示されていた

 

「役満、誰か出したんですか?」

 

「鶴賀の子よ。それにその子、素人みたい」

 

「そうなんすか?なのに役満和了るって、よっぽど運のいい人なんすね」

 

「翔にだけは言われたくないじぇ…」

 

優希がなんか言っているようだがスルーして、相手が素人だとプロとかよりも手牌とか読みづらいだろうから染谷先輩には逆に難敵かな

 

 

 

 

 

それから次鋒戦は終了し、京太郎が買い出しから帰ってきた。京太郎の存在忘れてた…

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえり」

 

「買い出しご苦労じゃったね」

 

「あのぅ、聞きづらいんですけど…次鋒戦何があったんですか…?」

 

「まこの親番四回中三回もツモられたのよ。しかも一つは役満」

 

「不甲斐のぅてすまんの…」

 

まぁ今回はホントに相手が悪かったですからね。次鋒戦が終わって清澄はなんと最下位になってしまっていた

 

「勝った鶴賀の子は京太郎より初心者だったじぇ」

 

「マジで!?お、タコス買ってきたぞ」

 

「よし!よくやったぞ、犬!」

 

「誰が犬か!」

 

こいつらはホントに仲良いな

 

「まさか最下位でバトンを渡すことになるとはのぅ…」

 

「ま、昼休みが終わったら私の番だから、なるべく取り返すように努力するわ」

 

「ということは少しは部長の本気が見れるんすかね」

 

「あら、どうかしらね」

 

オレは嫌味ったらしく部長にそう言ってみると素っ気なく返されてしまった。するとそこでオレの携帯が振動した。オレは外に出て画面を見てみると『透華さん』と出ていた

 

「もしもし、透華さん?」

 

『えぇ』

 

「対局中の相手校に電話してくるなんて、マナー違反じゃないですか?」

 

『承知していますわ。ですがあなたは男子、大丈夫でしょう』

 

どういう根拠で大丈夫なんだろう

 

「それで?どうしたんです?」

 

『そうでしたわね。実はまだ衣が来てないのです』

 

「衣姉さんが?また寝坊ですか?」

 

『いえ、この会場には来ているようですわ。ですが控え室の方に来ていないのです。ここまで言えばあなたなら言いたいことがわかりますわよね?』

 

「姉さんを探して連れてこいってことですか?」

 

『物分かりがよくて助かりますわ。ではお願いしますわ』

 

「えっ!?ちょっ!」

 

オレの返事を聞かずに透華さんは電話を切ってしまった。仕方ない…いつもお世話になってるしな

 

オレは後でトイレに行ってたとか言えばいいかと思って控え室には戻らずに衣姉さんを探しに行った

 

「さてと、衣姉さんはどこにいるのやら。人に聞いて回るって言っても容姿のこと言ったら姉さん怒るしな…」

 

そんなことを考えながら廊下を進んでいると赤いリボンを頭につけた少し背丈の小さい後ろ姿を見つけた。オレはその後を追った。すると自販機の前あたりで藤田プロと出会っていた

 

「…美味なる匂いがする」

 

「今は昼休みだからな。この匂いはカレーか?」

 

「違う!衣が食らう生贄達の匂いだ!」

 

「ん〜…可愛いなお前は!こんな子供がほしい!」

 

「私は子供じゃない!衣だ!抱きつくな!」

 

「お〜。ヨシヨシ」

 

「な、撫でるな〜」

 

藤田プロは衣姉さんを抱き上げて頭をヨシヨシし始めた

 

「あまり衣姉さんをいじめないでくださいよ、藤田プロ」

 

「お前は!」

 

「あ!ショ〜」

 

「はいはい、怖いお姉さんに捕まったんですか?」

 

藤田プロの腕から脱出した衣姉さんはオレの元にヨタヨタと近づいてきた。それをオレは片膝をついて慰める

 

「姉さんって…お前ら姉弟なのか!!?」

 

「いや、姉さんが呼べって言ってるから呼んでるだけです。血は繋がってません」

 

「衣を撫でていいのはショーだけだ!この親善試合で衣に負けたゴミプロ雀士!」

 

「なんだと!あの試合は変則的で直接対決はなかったからな!」

 

「直接やれば勝ってたと言いたいのか!?三流に相応しいおめでたい脳ミソだな!片腹大激痛」

 

「あの試合はアマもプロも本当に強いやつは来てなかったんだ。粋がるな」

 

「そう言って己が弱者なのを認めてるのでは?」

 

「なにをー!」

 

まったく、二人とも大人気ないな。そんな公式じゃない試合なんてどうでもよかろうに

 

「二人ともストップ。衣姉さん、いくら自分が勝ったからってゴミなんて言ったらダメですよ。いいですか?」

 

「…わかった」

 

「なら藤田プロに言うことがありますよね?」

 

「うぅぅぅ…すまなかった」

 

「よくできました。オレは衣姉さんを誇りに思いますよ」

 

「そ、そうか!衣はお姉さんだからな!」

 

「そうですね」

 

オレは素直に謝った衣姉さんをよくできましたの意味で頭を撫でると姉さんは気持ちいいのかまるで子供のようにいい笑顔をしている

 

「藤田プロも衣姉さんで遊ばないでください」

 

「遊んでるつもりはない。ただ愛でているだけだ」

 

「それにもやり方ってものがあるでしょ」

 

「…すまなかった」

 

藤田プロも反省しているようでよかった

 

「ん?おいそこの!ここは決勝進出校以外立ち入り禁止だぞ!」

 

「あれは藤田プロ!」

 

「やっばー!」

 

藤田プロは仮眠室から出てきた二人の女子高生に注意した。そしてその一人があるものを落としていった

 

「なんだありゃ」

 

「ペンギン?」

 

「清澄高校の原村 和が持っていたものにそっくりだな」

 

「よし!なら衣が連れて行ってあげよう!」

 

「というかそこに清澄の生徒がいるじゃないか」

 

「確かにそれは和のですね」

 

なんで今出てきた人達が和のぬいぐるみを?オレが今受け取って仮眠室に戻すのが手取り早やそうなんだが、万が一和や咲が起きたら…いや、咲はねぇな。万が一和が起きたら悪いしな

 

「…じゃあ衣姉さん、それ預かっててよ。あとで返してもらうタイミングで連絡するから」

 

「本当か!?よし!このペンギンは衣に任せろ!」

 

「おう、任せた」

 

オレが受け取ってもよかったんだが衣姉さんにも他にも友達を持ってほしい。その先駆けが和や咲だったら嬉しいな

 

「あ、そうだ!衣姉さん、透華さんが呼んでたぞ?」

 

「トーカが?わかった。衣はトーカ達の元に行こう」

 

「姉さんなら一人で行けるか?」

 

「愚問だ!衣はお姉さんなんだぞ」

 

「じゃあよろしくな。会えそうだったらまた後で顔を出すよ」

 

「本当か!?待ってるぞ!」

 

オレはぬいぐるみを衣姉さんに任せてその場を離れ控え室に戻った

 

「戻りました」

 

「遅かったのぅ」

 

「少しトイレに」

 

「まったく。部長の試合が始まる前でよかったぞ」

 

「悪かったよ」

 

部長は腕を捲り髪を両肩のところでゴムで止めていた。そこでアナウンスが入る

 

ピンポンパーン

『間も無く中堅戦が始まります。出場選手は対局室に集合してください』

 

「それじゃあ、あとはお願いね」

 

「頑張ってください!」

 

「お願い!」

 

「任せたけんね!」

 

染谷先輩と優希は明るく振舞ってはいるが二人の目は心配と懇願の目をしていた

 

「まっかせなさい」

 

そして部長はドアを開ける

 

「部長」

 

「ん?」

 

オレの声で一旦開けるのを止める

 

「一位、取っちゃっていいっすよ?」

 

「言われなくても」

 

オレの言葉に答えて今度こそ部屋を出た

 

『県予選決勝中堅戦。折り返しを制するのは一体どの高校か?試合開始です!』

 

さて、部長の…三年前に美穂子さんを苦しめた人の実力を拝見させていただきましょうかね

 


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