牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第22話

 

月末、いよいよ長野での県予選当日となった。麻雀は一局やるだけでも長い時間を要するため、大会ともなると朝がとてつもなく早い。朝の弱い人間には地獄だ…

 

しかし今日は絶対に寝坊してはならないと思い、目覚ましを合計三つ用意した。枕元とベッドの下とドアの前だ。これだけあればさすがのオレでも起きれた

 

そしてまだ眠いまま集合場所の駅に向かっている途中で咲と会い、二人で歩いていると和と会った。そんなわけで三人で駅に到着した。そこには既に部長と染谷先輩がいた

 

「おはようございます」

 

「おはよう」

 

「おはよう…ふぁ〜…ございます」

 

「でっかい欠伸じゃない。お、持ってきとるね」

 

「はい…」

 

合宿で行ったペンギン戦法は継続して行われた。よって今日も和は持ってきている

 

「どう、もう慣れた?」

 

「ま、まだ慣れません」

 

「おーい!」

 

声がする方に目を向けてみると手を振りながら近づいてくる京太郎がいた

 

「おっはよー!」

 

「うりゃー!うりゃりゃりゃりゃりゃー!」

 

「うおっ!」

 

その後ろからは優希が自転車ですごい勢いでやってきて、振り向いた京太郎の目の前寸前で停止した

 

「おっはよー!」

 

「し、死ぬかと思った…」

 

「さて、全員揃ったわね?」

 

『はい!』

 

「合宿から六日、やるだけのことはやった。さぁ!行こうか!」

 

『はい!』

 

全員が集まり、これより全国への第一歩に向かう

 

 

 

 

 

会場には物凄い数の人がいた

 

「うわー、すごい人だな」

 

「年々増えてるみたいね」

 

「あれ?」

 

「?どうかしましたか?」

 

「咲ちゃんがいないじょ」

 

「え…」

 

「やべっ…」

 

あー、朝早くてまだ完全に起きれてないから油断してた。咲の能力、“迷子”が発動してしまった

 

「逸れたか。相変わらずどこか抜けてるわね」

 

「あちゃー、あいつこんな人混み慣れてないからな」

 

「あいつ、携帯とか持っとらんけぇのぅ」

 

『おー!!』

 

するといきなり周りが騒ぎ出した

 

「風越女子だ」

 

「去年は準優勝」

 

「部員八十名を擁する強豪」

 

「キャプテンの福路 美穂子だ」

 

ん?あ、美穂子さん

 

「去年、団体戦を絶やした汚名を返上できるのか?」

 

いくら美穂子さんが強くても他の選手がダメならあの人達には勝てないからな

 

「ちょっと行ってきますね」

 

「えっ?ちょっと、菊池くん!?」

 

オレはまっすぐ美穂子さんの元へ向かう

 

「美穂子さん」

 

「あ、翔くん」

 

「いよいよですね。お互い頑張りましょう」

 

「えぇ、負けないわよ」

 

いつも家が隣同士の付き合いで会っているときの美穂子さんとは明らかに雰囲気が違う

 

『わー!!』

 

風越が来たときよりも大きなざわめきが起こる

 

「龍門淵高校が来たぞ!」

 

「前年度県予選優勝校!」

 

「井上 純!」

 

「沢村 智紀!」

 

「国広 一!」

 

「龍門淵 透華!」

 

衣姉さんはいないのか。寝坊かな?でもなんで透華さんだけそんな決めポーズしてんの?

 

「皆さん」

 

「ん?お、翔じゃん」

 

「あら、もういらしてたのですね」

 

「一、鏡いる?」

 

「な、なんでさ!智紀!」

 

そうは言っても智紀さんから鏡を借りて髪を手櫛で直している

 

「衣姉さんは来てないんですね」

 

「え、えぇ…おそらく寝坊ですわ」

 

「あはははは…大変ですね」

 

「しょ、翔…」

 

「一さん?あれ、またシール変えました?」

 

オレは一さんの左頰についているタトゥーシールが変わったのに気がついて、自分の左頰を指差して尋ねる

 

「え、う、うん…どう、かな…?」

 

「よく似合ってますよ。リボンもオレがあげたの使ってくれて嬉しいです」

 

「そりゃ!翔からもらったもの、だから…」

 

いつも冷静でいる一さんが珍しくあたふたしている。なかなかレアなものが見れた

 

「それではみなさん、お互い頑張りましょう!」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「よろしく」

 

「もちろんですわ!」

 

オレは軽く礼をして部長達のところに戻った。そこには額に汗をかきながら驚いた表情をしている部長と染谷先輩の姿があった

 

「あなた…いったい何者…?」

 

「失敬な。ちゃんとした高校一年生ですよ」

 

「そがん普通なやつが強豪校に知り合いがおるか!」

 

「たまたまですよ」

 

そう、みなさんと会えたのはホントに偶然だ

 

「あ、咲ちゃ〜ん!こっちこっち!」

 

「みんなー!探したよ〜」

 

「なに逸れてんだよ」

 

「えへへへ」

 

「女装した須賀くんか菊池くんを出すところだったわよ」

 

「はい?」

 

「プフー!」

 

部長の冗談に京太郎は飲んでいたコーヒーを吹き出す。オレも一瞬思考が停止した

 

「そりゃ制服の都合がつかんわ」

 

「そっちの心配っすか!」

 

「あれ?原村さんは?」

 

「確か取材に捕まっとったはずじゃけど」

 

するとすごく疲れた表情をした和が戻ってきた

 

「おかえり」

 

「やっと取材から解放されました」

 

「おつかれ」

 

「すごいよ!原村さん!翔くん!」

 

「ん?」

 

「強そうな人達がいっぱいいてワクワクするよ!早くあの人達と打ちたい!」

 

「全国に向けてこれが最初の試合です。気合い入れていきましょう!」

 

『はい!』

 

みんなは改めて気合を入れ直す。残念ながら男子はまた後日だけど…

 

 

 

 

そしてオレ達はでっかいスクリーン画面の前に行った。その画面にはこれから試合をする部屋の卓が映っていた

 

「これが対局室。対局室には対局する四人が入り、携帯なんかの持ち込みは不可。電波も届かない。複数のカメラが設置されてそれを観戦室で見るの」

 

「応援の声が届かないのは辛いっすね…」

 

「まぁね。では登録したオーダーを発表します。先鋒、優希。次鋒、まこ。中堅、私。副将、和。大将、咲」

 

「私が最後ですか」

 

咲は驚きつつもその表情はしっかりしている

 

「合宿での成長と戦果を見て、この順番がベストだと判断したの。これには菊池くんも同意見」

 

「翔くんが?」

 

「あぁ」

 

「各校一名ずつ出して四校で卓を囲む。100000点スタートで半荘が終わるたびに次の対局者と交代。点数は引き継がれて五人が終了した時点でトップの校が勝ち抜ける。ウマやオカはなし。後半になると点差のせいで自由に打てなくなる。飛び終了もあるしね」

 

「そうですか…」

 

団体戦で大変なのは後ろの方だからな。でもほとんどの校のエースと言われている人達はほとんどが先鋒に入ることが多い。照さんとか怜とかな。だから意外と優希の役割が重要になるな

 

「ということは強いのを添えるのがセオリー。すなわち、我最強!!」

 

「あんた、点数移動計算ができんからじゃ」

 

「えー!!あんなにドリルやったのにー!!!?」

 

「半分以上間違ってたじゃねぇか」

 

「なにぃー!」

 

優希は自分の腕を見込んで先鋒にしてもらったと思っていたらしいが、実際は後の方にすると点数の計算ができないからという理由だからと知って驚いている

 

「そしてこれが今年のトーナメント表。参加校数は五十八。それが午前の一回戦で一四校に午後の二回戦ではシードニ校が加わって四校に絞られるわ。そして残った四校で明日の決勝というわけ」

 

「あ!うち見っけ!」

 

「たくさんいるね」

 

「中学のときよりずっと多い」

 

「ま、激戦区の大都市圏に比べれば三分の一もないけどね」

 

「東京は西と東、大阪は北と南に分けられても激戦区と言われてるほど参加校の数が多いからな」

 

それでもここの数年はそんな激戦区でもほぼ同じ学校が全国にあがってきてるけどな

 

「今日の試合ぬるいなー。清澄、東福寺、千曲東だって。楽勝じゃん」

 

「清澄ってあれっしょ?原村なんとかがいる初出場の」

 

「あぁ、さっき記者相手に全国とか言ってたの見た!ありえないって!ちょっと胸が大きいからってちやほやされてるだけっしょ」

 

後ろからそんな無神経な会話が聞こえてきた

 

「気にすんな、和」

 

「翔さん」

 

「言いたいやつには言わせとけ。それに人それぞれ価値観が違うが、胸の大きいのも一つのアドバンテージだ。自信持て」

 

「…!さ、最後のは言わなくていいです!」

 

「菊池くん、それヘタすればセクハラよ?」

 

「あ、わりー」

 

少し口が滑った。確かにこんな人のたくさんいるところで言うことじゃなかった。和を見てみると顔を赤くしてこっちを睨んでいた

 

「…やっぱり

 

「咲…?」

 

「やっぱり翔くんも胸の大きい方がいいの!?」

 

「わっ!咲!声大きい!!」

 

「そうなんでしょ!?翔くんは原村さんみたいなのがいいんでしょ!?」

 

「だから声大きい!だからさっきも言っただろ、人それぞれ違うって」

 

「じゃあ翔くんは私と原村さんのどっちがいい!?」

 

「はぁ!?」

 

「どっち!?」

 

さっきから話がどんどん変な方向にいっている。それになぜかは知らんが咲が興奮で言っていることがおかしい。そこでオレが返事を困っているときにちょうどよくアナウンスが流れた

 

『間も無く一回戦が始まります。各校の先鋒の選手は所定の対局室に入室してください』

 

「ついに主役の出番だじぇ!」

 

「ほら、オレ達は観戦室んい行くぞ」

 

「む〜…」

 

「じゃあ私達は観戦室で応援してるから。頑張って、優希」

 

「頑張ってください」

 

「頑張って」

 

「おぉ!任しとけ!」

 

こうして県予選の第一回戦が開始される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとでちゃんと話してもらうからね、翔くん」

 

「…」

 

そのとき初めて咲に恐怖した

 


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