牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第18話

一週間が経ち高校生活にも慣れてきた今日この頃、今日も今日とてちゃんと開いてくれない瞼を閉じないように必死に抗いながら学校への道を歩いている

 

授業の方はまだ高校に入ったっばかりなのでそこまで難しくはない。そこまで苦労せずに勉学に励んでいる

 

そして放課後には今までとは違い部活に行くようになった。特に緊張とかはしていないんだが果たして今のままで衣姉さん達、龍門淵に勝てるのであろうか…

 

授業が全て終わってオレは部室のある旧校舎に向かおうとしたが、先生に職員室に呼ばれてしまったので咲に先に言ってるように言ったがいつものところで待ってると言われたので今そこへ向かっている。そこでは木に寄りかかって眠っている咲がいた。そして傍らには一冊の雑誌が置いてあった。開いているページには“全国高校生大会覇者 宮永 照”とあり、照さんの写真も載っていた

 

「…翔、くん」

 

「あ、わりー。起こしたか?」

 

「ううん、平気」

 

「照さんすげぇな」

 

「うん。さすがお姉ちゃんだよ」

 

「じゃあ今年は咲、お前が照さんを倒すのはどうだ?」

 

「私が、お姉ちゃんを…?」

 

「あぁ。でもまぁまずは全国に出るために県予選を勝ち抜かないとな」

 

「そうだね」

 

「さ、そろそろ行くか」

 

「おーい!咲ー!翔ー!」

 

「京ちゃん」

 

改めて部室に向かおうとすると京太郎が走ってきた。そして三人で歩き出す

 

「部活に入って一週間だが、もう慣れたか?」

 

「うん、楽しいよ?翔くんには負け越してるけど…」

 

「そこまで変わんねぇだろ。それにオレも負ける気はないからな」

 

「お前らは強すぎなんだよ!オレなんか…」

 

「お前は初心者なんだから仕方ねぇだろ」

 

小さいころから麻雀を打ち続けているオレや咲とは違い、京太郎は高校から始めたんだからまだ勝てなくて当たり前だ

 

「でも…」

 

「ん?」

 

「原村さんて私のこと嫌いなのかな…私、麻雀部に入ってから原村さんとほとんど話してないよ」

 

「複雑なんだろ」

 

「複雑?」

 

「和はここに入るまでは中学生のチャンピオンだったんだ。同学年では最強だったわけだし、雑誌にもバンバン載って天才とか書かれてたみたいだし」

 

「まぁそんなやつの前にポッと現れたやつに勝つより難しいプラマイ0をされて、悔しくて仕方ないんだろ」

 

「でもあれは翔くんが…」

 

「あ、あははは…」

 

「ま、今はプラマイ0狙いで打ってるわけじゃないんだろ?」

 

「それはそうなんだけど…」

 

そう言うオレもあんまり原村と話してないな。オレも嫌われてるんかな

 

「そこの三人、止まれ」

 

「んあ?」

 

「優希ちゃん」

 

「優希か」

 

「私も一緒に行こう」

 

そこには塀の上でタコスを片手に座っている優希がいた。部に入ってから優希が「自分のことは名前で呼ぶのだ!」と言ってきたから名前で呼ぶことにした

 

「なぜそんなところでタコスを食っとる」

 

「タコスが切れると私は人の姿を保てなくなるんだ」

 

「何になる気だ…」

 

「私自身がタコスになる!」

 

「誰も食わなそうだな。ほら、優希と京太郎の夫婦漫才はほっといて行くぞ、咲」

 

「あ、待ってよ!」

 

「誰が夫婦だ!」

 

「そうだじぇ!こいつは犬だ!」

 

「犬でもねぇよ!」

 

息ピッタリじゃんか

 

部室には既に原村が来ていた

 

「よぅ!のどちゃんだけか?」

 

「はい」

 

「お茶淹れるの手伝いな」

 

「はいはい」

 

優希に言われて京太郎も一緒にキッチンに入っていった

 

「何してたんですか?原村さん」

 

「これは、全ての山を開いて四人分を一人で打っていたんです。全ての牌をわかっていたとしてもほぼ毎回プラマイ0で終わらせるなんてそう簡単にできることではありえません」

 

「何が言いたいんだ?」

 

「そ、それは…」

 

「そりゃできないって思うやつの方が多いのは事実だろう。だが現に起きたことを否定するのはおかしいんじゃないか?」

 

「…」

 

原村は下を向いてしまった。さすがに言いすぎたと思い彼女の頭に手を乗せる

 

「悪い、言いすぎた。でもそんな回りくどい言い方しなくてもいいだろ。ただ悔しい、そうなんだろ?」

 

「…はい」

 

「ならそれでいいじゃねぇか。負けたからってお前を笑うやつはここにはいねぇよ」

 

「…菊池さん」

 

ようやっと顔を上げてくれた原村の目には涙が浮かんでいた

 

「だから、次勝てばいいじゃないか。それでも負けたらもう一回やればいい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「おう。あと、オレのことは翔でいいぞ」

 

「…!はい、翔さん。わ、私のことも…和と、呼んでください」

 

「わかった。改めてよろしくな、和」

 

「はい」

 

オレの顔を見て一度顔を赤くした和は最後は笑顔になってくれた

 

「宮永さん、すみませんでした」

 

「えっ!わ、私の方こそすいませんでした」

 

二人はお互い頭を下げて謝り合った。これで少しは仲良くなればいいんだけど

 

「お茶淹れたじぇ〜」

 

「部長と染谷先輩は用事で遅くなるって」

 

「んじゃ、特打ち開始だじぇ」

 

「誰が抜ける?」

 

「あ、オレ最初抜けるわ」

 

「いいの?」

 

「いいんですか?翔さん」

 

「あぁ」

 

「じぇ〜?のどちゃんはいつから翔のこと名前で呼ぶようになったのかな〜?」

 

優希がそう言ってニヤけながら和の顔を覗き込んだ。その和は恥ずかしくなったのか顔が真っ赤だ

 

「えっ!いや、その…うぅぅぅ…」

 

「こら優希、和が困ってるだろ」

 

「なぬ!翔までのどちゃんを呼び捨てか!?いつからだ!」

 

「たった今だよ。和が呼んでいいって言うから」

 

「ちょっ!翔さん!」

 

「はは〜ん、さてはのどちゃん…」

 

「もう!早く始めますよ!」

 

またもや優希にニヤけられながら見られた和は顔を真っ赤にして卓についた

 

「(ジー)」

 

「な、なんだよ…」

 

「別にー……翔くんのバカ

 

顔を横に向けると頰をプクッと膨らませてこっちを見ている咲がいた。最後に何やら言われたような気がするが何を言ったかは聞こえなかった

 

そしてその局は咲と和の1、2で終わった

 

「終わりー」

 

「終わった、じぇ。後のことは頼みます、京太郎には一日三回ご飯をあげてください。私はもうダメだ…」

 

優希はこの対局では調子結果が悪かった。終わったら卓にひれ伏した

 

「しかし、和と咲は強いな」

 

「二人がいると勝てないからつまんないじょ〜」

 

「おいおい…」

 

「次は勝ちましょ」

 

「優希、お前がそんなになってたら京太郎なんてどうする。死んじゃうぞ」

 

「なんでだよ!」

 

「…」

 

優希を心配そうな目で見ている咲。オレはそれで咲が次、何をするのか察してしまった

 

「咲」

 

「っ!な、なに…?翔くん」

 

「今お前が考えてることは優希にも他の三人にも失礼だ」

 

「っ!なんで…」

 

「オレがどんだけお前と一緒にいたと思ってる。咲が考えそうなことは大体わかるぞ」

 

「そっか。そうだね…うん、わかった」

 

「それでよし」

 

おそらく次はわざと優希を勝たせようとするはずだ。そして咲自身はプラマイ0で。それは優希にも咲自身にもいいことではない

 

「リーチ!調子が出てきたじぇ!」

 

調子が戻ってきたのか三巡目という早い段階で優希がリーチをした

 

「それだ!ロン!」

 

「なに!」

 

やっぱり京太郎はまだまだだな

 

「そういえば部長達はどこ言ったんだ?」

 

「試合の抽選ですよ」

 

「そっか」

 

なら美穂子さんやモモもいたかな

 

「それがどうされました?翔さん」

 

「ん?いや、なんでもないよ」

 

そういえば龍門淵の代表って誰なんだろうな。透華さんかな。衣姉さんは……ないな

 

「でも本当に翔と和は仲良くなったよな」

 

「えっ!」

 

「だって昨日までほとんど口きいてなかったじゃんか」

 

「そ、それは…」

 

「もう!また翔くんは!京ちゃん、翔くんと変わって!昨日の続き!今度は私が勝つからね!」

 

「なんだよ!いいぜ、今度も勝つのはオレだけどな」

 

「忘れないでください!今回こそは私が勝ちます!」

 

「私も負けないじぇ!」

 

「なんで俺が…」

 

その後、何局か打ってもちろんオレは全てのトップだった。でも何局か咲に抜かれそうで危なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部活が終わり家に帰ると美穂子さんがいた

 

「あ、翔くん。おかえりなさい」

 

「ただいま、美穂子さん」

 

「おかえり、翔。その会話聞いてるともう結婚してるみたいね」

 

「茶化すなよ、母さん」

 

この言葉はもう何回聞いただろうか。どうせ冗談だし気にすることないんだろうが美穂子さんに迷惑だからやめてほしい。それを聞く美穂子さんは毎回顔を真っ赤にするんだから。ほら、今もそうだよ

 

「そう言えば、今日抽選会だったんでしょ?」

 

「う、うん。よく知ってるね」

 

「うちの部長も言ったからな」

 

「え、翔くんの学校も大会に出るの?」

 

「あぁ。今年は女子が五人集まったからね。男子は無理だったけど」

 

「そう…でも個人戦には出るんでしょ?」

 

「そのつもり」

 

「翔くんに勝てる人なんているのかしらね」

 

「それは大袈裟だよ。オレより強いやつなんて五万といるさ」

 

美穂子さんが冗談を言うなんて珍しいな

 

「安心して。情報を聞き出すなんてマネはしないから」

 

「ふふっ、翔くんはそんなことしないわよ」

 

「その根拠は?」

 

「女の勘、かしらね」

 

「ははは、それで納得しちゃうオレがいるよ」

 

「ふふふ♪さ、ご飯にしましょ」

 

「本当に新婚さんみたいね。美穂子ちゃん、うちの子貰ってくれる?」

 

「へっ!?あの、京香さん!!?」

 

「母さん、美穂子さんイジるのも大概にしなよ」

 

「はいはい。でも美穂子ちゃん、考えといてね」

 

「まったく…美穂子さん、ごめんね。気にしなくていいから」

 

お嫁さん……翔くんの…私が…でも、そんな……

 

「…美穂子、さん?」

 

「ひゃい!」

 

「大丈夫…?」

 

「だ、大丈夫!」

 

顔を真っ赤にしている美穂子さんは、大丈夫じゃなさそうだ…

 


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