牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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原作開始
第16話


受験生としての一年は早かった。というか小学校に比べて中学校の三年間はあっという間に過ぎてしまった気がする。よく中学や高校は小学校と比べて時間が経つのが早いと言うがその通りだった

 

オレは無事に清澄高校に推薦で入学が決定している。それは咲も一緒だった。京太郎の勉強に付き合ってたらいつの間にか咲は学年主席のオレに続いて学年次席になるまで頭がよくなってしまった。京太郎はというと勉強会の甲斐があり今は学年でも50位以内に入れるようにまで成長した。残念ながらオレや咲のように推薦を取ることはできなかったがこのままなら一般でも大丈夫だろう

 

オレは別にこれと言ってやりたいこともないから最初から家から近い清澄を選んだが、それをみんなに伝えたら「東京に来てお世話をして」だの「大阪に戻ってうちらを養って〜」などと高校進学に全く関係のないお誘いを受けていた。まぁ丁重に断ったが…透華さんや衣姉さんからも龍門淵高校への特待生として入学しないかというお誘いもあったが友達と一緒の高校に通いたいと言ったら納得してくれた

 

「どうしたの?翔くん」

 

「ん?あぁ、京太郎の番号あるかな〜って」

 

「急に不安なこと言うなよ…」

 

「だってお前の番号42番だろ?42(しにん)なんて不吉以外の何者でもないだろ」

 

「やめろよ!一気に不安になってくるじゃんか!」

 

「まぁ番号なんて関係ないけどな」

 

「じゃあなんで言ったんだよ!」

 

「翔くん?あんまり京ちゃんいじめちゃダメだよ」

 

「はいよ、お姫様」

 

「ふぇ!?」

 

咲は変な声をあげて顔を真っ赤にする

 

「そう言えばモモは無事に進学だってな」

 

「あいつはエスカレーター式だから、もしかしたらオレ達より楽かもな」

 

一週間ぐらい前に連絡があったがモモも無事に鶴賀学園の高等部に進学が決まったらしい

 

「あとはお前だけだな」

 

「あぁ!」

 

「オレと咲は推薦で決まったけどな」

 

「なんでお前はそういうこというかな!」

 

「照れるぜ」

 

「褒めてねえよ!」

 

「…お姫様…翔くんが私の…お、王子様…!?」

 

「お〜い、咲〜」

 

「えへへへ♪」

 

ダメだ。咲は現実の向こう側に行ってしまったようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜も満開になった春、オレと咲、京太郎は無事に“清澄高校”に入学した。こうして仲のいいやつとまた一緒の学校に通えるのは普通に嬉しい

 

高校入学が決まったらたくさんの人から「おめでとう!」を言ってもらった。でも小蒔姉さんから届いたA4サイズの用紙三枚のお祝いの手紙には驚いた

 

そして入学から二週間が経った今、オレはこの二週間で見つけた読書に最適な場所に咲と二人でいた

 

「ねぇ、翔くん」

 

「ん?」

 

「今の子、見た?」

 

「今の子?いや、本読んでたから見てなかった」

 

「すごく綺麗な子がそこ歩いてったよ!目が合っちゃった…」

 

「へぇ、どんな子だったんだ?」

 

「リボンが同じ色だったから同じ一年生だと思う。でもなんか…すごく大人っぽかった」

 

咲はなぜか自分の胸を見ながらその見た子を説明する。すると

 

「咲、翔」

 

「うわっ!」

 

「京太郎」

 

「もう!おどかさないでよ!」

 

「あぁ、わりーわりー」

 

「何か用?」

 

「…なぁ、咲…」

 

「な、なに…?京ちゃん…」

 

なんか大事な要件そうだ。京太郎がズボンのポケットに手を突っ込みながら後ろを向く

 

「オレ、席外そうか?」

 

「ま、待って!ここにいて」

 

オレは立ち上がってその場から去ろうとすると袖を咲に掴まれた。そして京太郎は振り返ってこう言った

 

「学食行こうぜ!」

 

「は?」

 

「えぇ!」

 

「な、なんだよ」

 

「いや、なんか今の状況と言い方からして告白かと思った」

 

「オレが?咲に?ないない」

 

「私だって嫌だよ!私には好きな…あっ!」

 

「ん〜?咲〜?お前好きな人いんのか〜?」

 

咲が余計なことまで言ってしまったのだろう。京太郎がそのことについて詰め寄る。そしてオレは顔を真っ赤にしている咲と目が合ってしまった

 

「ん?はは〜ん。さては咲、お前…」

 

「京ちゃんのバカ!!!」

 

咲は大声で京太郎を怒鳴りつけ早足で行ってしまった

 

「あ、待てよ咲!学食!」

 

京太郎は急いで咲を追っかけた

 

「今日も平和だな」

 

オレは晴天の空を見上げながらそんなことを呟いた

 

 

 

 

 

 

「はい!レディースランチ!」

 

「おぉ!サンキュー!」

 

「まったく、これを注文するためだけに食堂に来いなんて」

 

「だって、今日のレディースランチめちゃめちゃ美味そうだったから」

 

「本当、京ちゃんって人使い荒いんだから」

 

結局食堂に来た理由はそんなことだった。付き合わされたオレはなんなんだ…当の京太郎は携帯を片手に何かし始めた

 

「京太郎、食事中に行儀悪いぞ」

 

「メール?」

 

「いや…」

 

京太郎は携帯の画面を隣に座った咲に見せた

 

「麻雀?京ちゃん、麻雀するんだ」

 

「やっと役を全部覚えたとこだけどな」

 

「へぇ、お前が麻雀ね」

 

「麻雀っておもれぇのな」

 

「…私、麻雀嫌い…」

 

「お前麻雀嫌いなのか!?」

 

「…だった。今は好きだよ。翔くんのおかげで」

 

「翔が?」

 

「大袈裟だ」

 

前に宮永家のいざこざを出しゃばったオレがたまたま解決できただけだ

 

「てかお前ら、麻雀できんの?」

 

「人並み程度には」

 

「ふふっ、そう言って翔くん負けたこと何回かしかないじゃん」

 

「へぇ、いないよりはマシかな」

 

京太郎はそう呟くとすごい速さでランチを食べ尽くし、勢いよく立ち上がる

 

「ついでに付き合ってよ。メンツが足りないんだ」

 

「メンツって?」

 

「麻雀部」

 

「ほう、部があるのか」

 

「あぁ、旧校舎の屋上に部室があるんだ」

 

そしてオレと咲は本校舎から少し歩いたところにある旧校舎に連れて行かれた。古くて木でできた階段を登って曲がった先に部屋があった

 

「カモ連れて来たぞ〜」

 

「はぁ…」

 

「どうする?翔くん」

 

「まぁ来ちまったしな。一局ぐらいいいだろ。それに咲に勝てるやつなんてそういねぇよ」

 

「〜♪うん♪」

 

咲の頭を撫でながら言うと咲は気持ちよさそうにして主人に懐く犬のようだった

 

「お客様?」

 

そして中には一人のピンクの髪をツインテールにしている少女がいた

 

「あ、あの時の」

 

「なになに、お前和のこと知ってるの?」

 

「あぁ、先ほど橋のところで本を読んでいた」

 

「じゃあさっき咲が言ってた子って…」

 

「うん、この子」

 

「へぇ、あんた原村 和(はらむら のどか)だろ?」

 

「え、えぇ…でもどうして」

 

「そりゃ去年の全国中学生チャンピオンなんだから、知ってて当然だろ?」

 

「翔は知ってたのか」

 

「まぁな」

 

「ねぇ翔くん。それってすごいの?」

 

「すごいじょ!」

 

咲の質問に答えたのはオレではなくドアから入ってきた茶髪こっちもツインテールにしている少女だった。清澄一年生トリオと呼ばれるうちの一人の片岡 優希(かたおか ゆうき)さんだろう

 

「学食でタコス買ってきたぜ」

 

「またタコスか」

 

「やらないぞ!」

 

「とりゃしねぇよ」

 

「お茶淹れますね」

 

原村さんがお茶を淹れるとその場を離れた

 

「のどちゃんはほんとにすごいんだじぇ!去年の全国大会で優勝した最強の中学生だったわけで」

 

「は、はぁ…」

 

後から入ってきた子の熱弁に咲は少し引き気味だ

 

「しかも!ご両親は検事さんと弁護士さん!男子にはモテモテだじぇ!」

 

「それ関係あるか?」

 

「あのぅ…」

 

「ん?」

 

「お茶できました」

 

「部長は?」

 

「奥で寝てます」

 

「それじゃうちらだけでやりますか。翔と咲はどっちが入る?」

 

「咲が入るよ」

 

「え、でも…」

 

「大丈夫。まぁ初対面の人達とだし、最初は“優しく”な」

 

「ふふっ♪わかった」

 

オレは咲のカバンを預かり、咲は空いている席に座る

 

「25000点持ちの30000点返しで順位点はなし」

 

「はい」

 

「タコスうまー」

 

オレは咲の背後で見守る。さて、インターミドルチャンピオンのお手並み拝見

 

「チー!」

 

局が進んで咲の上家の片岡さんが

{三筒横二筒四筒子}

{北北横北}

{六筒横五筒七筒}

の三副露。そして咲が切ったのは{三筒}

 

「ローン!混一色2000点!」

 

「えぇ!振り込むか?普通。筒子集めてるの見え見えでしょう」

 

咲の出した点棒をニヤけた表情でいる片岡さん。初心者とか思ってんだろうな

 

「よーし!リーチだ!」

 

「ごめん、それロン」

 

「なんですと!三色捨ててそれってどうなん!?素人にも程があるよ!」

 

「終わりですね」

 

その局は原村さんが一位となった。ちなみ咲は()()()()()の三位、京太郎は最下位だ

 

二局目は原村さんが大躍進

 

「また和がトップか」

 

「ありがとうございます」

 

そして咲は二回目の()()()()()。順位は二位

 

「よーし、次行くじぇ!」

 

「しかし、咲の麻雀はパッとしないな」

 

「点数計算はできるみたいだけどね」

 

咲の実力がわからないお前らはやべぇぞ

 

ゴロゴロ

「ん?雷」

 

窓の外は暗く、雨が降っている音がする

 

「降ってきましたね」

 

「ウソ!傘持ってきてないわよ!んん…」

 

奥のベッドから一人の女性が起き上がる

 

「あれって、生徒会長」

 

「咲、学生議会長な。入学式のとき言ってただろ」

 

「そうだっけ…」

 

「今日のゲスト?」

 

「俺の小学校からの幼馴染です」

 

「宮永 咲です」

 

「菊池 翔です」

 

「竹井 久よ」

 

「麻雀部の部長なんですよ」

 

「そうなんですか」

 

その竹井先輩は「どれどれ」と咲の手牌を覗き込む。そして今日の対戦成績を確認するためかパソコンの方に向かった。咲の結果に驚くことになるであろう

 

「ロン、1000点です」

 

「えー!」

 

また京太郎が咲に振り込んだ

 

「1000点!?」

 

咲の和了った点数に驚いたような声をあげる竹井先輩。そうだろうな、最低でも7700は和了れたんだから

 

「これで終わりですね」

 

「点数申告な」

 

「はぁ、今回ものどちゃんがトップか」

 

「宮永さんのスコアーは!?」

 

「プラマイ0ぽん」

 

片岡さんが言った通り咲は()()()()()()()()を成し遂げた

 

「じゃあ部長さんが起きてメンツも足りたようだからオレ達は帰るか、咲」

 

「そうだね。じゃあ抜けさせてもらいますね」

 

「え、おい」

 

「もう帰っちゃうの?」

 

「図書室に本返さなきゃ」

 

オレと咲はドアに向かって歩いていく

 

「菊池くんは打たないの?」

 

「オレですか?咲の実力がわからないような連中相手じゃ東一局で全員飛びますよ」

 

そして部屋の方を向いて一礼して帰路についた

 

「どうだった?」

 

「う〜ん…」

 

「正直に言っていいよ」

 

「…弱かった、かな。お姉ちゃんやモモちゃんよりも弱いと思ったよ。あれじゃ翔くんは退屈だと思う」

 

「マジで正直に言ったな…まぁそれはオレも思ったかな」

 

雨の中を歩いていると後ろから走る音が聞こえてきた

 

「原村か?」

 

「原村さん?」

 

傘もささずに走ってきた原村をとりあえずオレの傘の中に入れる。そして咲の方を向いた

 

「三連続プラマイ0、わざとですか?」

 

「はい」

 

「なんでそんな打ち方、してるんですか…?」

 

「それは翔くんが“優しく”って言ったから」

 

「あぁ」

 

「優しく…?」

 

原村は意味がわかっていないようだ。まぁどうでもいいことだがな。オレは傘を原村に渡して咲の傘に入り階段を下る

 

「宮永さん!もう一回…もう一局私と打ってくれませんか!?」

 

「…」

 

咲は黙ってオレを見上げてくる

 

「咲のしたいようにすればいいさ」

 

「…考えておきますね」

 

咲はその場ではそう言って帰った


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