では、講義を始める。
本日の講師は空戦魔導部隊〝バーバヤーガ〟所属ボリス・カレンディット大尉が行う。
ではまず、〝エーテル〟。これについての講義を始める。
〝エーテル〟とはこの世界に存在する極めて重要な物質であり、この世界の万物を構成するものだ。
我々魔導師は、この〝エーテル〟を用い魔導を扱う。
原理としては、魔法杖等の触媒や媒介物を介し、自らの持つ〝エーテル〟を呼び水として、空間に存在する〝エーテル〟を抽出し、魔導として形成する。
これが原理であり基礎でもある。
魔導師や魔女の実力は、この〝エーテル抽出能力〟、所謂〝エーテル適性〟と自らが持つ〝内燃エーテル量〟により決まる。
この〝エーテル適性〟が高ければ高い程、より少ない量の〝内燃エーテル〟で空間から〝エーテル〟を大量に抽出する事が出来、より高いレベルでの魔導の行使が可能となる。
また、形成する魔導や魔法杖のサイズや強度に威力と言ったものに関係してくる。
そして、我々が持つ〝内燃エーテル量〟についてだ。
この〝内燃エーテル量〟は、俺達が生まれながらに保持している〝エーテル〟の事だ。我々はこれを呼び水にして、空間から〝エーテル〟を抽出している。なので、これが尽きれば空間から〝エーテル〟を抽出する事が出来なくなる上に、魔法杖のフレームを固定出来なくなる。まあ、尽きる事は滅多に無いが、気を付けておけよ新兵共。
さて個人的にではあるが、俺は〝エーテル適性〟よりは〝内燃エーテル量〟が重要であると考えている。無論、反論のある者は反論してもらって構わない。
では何故〝内燃エーテル量〟が重要なのか?
それは、ナジェーリア将軍を見れば解る事だ。
将軍の〝エーテル適性〟は他国のネームド魔女に比べて高いとは言えない。まあ、それでも通常の魔女の基準からはかけ離れているがな。
では、何故に将軍が公国最強の魔女と呼ばれているのか?
〝内燃エーテル量〟が異様なまでに膨大だから、これに尽きる。将軍の〝内燃エーテル量〟は、今この場に居る我々全員を足してもまるで足りん。いや、下手をすると公国の魔導部隊全員を足しても足りんかもな。
話を続けよう。
将軍はその膨大な〝内燃エーテル量〟を用いて、鎌槌ヴォジャノーイを形成する為の〝エーテル〟を抽出し、余剰分を保持している。
あまりに膨大な〝内燃エーテル量〟を用いた物量戦法、それが将軍の基本戦術だ。
解るか? エーテル適性が低くとも、内燃エーテル量があればその差を引っくり返す事が出来る。
それを将軍は証明している。
俺が〝エーテル適性〟よりも〝内燃エーテル量〟を重視している理由はこれだ。
信奉者と言われればそれまでだが、将軍の戦いを長く見てきたから言える事でもある。
しかし、その逆もまた然りだ。高い〝エーテル適性〟で少ない〝内燃エーテル量〟を補い、とんでもない魔導を行使する魔女も居る。
ああ、そうだ。同志軍曹、リーリヤ少将の事だ。
あの方は将軍とは逆だ。
高過ぎる〝エーテル適性〟に少ない〝内燃エーテル量〟。
例えばだが、将軍が10の内燃エーテルで100のエーテルを空間から抽出出来るのに対し、リーリヤ少将は10の内燃エーテルで1000のエーテルを空間から抽出する事が出来る。
・・・同志軍曹、感心するのは良いが、これはあくまでも例え話だぞ?
なあ、同志軍曹。お前はあの方達の話に付いていけるか?
無理だろう?
そういう事だ。俺達程度では、あの方達のレベルは理解出来ん。
講義を続けよう。
次に魔女が使う魔法杖についてだが、これに関しては俺は上手く説明が出来ん。
この魔法杖を展開使用出来るのは魔女だけであり、俺達魔導師は展開する事自体が出来んからな。
ただ言えるのは、自分に所縁のある物を用いて、魔導を為す為のデバイスを形成するという事か。
そうだな同志軍曹。お前の言う通り、この魔法杖の理解に関しては個人差があるからな。一概には言えん。
ただ、将軍に関してなら俺は昔に聞いた事がある。
将軍が使っている鎌と槌は、将軍が幼少の頃に故郷で使っていた物らしい。
将軍曰く、持っている鎌で遠くの草を刈り取れたら仕事が楽だなぁとか、態々大人数で槌を持って整地しなくても一回でドンといけないかなぁとか考えていたら出来たらしい。
……言うな、同志軍曹。幼少の頃から将軍は将軍だったとか言うな。
俺も、この人はどこまで本気なのかと悩んだ事もある。
結論か?
その前に、鎌槌ヴォジャノーイの名前の由来も聞いておけ。
ああ、そうだ。また将軍の幼少の頃だ。
将軍の故郷では中々に悪さをする
「ふむ、では少しばかり懲らしめるとしよう」
そう言うと、水精が棲む川辺に近付き
「この辺りかね?」
槌の圧砕で川辺を打撃、驚いた水精を鎌の引寄せで引き揚げて
「ハッハッハ、大人しくし給え」
槌で頭を打ち鳴らしたらしい。
それはもう、イイ音がしたらしいぞ。
事実かどうかは分からんが、将軍の故郷の川には圧砕の跡が残っている。
その事から、将軍の魔法杖の名前はヴォジャノーイというらしい。
……まあ、こう言った経験を元に魔法杖を形成する魔女も居れば、代々に引き継いできた物を使う魔女も居る。最近では、機械と融合させた機工式の魔法杖もあるな。
そうだ。帝国の〝サイレンの魔女〟がそうだ。
あの魔女は、魔女としての才能に恵まれなかったが、〝空で戦う才能〟に恵まれた。
そこに帝国は目を付けたという事だな。
あの喧しいサイレンを聞く度に、将軍は溜め息混じりに圧砕を〝サイレンの魔女〟が居るであろう空域に打ち込む。
将軍からしてみれば、あの魔女の相手は骨が折れるんだそうだ。
そうやって、面倒を回避しようとするのだが、あの魔女は何を考えているのか。
将軍の圧砕のエーテルに乗って、こちらへ強襲を仕掛けてくる。同志軍曹、君も経験があるだろう?
今回の講義はこんなところか。
同志軍曹、今日の講義の内容は士官学校で習う内容であり、〝エーテル〟に関してはそれ以前に習う内容だからな。忘れるなよ?
忘れたらすぐに言え。俺だけでなく、他の隊員も教えてくれるさ。
感想とかあるとワンワン喜ぶナマモノです。