いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

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単語等は、次回辺りに四角い顔の優秀な同志大尉が解説してくれるかも。


同志軍曹 シルヴィア・クシャトロワ

 私は〝シルヴィア・クシャトロワ〟公国の第909空戦魔導部隊〝バーバヤーガ〟に所属する軍曹です。

 実は私が部隊では、一番階級が下になります。そして、公国第909空戦魔導部隊〝バーバヤーガ〟、〝鎌槌の魔女〟と恐れられるナジェーリア・リトリア将軍が率いる所謂エリート部隊に所属しています。

 

 ……何故、私がこの部隊に所属しているのか?

 自分で言うのも難ですが、私は特にこれといって秀でたものがある訳ではなく、エーテル適性も並のいたって普通の魔女です。

 他の人達は適性や操作技術等秀でたものがありますが、私はいたって平均的。

 部隊のお荷物と呼ばれても、なんら不思議ではない私が何故にこの部隊に所属しているのか。

 それは、我らが将軍によるスカウトでした。

 

 士官学校時代、私は分かりやすい落ちこぼれで、そういったイジメの対象でした。

 あの日もそうでした。軍から学校への視察が入る日、どうせ、碌に何も出来ないだろうと、私は食堂へ押し込まれていました。

 私はこれでも、炊事係としては認められていましたから、視察に来た士官の方々を出迎える為のお茶を淹れていました。

 何も無い、普段通りの日。そう思っていました。

 

 お茶とお茶菓子を用意している最中に教官に呼び出され、私は一度食堂を離れていました。そして、食堂へと戻る途中、食堂で起きた事を知ったのです。

 

 視察の休憩時間に士官の方々が食堂でお茶を飲んでいる最中、一人の士官が突如として副官を伴い席を立ったというのです。そしてその方が飲んでいたお茶は、私が淹れたものでした。

 だからどうしたとも言えますが、他の人達は私が淹れたお茶が不味かったから士官の不評を買ったと、私に詰め寄ってきました。

 

 私は何も弁解する事も出来ず、懲罰房へ入る事が決定しました。

 暗く冷たい石造りの懲罰房、他人よりも体力に劣っていた私では、この厳しい冬の懲罰房で一晩過ごす事は難しいだろう。

 

 そう思い、諦めかけていた時でした。

 

 「ふむ、ここに居たのかね」

 

 将軍に出会ったのは。

 

 「見たまえ、同志大尉。彼女だろう?」

 「は、その通りです」

 

 話に聞いていた通りに、将軍はイメージ通りだった。

 公国の冬に吹き抜ける吹雪の様な銀髪に、口許には緩やかな笑みとパイプがあり、細い身体からは想像も着かない程のエーテル密度。

 その場に居た全員が将軍に釘付けになっていました。

 

 「将軍閣下」

 

 私を懲罰房へ入れようとしていた一人が将軍に話し掛けるが、肝心の将軍は私を見ながら何かを呟き話を聞いている気配はありません。

 隣に立つボリス大尉も溜め息混じりに、将軍の奇行を見ていました。

 

 「ふむ、同志大尉。逸材だ」

 「では、準備を」

 「うむ、是非にでも進めてくれ給え」

 

 何分程か経った辺りで、将軍は突然ボリス大尉へと振り向き何かの準備を進める様に言いました。

 一体、何が起きて何の準備を進めるのか?

 私は今、自分が置かれている状況が理解出来ていませんでした。

 あの言葉を聞くまでは。

 

 「時に同志シルヴィア・クシャトロワ。私が着いたテーブル、その茶を淹れたのは君で間違い無いかね?」

 「は、はい! そ、そうだと思います!」

 「ふむふむ、成る程」

 

 将軍の問いに、今までに無い速度で敬礼して答えると、一層笑みを深めて紫煙を燻らせていました。

 周囲の人達は完全に硬直して、冷や汗を流していました。

 

 「将軍」

 「準備が出来たのかね? 同志大尉」

 「申し訳ありません。リーリヤ少将に感付かれました」

 「となると、彼奴めも彼女狙いか」

 「恐らくは」

 「いかん、いかんぞ同志大尉。彼奴に彼女を渡す訳にはいかん」

 「ご心配無く、既に彼女の配属先は決定しております」

 

 私の知らぬ間にあれよあれよと進む話、ナジェーリア将軍と並ぶ魔女でもある〝リーリヤ・ブレーメイヤ少将〟の名前が出てきて更に場は混乱を見せます。

 

 それも当然です。士官学校の落ちこぼれ、魔女家系でもない、ただの士官候補生を公国の英雄が取り合う。

 普通なら考えられない話です。

 

 「素晴らしい、素晴らしい働きであるよ。同志大尉」

 「お褒めに預かり光栄です」

 「嗚呼、今日は良き日である。喜び給え、同志シルヴィア・クシャトロワ。今この瞬間から、君は我が部隊〝バーバヤーガ〟の一員である」

 

 トントン拍子に進んだ話に何も言えずに、気づけば全てが決まっていました。

 私は、落ちこぼれの私は、公国の魔導部隊の中でも一二を争うエリート部隊〝バーバヤーガ〟に配属されました。

 

 私はこの時気付くべきでした。

 ただの士官候補生を卒業を待たずに部隊に引き入れる理由を、ナジェーリア将軍とリーリヤ少将二人の共通点に気付くべきでした。

 

 「ナジェーリア!」

 「おぉ? 同志リーリヤではないか。どうかしたかね?」

 「どうかしたかね?ではない! 貴様、私が狙っていた候補生を横から拐っていったな?」

 「ハハハ、早い者勝ちであるよ。同志リーリヤ」

 「貴様……! まあ、良い。それよりもだ、ナジェーリア」

 「茶であるなら、同志軍曹」

 「はい!」

 

 私を二人が取り合っていた理由は意外と言うべきか、しょうもないと言うべきか、私の淹れたお茶でした。

 ボリス大尉に聞くところによると、御二人はこの頃お茶に嵌まっていたそうで、どちらが良いお茶を客人に出せるかと競い合っていたそうです。

 そして、その為の人材探しをしている最中に、私を見付けたという事らしいです。

 

 一体、何をしているのか?

 少々問い質したい気持ちになりましたが、ボリス大尉が静かに首を横に振っていたのでやめました。

 

 「しかし、ナジェーリア。今からでも同志軍曹を私に寄越す気にならない?」

 「ハハハ、負け犬の遠吠えであるね。静かにし給えよ」

 「決着、つけるか?」

 「君が私に勝てるのかね?」

 

 基地上空にて、将軍の槌による圧砕と少将の斧による割砕が激突し、基地とその周辺が半壊しました。

 理由はお茶淹れ係の争奪、ボリス大尉が何も言わず関係各所へ連絡を入れているのが、慣れを感じさせて辛いです。

 

 そんな非日常が日常の魔導部隊に配属されたお茶淹れ係兼空戦魔女の私ですが、割りとこの日々を楽しんでいます。

 慣れとは恐ろしいものです。

 

 「明日も早いし、ここまでにして寝よう」

 

 今頃、将軍と大尉は宮殿で偉い政治家の人達とパーティーの最中、明日は一番に熱いお茶を淹れておこう。

 明日から将軍は休暇らしいけど、基地には寄る筈だから。




感想とかあるとワンワン喜ぶナマモノです。

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