いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

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はい、今回は時間を少し巻き戻して、何故同志軍曹が狙われているのか。そのヒントが今回『も』出ます。

あと、テレジア・ディートリッシュのモデルは不夜城のアサシンだったりしますです。どんなキャラか知らないけど。



カタリーナ・フィーベル

 それは〝白〟だった。最高級の陶磁器の様に美しい、曇りも汚れすら無い〝白〟が、魔女達の足元から生え、侍女の分体の胸を貫いていた。

 

 「あれぇ?」

 

 だが、貫かれた侍女は、その〝白〟を離す事無く、傷口から滲み出た体液が、〝白〟にまとわり付いていた。

 

 「クシャトロワ様、お怪我は?」

 「え? あ、いや、無いです」

 「それはよかった」

 

 侍女、本体のリューヌが抱き寄せ庇ったシルヴィアに安否を問うと、気の抜けた返事が返ってくる。

 リューヌはその返事を聞くと、鋭く尖らせた視線を、分体を貫いている〝白〟の主であろう道化に放った。

 

 「カタリーナ・フィーベル様、少々不作法が過ぎるのでは?」

 「あれぇ? あっれぇ? おっかしぃなぁ? 動かないぃ?」

 

 カタリーナの声は聞こえるが、姿は見えない。リーリヤの割砕によるエーテルの霧は、場を支配するテレジアによって、完全ではないが払われいる。

 なので、遮蔽物の少ないこの部屋に、カタリーナの隠れる場所は無いに等しい。ならば、道化は何処に居るのか。

 

 「そこか!」

 「うわぁ! 見つかった! 逃げれなぁいぃ!」

 

 リューヌ02を貫いている〝白〟の中に隠れ、その群れを纏いリューヌ02を貫いていた。いつの間に、テレジアが支配する宮殿内を移動したのかは分からないが、確かにカタリーナはそこに居た。

 リーリヤに見付かり、慌てて異様に伸びた腕を引き抜こうとするが、分体とはいえ〝沼〟の魔女リューヌ・テュレイルが、その身に沈んだ者を簡単に離す訳が無い。

 

 「リューヌ02はそのまま、リューヌ01から05は壁となりなさい」

 「よーし、テュレイル。抑えとけ、今割る」

 「待ってぇ! 待ってぇよぉ!」

 

 カタリーナが帽子の飾りを振り乱してもがくが、リューヌ02にじわじわと沈んでいく。

 このままでは、〝沼〟に沈む。そうでなくても、背後からは世界最高クラスの陸戦魔女が、大斧を担いでやって来ている。

 慌てるカタリーナに、テレジアが眉を歪め、リューヌとリーリヤに叫んだ。

 

 「リューヌ! ブレーメイヤ! 下がれ!」

 

 テレジアの叫びと同時に、カタリーナの足元から〝白〟が爆裂した。

 爆裂した〝白〟は接近していたリーリヤを弾き飛ばし、宮殿内に大量の水音に似た破砕音を響かせ、カタリーナを飲み込もうとしていたリューヌ02を千々に引き裂き、壁役の他の分体をエーテルの飛沫として散らした。

 

 「まったく、危ないね」

 「お、おば様」

 「助かった~」

 「感謝致します」

 

 〝白〟の爆裂は、菊代やウルレイカ、フレスアードにも及んでいたが、前に立っていたナジェーリアに触れる手前で、何かにぶつかった様にして残らず破砕した。

 傷はおろか、破片一つも四人には届いていない。

 

 「今がチャァンスゥ!」

 「ひっ!」

 

 降り注ぐ〝白〟の破片、カタリーナが纏うそれの正体に気付いたシルヴィアが息を飲み、カタリーナが彼女を連れ去ろうとする。

 リーリヤは弾き飛ばされ、エーテル製のガラスに倒れ復帰していない。

 リューヌも分体が全て破壊され、シルヴィアを庇った際のダメージで復旧が間に合わない。

 他四人も〝白〟が邪魔していて、今からでは間に合わない。

 カタリーナが勝利を確信した時、

 

 「小娘が、あまり調子に乗るでないぞ?」

 

 音が炸裂した。

 カタリーナを守る〝白〟が破砕し、皮膚と肉が裂け血肉が飛び散る。透き通った音が鳴り、鋭いというにはあまりにも凶悪な風切り音が響く。

 

 「いっっっったぁーーーーーいぃ!」

 

 カタリーナが悲鳴を上げ、〝白〟が大挙し音の主に迫る。だが、その〝白〟は全て炸裂音により砕け散っていく。

 

 「久々に見たのぅ、珍しい魔導じゃ。妾も数度しか見たことが無い」

 「いっっっったぁ! 痛いぃぃぃっ!」

 「喧しい」

 

 テレジアが不快そうに吐き捨てれば、また炸裂音がカタリーナから鳴り、フレスアードに似た肌色が赤に染まる。

 テレジアがカタリーナを打ち据えていたのは、ガラスの鞭だった。ガラスの鞭は本革の如く撓り、カタリーナを打ち据えては砕け再生し、その破片が肉に食い込み、新たな痛みとしてカタリーナを責め立てる。

 

 「うわぁ、えぐ……!」

 

 ウルレイカが思わず呻く。だが、油断はしていない。〝カノン・フォーゲル〟の砲を展開して、ガラスの床を痛みでのたうち回る道化に向ける。

 相手はあのリーリヤを弾き飛ばした。油断は出来ない。というか、まだリーリヤは復帰しないのか?  

 リューヌは既に崩れた体を復旧して、分体も展開しているのに。

 

 ーーあれ? 聞いてた話より、リューヌって性能高い?ーー

 

 事前情報より性能の高いリューヌに、ウルレイカが頭を傾げるが、今は目の前の謎の魔女だ。

 見たところ、魔導はフレスアードに似た召喚系、しかし召喚するのは得体の知れない〝白〟。

 ウルレイカの知識に、この〝白〟を操る魔導は無い。だが、シルヴィアが頭を抱えて〝白〟を視界に入れない様にしているのが見える。

 

 「ひ、ひ、ひぃぃぃぃ、ぁいひい!」

 「喧しい、喧しいのう? まったく、懐かしくも憎たらしい魔導を扱いよって……!」

 「ひぎゃぁぁぁあっ!」

 

 テレジアが鞭を振れば、痛みに悶えるカタリーナが、新たな痛みに悲鳴と血肉を散らす。

 カタリーナが纏う〝白〟は、まったくと言っていい程に、鎧の役目を果たしていない。

 〝白〟が砕け、砕けた大きめの破片の一つがウルレイカの視界に収まった時、ウルレイカはカタリーナを守る〝白〟の正体に気付いた。

 

 「骨?」

 「人骨ですの?」

 

 最早、赤に染まりきったカタリーナが纏う〝白〟は、人骨であった。

 だが、本来の姿を保っているものは殆ど無く、下顎の骨を発見し、テレジア以外は漸くその正体に気付いた。

 

 「憎たらしいのう。妾の時代でも、お主らは絶滅危惧種じゃったわ。のう? 〝死霊術師(ネクロマンサー)〟」

 「いぎいぃぃぃぃ!」

 

 カタリーナが伸ばした右腕を、ガラスの鞭が打ち据える。皮膚が裂け肉が弾け飛ぶ。砕けたガラスが、腕に突き刺さり抉り、カタリーナの前腕には肉が殆ど残されていなかった。

 

 「ひ、ひどいぃぃぃ! 痛いぃぃぃ!」

 「はぁ、とっく絶滅したと思うとったんじゃが、まだ生き残りがおったか。ほれ、呻けるなら口が聞けるじゃろ? お主の師の名を言うてみい」

 「いひ、ひひははは、なぁに言ってんですかねぇ、このロリはぁ。これはぁ、私のオリジナルぅ」

 

 テレジアの額に青筋が浮かぶが、カタリーナにはそれに構う様子は無い。

 夥しい量の脂汗と血を流し、カタリーナは口を三日月にした笑みを貼り付ける。

 

 「いひ、ひひひひひ! やぁっぱりぃ、これじゃ、勝てなぁいぃ」

 「あア?」

 「でもぉ、収穫ありぃぃぃひひひひひ!」

 

 狂った様に笑い出したカタリーナに、魔女達は警戒を深くする。

 テレジアがその笑い声が不愉快だと、ガラスの鞭を振り上げた瞬間、カタリーナの顔が溶け始めた。

 

 「では、ではでは、また御会い……!」

 

 しましょうとは続かず、肉が殆ど溶け骨だけになり始めていたカタリーナが、突如割り砕かれた。

 

 「テ、レ、ジ、アァァァァァァァァァァァァァッ!」

 「皆、私の後ろに隠れ給えよ。同志リーリヤがキレたのだよ」

 

 ガラスの宮殿を揺らす咆哮、

 

 「逃がすかァァァァァァァァァァァァァ!」

 

 〝斧鉞〟の魔女が、割れた額から血を流し激怒に任せ、ガラスの宮殿を、骨となった道化ごと割った。




あ、感想返信は待って。書くので今はいっぱいいっぱいなの。
でも、感想はどんどん書いていいのよ?

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