いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

24 / 42
ここから徐々に話が進み出します! 多分・・・


さあ、話をしよう

 「それで? ナジェーリア。主要国四国のネームド魔女勢揃いとか、連邦か王国に攻め込むのか?」

 

 〝斧鉞の魔女〟リーリヤ・ブレーメイヤが、形の良い唇を態とらしく喜悦に歪めてみせ、隣で紫煙を燻らせているナジェーリアに問うた。

 

 「はっはっはっ、同志リーリヤ。攻め込みたいのかね?」

 「訓練指導中に拉致同然に連れて来られた嫌味だ。気付け」

 「これはまた、判り難い嫌味であるね」

 

 リーリヤの言葉に、菊代とウルレイカは一瞬ギョッとした顔を見せたが、合流したボリスやテレジア達が何の反応も見せていないので、本当にリーリヤの判り難い嫌味だと判った。

 というか、今の御時世にネームド魔女が他国に攻め込むとか、冗談でも言わないでほしい。

 

 そんな事を考えていると、テレジアが口の開いた。

 

 「まあ、役者はまだ揃い切ってはおらぬが、始めるとするかの。リューヌ」

 「畏まりました。それでは皆様、此方へ」

 

 テレジアからの指示を受けたリューヌが、軽く頭を下げ指し示す先、美麗な飾りが彫られたガラスの扉が開いた。

 

 「まったく、馬鹿げたエーテル操作能力だな。非才のこの身が恨めしくなる」

 

 リーリヤが言葉に対して、さして感情の籠らぬ声で扉の先にある部屋の感想を口にする。

 テーブルや椅子、花瓶に絨毯、柱に床に天井、その他装飾品諸々全てがテレジア・ディートリッシュが作り出したものだ。

 テーブルや椅子は木目まで忠実に、花瓶はその曲線、絨毯は起毛の一つ一つに至るまで、エーテルで作られているとは言えガラス細工とは思えない。

 

 「いや、ブレーメイヤにそれ言われたら、ボクはどうなるのさ? ボク、この中の一つでも再現しろって言われても、出来る自信無いよ」

 

 今居る魔女の中で、二番目に小柄なウルレイカが長身のリーリヤを見上げながら、明らかに作った卑屈な表情を浮かべていた。

 

 「解り易い顔をするじゃないか、ルーデルハイト。んン?」

 「へっ、世界最高峰の陸戦魔女がよく言うよ」

 

 リーリヤが非才と嘆くのは、あくまでも並の魔女に毛が生えた程度の内燃エーテル量であり、それの対とされるエーテル適性に関しては、リーリヤの右に出る者はそうは居ない。

 最小の消費量で最大の結果を出す。それがリーリヤ・ブレーメイヤという魔女だ。

 

 「御二人共、取敢えず席に着きませんの?」

 

 顔を向け合う二人を見ながら、菊代がテーブルに着きながら言った。

 

 「………」

 「………」

 「な、なんですの、その目は?」

 

 席に着いた菊代を見る二人の目は、なんというか虚ろだった。正確には、その目は菊代の顔ではなく、ある一部分。そう、テーブルにどっしりと乗った菊代の〝胸部装甲〟を見ていた。

 

 「なあ、ルーデルハイト」

 「なに? ブレーメイヤ」

 「あれは、なんだ?」

 「菊代だよ」

 「そうか」

 「そうだよ」

 「………」

 「………」

 「だから、その目をやめてくださいな!」

 

 虚ろなやり取りをして、また虚ろな目でテーブルに乗る菊代の〝胸部装甲〟を見る二人。

 思わず、両腕で隠すが、それによる〝胸部装甲〟の〝形状変化〟が、更に二人の目から虚無を引き出した。

 最早打つ手無し。そう菊代が諦めかけたその時、隣に座るナジェーリアが動きを見せた。

 

 「ふむ、そうであるね。菊代、モノマネを見せようではないか」

 「へ? あの、おば様? 一体、いきなりなにを?」

 

 菊代の言葉に答えず、ナジェーリアが取った行動は、彼女の母である満代のモノマネであった。

 椅子に凭れ掛かり、そのままテーブルの下へと沈み込んでいく。すると、菊代程ではないが〝まあまあ、ある方の胸部装甲〟がテーブルに引っ掛かり、下から押し上げられる形で歪んで乗った。

 

 「〝会議が長引いて肩が凝って疲れた時の満代〟」

 「ふっっ……!」

 

 言って、遠くを見ながら浅く息を吐いたナジェーリアに、テレジアが吹き出した。

 〝足りない二人〟は虚無に憤怒が混ざった。

 

 「あの、おば様? 御母様のモノマネって……」

 「ふむ、ウケがいまいちであるね。では、続きまして……」

 「まだありますの?!」

 「〝クッキー等の乾きものを食べた後の満代〟」

 

 何かをかじる真似をした後、ポケットからナプキンを取り出し、テーブルに乗った〝胸部装甲上面〟を払う。

 

 「くっふ……! ナジェーリア、それは反則じゃぞ……!」

 「はっはっはっ、似ていたかね?」

 「動きや作法、〝ああ、また・・・〟みたいな目がそっくりじゃ!」

 「え? あの? 御母様が?」

 

 菊代が混乱するのも無理はない。彼女の母である満代は、菊代の前では見本となるべく〝神皇国の巫女〟として振る舞っていた。

 その母が、だ。

 まさか、会議が長引いて肩が凝って疲れたからテーブルに胸部装甲乗せて楽をしていたり、食べ滓をだらしなく払ったりしていた等と、菊代としてはあまり信じたくない事実が、隣の変人によって判明した。

 ショックはある。あるが、記憶を辿ればそんな気もしてくる情景が浮かんでくるので、菊代は即座に記憶に蓋をした。

 

 「ナジェーリア」

 「落ち着いたかね? 同志リーリヤ」

 「ああ、すまんな。すまんから、その乗せている胸を正せ。千切るぞ?」

 「はっはっはっ、余裕が無いね」

 

 ナジェーリアのモノマネを見て、馬鹿らしくなったのか、リーリヤとウルレイカの目に正気が戻った。

 

 「ボクは余裕あるよ。だって、ボクは未来あるし」

 「あァ?」

 「ボク、まだ成長期~」

 「よし、ちょっとかち割ってやるから、こっち来い」

 

 リーリヤが腰に差していた斧を手に取る。

 ウルレイカは僅かに、腰を上げた。

 それに対し、菊代は溜め息を一つ吐き、ナジェーリアはパイプから紫煙を燻らせながら鼻歌を歌っていた。

 

 「ああ、待て待て。お主ら、ここをどこと心得ておる? 妾、テレジア・ディートリッシュの宮殿じゃぞ?」

 

 今にもやらかしそうな二人に、テレジアがうんざりした様子で声を掛ける。

 テレジアが精錬したエーテル製ガラスの宮殿とは言え、ネームド魔女二人が内部でぶつかって、耐えられる造りには〝今回〟はしていない。

 有事の際には即座の動きを取れるが、一応は会議用だ。

 面倒は避けたい。

 

 「取敢えず、席に着かんか。〝福音の魔女〟、これについての話じゃ」

 

 テレジアはリューヌに人数分の茶と茶菓子を用意させ、話を進める事にした。 

 




次回

王国〝ランプの魔女〟

「成る程、では君は、〝降星事変〟が人為的なものであったと?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。