いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

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今回の神皇国では魔女は巫女と呼ばれたりしてます。
そして、トップクラスの巫女は大体ズドンで巨乳です。


神皇国 梓弓の巫女
天内菊代


 静かな、まだ冷たい空気が満ちる弓道場の空に、渇きよく響く音が届いた。

 

 「奉上」

 

 巫女服に身を包んだ黒髪の少女、彼女が打った柏手の音だ。

 胸の前で合わせた手を下ろし、脇に立て掛けた弓を手に取る。

 構え、射つ。中る。

 構え、射つ。中る。

 構え、射つ。中る。

 構え、射つ。中る。

 構え、射つ。中る。

 構え、中る。

 射つ、中る。

 中る。中る。

 中る。中る。中る。

 中る。中る。中る。中る。

 中る。中る。中る。中る。中る。

 中る。中る。中る。中る。中る。中る。

 中る。中る。中る。中る。中る。中る。中る。

 

 「巫女様巫女様! 射ちすぎ射ちすぎぃ!」

 「あら? 的がありませんわね」

 

 的どころではない。的があったであろう場所には小さなクレーターが幾重にも重なり、放たれた矢と同じ数空いていた。

 

 「的が無いではありませんよ!」

 「まあ、気にする事ではありませんわ」

 「巫女様!」

 「落ち着きなさいな」

 「的代もバカにならないのですよ?!」

 「そうですね」

 

 付き人が巫女に詰め寄るが、当の巫女は何処吹く風であり、付き人の小言に堪えた様子は無い。

 どうしたものかと、付き人が内心で頭を抱える横で、巫女が口を開いた。

 

 「〝福音の魔女〟が発見されたらしいですわね?」

 「ええ、共和国の〝ガラスの魔女〟が発見した様です」

 「その後の動向は?」

 「不明です。発見したと言っても、共和国がそう言っているだけでして」

 「しかし、文書を主要五国へ配布し、〝変化〟も確認済みですわ」

 

 溜め息を一つ、巫女は軽く弓にエーテルを通す。

 〝魔法杖〟を展開するその前段階、フレームの形成を始めるが、すぐに解けて霧散してしまう。

 

 「巫女様、今のは?」

 「〝魔法杖〟の展開前のフレーム形成ですが、見ての通りですわ」

 「〝魔法杖〟が展開出来なくなっておられるのですか!?」

 「落ち着きなさいと言いましたよ。展開は出来ますが、以前よりも多量のエーテルが必要になっているだけですわよ」

 

 通常の魔導とは違い、〝魔法杖〟はエーテルとの親和性が高い魔女にしか展開出来ない。そして、〝魔法杖〟の展開には多量のエーテルが必要となる。

 

 多量のエーテルを空間から抽出して〝魔法杖〟のフレームを形成し固定、展開するというのが、一般的な〝魔法杖〟の展開プロセスだ。

 

 しかし、これには一つ問題がある。

 

 「まさか、神皇国にまで影響が?」

 「ええ、ですから、共和国の言っている事も事実なのでしょう。空間のエーテルが僅かですが、薄くなってきていますわ」

 

 多量のエーテルを空間から抽出する為、一時的ではあるが魔女周辺のエーテルは薄くなる。

 その為、〝魔法杖〟展開直後は空間からエーテル抽出を行えず、〝魔法杖〟の使用には自身の〝内燃エーテル〟を用いる事になり、内燃エーテル量の少ない魔女は展開時に、幾らかエーテルを余分に抽出しプールしておくのが定石である。

 

 「〝おば様〟級でしたら、話は別でしょうが……」

 

 だが、空間内のエーテルが薄くなっているとエーテルを抽出出来ずに、全てを魔女自身の内燃エーテルで行う事になる。

 魔導も魔法杖展開も何もかもをだ。

 普通の魔導師や魔女では、抽出エーテルや補助器具無しでそんな事をすれば、すぐにガス欠になる。

 

 魔法杖の多重展開でもしなければ、エーテルがそこまで薄くなる事はないし、薄くなったとしてもそう時を置かずに元に戻る。

 そう、戻るのだ。

 例え、エーテルを用いた射撃を千発以上行った直後だとしても、魔法杖が展開に至らず解けるなんて事は普通あり得ない。

 

 「〝福音の魔女〟の影響ですか」

 

 〝福音の魔女〟この世界に伝わる世界の終わりに現れると言われる魔女。

 詳しい事は伝えられている国により差はあるが、世界の終わりに現れるという事だけは共通している。

 そして、エーテルの希薄化が〝福音の魔女〟の影響なら

 

 「最悪、ですわ」

 

 世界はエーテルに依存していると言っても過言ではない。

 尽きる事の無い無限の存在、魔女も魔導師もエーテルありきであり、そうでない普通の人々もそうだ。

 今の文明はエーテルに依存しており、それが希薄化するという事は文明の崩壊を意味する。

 

 「技局はなんと?」

 「〝福音の魔女〟の影響かは、今は明言出来ないとの事です」

 「まあ、そうでしょうね」

 

 いくら発見されたと言っても、それは他国の魔女が一人遭遇したに過ぎない。

 言ってしまえば、証拠が無いのだ。

 映像も何も無い。あるのは共和国の〝ガラスの魔女〟の証言と、世界中でのエーテルの希薄化を示す書類のみ。

 

 「議会はなんと?」

 「事実であれば公国と協力して事態の解決に当たると」

 「そうですの」

 

 神皇国の巫女(魔女)天内菊代(あまうち きくよ)は目を閉じ、自分と協力するであろう魔女を思い浮かべる。

 自分の先代、母の友人である彼女、奇人変人が多い魔女の中でも特に変人の部類だと言われる彼女。

 大国である公国において最強と謡われる彼女、だけど楽しみは休暇の日々と言って聞かない彼女。

 なんでも、休暇の前日は早上がりして手製のペリメニを肴に上等のヴォートカの大瓶を空け、休暇の始まりを告げる朝日を迎えるのが楽しみらしいが、正直な話やめて欲しい。

 確かに、魔女は老化が極めて遅く、人によっては三桁の年月を重ねても十か二十の年頃にしか見えない魔女も居るには居るから、それ程気にする事ではないかもしれないが、空戦の後は節々に痛みがあるとかなんとか言っていたのだ。

 少し自愛というものをしてほしい。

 

 「はぁ」

 

 溜め息が出る。

 何時からだろうか。あの人があまり自分の身を省みなくなったのは。

 無理をしているという訳ではなくなったが、それでも夜通し呑むのはやめて欲しいし、煙草も出来ればやめて欲しいと思うが、魔女とはそういうものであるし、巫女は悪縁を良縁へと禊ぎ昇華させる役割もある。

 だから、煙草が体に悪いと言ってやめさせる訳にもいかない。

 

 まったく、〝福音の魔女〟だけでも面倒なのに、どうしてこうも他人の心配をしてしまうのか。

 世話焼きと言われても仕方ないとは思うが、母の代から、否、その前の代から世話焼きの家系だったような・・・

 

 「ぬ……?」

 「巫女様?」

 

 いや、待て、落ち着きなさい天内菊代。

 同じ世話焼きなら隣に居るし、公国にも居る。そう、あの四角い顔の大尉。

 だから、特別自分が珍しいという訳ではない、筈。

 それに、世話焼きだから何と言うのです。問題は無いではありませんか。

 そうです。何も問題は無いのです。

 

 「み、巫女様」

 「落ち着きなさいな。何も問題は無いのです」

 

 そうです。何も問題は無いのです。

 そう、本来〝禁煙〟である弓道場に煙草の匂いがしても何も問題がって、あら?

 

 「はっはっは、久しぶりだね菊代。少し、背が伸びたのではないかね?」

 「な」

 「な? ふむ、〝名〟であるなら簡単であるよ。ナジェーリア・リトリアである」

 「な、何でここに居ますの?! おば様ー!」

 

 公国最強の鎌槌の魔女ナジェーリア・リトリアがいつの間にか現れ、天内が空けたクレーターの縁に腰掛け、変わらぬ笑みでパイプを吹かしていた。




感想とか軽い質問的な何かがあると嬉しいです・・・

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