今回は前回の反動(?)で基本、クッソ真面目な話です(^^
なので、もしかしたら「めっちゃツマンネ」と思われても仕方ないかな~と。
それで良ければお読みくださいませ。
時は少し遡る……具体的には、ヤンがバブられる前あたりに
「どうしたの? ウェンリー、あなたから尋ねて来るなんて」
「ごめんね。予定を空けてもらって」
一応、まだ三バン(地盤、看板、鞄。政治家が選挙に)を引き継いで程ない駆け出し議員とはいえ、政治家は政治家。
本来なら多忙……とまあ、ヤンはそう思い素直に頭を下げたのだが、
「いいのいいの♪ ウェンリーがワタシに興味持ってくれるのは、喜ばしいことだもの」
とか言いつつ、ヤンから『アシュリー、空いてる時間とかってあるかい?』とアポイントメントの電話が入り、具体的な時間の打ち合わせを終わらせた直後……今度は馴染みのある記者にアシュリーが自分から売り込みの電話をかけた。
勿論、『新進気鋭の女性政治家ヨブ・トリューニヒト・セカンドの家を親しげに訪ねる、今まさに話題&注目の人物ヤン・ウェンリー』の姿をバッチリ撮影させるためにだ。
おそらく、翌日のゴシップ専門みたいな三流ホロペーパー(例えば”ハイネセン・スポーツ”、通称”ハイスポ”とか)の一面ないし三面は、中々愉快なスクープが踊ることだろう。
選挙により代表者を選ぶ間接民主主義をとる以上、事あるごとに知名度……認知度を上げておくのは非常に重要だ。
基本、”
というより、自由惑星同盟の……複数の星系に跨り、数十の有人惑星を領土として内包する、総人口240億人(西暦2018年当時の地球の総人口の3倍以上!)の大星団国家で小選挙区制は流石に無理があり過ぎる。
蛇足ながらだが……同盟の経済規模は大きく、今の同盟の一人当たりGDPは現代のアメリカどころか2018年度調査で1位だったルクセンブルクさえも超え、現代のレートに換算すると一人当たりGDPは12万$以上(日本円で約1300万。アメリカの約2倍)に達する。
そりゃあ経済的国力比で、銀河帝国より10億人口が少ないのに国力2倍となるわけである。
物価指数的にほぼ1ディナール=100円と考えてよく、これで換算すると年間総GDPは約32京円弱(約3200兆ディナール)、年間国家予算は概算で7京5000兆円前後(約750兆ディナール)、国防費は1京5000兆円弱(約150兆ディナール)を推移……実に膨大、これで市場の要求から僅かな額(軍事予算の5%が上限)の戦時国債の発行はしても、赤字国債が未発行なんだから大したものだ。
この人口と予算をコントロールするのが、最高評議会と同盟議会だ。
少し原作とニュアンスが違うかもしれないが……今の日本に例えると、最高評議会が内閣で、それを構成する委員長が大臣で大臣を長にいただく委員会が各省庁、言うまでもなく評議長が内閣総理大臣だ。
同盟議会は、まんま国会と考えてよく、各惑星に設定された選挙区から選出された代議員から構成されている。
基本、各委員会の委員長は大臣のように代議員の中から選出される仕組みである。
現在、アシュリーがいるのはこの代議員の座で、1年生議員ではないがまだ総選挙での当選をこなせてない彼女は、自分の実力を過信してはいない。
☆☆☆
少しだけ、大して面白くない話……政治の話をしよう。
そもそも、ヨブ・トリューニヒト・セカンドことアシュリー・トリューニヒトがなぜ代議員に
彼女は普通の意味で4年に一度の代議員総選挙で当選したわけではない。
公的には”事故死”扱いになってる先代……タカ派の代議員、ヨブ・トリューニヒトの急逝で空いた議席の穴を埋めるべく行われた”補欠選挙”。
『亡き父親の遺志を継ぐという覚悟』を示すために
そのあたりのくだりは、『第034話:”アシュリー・Tとは何者なのか?”』でアシュリー・トリューニヒト本人の口から語られている。
無論、アシュリーには父親から……というより代々トリューニヒト家が引き継いできた地盤がある。
それも国防畑の政治家を代々輩出してきたトリューニヒト家らしい、”軍需産業複合体”という組織票(固定票)=強力な集票装置が背後に存在している。
それだけで安泰と言えば安泰だが……だがこれは大都市圏の選挙区の宿命だが、人口に応じて大量の”浮動票”が存在している。
大選挙区であるが故に別に当選するだけなら、トップになる必要はない。
しかし、いざ当選としたとしてもその後の派閥内、アシュリーの場合なら国防族議員派閥の中での発言力に大きくかかわってきてしまうのだ。
何が言いたいかと言えば、議会制民主主義国家にとって政治家とは、究極的に言えば常に”人気商売”なのだ。
アメリカではかつて、テレビの公開討論で『(対立候補より)テレビ映りが良いから』という大統領がいたそうだ。
西暦1960年のケネディvsニクソンで争われた大統領選のエピソードのことだ。
そして、その本質は人類が宇宙を生活の場にして久しい宇宙歴時代でも、戦争の根本と同様に変わらない。
では、そういう状況で政治家にとり一番憂う事態とはなんだろうか?
それは、『知られないこと』だ?
そう、民主主義において最も政治家が恐れるのは『有権者に認知されないこと』なのだ。
はっきり言えば、どんな『悪名で知られた』としても、『知られない』よりはずっと良い。
確かに世の政治家は、スキャンダルで失脚することもある。場合によっては、人気と知名度が逆に足かせになる場合もある。
だが、悪名の種類にもタイミングにもよりけりだが……政治の世界では、必ずしも『悪名=不人気』という等式は
いや、もっと本質について語っておこう。
”自由惑星同盟という国家”、そこに生きる
☆☆☆
同盟において、”理想的な政治家像”とはなんだろう?
”聖人君主”か? 断じて否だ。
では、”倫理観や正義感に溢れた人物”か?これもまた否だ。
確かに職業的倫理観は持ってほしい……つまり『給料分の仕事はしろ』とは思うが、別に政治家に品行方正さや清廉潔白さなど求めていない。
そうであればいい程度の話だ。
では、同盟市民にとって理想の政治家とは? 端的に言えば『物事を推し進め、成果を出す
なぜか?
ヤン・ウェンリーは第091話において、自由惑星同盟の政治的趣向を”超保守的”と評した。
だが、それを別の言い方をすれば……
”国家ではなく”
となる。
つまり、極論すれば『ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが個人の利益を侵害しようとした』から、『
国より個を優先する……まさにマキャヴェリスト的な行動だろう。
だから、同盟市民はその本質において『国家に滅私奉公する』つもりなどさらさら無く、愛国心やら国家への忠誠の根源は、『個の幸せを追求するためには、
個より集団の方が生きやすいし、豊かになるのは歴史の必然。要するに先祖たちは『
建国の理念や理想は確かにあるが、本質的には必要に駆られて作ったのであり、決して高邁な精神を全面に押し出して建国したわけではないのだ。
だからこそ同盟市民は、『自分達にとって都合のいい政治家=国を豊かにする政治家』を求める。
国が豊かになれば、民がダイレクトに豊かになる事を同盟市民は本能的に、感覚的に”知っている”からだ。
だから、正直に言えば『自分達に実害がない悪名』など、同盟市民は時事の話題にはするが、所詮はその程度……政治家としての本質的な評価にはほとんど影響がない。
むしろ、『同盟市民が
だが、知名度や認知度が無ければ、『自分が有益な政治家であること』すら証明することはできない。
だからこそ、機会があれば、あるいは機会を作ってでもアピールするのだ。
そして、アシュリー・トリューニヒトは嘘つきではあるが、第035話でヤンに語った『愛人として自分を売り込んだ動機』に嘘はなかった。
ただ、理由の全てを語っていない可能性はあるが……それは、また嘘とは意味が違う。
☆☆☆
「なるほどね……つまり、
いつの間にかアシュリーはヤンを名前呼びしていたが、その響きがあまりに自然なため、ヤンは特にそれを気付くことはなかった。
まあ、ヤン本人も彼女をアシュリーと呼ぶ(不思議と彼女をヨブと呼ぶのは嫌だった)し、また主にアンネローゼのせいで名前で呼ばれるのに慣れ始めていたというのもある(特に女性から)。
「端的に言えば、そういうことだね。確か、アシュリーの支持母体って軍産複合体だったと思ったから」
「そうよ。勿論、協力してあげるけど……ヤン、出世したのはいいけど、まだ所属は軍大学のまま?」
「みたいだね。移動の話は今のところ聞いてないよ」
「ふ~ん……」
アシュリーは少し考えこみ、
「いいわ。ワタシにちょっと考えがあるから……でも、そ・の・前・に」
”にちゃあ”
と効果音が付きそうな湿り気のある微笑みを浮かべ、
「前払いで”ご褒美”が欲しいなぁ~」
あざとい上目遣いにヤンは軽くため息をついた。
(まあ、アシュリーは政治家だしね)
頼みごとをする以上、対価の要求は当たり前だとヤンも考えていたし、納得もしていた。
「どんな物が良いんだい?」
「ん~とね……」
アシュリーは人差し指を小さな唇に当てて、
「じゃあ、ワタシが呼びたい時にウェンリーを”ぱぱ”って呼ぶことにするわ♪」
「……はっ?」
まあ、この後にどうなったかは……前回、第092話をご参照いただきたい。
翌日の記事を含め、どうやらヤンの予想以上に対価は高くついたようではある。
読んでいただきありがとうございました。
内容はかなり地味……というか、銀英伝二次っぽくなかったかも(今更?)しれませんが、書いてる本人はめっちゃ楽しかったです(笑
あくまで私的な考えですが、この作品に出てくる”自由惑星同盟”って国家の、その根幹たる「政治」を断片的にでも書いておきたい、書いておかないと後で困るな~と考えまして(^^
今、ちょうどNHKで新版の再放送やってるんですが、その歴史や成り立ちの違いから、原作と国名が同じでも全く違う国家なのですよ。
だからこそ、「何が違うのか?」を部分的にも書いておきたいなと。