金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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ついに激突。


第009話:”マールバッハのトライデント”

 

 

 

さて視点は今度は同盟のエル・ファシル駐留艦隊、通称”リンチ艦隊”に戻そう。

 

 

 

「ほほう……おいでなすったな」

 

アコンカグア級旗艦型戦艦”シャイアン”のブリッジでリンチは獰猛に微笑んだ。

 

まともな編成と数から考えて、恐らく前衛にいるのはエル・ファシル界隈では時折近海で見かけるイゼルローンの装甲パトロール戦隊だろう。

 

普通は1個戦隊500隻で巡回しているはずだが、今日は大盤振る舞いで1ルーチン3個戦隊が雁首そろえてお出ましだ。

事前にこちらの哨戒網が捉えていたとは言え、レアであってもまったくありがたくない光景だった。

 

そして肝心の貴族艦隊1000隻はその後方……

 

「こりゃ強引にいくしかねぇか? 全艦隊に告ぐ! 突撃紡錘陣形(パンツァー・カイル)を取れ!」

 

なら前衛艦隊とまともに戦う理由はない。

 

「シャイアンを中心に装甲の厚い戦艦は前へ! 正面突破戦よぉーい!!」

 

練度も装備も大差ないだろう数に勝る勢力と足を止めての艦隊砲撃戦など愚の骨頂、なら回避するか撃ち合う時間を最小限にしてさっさと突破してしまうに限る。

ただ迂回をするのは時間が惜しいし、何より迂回中に側面から崩されでもしたら洒落にならない。

 

そう判断し、迷いなく突破戦術を選択できるあたりリンチも決して凡庸な提督ではなかった。

 

「クソッタレな貴族共に、同盟宇宙軍(Allied NAVY)の心意気って奴を魅せてやろうじゃねぇかっ!!」

 

 

 

リンチは陣形が整うのを見るとニヤリと笑い、

 

「全艦、最大戦速! 突撃せよっ!!」

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「エル・ファシル艦隊の提督は中々の良将のようだな?」

 

ロイエンタールは珍しく敬意を込めた光を金銀妖瞳(ヘテロクロミア)に浮かべ、

 

「だが、こちらもまともに撃ち合う理由はないな。無論、貴族の盾になってやる義理もだ」

 

上機嫌な笑みを浮かべると、

 

「なあ、ミッターマイヤー……敵は貴族との殺し合いが御所望のようだ。それを邪魔するのは些か無粋だと思わないか?」

 

本気でコルプト少将率いる貴族艦隊をどうでも良い……いや煙たがってることを隠そうともしない露悪趣味の先輩でもある上官にミッターマイヤーは苦笑しつつ、

 

「どうぞ御随意に」

 

「我が戦隊は敵艦隊上方、第二戦隊は艦隊右舷、第三戦隊は左舷方向に各個分進! 敵の射程外側を迂回し、敵後方90光秒で旋回しつつ再合流、合撃を開始する!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「なんとっ!?」

 

まるで花咲くように……というのは戦場で使うには少々詩的過ぎる表現だろうか?

リンチ艦隊が射程に収めるより前に、前方にいた1500隻の艦隊は、おそらく戦隊ごとに三つに別れ、艦隊を包むように迂回する進路へ進みだした。

 

後に”マールバッハのトライデント”と呼ばれることになる、「敵前分進→多方向迂回→旋回からの背面合撃」の初めての発動だった。

 

(後方で合流し、追撃をかけるつもりだろうが……)

 

だが、悪くない状況だった。

 

(よほどイゼルローンの連中は、”厄介な客(きぞく)”を嫌ってるとみえる)

 

別に自分の生存率が上がったわけじゃない。

仮に貴族艦隊を叩きのめせても、追撃準備を終えた敵艦隊にケツを撃たれまくるだろうが……

 

「おい、どうやらイゼルローンの連中は、随分と話がわかるらしいな? 俺たちに花道を譲ってくれるそうだ」

 

ブリッジが笑い声に包まれた。

 

「ならその期待には応えねぇとな……野郎共! 一気にバカ貴族を宇宙の塵に変えっぞ!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『マールバッハ伯爵! 貴様、どういうつもりだ!?』

 

通信画面越しとはいえ、青筋立てて詰め寄ってくるのは貴族艦隊司令官であるコルプト少将、この戦いが終われば退役して実家へ戻り子爵位を継ぐ予定の男だった。

 

「どういうつもりも何も……我々の目的は、”誘引せしめたエル・ファシル艦隊を殲滅する”ことですが? 公式にはそういう理由で出撃しています。だからこうして迂回をし、卿の艦隊と挟み撃ちでより効率的な殲滅を狙っているのでしょうに」

 

それに対し、しれっと言い切るロイエンタールも相変わらず肝っ玉が太い。

 

『それは名目だ! お前達の任務は崇高なる貴族の使命を邪魔する下賎な叛徒どもから、我々を守ることに決っておろう!!』

 

「その崇高な使命とはマンハントのことですかな? コルプト少将、卿はこうおっしゃりたいのか? 農奴確保の私的理由のマンハントが、軍の公的命令である敵艦隊殲滅より優先されると? 我らは軍人ですが?」

 

すでに自分を階級を省き爵位のみで呼んでるあたり、コルプトが何をどう考えてるか百も承知だが、そこを更に煽ってみせるのがロイエンタールという男だ。

 

『違う! 我々貴族より優先される物など存在せん!!』

 

 

 

(やれやれ。履き違えも甚だしいな……)

 

帝国軍とは文字通り”皇帝の軍隊”であり、帝国軍自体が名目上は”皇帝の私兵”である。

それをコルプトは、「皇帝より貴族である私の命令を優先しろ」と公然と言ってのけたのだ。

見ればその発言の意味を理解したミッターマイヤーも唖然としていた。

 

「なるほど……卿の見解は理解しました。だが、生憎と我が艦隊は既に迂回運動中でね。せいぜい我々が合撃するまで殲滅しないよう祈ってますよ」

 

もはや蔑みを隠そうともしないロイエンタールに、

 

『貴様! 後で覚えておれ!!』

 

コルプトは大激怒で通信を切った。

 

 

 

「”()”ね……後があると思ってる時点で、既に度し難いな」

 

とロイエンタールは嗤い、

 

「ミッターマイヤー、通信は録画しているか?」

 

「えっ? ああ、勿論オート・レコーディングになっているが……」

 

「今の内容を超光速通信の秘匿回線で送ってやれ。順番はそうだな……リヒテンラーデ侯、軍三役、リッテンハイム侯、ブラウンシュバイク公でだ」

 

「その面子って……」

 

「”陛下より貴族が優先される”……明確な叛意の証拠だ。リヒテンラーデ侯もリッテンハイム侯もさぞ喜ぶだろう」

 

何しろコルプトはブラウンシュバイクの門閥なのだから。

 

「俺は親切な男でな。コルプトが爵位を継ぐ前に死んだほうが、誰にとっても幸せだと教えてやるだけさ」

 

「悪趣味だなぁ」

 

「何を言う。ただ”帝国の正義”とやらを執行するに過ぎんさ」

 

ロイエンタールはフフンと笑い、

 

「それに少将にはたしか弟がいたろ? 爵位だの家督だのはそいつが継げばいい。どうせどっちが継いでも大差はないだろうしな。弟もきっと喜ぶんじゃないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤンのお株を奪う分進→迂回→反転合撃の回でした~。

やっぱり曲者の印象のあるロイエンタールはこれぐらいはやってくれるかなっと(^^


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