あの男の登場&活躍篇です(^^
「アンドリュー・フォーク中尉、行きまーす!」
巡航艦”バーミンガム”の下面中央、機体の下半分を宇宙空間に露出させる形で
横に3機並ぶ真ん中の機体で、アンドリュー・フォークは発進の気合を入れる!
☆☆☆
「
初めて飛ぶ実戦の宇宙……フォークは声が聞こえないはずの真空の中で、嘆きと怨嗟の声を聞いた気がした。
(やってやる! 僕が一番うまくスパルタニアンを動かせるんだ……!!)
そう自分に暗示をかけるように、あるいは宇宙に満ちる負の感情に飲み込まれぬようにフォークは内心で叫ぶ!
「2番機、3番機、僕に続けっ!!」
自分より下士官の2人がベテランだということは分かっていた。
だが同時に、自分は士官だ。先任将校として示さねばならぬものがあることぐらい分かっていた。
フォークは自分が本質的には臆病であることを自覚していた。
だからこそ、奮い立たせるのだ。
自分自身を鼓舞するのだ。
そして、直感がレーダーやセンサーより先に敵の接近を告げ、
「そこっ!」
ロックオン・サインと同時にタイムラグ無しに無意識の内にフォークの指がトリガーを引き、スパルタニアンの上面連装レーザーが煌めく。
刹那……
「や、やった!」
直撃を受けた
『隊長殿、お見事!』
『でも、油断なさらず! 敵はそこかしこにいます!』
兄というより父親に近い年齢の年上の部下たちの激励を受け、
「あ、ありがとう! わかってる!」
この戦い……フォークにとって初陣になるこの戦闘で、驚くべきことに彼は3機の撃墜スコアをあげることになる。
確かにアンドリュー・フォークという青年将校は、士官学校の成績を見れば優秀な学生だったことは確かだろう。
だが、彼はまだ戦いの
確かに貴族艦隊に搭載されていたワルキューレのパイロット達の技量は、お世辞にも高いものとは言えなかった。
だが、それを差し引いても驚くべき戦果と言える。
そして、この撃墜こそが後の『歴史に名を刻むウルトラエース』、その開眼の一撃だった。
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「……圧倒的にアンネローゼ分が足りない」
「ヤンっ!?」
いきなり妙なことを言い出したヤンにギョッとするラップであったが、ワイドボーンは『わかるよ。ボクも幼女分が足りないと思ってたんだ』と頷くワイドボーン。
「間違えた。もう少し火力が欲しいところだね」
どこをどう間違えればさっきの台詞……いや、本音か?になるかはわからないが、
「? 圧倒してるように見えますが?」
そう疑問を口にするのは情報将校たるバグダッシュだった。
「まあ、今回はね。彼我の技量差があり過ぎた。でも、本職の軍人相手じゃこうはいかない」
「というと?」
ヤンは少し考えてから、
「四人の
やはり気になるのかヤンが自分の周囲に展張しているいくつものホログラム・ディスプレイには、戦場全体を俯瞰する物、敵や各中佐の率いる戦隊の情報が投影されたもの以外に、義弟や後輩の状況をリアルタイム・モニタリングしてるサブディスプレイが含まれていた。
「私はね、ハードウェアに頼りすぎるのは軍人として失格だと思ってる。戦場に投入できたハードウェアをいかに有効使用するかが肝だとね」
「先輩、そりゃ間違ってないと思いますよ? 基本、俺達みたいな前線の人間は、要請はできても用意するのは上や後方だ。更に言えば政治家さ」
そう会話に入ってきたのはアッテンボローだった。
彼なりの諧謔を入れた言葉だったが、ヤンは極めて真面目な顔で、
「まあ、その通りだね。今回は例外的に敵方の半ば自滅で数の差を簡単に覆してはいるけど、これは本来なら異常なことだ。数や性能も含めてハードウェアが同等なら、勝敗を決するのはソフトウェアの差だとね。そういう意味じゃ、今回は例外的でもあるし、同時に順当でもある」
倍の数を相手にこうまで圧倒できるのは例外的であれど、それでも人的要素……ソフトウェアにここまで差があれば、覆せるのも順当ではあるということなのだろう。
「私は、戦場の勝敗の八割は戦場外で決まると考えているんだ。要するに、戦場に着く前の下準備の段階だね。アッテンボローの言う通り、戦争が所詮、政治の一形態である以上、様々な要素がからむし、軍人ではどうにもならない部分もあるけど……」
ヤンは散乱しそうな思考に手を伸ばして
「ハードウェアの強化っていうのも、その八割に入るんじゃないかって、ふと思ったのさ」
「それまで存在しなかった兵器の登場が、ドラスティックに戦場の有様を変えるっていうのは、昔よくあった。地球ってたった一つの惑星の表面だけで人が生きていたころでさえね。20世紀ってたった100年を見たって航空機の登場、コンピューターの発明、核兵器の登場なんかはその代表格だね」
航空機の登場は人類が有史以来憧れ、同時に手を出せなかった空を戦場に変え、コンピューターの登場は戦場の広域化や高度化を行い、核兵器は戦争の意味を根底から変えてしまった。
「……今ならイゼルローン要塞か」
「まあ、あの人工天体もその類と言えば類かな? イゼルローン回廊の出口に要塞の建造を最初に提言したのがブルース・アッシュビーだというのが、なんとも歴史の皮肉を感じるけど」
ラップのつぶやきにヤンは苦笑した。
「でも、私が求めるのは、そういうのじゃないんだよな……」
「具体的には?」
そう切り込んでくるワイドボーンに、
「まだ、上手く考えは纏められないだけどね」
そう苦笑しながら、
「例えば、戦艦っていうのは魅力的な戦力だけど、艦隊同士の集中砲戦をやるなら、別に高度な指揮能力はいらない。むしろ、火力と防御力があれば事足りる……言葉にすると、”装甲砲艦”とでもなるのかな?」
そう腕を組んで、
「例えば、スパルタニアン。あれは本来、艦隊戦における対艦攻撃機として生み出されたんだけど、それに対抗して銀河帝国はワルキューレを生み出した。正直、小改良は続けられているとはいえ、登場当時からさほど変わってない性能には思うところもある。そもそも、私は有人機の胴体半分を宇宙に晒して搭載するっていう方式が反対なのさ。発艦後に装甲シャッターが閉まるとはいえ、スパルタニアンを搭載している状態では格納庫……というか整備空間と外が直接つながってるようなもんだし、それが防御上の脆弱性に繋がる。スパルタニアンを物理装甲の代わりにって考えるのは正直、無理があるからね」
まあ、これは無理もない理由がある。
スパルタニアンが配備されたのは宇宙歴770年代初頭で、標準型戦艦や巡航艦の設計はその前だ。
むしろ、
ただ、その危険性を理解していたからこそ巡航艦や戦艦より設計が新しく艦内容積に余裕のある旗艦型のアコンカグア級やアキレウス級では、
とはいえ、同じく設計の新しいはずのラザルス級宇宙空母は、同時発艦数を優先したためか、はたまたコストの問題からかセミコンフォーマルでスパルタニアンを搭載しているが。
「そもそも、近距離での対艦攻撃や艦隊防空に割り切って使うのなら、何も全部が有人機である必要はないんだよな。現実にスパルタニアンの有効搭載数は生産数に比べて少ない……これはパイロットや整備員が現実的に足りてないからだ」
旗艦型戦艦や空母は生産数自体が他の艦種に比べて少ないうえ、その性質も
だが、先に触れた危険性だけが理由ではないが、スパルタニアンが搭載可能となっている他の艦種、標準型戦艦や巡航艦は搭載可能数機数がいっぱいまで搭載されているケースは少ない。むしろ、全くスパルタニアンが搭載されてないケースも珍しくないのだ。
「だけど、スパルタニアンの有効性はある程度実証されてるわけだし……いっそ用途を単純化して、手間と人的リソースが艦載戦闘艇ではなくメンテフリーの半自立もしくは完全自立型の無人高機動砲台として再設計するなら……」
しかし、直ぐにヤンはハッとして、
「いかんいかん。やはり、勝ち過ぎの戦っていうのはダメだね。余裕がありすぎると、つい考えなくていいことまで考えてしまう」
そう口では言っていたが、
(帰りにアイデアまとめて、アシュリーに相談してみるかな? 軍需産業複合体にコネがあるって言ってたし……)
などと、自覚のないまま『まっとうな軍人』とは少々趣の異なる思考を始めるヤンだった。
”
読んでいただきありがとうございました。
しょっぱなから中の人ネタに走るフォーク(笑
あっ、突然ですが”あらすじ”にも書いてますが、この作品に登場するメカニックは、旧OVA版をベースとしてます(^^
追記
本日、ちょっと忙しいため感想の返信や誤字修正はちょっと遅れそうです。