金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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今日は早めにアップ。
宇宙に咲く妖花といっても、鉄仮面とかラフレシアではないです(^^




第078話:”ブーストパウダー 宇宙に咲く妖花と黄金獅子の片鱗”

 

 

 

唐突だが、宇宙空間における核兵器の存在意義とはなんなんだろうか?

実は純粋な対艦兵器としては、艦載兵器として現状最強の主反応炉から発生した中性子を圧縮/集束/加速して投射する中性子ビームをはじめ荷電粒子砲、自由電子レーザーなどの狭い範囲にエネルギーを集中できる指向性高エネルギー兵器の方が優れている。

 

例えば、防御スクリーンや防護フィールドを破るには、爆発のような無指向性エネルギーよりなるべく狭い範囲に大きなエネルギーを集中させる方が有利だ。

また、伝達物質となる大気の存在しない宇宙空間(真空)において、ただ水爆を爆発させるだけでは、地表で使うときのような巨大な衝撃波(爆風)や熱(火球)はあまり期待できない。

なぜなら宇宙空間における核反応は、大半が電離放射線として全方位放出されてしまうからだ。

 

そして、この時代の宇宙船は軍民問わずに大気というバリアのない宇宙空間を長時間航行し、ともすれば恒星のすぐそばも航行しなければならない場合もあるため、銀河宇宙線や太陽宇宙線(どっちも放射線)、あるいは電磁パルスに対して船体を形成する多層構造の物理素材に加え、防護フィールドなどのエネルギー力場の併用によりほぼ完璧なシールド機能を有している。

つまり、至近距離でも船外の核爆発なら乗員が被曝することはない。(無論、船内での核爆発では普通に被曝する)

 

もっとも、無指向性であるとはいえ高密度放射線が物体に衝突すれば熱が発生(熱輻射/電磁加熱)するが、それでもよほどの超至近距離爆発、あるいは船体に弾頭が接触した状態の直撃爆発でもなければ、民間船より遥かに高い強度を誇る軍艦を熔解/撃沈するには、かなりの苦労を必要とするだろう。

実際、各種対空防御兵装や防御用の力場のため現実的に超至近距離爆発や直撃爆発は難しく、まあ、そのために宇宙戦で使う核兵器は高威力化したのだが……

 

実は、現在の使われている宇宙用核兵器には一工夫されているのだ。

実は弾頭にぎっしりと破壊力増強添加剤(ブーストパウダー)と称される超微細粒子が封入されており、これを核爆発直前に高速散布し、『宇宙空間に極めて狭い範囲に極短時間だけ()()()()()()を生み出し、可能な限り大気圏内爆発に近い熱や衝撃波の伝播を再現させるという方式になっている。

余談ながら、より効率的な伝播を行う微細粒子開発の中で生まれたのが、かの有名な『宇宙でも使える気体爆薬』こと”ゼッフル粒子”である。

 

まあ、長々と宇宙時代の核兵器の話をしてしまったが……つまり、何が言いたいかと言えば、

 

「これは、壮観あるいは絶景と評するべきかな?」

 

約1000隻の艦が犇めく敵集団に撃ち込まれたのは、平均1隻あたり6発の多弾頭ミサイルの投射。

アバウトな計算だが、YS11特務護衛船団が大体500隻。多弾頭ミサイル1発につき、12発の自立誘導型多段階水爆弾頭が搭載されてるから、3000発×12発=36000個の100メガトン水爆の極彩色の花が宇宙に輝いた。

まあ、動作不良を起こしたり、炸裂前に撃墜されたり無効化した数も多いから全てではないだろうが、それでも万を下ることはないだろう。

 

その光景は、なぜか人間の原初の感情を呼び起こすような妖しい煌めきで……あるいは、人の命が無残に摩耗されているからこその美しさかもしれない。

 

「だとすれば、人は何とも業の深い生き物だね……」

 

(でも、見とれている場合じゃない)

 

確かに爆発だけでなく、本来不可視であるはずのビームやレーザーが微粒子や破片、宇宙塵やガスを帯電発光させてカクテル光線のように宇宙を彩るさまはなかなかに見応えがあったが、今は残念ながら戦闘中だ。

 

ヤン・ウェンリーという男は知っている。

例えどれだけ劣勢であっても、死中に活を求めようとする勇者は、どんな場面でも必ず存在することを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

唐突だが、どんな時代にも勇者という者はいるものだ。

例えそれがどれほど愚考だと分かっていて、それに挑むのが勇者という者だろう。

 

ふむ。ラインハルト・ミューゼルだ。

戦闘中ゆえに、ネタは割愛させてもらうぞ?

 

「あ、あの、ラインハルト君、余裕の表情してるけど巡航艦が駆逐艦引き連れて突っ込んできてるんだけどっ!?」

 

「慌てるな馬鹿者。それと戦闘中はせめてミューゼル大尉と呼べ」

 

まあ、アヤにとっては初めての実戦だ。大目にみよう。

実際、巡航艦1隻に率いられた10隻程度の小戦隊が混交とした戦場を強引に抜けて、大回りしてヤン先輩の輸送艦部隊に接近しつつあるのは事実だ。

中佐四人が率いる艦隊は、正面の集団を食い散らすのにかかりきりで、手が空いてる様子はない。

 

(まあ、そういうのを対処するために俺たちみたいな遊撃……直掩隊がいるんだがな)

 

大きな集団から飛び出し、一か八かの特攻じみた攻撃を試みる奴は珍しくもなんともない。

当然、そういうのに対処するドクトリンもあるわけだ。

 

「我が指揮下にある全駆逐艦に告ぐ。我が艦のデータリンクによる我が艦への同調砲撃を再チェック。案ずるな。訓練通りに撃てば否でも命中するし、当たれば沈むのが道理だ」

 

前にも言った、ヤン先輩じゃなくて”別の世界のヤン・ウェンリー”が得意としていた「艦隊統制一点集中砲撃」を参考に、小水雷戦隊用にアレンジした”機動統制一点集中砲撃(ピンポイント・フォーカスショット)”を覚えているか?

 

本来なら高度な艦隊運動やら照準やらの技量がいるが、とてもじゃないがアレを再現するには訓練時間が足りない。

そこで応用したのが、データリンクと艦載電子/量子機器(シプトロニクス)だ。

 

同盟の電子/量子機器っていうのは、帝国のそれと比べて一世代は確実に先行している。

それこそ、各種センサーや通信機器、更には演算処理の中核である最先端で軍機の光量子ニューロチップから民生品からの転用であるバイオニューロチップまで優位性があるくらいだ。

 

俺はそれを利用した。

つまり、俺の艦の照準データに麾下各艦の射撃統制装置(ファイアコントロール)をリンクさせ、相対位置や各種差異を補正、同調させて主砲の一斉射撃を行うというものだ。

簡単に言えば、『10隻の駆逐艦が各自砲撃を行うのではなく、あたかも駆逐艦10隻分の火力を持つ船が単一目標に向かって全門斉射する』という状況を疑似的に作るわけだな。

 

勿論、口で言うほど簡単にできるわけじゃない。だが、幸い駆逐艦が同盟の中でも最も新しく制式化した艦種(つまり最も設計が新しい)で、中でも俺の乗る”イナヅマ”は最新鋭と言っていい。

当然、搭載する機材も最新型だから、こういう無茶も利く。

 

「俺の前に立った勇気は褒めてやる……!」

 

(だが、無謀だ!)

 

「ファイエル!!」

 

おっと。思わず帝国語が……って誰も気にしてないから良いか。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「うそぉ……巡航艦があんなにあっさり沈むっ!?」

 

レーザーをしこたま喰らって轟沈した帝国巡航艦を見て、何やらアヤは驚いてるが……

 

「普通は沈むだろ」

 

ああ、そうか。

常識的には火力で劣る駆逐艦が、防御も攻撃力も勝る巡航艦を相手取るのは一苦労だと言いたいのか。

 

これは別段不思議な事じゃない。

何度か触れたが、同盟の駆逐艦は帝国の同族とは全く設計思想が違うのだ。

 

ヤン先輩曰く『巡航艦から艦載戦闘艇(スパルタニアン)の運用能力とか、指揮管制能力とか砲撃に必要ない能力を全て削り落とした純粋な砲撃特化型の船。”宇宙(ソラ)翔けるレーザーランチャー”』というのが同盟の駆逐艦だ。

故に1門あたりの威力が僅かに劣るだけで、主砲の射程は巡航艦に比べても見劣りしない。

 

そういう性能が求められたからこそ、大気圏内への離発着装備が不要な分、同じ艦種なら帝国の同種に比べて小振りなのが一般的な同盟戦闘艦の中の例外、帝国駆逐艦より大きな図体を持つに至ったのだ。

 

そして、普通正面を守る防御スクリーンは、『同じ艦種の主砲斉射に一度は絶対耐えられる』事が前提になっている。

巡航艦なら巡航艦、戦艦なら戦艦の砲撃に耐えられるように設計されている。

 

だが、前にも話した通りに、立て続けに喰らえば防御スクリーンだってオーバーフローするし、更に言えば同種の船以上の……巡航艦が戦艦の砲撃を喰らえば、一発でオーバーフローする。

 

要するに、俺がやったのはその再現だ。

駆逐艦1隻の砲撃で敵の防御スクリーンが破れないのなら2隻分、それでもまだ足りないのなら3隻分、4隻分と当てればいい。

重要なのは、1門あたりの威力ではなく防御スクリーンに命中したエネルギーの総量だ。

 

(でかいハンマーで叩くだけが能じゃない。無数の小さなハンマーで同時に叩けば壁も崩れる)

 

「アオバ大尉、惚けてる暇はない。さっさと慌てふためく駆逐艦(こもの)を仕留めるぞ……!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

ふん。やはり戦場はいいな……

この空気はやはり肌に合う。

 

宇宙(ソラ)よ、俺は帰ってきた……!」

 

「ほぇ? ラインハルト君、何か言った?」

 

「戯言だ。気にするな……それと最低でもミューゼル大尉だ」

 

「もう……厳しいなぁ」

 

「任務中の公私混同は感心せんぞ?」

 

「はぁーい」

 

ったく。しょうがない奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

宇宙での核兵器使用に頭ひねらせて末のオリ設定です(^^

そして、黄金獅子の片鱗を魅せるラインハルト様ですが……なんか、やっぱ最後はイチャついてる?(笑


追記
過去にないくらい誤字の嵐でした(^^
皆様、誤字報告ありがとうございました!
やっぱり、時間がない時に強引にアップは駄目ですね(反省

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