金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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今回はサブタイに偽りなしの帝国サイド、そしてまたしても初登場原作キャラが……(^^





第070話:”銀河(帝国)初老列伝 ~銀老伝、爵位持ちになろうが苦労するのは変わらない”

 

 

 

さて、舞台は再び変わり銀河帝国番外地、イゼルローン回廊同盟側出口付近、アルテナ星系……

イゼルローン要塞で飲むコーヒーは、苦い。

 

「貴殿らは、行かないのか?」

 

それは答えがわかりきった質問というより確認の言葉だった。

意気揚々とイゼルローン要塞を出港する貴族率いる艦隊……貴族達が勝手に名付けた名称で言うなら”ヤン・ウェンリー討伐艦隊”、2ルーチン分の3000隻、実にイゼルローン要塞駐留艦隊の2割が出港する様をイゼルローン要塞駐留艦隊司令本部の巨大立体投影ディスプレイを見ながら、ロマンスグレーなお髭がダンディーなナイスミドル末期……

”ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ子爵大将”は、チベットスナギツネのような苦く乾いた表情でその様子を眺めていた。

 

「ええ。我々には、特に慌てて爵位を引き上げる理由がありませんので」

 

そう珍しく敬意を払って答えるのはオスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ伯爵少将に、

 

「今更、領地が増えたところで管理が面倒なだけですしねえ」

 

といつものように軽薄に笑うアルフレット・フォン・ランズベルク伯爵大佐。

 

「そうか……」

 

そう短く返すメルカッツの胸に去来するのは虚無感だった。

メルカッツは、若き野心あふれた貴族たちがこのような軽挙妄動に走る遠因は自分や、かつてはお互い距離があったが同じ職場で働くようになって意外と共通点が多く意気投合、今や良き飲み友達となった現イゼルローン要塞司令官である”グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー子爵大将”にもあると思っている。

 

そう、自分もミュッケンベルガーも()()()の戦争貴族』なのだ。

ミュッケンベルガーは伯爵家の次男、自分は子爵家の三男……帝国開闢から続く名門軍人家系とはいえ、本来なら貴族という地位だけで家督(=爵位)を継ぐことはかなわないはずだった。

 

だが、その武功がフリードリヒIV世に認められ、二人そろって大佐昇進時に男爵位が、正規艦隊を率いれる中将昇進時に子爵位が与えられたのだった。

そういう経緯もあり一時は二人はライバルと目され、周りの目を気にし長く腹を割って話し合う機会はなかったが……前述の経緯や、互いに切磋琢磨を厭わない、帝国貴族には珍しいタイプの質実剛健な気質なせいもあり、現在のような関係になったのだ。

 

爵位を持てなかった貴族が、戦功天晴也(あっぱれなり)という理由で爵位と領地が皇帝よりの恩賞として与えられた最初の実例……そして、戦功認められれば最下爵位である男爵でなく子爵への昇位があると示してしまった世代……

 

だからこそ、爵位を家督を継ぎたくても継げなかった貴族(もの)達は野心(ゆめ)を見る。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

豪腕帝”フリードリヒIV世”は、カストロプのような一部の例外を除き、領地持ちたる封建貴族には古式ゆかしい責務と役割を義務として課している。

ステレオタイプの帝国貴族がよく言う、『帝国(あるいは皇帝)の藩屏(はんぺい)』としての役割だ。

そして、フリードリヒIV世は有言実行を好むとされている。

何度か出てきた『貴族の責務を果たさぬ(=自ら戦おうとせぬ)貴族は貴族に非ず』だ。

 

フリードリヒの定めた非貴族は『参内不要』の一言で、議会が未だに永久解散中である為に宮廷政治が一般である銀河帝国における政治的発言権を完全に封殺、それに少しでも不平不満を現すようなら『叛意あり』とされ、容赦なく取り潰された。

そして、取り潰し接収した貴族の領地や財産を、新たに男爵なった者たちに分け与えた。

 

このような状況、もし原作と呼ばれる世界なら貴族の総スカンを食らいそうだが……実はその政策を大絶賛して積極的に協力したのが帝国の二大門閥、ブラウンシュバイク公爵家とリッテンハイム侯爵家だ。

 

前にちらりと触れた気はするが……実は両家現当主のオットー・フォン・ブラウンシュバイクとウィルヘルム・フォン・リッテンハイムIII世は、結婚前の若い頃に艦長→分艦隊の提督として前線に立ち(今のマールバッハ伯のような感じ)、自由惑星同盟軍相手に、あるいは国内の謀反貴族相手に大きな戦果を上げている。

 

その時に補佐したのが、同じく若き日のメルカッツやミュッケンベルガーだったりするのだが……

 

その戦功あらばこそ二人はフリードリヒの娘を娶ることができ、その婚姻と皇帝家の威光を原動力に飛躍。今の大門閥としての権勢を築いた。

例えば、オイゲン・フォン・カストロプ公爵が前出の銀河帝国財務尚書という国家屈指の要職に就くにもかかわらず、爵位が低いリッテンハイムより貴族として軽く低く見られるのは、(ひとえ)にこの従軍経験の差だと言われてる。

 

実際、カストロプは不正蓄財で貯めに貯めた総資産ならブラウンシュバイクもリッテンハイムも上回る。

だが、その門閥はあるにはあるが、両家に比べるとずっと小さい。

それは彼の行動ゆえの人望/声望のなさも確かにあるが、やはり今の帝国の価値観にはそぐわない『戦一つ満足にできない腰抜けのヘタレ』と他の貴族に思われていることは大きいだろう。

今の銀河帝国は、金の力だけで全てどうにかなるほど甘い国家ではない。

また、それに起因してカストロプが「皇帝に好かれてない」という噂がまことしやかに宮廷を巡っていた。

 

 

 

だからこそ、親から何も継げないハングリーな貴族は、一縷の望みにかける。

平民でも所定の武功を上げれば、一代限りの名ばかり貴族ではあるが、”銀河帝国騎士(ライヒス・リッター)”になれる。

そして、最下位のライヒス・リッターになってしまえば最下層とはいえ貴族であり、武功が認められれば爵位持ち……男爵になる権利があるのだ。

 

生まれながら貴族……選ばれた自分たちなら、機会(チャンス)さえあれば平民たちなぞよりずっと立派な男爵になれると。

まこと自分勝手な選民思想だが、帝国貴族にとってはデフォルト的な考え方だ。

ステレオタイプの帝国貴族は、無条件で自分達が『平民より遥かに秀でた選ばれた人間であり、皇帝から特権が与えられるのは当然至極』と考えている。

そんな考え方が浸透し蔓延してるからこそ彼らは、自己評価が不当というより法外に高く、その裏返しで自由惑星同盟を無駄に見下していた。

 

この世界線において、確かに自由惑星同盟市民(リベレーターズ)は奴隷の末裔ではない。

だが、所詮は平民なのだ。

しかも、偉大なるルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの大いなる恩寵も理解できずに国を飛び出るという暴挙だけでも許しがたいのに、数百年の時を経たというのに慈悲深くも銀河帝国の威光にひれ伏し(こうべ)を垂れる栄誉を与えたのに、それすらも断り銃を向けてきた愚か者とその末裔だ。

まさに”叛徒”と呼ぶに相応しい。

 

そもそも、彼らの価値観なら平民が高貴なる貴族に反旗を翻すことこそ、許されざる大罪なのだ。

平民とは、(ひざまず)き許しを請うことしか許されない生き物なのだから。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

……とまあ、こんな根拠もへったくれもない唾棄すべき考え方を心底危険視する貴族は、帝国にとって幸いにしてと言うべきか?決してごく少数という訳ではない。

例えば、一度でも自由惑星同盟軍と戦い、勝敗に関わらず痛い目を見た貴族は、少なからず意識を切り替える。

でなければ、早々に同盟軍にハチの巣にされるだろう。

いわゆる『わかっている奴はわかっている』のだ。

無論、マールバッハ(ロイエンタール)やランズベルクのように歴史から学び、賢明にも最初から舐めプしないで対峙する者はいるがそれは少数派、大半の人間とは痛い目をみないとどうにもならない生き物だ。

 

「どのくらい生き残るか……」

 

メルカッツには、ある程度の未来予想はできていた。

だが、かと言って無理に止めるわけにもいかない。

銀河帝国軍には、階級だけでなく貴族の身分という順列がある。

何より、『メルカッツ子爵やミュッケンベルガー子爵のようになりたい』と遠回しに、されど声高に叫ぶ年若の貴族を止めるのは、どうにもはばかられた。

 

更に嘆かわしいのは、そのように貪欲に戦果を勝ち得なければ未来のない貴族だけでなく、爵位の継げる嫡男の身でありながら『箔付け』の為に出兵してるものも少なからずいるのだ。

 

「半分でも生還できれば御の字ではないですか?」

 

メルカッツの苦悩を察してはいるが、だからこそ的確な数字を返すマールバッハに、

 

「できるだけ間引きしてくれると手間がなくていいよねぇ~。誰がとも、どっちがとも言わないけど」

 

率直すぎる感想を述べるランズベルク。

そんなランズベルクを見ながら、メルカッツはため息をつき、

 

「ランズベルク伯爵」

 

「なんでしょう?」

 

「私とミュッケンベルガー子爵の連名で、卿の昇進申請を本国に出しておく。卿の実績と爵位ならすぐに少将位が認められるだろう」

 

「それはそれは」

 

楽しげに笑うランズベルクに、

 

「昇進次第、1ルーチン1500隻の再編と掌握を」

 

”ヤン・ウェンリー討伐艦隊”とやらは、理路整然とした通常1500隻1ルーチン小艦隊×2で出撃したわけではない。

我も我もと出撃に挙手する貴族たちに、『最低限の巻き添え』を付けたらこの数になっただけだ。

別の言い方をすれば、イゼルローン要塞駐留艦隊が許容できる被害の上限値と言っていい。

メルカッツとしては、軽挙妄動に走る貴族だけを生身で真空に放り出したかったが、立場上そういうわけにもいかないのがつらいところだ。

おかげで、『彼らが戻ってこないことを前提に』駐留艦隊を再編せねばならなくなった。

 

「畏まりましてでござ(そうろう)

 

重くて苦いメルカッツの言葉にランズベルクは恭しく一礼した。

 

 

 

果たして銀河の歴史は、どう転ぶのか……?

とりあえず、メルカッツはせめて頭痛の種が減ることを心の片隅で勝利の女神(フレイヤ)に願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

現在、休止中の”金髪さんのいない~”でもですが、何かと優遇されるメルカッツさんの初登場です(^^

帝国側に金髪さんがいない以上、腕のあるベテランと有望な若手が手を組まないと、なんか将来的に帝国詰みそうですからね~。

なので、メルカッツとミュッケンベルガーは関係の大幅改善した上に昇進速度上昇、爵位付与、『現在の帝国の双璧』的な立ち位置になってもらいました。

多分、メルカッツ/ミュッケンベルガーコンビが居座る時代が、おそらくイゼルローン要塞が『最も硬い時代』なのでは?と考えています。


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