金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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第55話、ゾロ目記念という訳ではないですが、久しぶりに”もう一人の主人公”の再登場です(^^




第055話:”Weekly Sentence Summer それを和訳すると……”

 

 

 

何やらひどく久しぶりの気もするが……ラインハルト・フォン・ローエングラムだ。

すまん。素で間違えた。

同盟宇宙軍大尉、現在駆逐艦”イナズマ”の艦長を務めるラインハルト・ミューゼルだ。

 

現在、俺はヴァンフリート星系近海にいる。言うならば、同盟のイゼルローン・サイド最外縁だな。

何しろこの先、イゼルローンとの間にあるのは、同盟と帝国双方が領有権を主張する係争地、会戦のメッカであるティアマト星系しかない。

 

こんな事情で、例え栄光曇ることなき同盟市民(リベリオン)とはいえ、胸を張って同盟領と言えるのはこのヴァンフリートまでだろう。

 

こんな僻地としか呼びようのない場所にはいるが、俺としては気分の悪いものではない。

駆逐艦とはいえ、艦長室にいるのだから当然と言えば当然か。

 

だが、俺の待遇や立ち位置、階級を抜きにしても今日は俺が上機嫌になる理由があった。

 

「クククッ! 流石は先輩(ヤン)、投げたブーメランの刺さり方まで実に見事だ」

 

「ラインハルト君……?」

 

と怪訝な顔で覗き込んでくるのは、アヤ……ああっ、俺の副官を押し付けられたアオバ・アヤ大尉だ。

なんで此奴が俺の部屋に居るのかと言えば……まあ、毎朝(正確には朝と設定された時間だな)に俺の部屋でコーヒー飲みながら小ミーティングを行うのが日課になってしまったからだ。

手間が省けるので、コーヒーだけでなく一緒に朝食を運ばせてるが。

 

一応、言っておくがガチな戦闘時でもなければ、豪華とは言わないが普通の食事くらいするぞ?

普段からカロリー補充が最優先で味など二の次三の次な戦闘糧食(Cレーション)など齧っていたら、それこそ目も当てられないほど士気は低下するだろうな。

 

前世(?)の俺がどうだったかは知らんが、今の俺は決して食事を軽んじない。

基本、色気も味気もない灰色の前線勤務において、食事は立派な娯楽だ。軍艦の中じゃ給料の使い道なんてないから、唯一の楽しみが食事なんて兵士は珍しくもない。

軍隊に限った話じゃないが、労働者の福利厚生を軽んじる組織は長持ちはせん。

 

それに前線に生きる軍人の心得は、食える時に食い、休める時に休む。鋭気を養い、いざ戦いのときに最高のパフォーマンスが発揮できるようにすることだ。

我が義兄曰く古今東西、軍人を一番殺してるのは敵の弾丸ではなく疲労なのだからな。

 

まあ、大分話が逸れてしまったが……

 

「どうしたの? 突然笑いだして?」

 

()()、この記事を見てみろ」

 

俺は軍の福利厚生の一環、個人端末に配信されるマルチメディア・ホログラムを見せる。

ああ、言っておくが他人の目があるところでは呼び方は、未だに”アオバ大尉”のままだぞ?

公私混同は宜しくないだろうからな。

 

「えーと、何々……”Scooop!! ヤン・ウェンリー、臨時昇進! 軍の極秘作戦の前触れかっ!?”って……ナニコレ?」

 

「ニュース・ソースを見てみろ」

 

中々に興味深いぞ?

 

「えっと、えっ? ”Weekly Sentence Summer”?」

 

「ああ。アヤなら当然知ってると思うが……同盟政府に属する諜報組織の出先機関とも、同盟の暗部につながるとも(まこと)しやかに囁かれているメディア・カンパニーだな」

 

自己申告ではあるがアヤの専門はメディア戦略だ。この辺りの事情は俺より詳しいと思いたいが……

 

「それはもちろん知ってるけど……えっと、これって前にラインハルト君がリンチ中将に提案した作戦の、その……補強? 支援? それとも攪乱?」

 

どうやら、思ったよりも話が通じるようで何よりだ。

 

「補強、だろうな。情報操作だけで”ヴァンフリート4=2に基地設営”を信じさせ、イゼルローン駐留艦隊を誘引するというのが、おそらくだが後方の何者かが、それでは不十分だと考えたんだろうな」

 

「何者? グリーンヒル准将とか? 確かに国内の情報操作戦は得意だけど……」

 

なるほど。

俺の”()()()()()()()”にある、『同盟に(とど)めを刺したクーデターの首魁』は、今は情報部にいるのか。

まあ、そのクーデターもリンチ中将(ロック親父)を俺がそそのかして起こしたようなものだから、悪し様には言えんが。

 

 

 

それはともかくアヤの口ぶりだと、”世論操作による大衆の思考誘導”が得意のようだな。

 

(ってことは、防諜部門。帝国の情報収集や分析よりカウンターインテリジェンス寄りということか……)

 

どちらにせよ阿呆ではなさそうなのは、喜ぶべきことだろう。

 

(ん? グリーンヒルと言えば、どこかで接点があったような……?)

 

ああっ、そうか。

エル・ファシルの、

 

「コーヒーとサンドイッチの娘か」

 

「ラインハルト君、コーヒーならおかわりあるけど……サンドイッチ食べたいの? 朝ごはん足りなかった?」

 

「いや、十分だ。コーヒーはお代わりをもらおう」

 

ヤン先輩は「コーヒーなど泥水」と(のたま)う罰当たりな圧倒的紅茶党だが、俺はダントツにコーヒー推しだ。

そもそもシロン産の茶葉を尊ぶのに、同じシロンの特産で赤道付近で採れるエメラルドマウンテン(コーヒー豆の銘柄だぞ?)の旨さがわからんとは全く嘆かわしい舌だ。

ロースト具合は中煎りが特に好みだ。

 

「それとさっきの話だが、今回の補強作戦の立案者……その絵を描いたのは、おそらくグリーンヒル准将じゃないぞ?」

 

「えっ?」

 

「准将は関わっていそうだが、多分デザインしたのは我が麗しき義兄(あに)上(予定)……ヤン・ウェンリー大尉改めヤン・ウェンリー()()殿だろうな」

 

 

 

上手くは言えないが……今生と前世という言い方もおかしいが、その二つの時間を合わせてそれなりにヤン・ウェンリーという男を知った俺は、ある程度は先輩の考えや思考/行動パターンがわかる。

 

なんというか、『ヴァンフリート4=2の基地設営に説得力を持たせるため、実際に艦隊を用意し動かす』ことや、それを『意図的に情報リークさせる』というあたり、実に先輩らしい思考と趣向、言い換えれば”思考的()()()()を感じるのだ。

 

(そう、たとえ相手が欺瞞と見抜いたとしても、実際に護衛船団がヴァンフリートに来る以上、帝国はどうあれ動かざる得なくなるあたりが特に)

 

無論、俺がライバル視していたヤン・ウェンリーと、士官学校からの付き合いがあるヤン先輩は、()()()()()全くの別人だ。

だが、矛盾してるように聞こえるかもしれないが根幹の部分は、そう大きな違いはないと思う。それこそ同一人物であると言い切れる程度には、だ。

 

歴史の異なる二つの世界が存在すると仮定すれば、二人のヤン・ウェンリーの相違点で最大の差異は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

究極的に言えばそれだけだ。

 

(先輩のことだから、上手く丸め込まれて立案した計画に組み込まれたのだろうな……そして、自ら先陣切る位置に座らされたってとこだろう)

 

先輩は優男の見た目を裏切らず、巻き込まれ体質な上に押しや力業に弱いからなあ。

立案求められて作戦案出したら、指揮官の地位とそれに相応しい臨時階級がブーメランのごとく返ってきて、脳天に突き刺さったと例えると、妙にしっくり来るから不思議だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

”Weekly Sentence Summer”、それを日本語に訳すと”週刊文夏”(笑)
どうやら、紙媒体から別媒体に主戦場が移っても、何やら大活躍なようです。

そしてラインハルト君、アヤちゃんとベッドを共にするまでには至ってないようですが、何やら距離感が……


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