久しぶりに書くと、驚くほど設定を忘れている事に驚きます(^^
(ど、どうしてこうなったんだ……?)
その日、ヤンは多大な困惑の中にあった。
グリーンヒル准将に呼び出されたその日のうちに、ヤンは”
そう、話題に出ていた”ヴァンフリート誘引作戦・補強案(仮称)”をレポートにまとめて可能な限り早く提出されるように申し付かったのだった。
アンネローゼ・ミューゼルという”愛し守るべき存在”と、
既に片鱗を見せ始めた才能を織り込んだレポートの内容を簡潔にまとめると……
・情報操作だけでなく、物理的な裏付けを添付することにより状況を明確かつ単純化できる。
・単純化の内訳は、「帝国の勝利条件は
・その思考誘導と固定化に船団だけでなく、マスコミを含めた『コントロールされた情報のリーク』を積極的に行う。
・そのような複数の方法をとることにより、帝国の行動を制限し、『彼らが望む形の”決戦”』を行う。
とまあ、こんな形だった。
このレポートを突貫で仕上げたとき、ヤンは思わず……
『これは戦術というよりむしろペテンの類だね』
と苦笑したという。
もっとも、その生涯においてアンネローゼやアシュリーをはじめとする見目麗しい女性たちと数多に繰り広げられた「ベッドの中の巴戦」以外は戦場で無敗を貫いたヤンの最も得意とするところは『思考誘導を巧みに使う心理戦』であったため、その才覚の開眼の一つがこのレポートなのかもしれない。
蛇足ながら付け加えると……マグロというわけではないが、ヤンが肉弾戦に弱いのは、この世界でも通じる真理の一つだ。
☆☆☆
強行軍なレポート作成で消耗した心と体をアンネローゼのバブみで癒し、何故か精神的にはフル充填ながら体力的には更に疲労した体を引きずるようにしてレポートを提出してみれば、
(どうして私が作戦会議に参加する羽目に陥ってるんだ……?)
今回の作戦、『実際に戦闘を行う作戦/戦術指揮』、言うならば”現場の指揮”は、リンチ中将に委ねられているが、側面支援としての色合いの強い『偽装護送船団』作戦は情報部主体に行われていた。
自由惑星同盟本国での情報操作も必要なためそれはヤンにも納得できた。
そう、そこまでは納得できたのではあるが……
「ヤン大尉、抽出する護衛艦群はどこから抽出し、どの程度の規模が適切だね?」
「第1艦隊より10隻少々引き抜きましょう。シトレ校長……いえ、シトレ
ここは
そう、ヤンはレポートを提出した翌日の朝、ミューゼル家に横付けされた黒塗りの車に拉致同然に詰め込まれ、連行されたのがこの場所だったという訳だ。
しかも参加する立ち位置は”作戦立案者”、語弊のある言い方ではあるが「言い出しっぺの法則」に則り連れてこられたということだ。
公的な身分ではヤンは大尉で軍大学の学生、正規軍人ではあるものの見習いのような立場だ。
原作の帝国侵攻作戦の時のような国家として政体として機能不全と状態異常を起こしているならともかく、紛い也にも現在の自由惑星同盟はそれなりに健全な国家運営を行っている。
無論、歴史上に存在したあらゆる国家のご多聞に漏れず、同盟にも当然のように闇も腐敗も汚濁も病巣もある。だが、少なくとも堅気の市民が日々の生活に怯えず、個人的な幸せを追求できる程度の社会安定度はあった。
そのような社会、あるいはそれを守る軍においてこんな横紙破りの一種のような事態は、流石に稀だ。
まあ、間違いなく全体ではないにせよ上層部の意向があるだろうが……ヤンは深く考えないことにした。
「なぜ、第1艦隊だね? 警備艦隊や地方艦隊もいるだろう?」
この作戦会議において議長を務めるグリーンヒルの言葉に、
「それらの艦隊は”エル・ファシル特別防衛任務群”に既に余剰戦力が抜かれてますからね。それに第1艦隊は首都防衛艦隊、ある意味練度は高くとも実戦からは最も遠い位置にいます」
同盟宇宙軍の顔ともいえる第1艦隊は、首都防衛を担うくらいだからエリート中のエリート艦隊とも言えるし、厳しい訓練に裏付けされた高い練度を誇るが……だが、同時に首都星系であるだけに大変宙域の治安はよろしく、実戦の機会が少ないのもまた事実だ。
それを是正するために定期的に各方面に戦隊ないし分艦隊単位で出向させて対帝国の小競り合いだけでなく海賊退治や星間テロリスト、密輸船の取り締まりなどの実戦経験を積ませているのだが、まあ中々にシトレも苦労していることだろう。
「それに」
「それに?」
「まだ船が水上限定だった頃の言い回しをするなら、『娑婆っ気を抜いて、潮気を入れる』という奴です。なので、第1艦隊より抽出した護衛隊旗艦になるそこそこの練度の巡航艦1隻に、他は練度の甘い駆逐艦を下から順にっていう感じが良いでしょう」
この時、ヤンは自分がどれほど……情報参謀として同席していたバグダッシュの背中に嫌な汗が滲むほど『静かに昏く獰猛な笑み』を浮かべていたのか自覚していなかった。
「ヤン大尉、輸送船の手配は?」
「動かせるのであれば、
そして少し思案してから、
「それでもすぐに使える船がないのなら、軍保有のそれでなくとも”急に決まった作戦”という名目で最悪、民間商船の徴用でも構いません。要するに獲物を釣り場に引っ張り出すための”
その冷酷とも言える物言いに、流石のグリーンヒルも窘めようとするが、
「ただしその場合は優秀な
ヤンは無駄な人死にを嫌う傾向がある。それが人道的感情に起因するそれなのかはわからぬが……いや、むしろ呆れるほど理詰めな理由のような気もするが、ともかくそういう傾向はあった。
それは『死に直面することが俸給の内』である軍人にとって、特に率いる側にとって非常に重要な気質であった。
感傷的になられて職務に齟齬が出ても困るが、少なくとも『部下や国民の死を統計上の数字にしか感じられない指揮官』というのは、同盟軍が市民軍の側面を持つ以上は好ましいものではない。
「君は若さのわりに中々に同盟軍というものを理解してるな」
「恐れ入ります」
だからこそ、珍しく人を褒めたグリーンヒルから口からこの言葉が出るのは必然であった。
「ではヤン大尉、君がその”
「はぁっ!?!」
驚愕するヤンを
「提案者であり、作戦を熟知した君こそが一番の適任だと思うが?」
読んでくださりありがとうございました。
前書きにも書きましたが、久しぶりの更新というのは難しいものですね~。
設定もさることながら以前の熱量とかノリが全く思い出せない罠。
しばらく小説自体を書いてなかったので以前のクオリティで書けてるか不安ですが、少しでもこの世界のヤンらしさ、ラインハルトらしさを出していければと。