いや~、スランプになってエタらなくてよかった(汗
ついにこのシリーズも第050話に到達しました♪
これも普段から応援してくださる皆様のおかげです。
蛇足ながら、この話を投稿直前に第40話からを第03章としました。
どうも金髪さんの戦いはまだ続きそうだったので。
(それにしても、こうも人材不足なのは困ったもんだ)
俺、ラインハルトは内心でぼやいてしまう。
(まさか、こうもあっさりと俺が10隻の指揮を任されるとは……)
☆☆☆
『
事の発端は、同盟のイゼルローン回廊への哨戒活動に業を煮やした帝国が、イゼルローン駐留の正規艦隊を小分けにして”明確な同盟領”への威力偵察を始めたことだ。
それが”帝国の面子と体裁を守るための、実のない示威行為”であることは同盟政府や軍は百も承知だった。
出てくるのは精々ヴァンフリート周辺までという行軍が、まさにそれを裏付けていたわけだが……だが、ついこの間”最前線の有人惑星”であるエル・ファシルに奇襲を喰らった同盟市民は、それでは安穏には過ごせなかった。
当然だろう。帝国艦隊の跳梁跋扈を許すなら、何のためにイゼルローン方面の艦隊を最大限まで増強したのか意味がわからなくなってしまう。
それに俺も同意するのだが……帝国貴族には何をしでかすかわからない怖さがあった。
何しろ宇宙時代に入って1000年以上経つのに真顔で「
民意の反映こそが民主主義の真骨頂である以上、それを政府は無視できない。
☆☆☆
そこでリンチ中将が決断したのが上記のセリフだ。
そもそも”積極的防衛”とはなんだ?という話だが……
クラウセヴィッツの戦争論などを紐解けば、戦争の本質は「攻撃ではなく防衛にこそある」そうだ。
特に「国や軍が積極的防衛に転じたときこそ、もっとも攻撃的な選択肢を取る」らしい。
一見すると矛盾してるし小難しく聞こえるかもしれないが……実は割と単純な考えだ。
これを説明する前に、ひたすら防衛戦に徹するのが”専守防衛”という概念を理解してるとわかりやすい。
どういう事かと言えば「領海内に入った艦隊を迎撃する」のが専守防衛なら、「敵艦隊が軍港にいる時点で港ごと叩き潰す」のが積極的防衛ということだ。
そして、この積極的防衛を拡大解釈したのが、人類史上何度も行われてきた”予防戦争”だ。
これなんかすごいぞ? 何しろ「攻められる前に攻めてくる可能性のある国を叩き潰せ」だ。これを人間に置き換えるとさらにとんでもない発想になる。つまり、「相手は銃を持っている。俺を撃つかもしれない。だからホルスターから銃を抜く前に撃ち殺そう」となる。
だが、もう一度よく考えて欲しいのだが……これだけ乱暴な発想である予防戦争だが、あくまで本質は「潜在的脅威に対する排除と言う手段を用いた
攻撃されれば自国に甚大な被害が出る、だからその前に脅威自体を排除する……確かにその根本は防衛だろう。
だが、純然たる積極的防衛ならイゼルローン要塞を攻略せねばならない。実は過去4度行われ、4度とも惨敗したイゼルローン攻略戦は同盟なりの積極的防衛策だった。
当然、そんな阿呆な考えを自前の艦隊の現状やら規模やらを知るリンチ中将が行うわけもない。
彼は思考レベルを”一段階
結論から先に言えば、「イゼルローン要塞をどうにかするのではなく、あくまで帝国の威力偵察を中断せざる得ない状況に追い込むこと」を目的に作戦を発動させたのだ。
では、何をすれば中断するのか?
答えは単純で、”威力偵察を継続できないほどの損耗を与えればいい”だ。
だが、中途半端なダメージでは帝国は引きはしないだろう。
そして導き出された解答が、
『敵1個威力偵察艦隊(1500隻規模)の完全殲滅』
だった。
☆☆☆
全駐留艦隊の1割が損耗すれば、流石に面子がかかってるとはいえ帝国側も自重せざる得なくなる。
何しろそれを10回繰り返せば、比喩でなく要塞が丸裸になるのだ。
だが、帝国は貴族こそ未だに馬鹿が多数派だが、軍全体で言えば別に無能者集団でもなんでもない。そうやすやすと殲滅させてくれるはずもないのだ。
だからこそ、詭道……計略を練らねばならなかった。
当初、囮艦隊を出して足止めし、その隙にエル・ファシル特別防衛任務群の実働6000隻の全力で叩き潰す案も検討されたが……
『確実に勘付かれますよ? 特別任務群がエル・ファシル星域からいなくなれば、遠からずフェザーン・ルートで帝国は知ることになるでしょう。連中が同盟内に引いてる諜報網を甘く見るのは禁物です』
うん。わかってるさ。
この不用意な発言をしたのは俺だ。
だが、仕方ないではないか。どういう経緯や立ち位置でだかは知らないが、作戦会議に強制参加させられた上に意見を求められたのだから。
『ほう……ミューゼルはそう見るか?』
これは”もう一つの人生を生きた俺”の経験則だ。
フェザーンはこの時代、バランサーに徹してはいるが、現状はあの世界と違って同盟は国力差の関係から有利と言って差し支えないだけの余力を持った状態にある。
ならばフェザーンの動きは、「帝国が負け過ぎない状態を維持」させ、「事あるごとに同盟が負けすぎない程度に帝国に情報を流し恩を売る」となっていることは容易に想像が付く。
当てずっぽうではない。物証こそないが状況証拠ならいくらでもある。
例えば、俺自身が体験した”アルトミュール星系の遭遇戦未遂”もそうだ。
あの時はたった1発の新型機雷が誤作動を起こしたからこそ難を逃れたが、そもそもあの日あの時にあの場所に、”何故、帝国が俺たちが来ることを正確に察知できたか?”が思い切り怪しい。
同盟のパトロール・ルーチンが読まれた可能性はあるが……機雷敷設に待ち伏せのコンボから考えて、偶然はありえない。
なら、むしろ「俺たちの行動ルーチンとスケジュールを漏洩した者」を疑うのは当然だろう。
それに言いたくはないし、誰にも現状では言えないが……軍や政治家の間にさえ、どれだけ”地球教徒”が紛れ込んでるのか俺にも見当が付かない。
連中は深く静かに、誰にも気づかれぬように浸透するのに長けている。
同盟は”政教分離”の基礎理念があると同時に”精神/思想/信教の自由”も建前としてでも掲げている。
地球教徒であるという理由で、連中を排斥するのは難しいだろう。
”もう一つの人生”を生きた俺の記憶を持つからこそ、連中の危険性と本性を言えるが、普通の同盟市民はそこまで深刻に考えてはいない。
ただ、救いがあるとすれば”地球教=得体の知れないカルト宗教”、”フェザーン=
『では、どうすればフェザーン、いや帝国を欺ける?』
『まず、
『続けろ』
『然る後、こう発令するんですよ。「帝国の威力偵察を警戒するため、200~300隻編成の小戦隊を大幅に増強する」と』
リンチ中将はにやりと笑い、
『つまり”異なる理由で分散出撃させ、決戦の地で合撃させる”か?』
俺は頷き、
『ただし、この方法で誤魔化せるのは、せいぜい2000隻、多くても2500隻でしょう。艦隊の全戦力の半分近くを出撃させれば流石に不自然です』
『面白いな……で? どこに
『ヴァンフリート星系へ。艦隊を伏せさせておくには打ってつけの宙域です』
まあ、これはかつて知ったるなんとやらだが。
『餌は?』
『小戦隊の任務の一つに、”ヴァンフリート4-2に無人観測所の設営”を加えれば十分かと。勿論、そんな機材は艦隊にはありませんが、それを帝国は知らないでしょうし』
おそらくフェザーンに情報を流してるのは艦隊の人間ではなく、艦隊からの情報を受け取る側。
当たり前だが、基本、通信が制限される艦隊から直接情報を流すのは物理的に難易度が高すぎる。
艦隊の人間がエル・ファシルに休暇で降りた際に現地に紛れ込んだスパイに情報を手渡す可能性もあるが……リスクも高ければ、タイムラグが出過ぎるのだ。
俺の考えを察したらしいリンチ中将は呵呵大笑し、また参謀団も人悪い笑みを浮かべていた。
いや、今更だが……やはりこの任務群も”ロック親父のカラー”に染められつつあるな。
『ミューゼル、作戦立案の功績を認め、お前に褒美をやるよ』
いきなり何を言い出すかと思えば、
『現状での昇進は野戦任官でも難しいが……そうだな、とりあえず駆逐艦10隻をお前に預ける。存分に使ってみせろ』
評価されるのは嫌いじゃないが……いいのか? それで?
ふと思う。
(もしかして、俺はフラグを立てまくってないか?)
そこ。今更とか言うな。
金髪さん、思わず才能の片鱗を魅せてしまった回でござる(^^
本人はきっと「やっちまったZE!!」って気分なんでしょう。
実際、姉上が安泰な現状では、ラインハルトは別に無理な出世をする気はまったくないんですよ。
あるがままの自分、望むままの自分……そしてそう行動した結果、いきなり駆逐艦10隻の指揮を投げられてしまったと(笑
でも10隻で済ますあたり、リンチ中将の優しさか?