金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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今回は久しぶりに、ちょっと別の視点からです。
今回登場するのは……





第044話;”戦争貴族”

 

 

 

アルトミュール恒星系、アステロイド・ベルト内、銀河帝国標準戦艦”リルケ”

 

「あはは~。これはやられてしまったねぇ」

 

アドミラル・シートでむしろ朗らかに微笑むのは、今年二十歳となり爵位を家督とともに継承したばかりの温厚そうな青年、”アルフレット・フォン・ランズベルク”伯爵帝国大佐だった。

二十歳と言えばまだ士官学校を出たばかりだろうが、もう大佐の地位にあるというのは流石は貴族と言うべきか?

それにしても、まだ着慣れてないせいかやはり軍服があまり似合ってないように見える。

 

ちなみにこの座乗している戦艦は彼の持ち船であり、ネーミングはランズベルク自身で行った。

艦名は、おそらく彼が敬愛する古の詩人”ライナー・マリア・リルケ”から拝借したのだろう。

 

「まさかこうも簡単に”狐狩りの罠”を見破られてしまうとは。叛徒達も中々にやるもんだよ。いや、ここは敬意を表して”同盟軍”と呼んだ方がいいのかな?」

 

と彼は隣に立つ、正規軍人……中佐の階級章をつけた男に問いかける。

 

「伯爵様、お戯れを。立場をお考えください」

 

「やれやれ、()()()()()は堅いなぁ。君は私の家臣という訳でもないんだ。もっと気楽で構わないよ」

 

そう、驚いたことにランズベルクの副官を務めるのは、かの芸術家提督(現在はせいぜい”その卵”と言ったところだが)と名高くなるであろうエルネスト・メックリンガーであった。

 

実はこの世界においてはメックリンガーとランズベルク家の付き合いは長い。

それこそ、まだ少年と呼べる時代のメックリンガーがとあるローカル作品展に出品した水彩画が少年の部で金賞を取り、その作品が先代ランズベルク伯の目に留まり(領内で開かれた展覧会だった為に視察に来ていた)、伯が気に入り援助を約束したところからはじまる。

とはいえ、自分が画家一本で食っていけるほどの画才は無いことを自覚したメックリンガーは、援助の恩返しもかねて軍人を目指すことにした。

 

なぜ、軍人なのか?

もしかしたら、メックリンガーにはランズベルク家お抱え絵師としての未来があったのかもしれないが、アルフレットの未来を案じたのだ。

 

 

 

実は原作と明らかに異なる風潮が、銀河帝国で生まれていたのだ。

それこそが、”豪腕帝”……次期皇帝の座を巡って争って凌ぎを削っていた兄と弟を”二虎競食の計”に陥れて始末し、昼行灯のふりをしていつの間にかリヒテンラーデ家、ブラウンシュバイク家、リッテンハイム家などを味方につけそ知らぬ顔で即位した”フリードリヒ四世”が提唱したそれは、

 

”戦争貴族”

 

と呼ばれていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『貴族が神聖なる帝国の藩屏だと言うのなら、その与えられた特権に相応しい”威”を示してみせよ。武器を取り、自ら前線に赴き兵を鼓舞する。それが正しき貴族のあり方と言うものよ』

 

それが帝位に座したときのフリードリヒ四世の宣言だった。

それに真っ先に反応したのは、まだ当主になる前の……若き日の現ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯だった。

彼らは積極的に帝国軍本隊に指南を求め、驚くべき速度で自家の私設艦隊を精強な部隊へと作り変えた。

 

そして決して大きな戦いではないが、同盟軍との戦いに勝利し威を示した。

この功績により、褒賞として二人の大貴族はフリードリヒ四世の娘を娶ることが許され、”二大門閥”の権勢を確固たるものにしたのだ。

 

こうして、現皇帝は『武威こそを最も重んじ、貴族にそれを求める』という風潮が生まれたのだ。

そしてそれは事実でもあった。

 

フリードリヒ四世は、出兵に消極的な貴族に対し地位や領地を奪うことは無かったが「参内するにあたらず」と事実上の絶縁状を送り付け、宮廷での発言権を封殺した。

また、それに反発する貴族たちには軍を差し向けるだけでなく、

 

『今こそ威を示す時ぞ。思う存分、その地位に相応しい武功を立ててくるが良い』

 

と貴族たちを討伐へと煽ったのだった。

また、武功を立てた貴族たちには取り潰した貴族の領地や財産を分け与えたり、また爵位を持たぬものには帝国騎士や低い爵位を与えるなど露骨な真似までしてみせた。

同盟の中にあるフリードリヒ四世を揶揄する言葉の一つ、”男爵量産帝”というのはこれに由来する。

 

『余の最大の娯楽は戦争よ』

 

そう語ったとも伝えられるが……

 

銀河帝国は良くも悪くも専制君主制国家であり、皇帝の影響力はあまりに強い。

かくて、先代までは貴族にとって帝国の藩屏を名乗る”箔付け”程度に過ぎなかった従軍が、自分の地位や名誉や財産を守る手段となり、あわよくばそれらを増やせる実利を伴うものとなった。

 

そんな風潮が支配的な時代に生まれたのが、アルフレット達の世代だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

メックリンガーは総領であるアルフレットが従軍する日に備え、芸術家としての道より軍人となることを選んだ。

その意を汲んだ先代ランズベルク伯はメックリンガーを手厚く支援し、またアルフレット自身もメックリンガーに懐き兄のように慕っていた。

実はアルフレットが詩を嗜むようになったのは、メックリンガーの影響である。

メックリンガーは、芸術方面に多才で絵画だけでなく詩や音楽も好む文化人としての側面も強い。

 

「さて、罠が露見した以上、いつまでも小惑星帯(ココ)に息を潜めてる必要はないってことだよね?」

 

「ええ。討って出ますか? こちらの方が艦数は優勢ですが」

 

現在、ランズベルクが率いてるのは、イゼルローン要塞に間借り駐留してる200隻のランズベルク家の私設艦隊だった。

前線任務と自家の艦隊練度上昇のために来たが、

 

「まさか。たかが倍程度の艦隊で、職業軍人の艦隊と正面から殴りあうほど傲慢じゃないよ。それが嫌で機雷をばら撒いておいたんだし」

 

そして彼は自分の艦隊の練度が戦争を遂行するには、まだまだ訓練を課さねばならないことをよく知っていた。

 

「賢明な判断です」

 

「ということで……全艦、”こちらの艦数を見せ付ける”ようにゆっくり前進開始! この恒星系は帝国のものだと示すようにね」

 

「悪くないですな」

 

「ゆっくりの前進じゃ、こっちの練度不足はバレないだろうしね。向こうだって、倍の数と殴りあうのは本意じゃない筈だろう?」

 

 

 

アルフレット・フォン・ランズベルク……「武威を示すことが貴族の誉れ」というフリードリヒ四世統治下の時代に生まれた若い貴族。

 

「やれやれ。これじゃあ、我が友”フレーゲル”に面白い土産話は聞かせられないかもしれないな。せっかく、新型機雷を融通してもらったのに申し訳ないよ」

 

ペンを握るよりナイフの握り方を先に習う世代、戦争に順応した新しい時代の貴族……”戦争貴族”の一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。いきなり登場のランズベルク君と芸術家提督さんでした(挨拶

今回は、まあ帝国側のテコ入れ回ってことで(^^
このシリーズでは、この二人芸術家師弟コンビみたいな感じでおねがいしやす。

”戦争貴族”は、単純に「ちゃんと戦争が出来る貴族」で、その走りというか手本を見せたのが、現ブラウンシュバイクとリッテンハイムの二大門閥オッサンコンビ。

大分前になりますが、ブラウンシュバイク公が通信でマールバッハ伯(ロイエンタール)に好意的だったのも、ここらへんが理由だったりして。


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