金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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ある意味、アンネローゼ様の戦闘描写(?)があります。
でも、別のシリーズと違い、戦闘系ヒロインではありません。




第017話:”銀河駆落伝説 あるいはとある偉業”

 

 

 

さてさて、ここは首都惑星ハイネセン、そのまた中心地であるハイネセン・ポリスの郊外。

瀟洒で小粋な住宅が軒を連ねる高級ベッドタウンだ。

 

銀河帝国貴族のような大邸宅や屋敷こそないが、同盟市民の平均年収から考えれば十分羨ましい物件が並んでいる。

イメージ的には二子玉川とかだろうか?の土地付き庭付き広々とした一戸建てって感じだ。

ちなみにこのエリアの地価は、今の日本に例えると平均坪単価200万円前後(最高値は250万を越えていたが)が相場らしい。

 

そんな一角にミューゼル家はあった。

新築ではなく中古物件であったが土地面積90坪、地上2階/駐車場や物置をかねた地下1階と家族4人で暮らすのに十分な広さがあるのに、2018年現在の日本の価値換算でたった2億円ちょいとかなりお買い得物件だったようだ。

はっきり言おう。

ミューゼル家はプチセレブと言っていい中々の富裕層のようだ。

 

どうしてそうなったのか?

実は複雑な事情があるわけでなく、爵位こそないが……というより男爵になれたのに母と駆け落ちするために全てを捨てて同盟に亡命した父セバスティアンが、自らの半生を手記として記したところから始まった。

 

日記のような感覚で書かれたそれは、セバスティアンにそこはかとなく文才があったせいか、ラインハルトにしても中々に面白い冒険譚だった。

ただし姉には、「冒険物じゃなくてラブロマンスよ!」と反論されたが。

 

どこで聞きつけたのか、これに目をつけたのが利に聡い同盟出版社”セントラル・ドグマ書店”が目をつけ出版を持ちかける。

印税が生活の足しになるのならセバスティアンは快諾。

ただし自分との愛の逃避行を赤裸々に語られた上に大衆に晒された妻クラリベルは「ばかばかばかばかばか!」と萌え系ぽかぽかアタックを敢行。

そのうら若き妻の顔を羞恥で真っ赤に染めた涙目にセバスティアンは嗜虐心をこれでもか刺激され一物勃起(あながち誤字に非ず)、妻どころか本人が気絶するまで全力斉射を続け、このときに建造されたのが同盟人となった新生ミューゼル家1番艦アンネローゼである。

 

 

 

さて、同盟亡命に際し貴族たる証のフォンを抜いて、晴れてセバスティアン・ミューゼルと名を改めたパパ・ミューゼル著の”銀河駆落伝説 ~俺は爵位より美少女を選ぶ~”と出版者の名前込みでどこかで聞いたことあるような、あるいはサブタイがラノベのような自伝は時代の持つ空気にマッチしていたせいか、あれよあれよと言う間に重版出来になりベストセラーの仲間入り。

 

この前触れもなく起こったブームに”亡命の促進と亡命者の懐柔による取り込み”を国策としていた同盟政府が暗躍。

新たなキャンペーン(あるいは対帝国プロパガンダ)として銀河駆落伝説を全面推し、社会現象(ムーブメント)化させてしまう。

そしてその人工的なブームは年単位で続き、コミカライズにはじまりドラマ化/映画化/アニメ化/ゲーム化と矢継ぎ早に次々にメディアミックス展開。

図らずも国をバックにつけたドグマ書店はウハウハのイケイケ、セバスティアンには印税がっぽがっぽである。

自由惑星同盟が人口240億人という巨大惑星国家連合、2018年日本の約200倍の規模を持つ膨大な消費市場(マーケット)であることを忘れてはならない。

 

ただし、ある意味純然たる被害者であるクラリベルはウルウルで上目遣い。

言うまでもなく程なくラインハルトがロールアウトされた。

 

 

 

子供も一女一男と出来たことだし作家として名も売れた。いい機会とキャッシュ一括で購入したのがこの邸宅と言うわけである。

それなんて山○エルフ?

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて現代日本では20畳のほどの広さをリビング、コニャックブラウンのコノリーレザー張りのソファに長い脚を組んで不機嫌さを隠そうともせずに、

 

「フン……」

 

鼻を鳴らすのは我らが金髪の貴公子、何気にジーンズとGジャンと言うラフな普段着姿のエコニア出立の準備が忙しいはずのラインハルト様で、

 

()/()()、申し開きがあるなら聞こうか?」

 

視線とスラッシュを含んだ言い回しに微妙な殺意を感じるのは何故だろう? 具体的にはフレ/ンダ並に。

さて、その氷の微笑ならぬ氷の視線の先には……

 

「いや、言い訳にしか聞こえないだろうけど、私自身も何がなんだか……」

 

と東洋、というより日本の様式美である正座(座布団はなくカーペットに直)をかますヤン・ウェンリーの姿があった。

シチュエーション的に焼き土下座とかになってない分、まだ心優しい仕打ちといえる。

何しろ……

 

「一体何がどうしてどうなったら、先輩がウチに下宿することになるんだ!!?」

 

きっと世界は優しくなんてない。主に誰かさんの胃にとって。

 

 

 

「そんなの決まってるじゃない? 私がお誘いしたからよ♪」

 

いともあっさり疑問を氷解させてくれたのは、他の誰でもない実の姉であるアンネローゼである。

正座してるヤンの後から嬉しそうに抱きつき、背中に柔らかい双丘を押し付けながらニコニコしてる姉に、とりあえずまずはそこに物申したいラインハルトだった。

 

「だってウチってウェンリー様が通う軍大学からも近いでしょ? 部屋だって一つ空いてるし」

 

どんな魔法を使ったのか?

アンネローゼはヤンが軍大学に通うために新たな転居先を探してることを聞き出し……つまりそれはラインハルトが知らぬ間に姉が先輩とデートにこぎつけたということを意味するのだが。

 

少し補足するなら……

生活能力皆無のヤンが自分の家を蔵書に溢れた魔窟に変貌させるのは、階級が上がり持ち家を手に入れた後の話である。

まだ一介の尉官に過ぎないこの頃は、転任が多いため荷物は最低限、父の遺産である”唯一本物だった壷”をはじめ大半の持ち物は貸し倉庫に預けっぱなしだった。

 

なので今回も生活に必要な最低限の荷物と共に、通学に便利な適当な軍の庁舎を探そうかと思っていた矢先、アンネローゼの奇襲を喰らったのだ。

 

母親からは容姿を、父親から愛と情熱を遺伝的に引き継いだアンネローゼは、ヤンが女相手は慣れてなく経験不足、容姿などに自信がないせいか奥手で及び腰であることを即座に看破。

 

気づかれぬように撤退戦を始めようとするヤンの思考を読み取り、先回りして思考的半包囲を展開し撤退路を封鎖。

手を握られ、自分の匂いに論理的思考が融解/散乱し始める頃合を見計らい、後の某宇宙猪が感嘆するような非物理的ランスチャージを敢行。

ついにヤンの強固な精神防壁を突き破り、正常な判断を砕き押し流してしまったのだ。

 

そう、アンネローゼ・ミューゼルは別の世界線の弟でさえも成し得なかった”ヤンに勝利する”という偉業を、無自覚に成し遂げてしまったのだ!!

銀河の歴史には残らない類の勝利ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 

だが、ここで一つだけ明言しておかねばならない。

あるいはヤンにとって”不吉で不穏な予言”ともなる言葉を。

アンネローゼはヤンに勝利した”最初の一人”であっても、”最後の一人”ではないということを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヤンに女難の相の気配あり(挨拶

ある意味、ラストはアンネローゼ様無双でした(笑
実は同盟で政府の意向もあり、成功者への道を駆け上ったセバスティアン氏。
アンネの恋愛がらみになると妙に思い切りのいい性格は、むしろ父親似です。


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