世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士   作:のんびり日和

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8話

「さぁ舞いなさい!」

 

そう言い、セシリアはビット兵器を展開してきた。ネイサンはまず操作慣れからとISを動かし始める。

管制室にいた真耶はネイサンは大丈夫かと心配しながら見ていた。

 

「山田先生、やはり心配ですか?」

 

スコールはそう聞くと真耶はデータを取りながら頷く。

 

「……はい。彼はまだISに乗ったのが今日が初めてなんです。それなのにいきなり実戦なんて酷過ぎますよ」

 

真耶は心配そうにアリーナを見ていると管制室に1組の男女が入ってきた。

 

「あら、Mr.キャスパーどうかしましたか?」

 

「いや、観戦室で見てても今一ネイサンの状況が分かりづらいから此処に来たんだ。別にいいでしょ? 彼が乗っているISは、わが社が開発した機体なのだから」

 

キャスパーにそう言われ、スコールは別にいてもいいと言い、モニターでアリーナの様子を見る。するとスコールはネイサンの動きが徐々に良くなっている事に気づく。

 

「……本当に5分程でモノに出来るって言うの?」

 

スコールのつぶやきにキャスパーは笑顔で答える。

 

「勿論彼なら出来ますよ。彼は武器の特性を誰よりも直ぐに理解できる。今まで触ったことが無い銃や乗り物でも、彼だったら最長で1時間もあればモノにできる。そいう人物なんですよ彼は」

 

キャスパーは自慢するようにネイサンの事を伝えると、真耶もさっきまで有った不安な気持ちが、徐々に消え去って行った。一方アリーナの方はと言うと、さっきまで動きにムラがあったはずのネイサンの動きが、今は無駄の無い動きへと変貌しセシリアは焦っていた。最初こそ攻撃を掠めつつSEを削っていたのだが、今はそれが出来ない。

 

「なぜ当たりませんの! いい加減当たりなさい!」

 

そう叫びながら攻撃してくるが、ネイサンはそれをひょいひょいと躱す。

 

「そろそろ反撃するか」

 

そう呟きネイサンは手に持っていたAMWS-21と、両肩のアヴェンジャーを構える。ネイサンはアヴェンジャーの弾種を120㎜のAPFSDS弾にしているとある事に気づく。

 

「ん? これ手持ちの武器も自動照準に設定されてるのか?」

 

ネイサンは攻撃を躱しつつ、設定画面を開き手持ち武器のみ手動照準に変える。そしてAMWS-21をセシリアに構え、トリガーを引く。上空にいたセシリアは攻撃を躱しつつビット兵器で反撃するが、激しい砲火で次々とビットを撃ち落とされていく。

 

「こ、この!」

 

セシリアは自棄になりスターライトmarkⅢで攻撃しようとした瞬間、激しい砲火で発生した煙の中から2発のミサイルが飛んでくることに気づき避けようとしたが間に合わず命中し、セシリアは墜落した。地面に落とされたセシリアはライフルを杖替わりに立ち上がるのを見つけたネイサンは、アヴェンジャーの弾種をキャニスター弾に変更する。

 

「さて、先に言っておくが俺のモットーは……」

 

そう言いながらネイサンは、AMWS-21のマガジンを交換する。セシリアはネイサンから滲み出る殺気に恐怖し後退る。その時足がもつれ尻もちをついてしまう。

 

「『敵なら、殺せ』だ」

 

そう呟きネイサンはAMWS-21とアヴェンジャーをセシリアに向ける。

 

セシリアは恐怖し、体中から冷や汗が滝の様に流れ出す。

 

「……お、お願いです。お、お、お許しを」

 

セシリアは震える唇で懇願するが、ネイサンの返答は

 

Farewell, Limey.(くたばれ、ライミ―。)

 

ネイサンは英語でそう言い、引き金を引く。アヴェンジャー、そしてAMWS-21から大量の弾丸が放たれ、セシリアは避けることなんて出来ず弾丸の雨に晒された。

ネイサンの攻撃はアヴェンジャーに装填されているキャニスター弾が切れるまで続き、弾丸が切れた頃にはセシリアのSEは無くなっており、セシリアは腕や足などに青痣が出来ており、恐らくISスーツで見えないところまで青痣が出来ているだろう。そしてネイサンはセシリアを放置してピットへと戻っていく。

管制室にいた真耶、スコールは信じられないと言った表情を浮かべ、キャスパーとチェキータは笑みを浮かべていた。

 

「ハハッ、流石はネイサンだ。敵に容赦しないその姿勢、僕は好きだよ」

 

「や~ね、何自分の好みを言ってるのよ」

 

キャスパーとチェキータが談話している中、真耶はアリーナで起きた出来事に魅入られるような感覚に襲われていた。真耶はセシリアが集中砲火されている光景に、目を離せなかった。それは嫌悪感とかではなく、まるでショーを見ているかのような楽しいと言った感情だった。どうしてそんな思いが出てくるのか、それが真耶は不思議で仕方がなかった。

 

「山田先生?」

 

「は、はい!」

 

突然スコールに肩を叩かれたことで、真耶はさっきまで浮かんでいた疑問が何処かに飛んで行った。

 

「私は今回の事を学園長に報告しに行くから、貴女は情報を纏めて明日報告できるようレポートにしておいてもらえるかしら?」

 

「わ、分かりました」

 

スコールは真耶の了承を聞き、管制室から出て行く。すると今度はキャスパーが話しかけてきた。

 

「えっと、山田先生でしたか? 実は妹からこれを山田先生って言う人に渡しておいてくれって頼まれたんですよ。何でもネイサンとの同室を引き受けてくれたとかで、そのお礼だそうですよ」

 

そう言い、キャスパーは紙袋を手渡す。真耶は頬を赤く染めながら受け取りを拒否する。

 

「そ、そんな私は教師として、生徒を守るためにやっている事なんで。そんなお礼だなんて!」

 

「いやいや、先生がやっている事は大変素晴らしいことなんでぜひ受け取ってやってください」

 

そう言われ、真耶は照れながらもお礼の品を受け取る。

 

「では僕はネイサンに会ってから帰ります。ネイサンの事、どうかこれからも仲良くしてやってくださいね?」

 

そう言ってキャスパーとチェキータは管制室から出て行った。真耶は受け取った紙袋を見つめ、仕事が終わってから中身を見ようと思い、仕事に取り掛かる。

 

 

 

その頃ネイサンはと言うと、アリーナから戻ってきた後、使用した弾丸の量を計算していた。

 

「キャニスター弾は2500発全弾で、APFSDS弾は500発、36㎜チェーンガンの弾丸はマガジン2本で4000発か、締めて大体4450万ドル(日本円で約50億円)くらいかな」

 

そう言いネイサンはメモした紙をポケットに仕舞い、ピットを後にしようと扉に向かうと、織斑が入ってきた。

ネイサンは一応会釈だけして横を通り過ぎようとすると

 

「待て」

 

そう言ってネイサンを止めた。

 

「なんですか? 自分もう疲れたんで早く帰りたんですが」

 

「貴様のISは危険な為、こちらで預からせてもらう」

 

「はぁ?」

 

織斑の突然のISの取り上げ宣告にネイサンは何言ってんだこいつ、と言った表情を向ける。

 

「企業にちゃんと許可貰ってからしてください」

 

「許可なら貰った」

 

「それでしたら自分の所にそう言った連絡が来るはずですが、全くないので来たらお渡しします」

 

そう言ってネイサンはピットから出て行く。

 

「待てッ!?」

 

ネイサンを掴もうと腕を伸ばした瞬間、喉元にナイフを向けられている事に気づく。

 

「あんまり私の弟を苛めないで貰えるかしら?」

 

ナイフを織斑の喉元に突き付けながら言ったのはチェキータだった。その傍にはキャスパーもいた。

 

「許可なく我々が開発したISを取り上げようとしないでくれませんかね、Ms.織斑」

 

「……」

 

織斑は睨むような形相をキャスパーに向ける。

 

「……マクトビアのISは、火力が大きすぎる。その為レギュレーションをチェックするために取り上げようとした。それのどこが悪い」

 

織斑の言い訳にキャスパーは呆れるようなため息を吐く。

 

「僕はちゃんと、彼のISはIS委員会が提示しているレギュレーション以内で火力を抑えられるよう、武器の選定は入念にしています。それに彼女が倒されたのは単に経験の差と言う物じゃないですか?」

 

「……何?」

 

「ネイサンは戦場を渡り歩いていた傭兵なんですよ? そんな戦場を渡り歩き続けてきた傭兵と、ぬるい訓練を続けて代表候補になった小娘とでは場数が違うって言う事なんですよ」

 

そう言われ織斑は信じられないと言った表情をネイサンに向けるが、そんな織斑の顔なんて一切見ずにキャスパーにある物を渡す。

 

「はい、キャスパー」

 

そう言って渡したのはボイスレコーダーだった。

 

「はい、確かに受け取りました。それじゃあ僕は彼女の所に行って請求してくるよ。またな、ネイサン」

 

「またね、ネイサン」

 

そう言ってキャスパーとナイフを仕舞ったチェキータはセシリアが居る保健室へと向かった。ネイサンもさっさと帰ろ、と思い織斑を放置してアリーナを後にした。

その後織斑には学園長の許可も無く、しかも初心者相手に代表候補生と戦わせたという事で5ヵ月の減俸を言い渡されたそうだ。

 

 

 

保健室で寝かされていたセシリアは、痛みから目を覚まし体に出来た痣を見て驚いていた。体中シップや包帯でグルグルに巻かれていたからだ。そしてセシリアは自分は負けたんだと思い出し、ネイサンの戦いを思い出し体を震わせる。そしてクラス代表戦でまたあの悪夢を体験しないといけないと言う恐怖にかられた。

 

「……ま、また戦わないといけないと言うのですの」

 

そう呟きながら震えていると、保健室の扉が開き、1組の男女が入ってきた。

 

「やぁ、どうやら起きていたようだね」

 

そう言ってプラチナブロンドの男性はセシリアの寝台の近くにあった椅子に座る。

 

「ど、どちら様ですの?」

 

「おや? 君は僕の事知ってたんじゃないのかい? アリーナでチェキータさんの事なんだか馬鹿にしたような挑発をしてたし」

 

そう言われセシリアはアリーナに行く途中で見かけた男性だと気づく。

 

「そ、そ、その、あの時不躾なことを言ってしまい申し訳ありません」

 

「へぇ~、謝るんだ」

 

セシリアの謝罪にキャスパーは驚いていた。そして膝が震えている事に気づき、ネイサンに恐怖を植え付けられたのかと思い、口をニンマリとさせる。

 

「まぁ、僕は気にしていないし、別にいいが。それじゃあ早速請求書があるから読んでくれ」

 

そう言ってキャスパーはセシリアが寝ている寝台にある机の上に請求書と書かれた紙を置く。

 

「こ、これは?」

 

「え? まさかもう忘れたのかい? 君が負けたら、ネイサンが今日使った弾代全額払うって約束したじゃない」

 

そう言われセシリアは、試合前に約束したことを思い出す。

 

「た、確かに約束しましたね。えっとお幾らなんですか? って何ですかこれは!」

 

そう言ってセシリアは請求書を見て驚いた。其処には

 

『請求書

セシリア・オルコット様に以下の通りの請求をします

・APFSDS弾……500発……2500万ドル

・キャニスター弾……2500発……1250万ドル

・36㎜チェーンガン用のケースレス弾……4000発……200万ドル

・サイドワインダー……2発……500万ドル

・HCLI社社員に対する暴言の慰謝料……550万ドル

合計5000万ドル(3440万ポンド)

上記の金額が払えない場合は法的手段で徴収を行います』

 

と書かれていた。

 

「こ、こんな大金払えませんわ!」

 

「と言われても、約束は約束ですし。それにちゃんと証拠あるんですよ」

 

そう言ってキャスパーはネイサンから貰ったボイスレコーダーの再生ボタンを押す。

 

『もし俺が勝ったら、今日使ったこいつの弾代、お前が払え。逆に俺が負けたら次のクラス代表戦、俺は出ない』

 

『えぇ、構いませんわ。わたくしは今年のエリート中のエリートなんですから負けるわけありませんわ!』

 

そこでボイスレコーダーは再生を終了した。

 

「ほら、ちゃんと君が了承しているじゃないか」

 

「そ、それでもそんな大金払えません」

 

証拠のボイスレコーダーを聞かされても、セシリアは払わないと言い続け、キャスパーは呆れるようにため息を吐く。

 

「全く、これだから女尊男卑とか言う風潮は嫌いなんだ。分かった、もう君には請求しないよ」

 

そう言われセシリアは払わなくて済む。そう思ったが

 

「君の政府にこれを請求するよ」

 

「え?」

 

キャスパーの言葉に耳を疑った。

 

(せ、政府に? もしそうなったらわたくしの失態が公に!)

 

「ま、待って下さい! せ、政府にだけは! 政府にだけは言わないでください!」

 

「けど、君は払えないんだろ? だったらこの請求書は誰が払ってくれるんだい?」

 

そう言われセシリアは、ぐぅの音も出なかった。

 

「それじゃあ僕はこれで失礼するよ」

 

そう言ってキャスパーとチェキータは出て行った。セシリアはただ政府からくる、通告に恐怖しベッドの中で震えていた。




弾の金額はほぼ、妄想です。

次回予告
寮へと戻ってきたネイサン。そしてその後紙袋を持って真耶も帰ってきた。真耶はココが送ったお礼の品を確認すると、中には高級バスローブが入っていた。
そして次の日、教室にいるとセシリアがやって来た。そして面倒な奴も引っ付いていた
次回面倒ごと~いい加減にしてほしんだが~

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