学園初日の最後の授業が終わりネイサンは、カバンに教科書などを入れ立ち上がる。そして廊下を出て、ある場所へと向かっていた。ネイサンの手元には紙切れがあった。そこには―――
『放課後、屋上に Byスコール』
そう書かれていた。この紙切れはネイサンが席を外し、暫くして戻ってきた時に机の上に置いておいた筆箱に挟まっていたのだ。その為ネイサンは屋上へと向かっていたのだ。そして屋上に通ずる扉に到着し、扉を開けるとスコールが夕方の海風を受けながら立っていた。
「すいません、お待たせしました」
「大丈夫よ、そんなに待ってないから」
ネイサンは軽く謝りつつ、スコールの元に寄る。
「それで、自分を此処に呼んだ理由は?」
「その前に私の正体を明かしておくわ」
そう言い、スコールは自分の正体を明かし始めた。
「私の名前は朝に言った通り、スコール・ミューゼル。この学園での任務は2つ。1つ目はネイサン・マクトビアの身辺警護。2つ目が織斑千冬、篠ノ之箒の監視よ」
「へぇ。と言う事は貴女はHCLI社の社員なんですか?」
ネイサンがそう聞くとスコールは首を横に振る。
「残念ながら私はHCLI社の社員じゃないわ」
「じゃあ誰の指令で此処に?」
「この世界で唯一『天災』と呼ばれた人からよ」
スコールのその言葉で、ネイサンは全て理解した。自分が戦場に立って暫くしてから、影から見守っていてくれた女性だと。
「そうですか。それで、自分の身辺警護は分かりますが、なぜあの2人の監視も頼まれたんです?」
「彼女が言うには、あの2人は暴力を使ってでも貴方を取り戻そうとするはずだから、それを阻止するために監視しておいてほしいってことよ」
スコールの返答にネイサンはなるほどと呟く。
「それじゃあ、僕の身辺警護お願いしますね」
そう言ってネイサンは屋上を後にしようと歩き出したが、この際だからとあの人に伝えて欲しい事をスコールに投げ掛ける。
「そうだ、あの人に伝えておいて下さい。【何時も影から見守っていてくれてありがとう】って」
「……分かった。伝えておくわ」
返答を聞いたネイサンはそれでは。とスコールに言い、屋上を後にする。
屋上に一人残ったスコールは、口元を緩ませながら、誰にもいないはずなのに言葉を投げる。
「だ、そうよ。篠ノ之博士」
そう言うと、建物の影から鼻水を垂らす上に泣きながら出てくる束と黒髪の少女。
「うぇぇ~ん、ネイ君が感謝の言葉を送ってくれるなんて。束さん感動し過ぎて涙と鼻水が止まらないよ~。うわぁ~ん!」
「はぁ~、感謝の言葉送られたくらいで普通泣く?」
黒髪の少女がそう言うと、スコールは苦笑いになる。
「別にいいじゃない。あの子がいなくなって一番焦ったのは篠ノ之博士なんだから。それじゃあ篠ノ之博士、私はまだ仕事があるので此処で失礼するわね」
「うん、ズズズ。ネイ君のことお願いね、スーちゃん」
そう言われ、スコールは頷き屋上を後にした。残った束と黒髪の少女は沈んでいく夕日を眺める。
「……それでマーちゃんはネイ君を見てまだ復讐する気はある?」
束は夕日を眺めており、マーちゃんと呼ばれた黒髪の少女からは、どのような顔になっているのか分からなかった。
「いや、逆に復讐しようなんて思わなくなった。むしろ直に会ってお前の妹だと言って一緒に暮らしたいと思った」
そう言うと、束はいい笑顔を黒髪の少女に向ける。
「良い思いだよそれ。何時かは分からないけど、束さんが何時かその思いを叶えさせられるよう尽力してあげるよ!」
そう言われ黒髪の少女は一瞬キョトンとするが、次第に頬を赤く染めながら視線を明後日の方向へ向ける。
「……馬鹿じゃないの。けど、ありがとう」
その言葉に束は、優しい笑みを浮かべる。
その頃屋上を後にしたネイサンは荷物を取りに行くのと同時に、自分の寮の部屋の場所が何処か聞く為に職員室へと向かっていた。そして職員室へと到着し、中へと入る。
「失礼します。山田先生はおられますか?」
そう聞くと一人の教師が気付く。
「山田先生? 彼女だったら少し前に此処から出て行ったわよ」
「そうですか。どれくらいで戻ってきますか?」
「さぁ、ちょっとわからないわね」
するとネイサンが入って来た扉が開き、中に入って来たのは、真耶だった。
「あ、マクトビア君此処に居たのですか」
「えぇ、荷物を取りに来たのと、部屋の場所を聞きに」
「そうでしたか。私もマクトビア君に荷物を渡さないとと思って探しに行ってたんですよ」
そう言い、真耶はネイサンの荷物を取り出す為に、自分のロッカーへ向かいロッカーから荷物を取り出す。そして自分の机に置かれているネイサンの部屋の鍵を取り、ネイサンに荷物と一緒に渡す。
「では、こちらがネイサン君のお部屋の鍵です」
「どうも。……あの、山田先生。これってどういうことですか?」
「はい?」
ネイサンの突然の問いに、真耶は何かと思い、ネイサンが見せたものを見る。ネイサンが真耶に見せたのは、寮の部屋番号が書かれているネームプレートだ。本来であれば、寮の部屋番号が書かれているはずなのだが、そこには番号ではなく言葉が書かれていた。
「えっと、『教員部屋(山田)』……はい?」
真耶はそこに書かれている言葉に思考が停止した。そして思考が暫く停止してから突然―――
「えぇぇぇーーーーー!?」
叫び声を出した真耶は、急いで鍵をネイサンから回収し、急ぎ職員室から出て行った。ネイサンは職員室に長居するべきじゃないなと思い、荷物を背負い職員室を後にした。
ネイサンは寮の入り口付近で佇んでいると、真耶が長めのアタッシュケースを持ちながら走ってネイサンの元にやって来た。
「はぁはぁ、すいません。マクトビア君」
荷物を下に置き、両膝に手を置きながら呼吸を整える真耶に、ネイサンはどうだったか聞く。
「それで山田先生。俺の部屋はどうなったんですか?」
「は、はい。学園長に聞いたところ、部屋割りは試行錯誤したのですが、どうしても1人部屋が出来なかったそうです。なので教員の方と同じ部屋にしようと学園上層部の会議の結果決まったそうで、それなら何処の部屋にするか会議した結果がその、……私の部屋だったそうです」
ネイサンは呆れと困惑の表情を浮かべる。
「……そうですか。それでしたら、自分は学園から程近いホテルを取るんで、1人部屋が用意できるまでそこから通いますね」
そう言ってネイサンは、ホテルを取りにモノレール駅へと歩き出そうとしたが、真耶がそれを止める。
「そ、それが学園上層部の指令で学園外のホテルからの登校は、警備の問題があるため容認しないと言われているんです」
その言葉を聞き、ネイサンは舌打ちする。そして確認の為、真耶にあることを聞く。
「……山田先生はそれでいいんですか?」
「え? 何がですか?」
「突然自分の使っていた部屋に、男子と一緒に暮らすよう言われて。普通拒否するはずでしょ」
そう言うと真耶は頬を赤く染めながら言う。
「た、確かに突然入ってくることに驚きました。ですがホテルからの登校を許して、もし何者かに襲われたりすることがあるのは、教師としてはそれだけは避けたいのです。だから生徒を守るためだと思えば大丈夫です!」
ネイサンは真耶の答えを聞き、若干呆れると同時に面白い人だと思った。そして諦めたと言わんばかりの息を吐く。
「分かりました。ではお世話になります」
そう言い頭を下げるネイサンに真耶は慌てて自分も頭を下げる。
「い、いい、いいえ! こ、こ、こちらこそお世話になります!」
そしてネイサンは真耶と共に部屋へと向かおうとした時、ネイサンは真耶が持っていたアタッシュケースのことを聞く。
「そう言えばそのアタッシュケースは?」
「あ、これは学園長室に行った帰りにマクトビア君の仲間の方から渡しておいてくれと頼まれた物なんです」
そう言いアタッシュケースをネイサンに渡す。
「そうですか。その人物ってどんな人物でしたか?」
「えっと、眼鏡を掛けた黒髪の日本人男性でした。あ、それと手紙も渡されました」
そう言って真耶は手紙をネイサンに渡す。ネイサンは早速手紙を開封し、中身を読む。
『ネイサンへ ホテルに自分の武器を忘れるのはけしからんぞ。ちゃんと自分の手元に置いとかなきゃ。学園生活は大変かもしれないけど頑張るように ココより』
ネイサンは手渡されたアタッシュケースには、自分の武器とカスタム用のパーツが入っているんだと分かり、ココの気遣いに心の中で感謝していると手紙の下の方にまだ文章が続いていることに気付く。
『P.S.私以外の女の子に愛想振舞ってたらロケットに括りつけて打ち上げるからね♡』
「……」
ネイサンがこの文章を読んで、背中に嫌な汗がダラダラと流れ続けたのは言うまでもない。ココはやると言った事は絶対にやる人だからだ。
次回予告
結局、教員用の部屋で下宿することとなったネイサン。ネイサンは真耶と部屋の利用に関するルール決めをして、電話をしに部屋から出て行く。
次回寮の部屋~ふ、ふふふ。ネイサンが他の女と同じ部屋だって……。~