学園祭を翌日に控えたある日、ネイサンはとある部屋へと訪れ、ノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
そう言い中に入ると学園長の奥さん、轡木佳代子が居た。
「あら、マクトビア君。どうかしましたか?」
「えぇ、少し。学園長は今何方に?」
「夫でしたら今花植えに行ってますよ。もう少ししたら帰ってきます」
そう言うと扉が開き、作業着姿の十蔵が入って来た。
「おやぁ、マクトビア君ではありませんか。如何しましたか?」
タオルで汗を拭いながら十蔵はそう聞く。
「はい、明日の学園祭の事で少しお話がありまして……」
そう言い学長席に座っている奥さんに少し目を向けるネイサン。それで理解した十蔵は頷く。
「分かりました。では、隣の会議室を使いましょう。私は服を着替えてきますので、少しお待ちください」
そう言われネイサンは隣の会議室へと移動した。そして数分後、スーツ姿の十蔵が飲み物が入ったカップを載せたトレイを持ってやって来た。
「御持たせして申し訳ない。自家製のハーブティーです」
そう言い十蔵はカップをネイサンの前に置き、自分の分も向かいの席に置き、席に着く。
ネイサンは頂きます。と言いハーブティーを口にする。
「いい香りですし、味も美味しいですね」
「そうですか? そう言ってただけて作った甲斐があります」
そう言い自身も口にする。そしてカップを置き皿に置き手を組む。
「それで、お話とは一体何でしょう?」
「はい、実は自分の上司が明日の学園祭に護衛の方達と此方に来られるんです」
「あぁ、聞いてますよ。先日Ms.ヘクマティアルから連絡が来まして、自分の部下が出している出し物をぜひ拝見したいと、申し出がありましてね。来ていただくのは別に構いませんよ。と伝えて、人数分のチケットは既にお送りしておりますよ」
そう言われネイサンは行動早っ!と内心驚き、若干呆れた笑みを浮かべた。
「もしや、そのお話ですか?」
「あ、えっとそれもあったんですが、もう一つあるんです」
そう言われ首を傾げる十蔵。
「それで、もう一つのお話とは?」
「はい、学園祭当日来られる上司の部下達に銃器の携帯許可を頂きたく思い、参りました」
そう言われ十蔵は少し顔付きを真剣そうな表情へと変える。
「それはまた、何故?」
ネイサンも真剣な表情に変え、その訳を話す。
「実は、自分が部隊を離れている間にどうやら襲撃があったらしいのです。その襲撃者は撃退できたものの、また襲われる可能性があるとみているんです」
「なるほど。その為にMs.ヘクマティアルの護衛の方々に銃器の携帯許可が欲しいという訳ですね」
「そうです。どうかお願いたします」
そう言ってネイサンは頭を下げた。暫く沈黙が漂っていると
「マクトビア君、頭を上げてください」
そう言われネイサンは頭を上げる。其処には朗らかな笑みを浮かべた十蔵が居た。
「彼女が言った通り仲間思いの方ですね、貴方は」
そう言いカップに残っていたハーブティーを飲み干す十蔵。
「ご安心ください。武器の携帯許可は既にMs.ヘクマティアルに出しています。人目に付かない様に携帯するのであれば大丈夫ですと言ってありますよ」
そう言われネイサンは茫然の余り目を何回か瞬きした。
「……い、何時の間にそんな」
「彼女から連絡を貰った際に、彼女からお願いされたのですよ」
そう言われネイサンは何だよそれ。と言いたげな呆れた表情を浮かべ、溜息を吐き項垂れた。
「全く、そう言った報告は僕にも回してほしかった」
「仕方ありません、彼女は貴方をからかうのが好きなようですから、恐らく今こういった状態になっているのを飛行機で笑っているかもしれませんよ」
そう言われネイサンは困った笑みを浮かべ、自分もそう思います。と言いハーブティーを口にした。
その頃飛行機に乗っているココ達はと言うと
「クシュンッ!!」
ココは飛行機で盛大にくしゃみをしていた。
「大丈夫ですか、ココ?」
「う、うん。誰かが私の事噂してるのかもね」
そう言い隣に座っているバルメからティッシュを受け取るココ。
「案外、ネイサンが噂してたりしてな」
「かもな」
後ろの席に居たトージョとルツはそう言い笑っていた。
「日本かぁ。子供達に絵ハガキを送ろうと思うが、日本らしい絵ハガキはありますかね?」
「さぁ? だが日本は見どころが一杯あるからそう言った物くらいあるだろ」
マオは自身の子供達に送る絵ハガキがあるのか、ワイリーに聞いていた。ウゴは機内のゲームで遊んでおり、レームはワインを嗜んでいた。そんな中アールは一人難しそうな顔を浮かべていた。
(ヘックス。奴がもしお嬢達の前に現れる様なら、俺が奴の息の根を止める!)
そう思いながら、眼下に見える日本の都市を眺めた。
―――ジョージア州CIA本部・食堂
ブラックは食堂で食事を取っていると、仕事用の携帯にメールが届いた。ブラックは口元を拭き、そのメールの中身を確認する。
[ヘックス、銃弾9000発を調達。及び現地協力者を何人か雇った模様]
と書かれていた。
「やはりか。……ヘックス、お前は国の為だと言って暴れる回るのを、私は黙認してきたがネイサンを殺そうものなら話は別だ」
そう呟き、何処かに電話を掛け始めた。
「もしもし、私だけど。悪いんだけど、アジア支部のエルドア君に繋げてくれない? お願いね」
そう言いブラックは裏方の仕事を始めた。
―――IS学園・資材倉庫
「……言う通り手配した。それで、次は?……分かった」
千冬は人気のない資材倉庫で電話越しに誰かと話し終え、携帯を閉じる。そして懐から写真を取り出した。それは家族写真だった。男性と赤ん坊を抱いた女性、そして黒髪の少女が写っていた。だがその写真の男性と女性の顔はペンでぐちゃぐちゃにされており、はっきりと顔が確認できなかった。
「……一夏は私の弟だ。アイツを守るのは私だけで良いんだ。他の奴らなんかいらない。私だけで…私だけで良いんだ」
そう言い写真を仕舞いその場を去って行った。
―――束の隠れ家
束は一人パソコンである作業をしていた。ディスプレイには束が昔使っていた隠れ家の映像が映っていた。
「さて、加工は上々。後はこれを公開する日が来るのを待つだけだ」
そう言い束は机の上に置いてある拳銃、デザートイーグル
を取り壁に貼られている写真に向け数発撃った。.50AE弾は真っ直ぐ写真を射抜き、風穴を開けた。
「待ってろよ。お前も、腐った政府も、世の中の腐った女共。お前等全員地獄に叩き落してやるからな」
そう言い束は席を立ち部屋から出て行った。壁に貼られていたのは千冬の顔写真だった。だが、それ一枚と言う訳ではなく、何十枚も貼られておりどれも風穴が開けられていた。
そして翌日、様々な思惑が渦巻く中学園祭が開かれた。
次回予告
学園祭が始まり、ネイサンは自分のクラスの出し物を手伝い昼頃、ココ達と出店巡りに出た。その裏ではヘックス達が襲撃を仕掛けようとしていた。
そして銃声と共に学園は戦場へと変わった。
次回
戦場へと変わる学園