レゾナンスで買い物をすべくして来ていた3人は目的の店目指して歩いていた。
すると真耶は先程の騒ぎの後、聞きそびれていた事を鈴に聞く。
「そう言えば凰さんはどうしてあの噴水に?」
「学園祭でウチのクラスに必要な物が学園だと集まりそうにないと思って、クラスの代表として買いに此処に来たんです。そしたらネイサンが丁度噴水に居たので荷物持ちに手伝ってもらおうと思って一緒に居たんです」
そう言うとネイサンは苦笑いを浮かべながら、マジですか。と呟く。
「あははは、そうだったんですか」
真耶もネイサン同様に苦笑いを浮かべていると、3人は目的の店へと到着した。その店は雑貨を主に扱っている店で、パーティーグッズやら行事関連に使われるような道具が多種多様に扱われている店である。
3人は店の中へと入って行きそれぞれ目的の物を買い物かごに入れ会計を済ませた。
そして店へと出てきた3人は大きめの買い物袋を下げながら近くのベンチへと行く。
「さて、僕と鈴の目的は達成できましたし後は山田先生の服だけですね」
「は、はい。では、買いに行ってきますので少し待っててくれますか」
そう言い真耶は立ち上がりその目的の服屋に行こうとすると、鈴も一緒に立ち上がった。
「それじゃあ私も行きます。そろそろ肌寒くなってきたから厚めの服が欲しかったし」
そう言って真耶と鈴は服屋へと向かった。
2人は真耶が欲しいと言っていた服が売っている店へと入り目的の服を探す。
「あ、すいません。以前電話でご連絡をいただきました山田真耶です」
「はい、お待ちしておりました。どうぞ、こちらの商品でお間違えありませんか?」
そう言って店員がカウンターから出したのは濃い青色の肩出しのトップスだった。
「は、はい。こちらです」
「かしこまりました。ではお会計の方をさせていただきます」
そう言い会計を済ませ、真耶は服の入った紙袋を持ちながら鈴を探すと
「えっと、凰さんは何処に……。あ、居ました居ました」
そう言いながら真耶は鈴の元へ向かった。鈴はうぅ~ん。と悩んだ声をあげながら服を見ていた。
「凰さん、良い服は見つかりましたか?」
そう声を掛けられ、鈴は真耶に気付き苦笑いで首を横に振った。
「いえ、なかなか見つかりませんでした。また今度見に来ようと思います」
そう言われ真耶はそうですか。と返し店を出ようとすると
「あの、山田先生。一つ聞いてもいいですか?」
鈴にそう声を掛けられ体を向ける。
「なんですか?」
「あの、先生は、その…。あいつ、ネイサンの事どう思ってますか?」
鈴は少し顔を赤らめながらそう聞いてきた。真耶はすぐにそう聞く理由が察せた。あぁ、この子も彼の事が好きになっているんだ。と。
「……以前は分かりませんでした。けど今ならはっきり分かっているんです。彼の事が好きだと。生徒ではなく一人の男性として」
そう言うと鈴はやっぱりと言った表情を浮かべ、挑戦するような目つきに顔付きを変えた。
「私も前まではモヤモヤとして気持ち悪かったんですが、今分かりました。私もアイツの事が好きだって事が。だから負けませんよ。先生にも」
そう言うと、真耶は自分とあともう一人ライバルがいると捉えすぐに誰なのか分かった。ココ・ヘクマティアルだと。
「私も負けませんよ。凰さんにも。そして彼女にも」
そう言うと鈴は真耶が何故ココの事を知っているんだと疑問に思ったが、ネイサンの上司は彼女だからそれで知ったんだろうと考えついた。
そして2人は互いに握手をして店を後にしネイサンに合流した。
「お目当ての服はありましたか?」
「はい」
「私は良いのが無かったからまた来るわ。そん時は荷物持ちお願いね」
鈴は意地の悪い笑みを浮かべながら頼むと、ネイサンは予定が合えば。と言って荷物を持ち3人はレゾナンスを後にした。
学園へと着いた3人はそれぞれ部屋へと帰った。部屋へと着くとマドカがエプロン姿で出迎えた。
「おかえり。夕飯の準備はもう終わってるぞ」
そう言い奥へと向かう。そしてネイサンと真耶はリビングへと行くと、カレーが机の上に並んでいた。
「へぇ~、カレーか。マドカ一人で作ったのか?」
「当たり前だ。私は兄さんの妹だぞ? 料理くらい練習すればこれくらいできる」
そう言いエッヘンと胸を反らすマドカ。ネイサンは笑みを浮かべ、ありがとうとお礼を述べ頭を撫でた。
そして3人はカレーを頬張り、夕飯を済ませた。
夕飯を終えたネイサンは屋上へと向かった。部屋から出て行くネイサンを見たマドカは真耶に何処に行ったのか聞く。
「兄さんは一体何処に?」
「屋上で何時も上司の方に電話をされているそうですよ」
そう言うとマドカはアイツか。とジト目で扉を見た後、お風呂行こ。と呟き風呂場へと向かう。
『―――いや~、もうすぐ学園祭だね、ネイサン』
「そうですね。……まさかと思いますけど、来る気じゃないですよね?」
屋上でネイサンはココの携帯に電話をして会話をしていると、学園祭の事が話題となった。
『勿論そのつもりだよ。あ、勿論レーム達も一緒に行くし』
ココがそう言うとネイサンは少し不安があった。
「ココさん、さすがに不味くないですか? 当日は一応学園の警備は強固にされると聞いていますが、完璧とは言えません。もしこの時にあいつ等の襲撃が有ったら…」
そう言うとココもそれを分かっているのか、声が仕事時の張りで返ってきた。
『確かに。けど今最も狙われているのはネイサン、君だ。アイツが最初に狙ったのは私だが、私の周りにはレーム達が居て守られていた。そして次に狙われたのは君だ。学園が世界で一番安全と言われていても、学園祭みたいな行事では警備が薄い所は必ず出る。奴の事だ、今回の学園祭で奴は襲撃してくる可能性が高い。学園の教師達だけでアイツを止めるのは恐らく無理だ。だからレーム達が必要になる』
「ならレーム達だけ此方にと言いたいですが、そうなるとココさんの護衛が少なくなりますね。……キャスパーは?」
『残念だけど無理みたい。今東南アジアで商談中で手が離せないってさっき連絡を貰ったの』
「そうですか……。……分かりました。ココさん、学園祭来られるんでしたら、ちゃんと服の下に防弾チョッキ着て来てくださいよ」
『ふふん、勿論着ていくよ。当日、学園祭の案内宜しくね? それじゃあお休み♪』
そう言ってココは電話を切った。ネイサンはため息を吐き、屋上から下りて行った。
屋上から下り部屋へと戻ろうとしていると下から上がってきた楯無と鉢合った。
「こんばんは、更識会長」
「え、えぇこんばんは。何処かに行ってたの?」
「えぇ、ちょっと屋上で夜風を当たりに」
ネイサンの返答に楯無はそう。と短く返す。
「では、自分はこれで失礼します」
そう言ってネイサンは階段を降りていこうとすると思い出したかのようにネイサンは歩みを止めた。
「そうだ更識先輩、聞きたいことがあるのですが良いですか?」
「え? えぇ、構わないわよ」
「では、貴女は何故僕の身辺調査をしようとしたんです?」
そう聞かれ、楯無は内心驚くも顔に出さないようにする。
「えっと、何のことかさっぱり「しらばっくれないでくださいよ。暗部組織更識の長、更識楯無先輩」……やっぱり知ってたのね」
「えぇ、学園内で怪しい人物と言えば他にも何人かいますが最も怪しいのは貴女位しかいません。更識と言えば裏方の人間であればすぐに分かりますからね」
そう言うと楯無は近くの壁にもたれる様に立つ。
「そう。…確かに貴方の身辺調査はしてたけど、もう止めたわ」
「……へぇ、更識は仕事は最後まで完遂すると聞いていましたが、それはまた何故?」
そう聞くと顔を暗くさせながら答えた。
「……篠ノ之博士よ」
「あぁ、なるほど。大方警告に来られたんでしょう」
「えぇ、それも私を本当に殺そうとするほどにね」
そう言うとネイサンは、それほどの事を計画していたのかこいつ。と思いながら次の質問を投げる。
「なるほど。僕の身辺調査は中止された事は分かりました。では次に、簪さんとの事をお聞きしても?」
「……中々酷な質問ね、それ」
「お2人が仲が悪くなった原因はお聞きしています。簪さんは昔貴女に『無能のままで居なさい』と言って、自分の今までの努力を貶すように聞こえた。そう思っているそうですよ」
そう言うと、楯無はやっぱりそう思っているわよね。と思いながら俯く。
「貴女が何故簪さんにその様なことを言ったのか、大体想像は出来ます。ですが、少し言い方が悪かったのでは?」
「……分かってるわよ、そんなの。言って暫くして私から距離を置き始めているって言うのは薄々感じてたわ」
そう言いながら楯無は悔やんだ表情を浮かべる。
「……それで、貴女は一体何のために当主になったんですか?」
ネイサンはそう問うと楯無は落ち込んだ表情を浮かべながら首を振る。
「分からない。妹を守る為に当主になったのか。それとも更識家を守る為に当主の座に就いたのか」
そう言い楯無は壁にもたれたまま蹲ってしまった。
「…力に溺れれば、目的を見失う。目的を見失えば、其処が自分の終点だ」
「え?」
ネイサンがふと口にした言葉に楯無は顔を上げた。
「父が生前言っていた言葉です。目的の為に力を身に付けるのは良いが、目的を見失うな。見失えば、何もかも失うと。僕はこの言葉を胸に刻みながら力を付けてきたんです。更識先輩、もう一度過去の自分を見つめ直されてはどうですか? 自分は何の為に当主になったのか。家の為か? 大切な妹の為か?」
そう言いネイサンは帰って行った。
一人残された楯無はその場で蹲りながら
「私が当主になりたかったのは……」
と呟きながら過去の自分を思い返していた。
次回予告
学園祭間近に迫っているある日、ネイサン達は整備室で簪と本音とで談笑していた。すると楯無が其処にやって来た。
その頃海外ではある事が起きていた。
次回
あの頃の自分に帰る