ネイサン、マドカの部屋と鈴の部屋から盗聴器が見つかって翌日、ネイサン達はアリーナでライフルの射撃練習を行っていた。
「鈴、夏休みから随分成長しましたね」
「私だって努力すればこの位余裕よ!」
鈴は70m程先に置いたマンターゲットの頭部、胸部を的確に射貫いていた。
「ですが、まだ装填辺りがぎこちないですね」
そう言われ鈴は、うっ!?と鳴らした。ネイサンが後ろで鈴の射撃を見ていたが狙い撃つのは上達したが、まだ動作にぎこちない所が幾つかあったからだ。
「マガジンをポーチから取り出しやすいように向き等は全て同じ向きにしておく。以前教えていたはずですよね?」
ネイサンは苦笑いでそう言うと、鈴は両手の人差し指をちょんちょんとぶつけながら訳を話す。
「だって、ネイサンに早く上達した腕見せたかったから」
そう言われ、ネイサンは一瞬キョトンとした顔を浮かべ苦笑いをまた浮かべた。
「見せてくれるのは嬉しいですが、射撃の腕だけではなく基礎などもしっかりと磨けているのか見せてくれないと」
そう言われ鈴は、わ、分かってるわよ!と顔を真っ赤にしながら答えた。そしてポーチに挿しているマガジンの向きを取り出した際に直ぐに挿し込めるように向きを揃え始めた。その頃真耶とマドカは互いにカバーを取りながら前進する射撃訓練を行っていた。
「山田先生凄いですね」
「そ、そうですか? 何時も一人での訓練ばかりで上手くいくか心配でしたが良かったです」
真耶は前進を始めたマドカを狙う可能性が高いマンターゲットに制圧射撃を行い、カバーに着いたマドカが真耶を動かせるようにマンターゲットに対して制圧射撃を行う。そして2人は奥にある的に撃って行く。2人の息はピッタリで初めて連携したとは思えないほどの動きであったのだ。
「二人共息ピッタリでしたね」
ネイサンは訓練を終えた2人にそう声を掛けると、マドカは褒められた事に顔が赤くなり見られたくないと思い明後日の方向に顔を向け、真耶は頬を染めながら「エへへ」と照れていた。
そんな訓練など行っていたある日、ネイサンは自身のIS、A-10をメンテすべくアリーナ横にあるメンテナンスルームへと来ていた。
「さて、やりますか」
そう言いメンテナンス用の台座にISを展開するネイサン。すると部屋の奥の方からガタっという物音が聞こえ、ネイサンはISを回収しそっとコルトを取り出し構えながら近付く。
「誰かいるのか?」
そう言い近付く。すると手を挙げた女子生徒が怯えながら出てきた。
「ご、ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったの。私も作業中だったから」
「あ、いえ。此方こそ銃を構えてしまい申し訳ありません」
そう言いネイサンは慌ててコルトを懐に仕舞った。
「えっと、「私は更識簪。名字は嫌いだから簪でいい」そうですか、ご存知だと思いますがネイサン・マクトビアです」
そう言い簪の元へと行く。すると簪が居たメンテナンスコーナーに一機のISが鎮座していた。
「このISは?」
「……私の専用機」
そう言い簪はISの前に座りディスプレイを開く。ネイサンはISを注意深く観察すると所々パーツなどが無く、未だ未完成と言った感じであった。
「この機体何故未完成のまま貴女の元に?」
「……途中で中止にされたの。それで私が自分の手で作ろうと思って引き取ったから」
「中止?」
ネイサンは本来専用機は途中での中止はそうそう無い。そう考えていると簪が訳を話し始めた。
「このISが造られている途中に、開発に携わっていたメンバーが別のプランに移された。それが」
簪は言葉を区切り、顔をネイサンの方へと向ける。
「男性用機体の作成だったらしい。けど完成間近だったそのISは盗み出されたみたいだけど」
そう言われネイサンの眉間にしわが寄った。
「まさか、臨海学校の時に篠ノ之博士が持ってきたISが、その?」
「うん、私がこれを取りに行った際に隣の開発室に置かれていたのと似ていたから多分」
簪がそう言うと、ネイサンは心の中であの糞女がと千冬を侮蔑し、深々と頭を下げた。
「知らなかったとはいえ、君に迷惑を掛けてしまい本当に申し訳ありません」
「貴方が悪いわけじゃない事は知ってるから、頭を上げて」
簪は突然頭を下げたネイサンに驚いた表情を浮かべ、頭を上げてもらおうとそう言葉を掛けた。ネイサンはそう言葉を掛けられ、申し訳なさそうな表情を浮かべながらある申し出を出した。
「それで、その迷惑と思われるかもしれないが、僕もこのISの開発に手伝わせてもらえないでしょうか?」
「けど、貴方は企業の代表なんでしょ? 私のISの開発に携わったら情報を盗み出したスパイだと思われるよ?」
「確かに……ッ! では、こうしませんか?」
「なに?」
ネイサンが何か閃いたのか簪に提案を出す。
「自分は開発のお手伝いは出来ません。なら開発を手伝ってくれる人を紹介するのはどうでしょう? 勿論その人は何処の企業にも属していない人です」
「……魅力的な話だけど、このISは自分の力で作るからいい。お姉ちゃんだって……」
そう言い簪は作業をまた始めた。ネイサンはその後姿が昔の自分を見ているように感じた。
(彼女は昔の俺にそっくりだな。誰からも本当の自分を見てくれない。だから必死に抗うところが)
そう思いながら、言葉を掛けた。
「簪さん、貴女の心意気は立派です。ですがそれには限界があると思います」
「! 何も知らない貴方に何が「自分も昔、同じように周りから本当の自分を見てくれる人が居なかったんです」!?」
「自分も周りから見られているのは、自分ではなく偉大な人物の息子という感じでした。ですが信頼できる仲間や友人が出来始めるとそんな目がどんどん少なくなり始め、気づいたら本当の自分を見てくれる人でいっぱいになったんです。簪さん、一人で抱え込まず周りを頼ることは時には必要だと思いますよ。この部屋の前に居る人も心配なのか、こっそり覗きに来ているみたいですし」
そう言われ簪は驚き、メンテナンスルームの扉の方を見ると扉のスキマから見ていた人物に居る事に気付き、覗いていた人物も気付かれた事に驚き入って来た。
入って来たのはダボダボの袖をした生徒だった。
「なんで分かったのぉ?」
「僕がこのメンテナンスルームに入った後、扉から若干軋む音がしたんです。だからISのハイパーセンサーを使ってみたら覗いている人が見えたんです」
そう言われ、生徒はそうなんだぁ。と納得した。簪は少し驚いた表情浮かべながら覗いていた理由を聞く。
「本音、何時も覗いてたの? もしかしてあの人の指示?」
「ッ! ち、違うよ! かんちゃんは私の大切な幼馴染だもん。心配しな方が可笑しぃよ!」
本音と呼ばれた生徒は、若干覗いていたことを申し訳なさそうな表情を浮かべながら言う。
「……ちゃんと貴女事を心配してくれる人が居るじゃないですか。では、僕はこれで「待って!」何か?」
ネイサンはその場を去ろうとすると、簪が待ったを掛けた。
「その、このISの開発を手伝ってくれる人、私に紹介してくれませんか?」
そう言われネイサンは一瞬キョトンとした表情を浮かべながら、訳を聞く。
「急にまたどうして?」
「……一人で出来ないなら、周りを頼る。貴方が言った言葉」
そう言われネイサンは朗らかな笑みを浮かべ了承した。
「分かりました。では、その研究者には僕から連絡しておきますね」
そう言いネイサンはメンテナンスルームから出て行った。それから数十分後、メンテナンスするの忘れてた。と部屋で思い出したとさ。
次回予告
次の日簪に、ISの開発を手伝ってくれる人を紹介したネイサン。そして学園祭が刻々と近付いている中、ココ達は日本へと来ていた。その訳は兄キャスパーに呼ばれたからだ。そして指定されたレストランに行くと2人の男性が居た。
次回初コラボ編
商談
~初めまして、Ms.ヘクマティアル。私はPEC社社長Mr.Kです~