部屋から出て、マドカと共に学園長室へと来たネイサン。扉をノックすると中から
『どうぞ』
と入室許可が下りたのを確認し、中へと入って行った。
「失礼します学園長」
「おや、マクトビア君。それに今日入学された妹さんもご一緒ですか。如何なさいましたか?」
学園長は朗らかな笑みを浮かべながら用件を聞く。ネイサンは「では単刀直入に」と言い机の上に、袋の中にいれていた盗聴器を出す。
「これは……二又コンセント、それにこれはクリップ型。どれも盗聴器ではありませんか!」
学園長は驚いた表情を浮かべながらネイサン達の方へと顔を向け、ハッ!となった。
「ま、まさかマクトビア君の部屋にあったのですか?」
「えぇ、そのまさかです」
そう言うと学園長は何てことなんだと重い息を吐き、俯く。すると扉をノックする音が部屋に鳴り響いた。
「誰です?」
『スコールです。早急にお伝えしないといけないことがあるのですが、宜しいでしょうか?』
そう言われ学園長はどうぞ。と声を掛ける。扉を開け中に入って来たのは慌てた表情を浮かべたスコールと真耶。そして
「あれ鈴。……まさか」
マドカはもう一人入って来た鈴に、すぐに察した。
「そのまさかよ」
鈴はそう言いため息を吐いた。
「どういう事ですか? まさか、凰さんのお部屋にも……」
「……はい、3つ程見つかりました」
そう言いスコールは学園長の机の上に盗聴器を置く。盗聴器はネイサンの部屋にあった物の内3つと型が同じ二又コンセントだった。
「まさか、凰さんのお部屋からも、とは……」
「……学園長、今分かったことがあるんですがいいですか?」
ネイサンはジッと鈴の部屋、そして自分の部屋から見つかった盗聴器を見比べながら話しかけた。
「何でしょう?」
「これは僕の予想なんですが、僕の部屋には2人以上入った可能性があるんです」
「「「「「!?」」」」」
ネイサンの推測の言葉に全員が言葉を失った。
「ど、どう言う事なんですか?」
「このクリップ型はコンセントのカバーを外して中にある配線に傷をつけて電源を入手し盗聴します。逆にこのコンセントタイプは差し込むだけで盗聴が出来るものです。したがって、今日このクリップ型を仕掛けるには余りにも時間がない気がするのです」
「なるほど。確かに今日は早めに授業は終わり、クラスから寮の部屋に戻ってくる生徒が多かった。そんな中でクリップ型を仕掛けるには余りにもリスクが高すぎる」
スコールはネイサンの説明に納得した表情を浮かべている中、学園長は申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「はぁ~、学園創設以来これほどトラブルが舞い込むのは初めてです。マクトビア御兄妹、凰さん、御不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
そう言い学園長は頭を下げた。
「いえ、学園長が悪いわけではないので、頭を上げてください」
そう言いネイサン達はまさか学園長が頭を下げて謝罪をするとは思わず、慌てて声を掛けた。
「それで学園長。今回の件どう対処するんですか」
マドカはそう聞くと、学園長はしばし口を閉ざし考え込む。そして口を開いた。
「ネイサン君達には申し訳ないのですが、暫くの間教員の方と同居してもらってもいいでしょうか?」
そう言われネイサン達はえっ!?と驚いた表情を浮かべた。
「あの、学園長。生徒を守る為とは言え、生徒と教師を同じ部屋にするのはどうかと」
「ですが、これしかありません。それにマクトビア君は暫く山田先生と相部屋ではありませんでしたか」
そう言われネイサンは、うっ!?と思い出された。鈴は何故だか分からないが真耶に嫉妬に近い何かを抱き、マドカはこの胸デカの教師と兄さんが同じ部屋にいただと。とジト目で真耶を見ていた。
「た、確かに山田先生とは暫くの間同居しておりました。ですがそれは部屋の準備が出来るまでであって「今回も暫くの間です。マクトビア御兄妹、そして凰さんのお部屋をカードリーダータイプに変更、更に保安システムなどを他より徹底する準備が終わるまでの間だけです」……分かりました」
ネイサンは徹底的に準備するためだと言われた為、仕方なく了承した。
「では凰さんはスコール先生のお部屋。マクトビア御兄妹は山田先生のお部屋で宜しいでしょうか?」
「あの、この場合教員一人に生徒ひ「はい、任せてください!」「まぁ生徒を守る為と思えば大丈夫です」……人の話を聞いて下さいよ」
ネイサンの話を遮る様に真耶とスコールが了承の言葉を口に出され項垂れた。
「では、皆さん。それぞれ部屋から荷物などを持って教員部屋に向かってください。あ、それとスコール先生少しお話があるので残ってください」
そう言われスコール以外の面々は退室して行き、残ったスコールと学園長は話を始めた。
「今回の件、篠ノ之博士の耳には…」
「恐らく届いている可能性があります。彼女は
そう言うと学園長ははぁ~。と重い息を吐く。学園長がどうして篠ノ之博士とスコールが繋がっていると知っているのかと言うと、ネイサンが学園に入学する数日前まで遡る。
――――ネイサンが入学する数日前
学園長は世界初の男性操縦者が入学する為、向こうが提示した条件等必要な書類などを書いていると突然部屋に人の気配を感じ、机に向けていた顔をあげると目の前に奇抜な格好をした女性が居たのだ。
「ッ!?」
「お、流石元傭兵なだけはあるね。この束さんの気配を殺している状態にも拘らず気配を察して顔を上げるとは」
轡木は突然部屋に居た人物が束と言うと直ぐに篠ノ之博士と分かり、この場にいる理由を問う。
「あの、私が傭兵だなんてそんな……。それと貴女は篠ノ之博士とお見受けして宜しいでしょうか?」
「そうだよ、私が篠ノ之束さんだよ。それと貴方が元傭兵だという事はとっくに調べがついてるよ」
そう言われ轡木は、内心驚きで一杯となった。幾つものカバーストーリーで自分の経歴を書き換えてあるにも拘らず目の前の博士は意図も容易く自身の過去を見つけ出したのだ。
「……流石天災と言われているだけのお方だ。私が用意したフェイクストーリーを見破って過去を見つけ出すとは、御見それしました」
「伊達に天災と言われて無いからね。それでさ、実は今回お願いが有って来たんだ」
そう言われ轡木はお願い?と首を傾げた。
「この学園に私の部下の一人を入れて欲しい。勿論タダとは言わない。私が用意できるものは何でも用意するよ。但しISのコア以外で」
「それはまた何故?」
轡木は突然自身の部下を入れて欲しいと頼みに来た理由を問うと、束はニンマリとした表情を向けながら答えた。
「この学園に入ってくるネイサン・マクトビア。彼は私のお気に入りの子なの。だからその生活の様子を出来る限り見守りたい。けど私は世間からはお尋ね者。なら私の部下をこの学園の教師として赴任させれば見守ることが出来る。それが理由」
そう言われ轡木は考え込む。そして分かりました。と口にした。
「貴女のお願い聞き入れましょう。その代わり条件があります」
「何かな?」
「はい、それは―――」
学園長が提示した条件、それを聞いた束は一瞬驚いた表情を浮かべるがニンマリと笑みを浮かべた。
「良いよ。と言うか、そんなので良いの?」
「えぇ、構いません。それだけで十分です」
そう言うと束は分かった。と言い部屋から忽然と姿を消した。そして暫くして束の部下であるスコールが教師として赴任して来た。
「―――あの時博士にお願いしておきながら、私自身が出来ないとは学園長失格ですかね」
「いえ、学園長はしっかりされていると思いますよ。博士もその辺は評価されおりましたし」
束からも評価されていると聞き、轡木は若干苦笑いを浮かべた。
「そうですか。……それにしてもこんな物を仕掛けるとは。これを仕掛けた人とはいずれ“お話”しないといけませんね」
轡木はそう言い普段見せた事もない鋭い視線で盗聴器を見つめた。スコールは若干冷や汗を流しながら部屋を退室して行った。
スコールが出て行った後、轡木は机の引き出しから一枚の写真を取り出す。
「全く、貴方の息子は色々トラブルに見舞われる様ですね。しっかりと空の上から見守っているのですか、ボス?」
そう言い轡木は朗らかな笑みで写真を眺めた。写真にはジェイソンとギャズ、そして轡木が戦場と思われる場所で肩を並べながら撮られた物だった。
人物設定
・轡木十蔵
IS学園学園長。朗らかな笑みを浮かべながらも自身の信条は貫き通す確固たる意志を持った人物。昔ジェイソンの部下として共に戦場を駆け回っていた。自身の過去を幾つもののカバーストーリーで覆い隠し今の地位にいる。裏の人物とも繋がりがある。最初、ネイサン・マクトビアと言う名前を聞いてジェイソンの息子だと知った時はかなり驚き、学園長としてではなく、彼の父親の元部下として裏から学園生活を見守ろうと色々根回しをしている。
次回予告
ネイサンの部屋に盗聴器を仕掛けた人物を探すべく、学園にハッキングして生徒、教師のPCを調べる束。すると一人の生徒のPCに中にあったあるものに目が留まり、キレた。そしてその生徒の元にスコールが向かった。
次回
やっていい事と、やってはいけない事
~これ、どう言う事なのか教えてくれるかしら?~