世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士   作:のんびり日和

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28話

ブラックと会い、数日が経ち夏休みが後2日となった日。ネイサンは自室で裏情報に詳しい人物と電話越しで会話をしていた。

 

「では、確かなんですね。このヘックスという人物がCIAのパラミリ所属というのは」

 

『あぁ確かだ。以前奴の部隊と交戦したことがある奴に話が聞けたから信憑性のある情報だ』

 

「そうですか。それ以外の情報もこれで間違いは無いんですね?」

 

『間違いないぜ』

 

そう言われネイサンはパソコンでとある銀行口座に値段を打ち込み、送金ボタンを押す。

 

『……おいおい、こんなにもくれるのか?』

 

「相手はあのパラミリですからね。それだけ危険な人物の情報を頂いたんです。それだけこの情報は貴重ですから」

 

『ヘッ。お前さんとお前さんの親父さんくらいだけだぜ、危険を伴って入手した情報にそれに見合った料金を払ってくれる奴は。今度依頼をくれた際は安く引き受けてやるよ』

 

そう言い男は電話を切った。ネイサンは電話を掛けた相手から送られた情報を確認する。

 

「……やっぱりこの女は頭のネジが何本もぬけているのかもしれないな」

 

そう言い今まで集めた情報を、全員分行き渡る様部数を揃え部屋を出る。するとリビングでは既に全員が集まっていた。

 

「ネイサン、皆に話があるって言ってたけど何?」

 

「……先日ココさん達が襲われた殺し屋の依頼主に関することで集まってもらったんです」

 

そう言うと全員が驚いた表情を浮かべた。

 

「ネ、ネイサン、誰から聞いたのそのこと?」

 

ココはネイサンに心配を掛けまいと黙っていたのだが、何故知っているんだとネイサンに聞くとアールが手を挙げた。

 

「お嬢すまん。俺が話した」

 

そう言うと、ココはそう。と言いネイサンに顔を戻す。

 

「では続けます。先日ココさん達を襲った殺し屋の依頼主は確かにCIA、しかもパラミリの連中でした。そしてヘックスという人物もパラミリの所属でした」

 

ネイサンは報告しながら集めた資料を全員に配った。

 

「資料に書いてある通り、ヘックスは元アメリカ陸軍士官学校で最優秀な成績を叩き出し、ある部隊のリーダーに選ばれようとしていたんです」

 

「部隊? 聞いた事が無いねぇ」

 

「俺も聞いた事が無いな」

 

元アメリカ軍デルタフォース所属のレーム、ワイリはそう言い首を傾げる。

 

「知らないのも無理が無いです。部隊はあらゆる記録から抹消されなかったことにされましたからね」

 

「無かった事だと?」

 

ルツはそう言い資料を見ながら呟く。

 

「えぇ。ヘックスをリーダーに創立しようとしたのは女性だけの部隊。以前から構想が軍上層部にありましたが、頭の固い将軍達の手によってその計画は白紙。それが気に喰わなかったヘックスは軍を辞めたんです」

 

「そんな計画が」

 

「女性は戦場では役に立たないと言う固定観念にとらわれた馬鹿の所為ですか」

 

マオは悲観そうな感じを出し、バルメは当時のアメリカ軍上層部に嫌悪を出す。

 

「そしてヘックスはその後、CIAのリクルーターにスカウトされCIAに所属。そしてパラミリに入ったわけです」

 

「軍を辞めた時はまだ正常で、CIAに入った後もまだ正常な人格。一体いつからこんなぶっ飛んだ人格になったんだ?」

 

トージョはそう言うとネイサンは次のページにそれが書いてあります。と言い次のページに進ませた。

 

「同時多発テロ? てことはつまりアイツは9.11の被害者って事か?」

 

ルツの問いにネイサンは半分は。と言い説明を始めた。

 

「彼女、実は婚約者がいたみたいなんです。当時付き合っていたその婚約者は貿易センター、しかも丁度飛行機がぶつかった階で仕事をしていた様なんです」

 

「それが原因で人格が大きく歪んだって事か」

 

「そう言う事です。そしてテログループを狩る為、PMCや軍で扱いに困る人物を集めて構成された組織、カットスロート(喉切り)と言う部隊を編成したようです。そして世界中にいるテロ組織を襲撃しては壊滅、更にテロリストに武器を売っている武器商人にも標的に定め殺しまわっているようです」

 

そう言うと全員苦い顔を浮かべる。

 

「武器商人って。てことはお嬢もその一人という訳か」

 

「えぇ。ですが、普段ココさんは周りに護衛が要る為殺せる可能性が0に等しいとココさん達に送った殺し屋によって分かった。だから標的を変えた」

 

「「「「はぁ?」」」」

 

ネイサンの標的を変えたと言う言葉に全員首を傾げた。

 

「今から僕が言う事は他言無用でお願いします。学園行事の臨海学校2日目に僕が篠ノ之博士から僕の専用機用の武器を貰いその日は訓練をして終了したとココさん達には報告しましたが、実際は違うんです」

 

そう言うと鈴はネイサンが何を言おうとしているのか理解したのか声をあげる。

 

「ちょっ!? ネイサン、それは緘口令が敷かれているでしょ! 喋ったら「大丈夫です。皆さんに話してもいいと許可は貰っています」え? それって一体?」

 

「許可をくれた人物については後で説明します。話を戻しますね。実は臨海学校2日目、博士から武器を貰った後に訓練をして終了していません。緊急を要する事案が発生した為訓練は行われず、その事案の対処に専用機持ちは招集されました」

 

「緊急事案? 一体何があったの?」

 

ココがネイサンに聞くと、ネイサンの近くの席にいたマドカが口を開いた。

 

「……軍用ISの暴走だ」

 

「「「「ぼ、暴走?!」」」」

 

マドカの口から出た言葉に部屋にいた鈴とネイサン以外は驚き、口をそろえ声をあげる。マドカはその声に気にせず説明を続ける。

 

「アメリカ軍がイスラエルの技術開発所と共同開発していたISが謎の暴走を引き起こし日本に向かって飛び出した。そいつの撃墜指令が臨海学校に行っていた兄さん達に下されたんだ。因みにその時に私は兄さんと会い、共に作戦に従事した」

 

「そ、そんな事が……」

 

マドカの説明にココ達は言葉を失った。そんな中、アールはマドカの説明の一つ【謎の暴走】と言うキーワードに引っ掛かりを憶えた。

 

(謎の暴走? 軍のファイヤーウォールはトップクラスを誇るから暴走が起きる可能性は低い。となると誰かが故意に暴走、もしくはウイルスとか。……ウイルス? まさか!?)

 

アールはハッと顔を上げネイサンを見る。ネイサンはアールが突然顔を上げ見てくることに気付き、頷く。

 

「アールの推測通りですよ」

 

「マジかよ。じゃあ本気でお前を標的にされているって事じゃないか‼」

 

突然2人だけで会話をする光景に、バルメが待ったを掛けた。

 

「2人とも、自分達だけで会話をせず私達にも説明してください!」

 

そう言われネイサンはブラックの時と会話した内容をココ達にも説明した。自殺したコンピュータープログラマーの男。そして副業としてコンピューターウイルスを作成し裏の人間に売っていた事。そして最後に作られたウイルスの性能と引き渡しだと思われる日時などを。その説明を聞いたレーム達は憤りを感じ、ココは自分の所為でネイサンが最も危険な人物に目を付けられたと感じ、椅子の上から落ちそうになった。

 

「ココ!?」

 

そう言い近くに居たバルメがすかさずココを抱き留めた。

 

「……ココを部屋で寝かしてきます」

 

「部屋にある棚の中に精神安定剤の入った薬箱があるはずです」

 

ネイサンはそう言い、バルメはココを支えながらリビングを後にした。

 

「……ネイサン。その男の情報は一体何処から入手したんだ?」

 

レームは煙草を咥え火をつける。

 

「……父の友人、CIA欧州担当課長ジョージ・ブラックです」

 

ネイサンが言った情報源がCIAだと聞いた瞬間、全員驚いた表情を浮かべた。

 

「そいつが俺達に殺し屋を送ったと言う可能性は?」

 

「まず無いと断言できます。理由になるかは分かりませんが、メリットが無いんです。ココさん達を殺した所で彼には何の得もありません。更に僕を殺そうものなら、アメリカは父と親交がある企業等から見放される可能性があります」

 

そう言うとレームはそうか。と呟き煙草の灰を灰皿に落とす。

 

「じゃ、じゃあさっき俺達に緘口令が敷かれている事案を話してもいいと許可をくれたのも」

 

「えぇ。ブラック課長からです」

 

ルツの問いにネイサンは答え、懐からシグを取り出しスライドを引き初弾を込め机の上をレームの前に行くように滑らせた。

 

「……ネイサン?」

 

「CIAに知り合いがいると皆に内緒にしていた。そして皆に何も言わずにそのCIAと情報交換をしていたんです。僕の処分は皆の纏め役である貴方にお任せします」

 

そう言い目を閉じるネイサン。全員何も言えずレームを見つめていると、レームは目の前に来たシグを掴みとる。

 

「お、おいレーム。まさか本気で撃つ気か?」

 

ルツはレームにそう問うが、レームは何も言わずシグを掴み、ネイサンを見ているだけだった。ネイサンの隣にいたマドカはもしレームがネイサンを撃つようなら撃ち返す為、拡張領域にしまったシグを何時でも取り出せるようにいた。

鈴も同じだった。ネイサンは自身の命の恩人。撃たれそうになったら身を挺して守るつもりでいた。

シィーンと静まり返ったリビング。すると最初に静寂を打ち破ったのはレームだ。

 

「全く命賭ける様な真似はするんじゃねぇよ、ネイサン」

 

そう言い笑みを浮かべマガジンを抜き、スライドを引き薬室から弾を出した。

 

「君がCIAと繋がりが有ったのは驚きだ。だが君はあの伝説の傭兵と言われたジェイソン・マクトビアの息子だ。それくらいの繋がりはあると思えば納得する。だから俺は君を処分しない」

 

そう言い銃とマガジン、そして弾をネイサンに投げ渡すレーム。その光景に全員ホッと一息を入れた。

 

「但し、今後そう言った機関と連絡を取る際は俺達にも一言いう様に」

 

そう言いレ―ムは俺からは以上だ。と笑みを浮かべながら椅子から立ち上がり外へと出る。

 

「ネイサン、俺達も別にお前が裏切ったとかは思っちゃねぇからな」

 

「だな。これまで色んな仕事を一緒にしてきたんだ、そんな中にはお前が情報屋から買った情報で命を救われた事だってあるからな」

 

そう言いルツとトージョは地下の射撃場へと向かう。

 

「ネイサン、一人で抱え込んで考えないようにするんだ。俺達は仲間でもあり、家族でもあるんだからな」

 

「ワイリの言う通り。私もネイサンの事はもう一人の息子みたいに感じているんだから」

 

ワイリとマオはそう言い外へと向かう。

 

「俺もお前は弟みたいな奴だと思っている。一人で抱え込むんじゃないぞ」

 

ウゴはそう言って車の洗車に向かった。

 

「ネイサン、わりぃ。お前さんばっかり汚れ役みたいな物背負わせちまって」

 

アールは申し訳なそうな表情で言うと、ネイサンは首を横に振った。

 

「いえ、別に気にしてませんよ。みんなとこれからも仕事をしていくんですからこれ位へっちゃらです」

 

そう言うとアールはそうか。と朗らかな笑みを浮かべ、二階の部屋へと向かった。

そして

 

「心配かけてすいません」

 

そう言い鈴とマドカに頭を下げるネイサン。

 

「……もし私を一人ぼっちにする様な事が今後有ったら、後追い自殺しますからね」

 

マドカは若干怒気を含んだ声でそう言い昼食の準備に向かった。

 

「……取り合えず一発殴らせなさい」

 

「な、何で鈴だけ暴力なんでしょうか?」

 

「うっさい‼ 兎に角心配かけさせた罰よ!」

 

そう言い殴り掛かってくる鈴にネイサンは避けて逃げた。

 

「暴・力・反・対!」

 

「うるさい! うるさい! うるさい~! 兎に角殴らせなさい‼」

 

そう言い外へと逃げて行ったネイサンを追いかける鈴。追いかけっこは20分も続き、最後は鈴のスタミナ切れで終わったと思われたが、鈴を介抱しようと近づいたところを狙われ腹パンを一発受け、その場で悶えたそうだ。

 

 

 

 

アメリカ、バージニア州CIA本部

ブラックは自室である所に電話を掛けていた。先日、ネイサン達と会話をした際に別れ際にアールから貰った折り畳まれた紙には人名だけ書かれており、ブラックはその人物に電話を掛けていたのだ。そしてコール音が鳴り響いた後電話に出る音が鳴った。

 

『お久しぶりです、ブラック課長』

 

「久しぶりだな、ヘックス。率直に聞くがお前、例のお嬢さんの所に殺し屋を送ったのか?」

 

『……何のことでしょうか? 私にはさっぱり分かりませんが?』

 

ヘックスは知らないと言った雰囲気を出しながら答えるが、ブラックは恐らくこいつだと確信した。だが何が目的なのか明確にすべくあえて本当に知らないと言った雰囲気を出す。

 

「そうか、ならいいが。……一応忠告しておく。例のお嬢さん達は要観察対象に過ぎない。手を出すのはご法度だ。それと……数年前から入って来ていた隊員もだ。いいな?」

 

『分かりました。では』

 

そういいヘックスは電話を切った。

 

「……恐らく釘は半分しか刺せてないな」

 

そう言い部下の一人を呼びヘックスの行動を監視するよう指示した。今後起きる可能性がある戦いに備えるべく。




次回予告
夏休み最終日、真耶は学園へと戻る為に荷物を纏めているとオータムが選別という事でライフルをプレゼントした。そして束も傭兵の技術と知識を学び終えたプレゼントとしてある物を渡した。
次回
同型機
これだとペアルックだね!

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