世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士   作:のんびり日和

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閑話・ネイサンの誕生と成長

ネイサンこと元織斑一夏は、普通の子供だった。違いがあるとすれば家族が姉一人ということだけだ。その姉こと織斑千冬は両親が蒸発した後、自分の手で弟を育てるために必死にアルバイトなどをこなして、弟を育て上げていた。

周りの大人達は手を差し伸べて助けようとしたが、千冬はそれらの手を取らず自分の手で育てると言った。

千冬は何時もアルバイトの為帰りが遅いため、弟の一夏は何時も一人寂しくご飯を食べていた。更に周りの姉の事を心酔している人達からの期待の声と眼差しのプレッシャーに肩を重くしていた。勿論子供でも今姉は忙しいと分かっているが、一度姉にそのことを打ち明けたが

 

「悪いが、今忙しいから後にしてくれ」

 

そう言われ一夏は一度は仕方がないと思っていたが、姉と一緒に居られると思う時間に勉強を見て欲しいや、相談に乗って欲しいと言っても帰ってくる言葉は何時も

 

「忙しいからまた後でな」

 

その言葉を何時も聞いていた一夏は、遂にこう思い始めたのだ。

 

(お姉ちゃんは僕の事なんてどうでもいいんだ。…こんな思いするくらいなら僕もお父さん達と一緒に何処かに行きたかった)

 

そう思い始めた一夏は小学生ながら、家から出て行こうと考え始めたのだ。何時でも出て行けるように、着替えやお菓子などを入れたカバンを机の下に隠しているとそのチャンスは突然やって来た。千冬がドイツで行われるISの大会、モンドグロッソに出場するため出掛けるぞと言ってきたのだ。一夏はチャンスだと思い、家出用のカバンを背負いドイツへと出発する。

一夏は大会関係者用のホテルへと連れて来られた後、用意された部屋に入り要らない荷物などをある程度ホテルに置いていき、家出用に用意したカバンを背負い部屋から抜け出す。ホテルには日本人観光客が多くおり、その中を掻い潜りながら一夏はホテルの外へと出た後、一夏は何処か遠くへと思い山の方へと向かって走り出した。

暫く走り続けていた一夏は、道端の置かれている石に腰を下ろしカバンに入れているお菓子を取り出して食べていると

 

「Hey, buddy. What are you doing in such a place?《おい、坊主。そんなところで何をしているんだ?》」

 

英語でそう声を掛けられ一夏は声がした方に顔を向けると、髭を生やした男性が立っていた。一夏は仲の良かった年上の友達に教えてもらった英語を使う。

 

「えっと、Running away from home(家出)

 

男性は一夏が家出と聞いた瞬間、顎に手を添え考えるような素振りをする。《※此処から英語は使いません》

 

「そうか、だったらそんな物食ってても後で飢えるぞ」

 

「おじさんには関係ないじゃん」

 

一夏は突然現れた男性に警戒しながらお菓子を食べ終え、何処かに行こうとしたが男性の腕が一夏を掴み上げ何処かに連れて行く。

 

「は、離してよ!」

 

「いいから黙って大人しくしてろ」

 

そう言いながら男性は一夏を肩に担ぎ何処かへと向かって歩き出した。暫くして到着したのは一軒のお店だった。男性は迷うことなく店に入ると店内はモダンな木造でカウンターには一人の初老男性がカップを磨いていた。

 

「うん? ジェイソン何か用かって、その子供どうしたんだ?」

 

カウンターにいた男性はジェイソンと呼んだ男性が担いでいた一夏に驚きながらそう聞くとジェイソンは頭を掻きながら訳を話す。

 

「そこで拾った。こいつが言うには家出したって言うんだ。取り敢えず何か食い物を用意してやってくれ」

 

そう言いながらジェイソンは一夏を椅子に座らせる。一夏はとりあえず大人しくしていたが、家族の所に引き渡されると分かればすぐに逃げる用意だけはしていた。だが

 

「逃げようとか思うなよ。逃げようとすればすぐに家族の所に引き渡すからな」

 

そう言われ一夏は大人しく席に着く。暫くして奥から店の男性がスパゲッティーを持ってきて一夏の前に置く。

 

「ほれ、どんな子供でも大好きなスパゲッティーだ」

 

「うん? おい、ギャズ。俺の分は?」

 

「あ? あるわけねぇだろ。その前にこの前のツケさっさと払え。じゃなきゃ出さん」

 

そう言われジェイソンはチッ。と舌打ちした後、一夏の方へと顔を向ける。一夏は食べてもいいのかと思い悩んでいると、ジェイソンがため息交じりで促す。

 

「な~に固まってんだ。さっさと食わねぇと俺が食うぞ」

 

そう言われ一夏はフォークを手に取り、ズルズルとスパゲッティーを食べ始めた。ジェイソンやギャズと呼ばれた男性は安堵したような顔を向けながら一夏が食べ終えるまで見守っていた。そして食べ終えた一夏に家出した理由を聞く。一夏は二人を信用出来ると思い、訳を話した。家のこと、姉にちゃんと自分を見てもらってない事、周りの態度を。

一夏の話を聞いた二人は呆れたような顔を浮かべる。

 

「お前の姉ちゃん、ひでぇ奴だな」

 

「全くだ。まだ幼い子供がいるのに周りの大人達を頼らないとは、虐待に等しいぞ」

 

一夏は自分が今まで貯めていた愚痴を出したおかげか胸が軽くなったような表情を浮かべているとジェイソンがある提案を出す。

 

「なぁ、一夏。お前俺の息子になる気はないか?」

 

「お、おいジェイソン! 本気か?」

 

一夏はジェイソンの言っていることが理解できないと言った表情を浮かべているとジェイソンが訳を話す。

 

「お前さんをこのまま放置するのも後味が悪いからな、だから俺の息子になれや。もし俺の息子になったらお前さんに伝説の傭兵の技術を伝授してやるよ」

 

「え? 伝説の、傭兵?」

 

一夏は目の前にいるジェイソンが伝説の傭兵とは思えないと思っているとカウンターにいたギャズが反論する。

 

「おい、ジェイソン! この子をお前と同じ道を歩ませる気か! それだったら俺の店で預かった方が「なる! 僕おじさんの息子になる!」ぼ、坊や?!」

 

一夏の返事を聞いたジェイソンはなる訳を聞く。

 

「…僕は今まで自分からやろうとした事を何時も姉に止めさせられてた。だから僕ジェイソンさんの息子になって伝説の傭兵の技術を身に付けたい!」

 

「よし、いい心がけだ。これからよろしく頼むぜ!」

 

「……はぁ~、全く子供は無知で恐ろしいよ」

 

ジェイソンは大笑いしている中、ギャズは呆れたような顔でため息を吐く。

 

「さて、俺の息子になるんだったら新しい名前を決めねぇとな」

 

そう言ってジェイソンはうぅ~んと頭を捻ってしばらくして閃いたと言わんばかりの顔を表す。

 

「よし、お前は今日からネイサンだ。ネイサン・マクトビア、それが今日からお前の名だ」

 

「ほぉ~う、ネイサンと来たか。その訳は?」

 

ギャズはジェイソンが出した名前の訳を聞くとジェイソンは笑いながら訳を話す。

 

「ネイサンはヘブライ語で[ネタン]って呼ぶ。その意味は【神からの贈り物】って言う意味さ」

 

「なるほど、神からお前さんへの贈り物って言う事か」

 

「そう言うわけだ。さて、ネイサン。これからよろしくな」

 

「うん、よろしくね。お父さん!」

 

ネイサンの笑顔からの父さんという言葉を聞き、ジェイソンは顔を手で覆う。

 

「どうしたジェイソン?」

 

「やべぇ、ギャズ。お父さんっていう単語の破壊力侮ってたわ」

 

「あっそ」

 

ギャズは呆れた様子で言う。そうしてネイサンとジェイソンは家族となりジェイソンはネイサンに銃の知識、格闘術、戦術、交渉術など傭兵に必要な知識と技術を伝授した。それから数年が経ち、一夏が中学1年と同じ年に運命の別れが訪れた。ネイサンが街で買い物を済ませ、街から離れた湖近くに建てられているウッドハウスに帰ってきた時、リビングで倒れているジェイソンを見つけたのだ。ネイサンは急いで救急車を呼び、ジェイソンを病院へと運びそこで医者から信じられないことを告げられたのだ。

 

「が、ガン?」

 

「はい。ジェイソンさんの肺に悪性のガンが出来ており、残念ながらもう手の施しようがありません。」

 

そう告げられ、ネイサンは暗い雰囲気を出しながらジェイソンが寝ている病室へと入る。病室ではジェイソンがベッドで寝ており、ネイサンは告げるべきかどうか迷っていると

 

「……俺はもう長くないのか?」

 

「……うん」

 

ジェイソンがネイサンの気配を感じ取り目を開けながらそう聞くと、ネイサンは隠すべきではないと思い、頷く。

 

「……ネイサン、俺の部屋にあるクローゼットに金庫がある。暗証番号は0421だ。中に入ってるものはネイサン、お前が好きに使え」

 

「と、父さん? まさかこのまま死ぬ気なのか? そんなのダメだ! まだ俺は父さんといたい! まだ教えて貰いたいことが沢山あるんだ!」

 

「…聞けネイサン! 俺がガンだって言う事は随分前から知ってたんだ」

 

「え?」

 

「お前と初めて会ったその日に、友人の医者からガンだって告げられてたんだ。 あの時は家に帰って死のうと思ってた。 だがお前と会って最後に死ぬ前にお前を立派な傭兵に育て上げてから死ぬのも悪くないと思ってお前を息子にしたんだ。わるいな、お前を俺のような兵士に育てたのは間違っていたんじゃないかって最近「そんなことない! 俺は父さんみたいな傭兵になりたい。そう思って父さんの息子になったんだ!」…へへへ、どうやら俺はいい息子を持ったみたいだ」

 

するとジェイソンの目から涙が流れ始め、ネイサンはもうすぐ別れが訪れると思い、ジェイソンの手を握る。

 

「……ネイサン、立派な傭兵になって俺を超えるんだぞ」

 

「うん、絶対父さんを超えて見せる。父さん以上の傭兵になってみせる」

 

「……頑張れよ、俺の息子…よ……」

 

ジェイソンが最後の言葉を呟くと同時に機械からピィーと機械音が鳴り響き、ネイサンは声をあげながら泣く。病室の前で見舞いに来たギャズは声を殺しながら先に逝く友に涙する。

 

 

それからネイサンは湖近くに墓を建て、ジェイソンを弔った。ネイサンはジェイソンが言い残した部屋のクローゼットにある金庫に番号を入れ、扉を開ける。中には数百万ドル分の札束と一丁の銃が入っていた。そして手紙も一つ入っており、ネイサンはその手紙を手に取り、中身を取り出す。

 

『ネイサン、これを読んでいるって言う事は俺はもうこの世に居ないということだな。金庫に入っている金は今後の活動資金として使え。それと一緒に入っている銃は俺が愛用していた物だから大事に使ってくれ。そう言えば、ネイサン。金庫を開けた際に使った番号を覚えているか? 0421、この番号はお前と俺が初めて会った月日だ。それじゃあネイサン、死ぬ間際に言ったかもしれないが、俺を超える傭兵になれよ』

 

ネイサンは手紙に涙を零しながら、ジェイソンが愛用していた銃を手に取る。銃はM1911A1にアンダーレールを取り入れ、バレル、ハンマー、グリップなどがカスタマイズされていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そしてネイサンは身支度を済ませ、荷物を持ってギャズのいる店へと向かう。中に入るとギャズは変わらずカップを磨いており、ネイサンが入ってきたことに気づきカップを置き、ネイサンに近づく。

 

「…もう行くのか?」

 

「うん、父さんみたいな傭兵になるためには戦場に赴く必要があるからね」

 

「俺としてはこのまま此処で一緒に働いてほしい所なんだがな」

 

ネイサンはギャズの提案を首を横に振る。

 

「それはありがたいけど、父さんと約束してるから」

 

「……分かった。それじゃあ何か必要な物があったら何時でも連絡をくれ。武器から車まで何でも用意してやるからよ」

 

「ありがとう、ギャズ。それじゃ行ってきます」

 

そう言ってネイサンは店を後にした。ギャズは店の棚に飾られている写真に目を向け、懐かしむように呟く。

 

「泣き虫だった、ネイサンが今じゃ立派な男になったな。そう思うだろ、ジェイソン」

 

そう呟くと、何処からか「そうだろ!」と言いながら笑う友人が何時もの席に座っているような気がした。

 

 

 

それからネイサンは多くの戦場を渡り歩き着実に父と同じ傭兵としての道を歩き続けていく途中で武器商人ココ・ヘクマティアルと会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

人物

ジェイソン・マクトビア

多くの戦場を渡り歩き、伝説と言われるほどの実力を有していた人物。一夏に会った時に友人の医者からガンと言われ、自宅に戻って自殺を考えたが一夏と出会い、一夏を息子に向かえ自分を超える傭兵に育て上げるために知識と技術を与えた。その後、一夏が中学一年と同じ年になった時に、ガンによって亡くなる。

 

ギャズ

ドイツの片田舎で飲食店を営んでいる人物。裏で武器から車まで用意できる販売屋。ジェイソンとは現役の頃からの友人で、口喧嘩をするほど仲がいい。ジェイソンが亡くなってからネイサンを引き取ろうとしたが、ネイサンは父親を超える傭兵になるため戦場へと向かうと言い、ならば裏の人間として力を貸すと言う。時折ジェイソンの墓に行き、ネイサンの近況報告などをしている。




次回予告
学園へと入学が決まったネイサンは、必要な着替えなどが入ったカバンを背負い学園へと向かった。そしてクラスに席に着くと副担任の山田がきてSHRが始まった。
次回入学そして騒動~ネイサン・マクトビア、まぁとりあえずよろしく~

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