世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士   作:のんびり日和

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27話

ネイサンがドイツに戻って来てから数日が経ち、夏休みが残り数日となったある日。ネイサンの家の地下ではココが新しい武器をレーム達に配っていた。

 

「はい、では此方が我々の新しい装備。マグプルMASADAです!」

 

 

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そう言いレーム達に見せるココ。レーム達はおぉーー!と声を揃え上げる。

するとマドカが手を挙げた。

 

「何で新しい装備を配るんだ? 金の無駄じゃないのか?」

 

「ん~? それは皆とマガジン、弾薬を統一するのが目的だよ。因みにネイサンとマドカはそのままで良いよ」

 

そう言うとルツが新しい装備という事でサイドアームもかと聞く。

 

「という事は拳銃もか、お嬢?」

 

「そうだよぉ」

 

そう言いハンドガンケースから一丁の拳銃を取り出した。

 

 

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「SIG SAUER P226。拳銃は共通の弾薬を目的としたものだから、今まで9㎜以外を使ってた人は今のを使ってもいいけど、そっちは予備用として持っててね」

 

そしてそれぞれ新しい武器を持ちレンジに立ち的を射抜く練習を始める。ネイサンは鈴の射撃レーンで見守っていた。

 

「以前より大分良くなってますよ、鈴」

 

「そう? まぁ、バルメさんのお陰よ。それとアンタとの訓練もね」

 

そう言われネイサンは笑みを浮かべ、どういたしましてと言う。

 

「ネイサン、ちょっといいか?」

 

そう声を掛けられ、声の方に目を向けるとアールが其処に立っていた。

 

「どうしたんですか、アール」

 

「あぁ、ちょっと話があるんだが、3時頃時間あるか?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

「じゃあ後でな。練習の邪魔して悪かったな、鈴」

 

そう言いアールは弾薬などを置いている机の方へと行き、空になったマガジンに弾を装填し始めた。

 

「何か用なのかしら?」

 

「さぁ? まぁいいでしょう。それより鈴。手が止まってますよ」

 

そう言われ鈴は再度、サイトを覗き込み的を撃ち始めた。そして時刻は進みアールとの約束の時間となり、ネイサンはコルトをショルダーホルスターに仕舞い、P226を拡張領域に仕舞った。そしてリビングに行くとアールが既に準備を終え待っていた。

 

「すいません、お待たせしました」

 

「いや、構わねぇよ。それじゃあ行こうか」

 

そう言いアールはネイサンと共に家を出た。車に乗って街から少し離れた位置にあるギャズの店へと到着する

 

「何でまた此処に?」

 

「ちょっと此処で待ち合わせをしててな」

 

そう言い、店の中へと入って行く。店内は相変わらずガランとしていたが、一人だけ客が居た。その人物はネイサン達に気付き手を挙げる。

 

「久しぶりだなぁ、アール。そしてネイサン」

 

そう言い持っていたフォークとナイフを置く、眼鏡を掛けた太った男性。アールはネイサンの名を出したことに驚いていた。

 

「ネイサンの事を知っていたのか、ソウ?」

 

「勿論。彼の父親とは友人だったからな。そうだろ、ネイサン?」

 

「えぇ。お久しぶりです、ブラックのおじさん」

 

そう言い笑みを浮かべるネイサン。

 

「さて、話をする前にこいつを食べ切ってもいいか?」

 

「はぁ、食べ過ぎは体に悪いですよ」

 

「良いんだよ。これが俺の唯一の楽しみみたいなものなんだからな」

 

ネイサンは5段も重ねられた皿を見て呆れるように息を吐き、忠告をするがブラックは笑いながら忠告を蹴とばしヒレ肉を頬張る。それから数十分後、ヒレ肉を食べ終えたブラックは口元を拭き笑みを浮かべる。

 

「さて、食事も終えたし話し合いと行こうか」

 

「その前にアールとはどういう関係なんですか?」

 

ネイサンは食事を終えたブラックに呆れ顔でアールとの関係を聞く。

 

「ん? アールとはボスニアでの紛争時に彼がベルサリエリに所属していた時からの知り合いだ。それで色々と連絡を取り合ったりと親しい関係だ」

 

ブラックがそう言うと、ネイサンはふぅ~ん。と嘘を見抜くような鋭い視線を送る。

 

「……嘘はついていないみたいですね。……半分は」

 

そう言われフッと笑みを浮かべるブラック。

 

「やはり気付いていたか」

 

「えぇ。アール、本名レナート・ソッチがブラックのおじさんの部下だと言うのは僕がココさんの分隊に入ってから暫くした後知りました」

 

そう言うとアールは驚いた。自身の経歴はそう簡単にはバレない様に2,3重にもカバーしたにも関わらずネイサンにあっさりとバレていたからだ。

驚いた顔を浮かべるアールにネイサンは笑みを浮かべる。

 

「安心してください、アール。僕は別に皆に言いふらすつもりはありませんよ」

 

「……そうか。だが安心しろネイサン。もうこいつとは仕事上の付き合いとしか思っていない。今日会いに来たのはあることを確認するためだ」

 

そう言うとアールは鋭い視線をブラックに送る。

 

「この前、俺達はお前らCIAが送った殺し屋で殺されかけたんだぞ」

 

アールから出た言葉にネイサンは驚く。そんな報告はココやレーム達から教えてもらっていないからだ。

 

「アール、それは本当ですか?」

 

「あぁ。お前がIS学園に行っている間、俺達はアレクサンドリアで仕事をしていたんだ。そんな時に殺し屋が襲撃してきた。何とかそいつらを撃退し、ボスに依頼主は誰なのか口を割らせたところ、ある人物の名前を言った。そいつをHCLI社が調べたらCIAの人間だと分かったぞ」

 

そう言うとアールは鋭い視線をブラックへと送り続ける。

 

「……済まないが、その情報は初耳だ」

 

「本当か?」

 

アールはワインを飲みながら、ブラックの表情を観察し続ける。

 

「レナート。君の護衛対象のお嬢さんは我々にとって要注目人物だ。彼女が動けば少なからず世界に変化をもたらす。そんな人物を監視するのが私らの仕事だ」

 

「知ってるよCIA欧州課長ジョージ・ブラック課長。だがな、お前等CIAや私利私欲のためにお嬢を傷付ける奴は俺が許さないぞ」

 

アールは殺気を滲み出しながら、ブラックを睨みつけているとネイサンが声を掛ける。

 

「アール、殺気を抑えてください。ブラックのおじさん、いやブラック課長。貴方は先程“その情報は初耳だ”と仰いました。つまり他の事で何か知っているという事ですか?」

 

ネイサンは普段の呼び方ではなく、仕事時の呼び方でブラックに問うとブラックは頷く。

 

「あぁ。ネイサン、学園行事の臨海学校2日目にある出来事があっただろう?」

 

「……えぇ。戒厳令が敷かれている為詳しくは言えませんが、ありました。まさかその出来事に関することですか?」

 

「……その通りだ」

 

ブラックの肯定の言葉に、アールはお嬢ではなくネイサンの命を狙ったのかと思い懐に仕舞っているM9に手を掛ける。

 

「アール、抑えてください。それでブラック課長。その出来事に貴方は関わっていますか?」

 

「いや、私自身君を傷付ける理由が無い。それに君を殺そうものならアメリカは各国の首脳陣から企業まで見限られる可能性がある」

 

そう言いグラスの水を飲むブラック。

 

「では、一体?」

 

「うむ。実は先日、あるアパートの一室で一人の男性遺体が見つかった。警察は自殺として案件処理した。だが我々がその男を調べると可笑しな部分が見つかった」

 

「可笑しな部分?」

 

「あぁ。遺体となった男は本業はコンピュータープログラマー、そして副業としてコンピューターウイルスを作っては裏の連中に販売する男だったんだ」

 

そう言い眼鏡をあげるブラック。

 

「可笑しな部分は此処からだ。男は最後に何かしらのウイルスを作り、誰かに渡している。だがそのウイルスを作ったと思われるパソコンが無い」

 

「警察が押収したわけではないとすると、処分したのでは?」

 

「私も最初はそう思った。だが奥にある寝室の衣装ケースの天井裏からある紙が見つかった」

 

紙?とネイサンとアールは首をかしがる。

 

「その紙には日時、ウイルスの性能が書かれていた。恐らく何かあった時の為に残していたんだろう」

 

ブラックはそう言い折り畳まれた紙を手渡す。ネイサンはその紙を開き中身を確認する。

 

「日時は7月の○日。ウイルスは予め決めておいたシステムにコンピューターのシステムを書き換えるタイプ」

 

「これが一体、ネイサンの何に関係するんだ?」

 

アールは一体なんの関係があるんだとブラックを睨む。だがネイサンは何かが繋がったのか顔をブラックの方へと向ける。

 

「なるほど、そう言う訳ですか」

 

「気付いたか、ネイサン」

 

「えぇ。ウイルスの作成を依頼した連中はココさん達が駄目だった為に……」

 

ネイサンは其処で一呼吸を入れる。

 

「僕の命を狙ったという訳ですか」

 

「っ!?」

 

ネイサンの突然の発言にアールは驚く。

 

「あぁ。恐らくお嬢さんを狙ったが失敗に終わり、なら最近入った隊員。つまりネイサン、お前を殺そうと考えたんだろう」

 

ブラックの淡々とした説明に、アールは怒りから懐の銃を引き抜こうとしたが

 

「店内での銃抜きは禁止だ」

 

ギャズはそう言い銃を掴んでいるアールの腕を抑える。

 

「おい、ブラック。そいつは俺とアイツの大切な息子だ。それを命を狙われていると知っておきながら放置していたのか? もしそうなら……分かってるだろうな?」

 

ギャズからの鋭い殺気を含んだ視線にもブラックは冷静に返す。

 

「勿論分かっている。私だってネイサンが狙われていると知って急いでウイルス作成を依頼した人物を調査している。……ネイサン」

 

ブラックに呼ばれ、ネイサンは顔をブラックの方へと向ける。

 

「恐らくお前とお嬢さんを狙った奴は同一人物だろう。気を付けろ、恐らくまたソイツはお前かお嬢さんを狙ってくるかもしれん」

 

そう言い金を置いてブラックは店の出口へと向かう。その時アールはブラックにそっと折り畳まれた紙を手渡す。ブラックは怪訝そうな顔を浮かべながらもそれを受け取り店を後にした。

 

「それじゃあ俺の方でも調べておく。確かアールと言ったか? お前達の元に送られた殺し屋達の依頼主は本当にCIAの連中なのか?」

 

「お嬢の会社の情報部はそう言っているらしい。詳しい事はまだ時間がかかるって言っていた。そして依頼した人物の名前が“ヘックス”という人物くらいだけど」

 

ギャズからの問いにアールが答えると、ヘックスという単語が出た瞬間、顔を嫌そうな感じに変える。

 

「よりにもよってヘックスかよ」

 

「ギャズ、知ってるんですか?」

 

「噂くらいだけならな。パラミリの中では最も戦場で会うとやばい奴としてトップに立つ程の女だと聞いている。ドイツ語でヘックスは魔女だ。その名の通り魔女の様な残忍さを持った奴だと噂されている。俺が知っているのは此処までだ。また何かわかったら教えてやるよ」

 

そう言われネイサンとアールはギャズに調査を頼み店を後にした。家へと帰る道すがら車の中でアールはネイサンに質問を投げる。

 

「ネイサン、お嬢達にも今回の事話しておくか?」

 

「……そうですね。アール達を襲った殺し屋を雇ったのはCIA、しかもパラミリの可能性が高くなった以上、警戒は厳にしておいた方が良いでしょう。ですがそのヘックスがどういった人物なのかしっかりと調べ、裏付けした後に言いましょう」

 

そう言いながら、長い付き合いのある情報屋達にも情報収集を依頼するネイサン。




次回予告
夏休み終了の2日前。ネイサンは集めた情報、そしてギャズの情報を持ってレーム達を集めた。そして集めた情報をココ達に発表した。その頃ブラックはある人物に電話を掛けていた
次回
因縁

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