世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士   作:のんびり日和

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26話

「……久々に戻って来たな」

 

千冬はそう言いながら上に着ていたスーツを持ちながら、カッターシャツの腕を捲りあげ家へと帰っていた。

一夏が行方不明になった後、ドイツに一夏の捜索に行ったり、学園で生徒達に教鞭をとるなどしたため家に帰ってくる時間が無かったのだ。そして久しぶりの実家へと戻ってくると喪服を着た人達が家へと来ていた。

 

「……一体何が?」

 

「あら、もしかして千冬ちゃん?」

 

そう言い一人の年配の女性が千冬に近付く。

 

「えっと、お久しぶりです雪子さん」

 

そう言い頭を下げる千冬。雪子は箒の伯母で、篠ノ之神社の管理をしている方なのだ。

 

「本当に久しぶりね。それと……この度はご愁傷様です」

 

雪子はそう言い頭を下げた。千冬はその言葉の意味が分からず、慌てた表情を浮かべる。

 

「あの、雪子さん。い、一体何がご愁傷様なんですか?」

 

その言葉に雪子は驚き顔をあげる。

 

「え? 何も知らされて無いの? 貴女の弟さんが遺体とはいえ漸く見つかったのよ」

 

その言葉に千冬はえ?と呟き、持っていたスーツを落とす。

 

「雪子さん、何の冗談なんですか? い、一夏の遺体が見つかったなんて、そんな」

 

千冬は雪子が言ったことが信じられず、家に入って行く。雪子はその後を追い、共に家へと入って行く。玄関に入り奥へと行くと、お坊さんが木魚を叩きながらお経を読み、一夏と親交があった人達が涙を流しながら、手を合わせていた。

 

「……い、一体これは」

 

「千冬ちゃん、本当に何も知らされて無いの?」

 

そう言われ千冬は雪子に、事の始まりを聞く。

 

「葬式を取り仕切っている人達が言うには、数日くらい前にドイツで身元不明の遺体が見つかったらしくて、それで行方不明者のDNAから検索したら一夏君のDNAと一致したらしいの。その後政府の方達が一夏君の遺体をドイツから輸送してこの家まで運んでくれたの。その後に葬式の準備や親交のあった人達に手紙とかが送られたの」

 

雪子は葬儀を取り仕切っている人達から聞いた話を千冬にも聞かせると、千冬は臨海学校の時の束との会話を思い出す。

 

『彼がいっくんだって? おいおい冗談は程々にしときなよ。あといっくんは死んだんだよ。遺体だってつい最近見つかったのに』

 

千冬は束が言っていた言葉はこれの事だったのか。と思う中、自身の中で一夏が死んだわけないと現実を否定する考えが頭を占める。

すると一人の赤髪の少年が足音を立てながら千冬に近付く。

 

「お前のせいだっ‼」

 

「ご、五反田まっグッ!??!」

 

赤髪の少年からの拳に千冬は避ける間もなく殴られ倒された。殴った少年はもう一度殴ろうと近付くが、その後ろから連れだと思われる少年に羽交い締めされる。

 

「弾、気持ちは分かるが、落ち着け!」

 

「離せ治人‼ この女のせいで一夏が死んだんだ!」

 

弾と呼ばれた赤髪の少年は治人と呼んだ少年からの拘束を振り解こうと暴れる。すると赤髪の少女が弾の元へとやって来てビンタをする。

 

「いっつぅ。何をするんだ蘭‼ お前は「私だって殴りたいよ! けど死んだ一夏さんの前で止めてよ!」ッ!?」

 

蘭と呼ばれた少女は涙を流しながら。弾を怒鳴る。弾は一夏の写真を一瞬見て、暴れるのを止めた。

 

「……千冬さん」

 

そう言い蘭は体を千冬の方へと向け、泣き顔を向ける。

 

「もう2度と食堂に来ないでください。もし来たらおじいちゃんが貴女を刺すかもしれないので」

 

そう言い蘭は家から出て行った。蘭の言葉の意味に千冬は意味が分からず、呆然とその後姿を見送っていると弾が説明した。

 

「……お前が一夏を放っておいてバイトに明け暮れていた時に一夏は何時も俺の食堂に来て飯を食べに来てたんだよ。そん時に爺ちゃんに料理を教えてもらっていたんだ。爺ちゃんはぶっきらぼうな雰囲気を出しながらももう一人の孫の様に一夏を可愛がってたんだ。そんな一夏を死なせたアンタが爺ちゃんの前に現れたら、爺ちゃんは迷いなくアンタを殺そうとするかもしれないからあぁ言ったんだよ」

 

そう言い弾は治人と共に家から出て行った。千冬はただ茫然と見送っているとふと複数の視線を感じ後ろを振り向くと様々な視線を向けられていた。一夏が保育園の時からの友人からは殺気を込められた視線を。一夏を幼少の頃から知っていた近所の方達からは軽蔑の視線を。その場に千冬に同情する人物はほとんどいなかった。

傍にいた雪子は、固まっている千冬の肩に手を置く。

 

「千冬ちゃん、一夏君の所に行きましょ」

 

そう言い支える様に傍に寄り添い、千冬を祭壇の元に連れて行った。そして祭壇の元へと連れて行くと大きめの骨壺が置かれており、千冬は何故棺ではなく骨壺がと思っていると、隣にいた雪子が説明した。

 

「千冬ちゃん、残念だけど一夏君の遺体はほとんどが白骨化してたらしいの。だから棺は用意されず骨壺に納められたのよ」

 

そう言われ千冬は最後まで弟の顔が見られないのかと、祭壇の前で泣き崩れてしまった。

 

その後葬儀は進み、千冬は葬儀者の人達から明日ご遺体の骨を火葬場に持って行くことを言われ、今日はこれで終了と言われた。

千冬はただ茫然と一夏の祭壇がある部屋で座っていた。その姿を見つめる隠しカメラがある事に気付かずに。

 

 

「―――どうやら上手くいった様だねぇ」

 

そう言い束はモニターに映る千冬にニンマリとした表情を向ける。

 

「お前もえげつない事をするよなぁ」

 

そう言いオータムは持っていたコーヒーを飲む。

 

「当たり前じゃん。私は天災だよ? 親しいもの以外には徹底的にやる。それが束さんだよ」

 

そう言い人参ジュースを飲む束。

 

「にしてもあいつ等、あの遺体がクローンで出来た骨だとは気付かなかったな」

 

オータムはお気の毒にと呟きながら椅子に座る。

 

「そうだねぇ。それにしても何となく拾っておいたこの実験データがこうも上手くいくなんてねぇ」

 

そう言い束はディスプレイを投影する。其処に映っていたのは

 

『第2の織斑千冬計画』と書かれていた。

 

「あの研究所を破壊した時に偶然見つけて、何となく回収して放置していたけどこんなことに役に立つなんていい拾い物をしたよ」

 

そう言いながらその計画データを『完全消去』を選択しデータを抹消する束。束が臨海学校で言っていた手とはこのことなのである。

マドカを救助した際に見つけた実験データをもとにネイサン事一夏のDNAから一夏が行方不明となった時と同じ位の骨を生成し、それを人が寄りつかない様な場所に遺棄。それから暫くしてオータムに第一発見者を装ってもらい見つける。

後は警察がDNA鑑定をして行方不明となっていた織斑一夏の遺体だと判別し、正式に一夏は死んだことになる。そして日本政府に扮したオータムがその遺体を持って日本へと帰国し、後は葬儀等を準備して一夏が本当に死んだと一夏と繋がりがあった人達に思わせる。そうなれば千冬は一夏は本当に死んだと信じるしかない。束はそれを狙ってこの計画を実行したのだ。

 

「さてと、もうこれでアイツはネイ君に近付く事も無くなるだろうね」

 

そう言い束は千冬の映ったディスプレイを切り、真耶の訓練状況を確認に向かう。

 

 

その頃千冬の家では、未だに千冬は一夏の祭壇の前で動こうとしなかった。

 

「私が悪かったのか? 私は只一夏の為に頑張っていたのに。一体どこで間違えたんだ」

 

【プルル~、プルル~】

 

そうぶつくさ呟いていると一本の電話が鳴り響いた。

この電話がネイサン達の新たな戦いの序曲だとは誰も知る由も無かった。




次回予告
夏休み終盤に差し迫ったある日、ネイサンは新たな装備を受け取った鈴と共に訓練をしているとアールに呼ばれ、ある人物に会いにアールと共に行く。その人物はネイサンの父、ジェイソンの知り合いだった。
次回
警告
~気を付けろ、ネイサン。奴は必ずお前の前に現れる~

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