ホテルで一泊し終えたネイサン達はそれぞれホテル下で用意した車両へと乗り込み、出発した。一番前の車両には運転手にウゴ、助手席にマオ、後ろの席にバルメとココが乗っている。
「全く、ネイサンの妹はどれだけブラコンなのよ! 結局昨日はデート行けなかった!」
ココはぷんすか文句を言いながらタブレットで休み明けに直ぐに動けるよう仕事の手配などを準備していた。
「まぁまぁいいじゃないですか。ずっと離れ離れになっていた兄と一緒に暮らせると思って色々甘えたいんでしょう」
「そうですね。子供を持っている私もマドカちゃんはお兄さんであるネイサンに甘えたい為ああ言ったのだと思いますよ」
バルメはやんわりと宥め、マオは子供を持つ親としての経験を元に推測を言う。その頃2台目の車両の運転をしているレーム、助手席に座る鈴、後部座席に座るネイサンとマドカは学園であったことや、ネイサンが離れていた間に起きた出来事などを話していた。
「それじゃあネイサン、お前さんがその臨海学校に行った際に篠ノ之博士から専用の武器を貰った、そう言う訳かい?」
「えぇ。仕事の報酬で貰ったんです」
「へぇ~、昔からの知り合いだとは聞いていたが専用の武器まで送るとはよほど君の事を可愛がっている様だねぇ」
レームはそう言いながら加えていた煙草の灰を灰皿に捨てる。鈴はレーム達には本当の事を教えてるのかと思い、タブレットでネイサンが出題した戦略に関する問題を解く。マドカは使い慣れているハンドガン、USPのマガジンに弾を込めていた。
3台目に乗っている運転手のルツ、助手席のワイリー、後部座席にアールとトージョ。
「……なぁ」
「ん? なんだルツ。喉でも乾いたのか?」
「いや、何で俺達だけ男4人の車になってんだろうな……」
ルツは悟りを開いた様な顔付で言うと、後部座席の2人も同様の顔付きになりワイリーは静かに本を読んでいた。
「確かに女性が増えたが、姉御以外は全員ネイサンに気が有る女性だもんな」
「お嬢は前から知ってるが、鈴はその気があるのか? マドカは妹として兄であるネイサンの事を好いているみたいだが」
「分かんねぇ。事前にお嬢から傭兵になった理由は聞いているが、日本は胸糞悪い連中が多すぎるだろ」
ルツは鬱陶しそうな顔付きで言うと、トージョも同じ日本人でもあの国はもう腐ってる。と呟く。
そして3台の車はドイツの片田舎へと到着し、とある喫茶店の前で止まった。
「じゃあちょっと待っててください」
そう言いネイサンは車から降り、店の中へと入って行く。助手席の鈴は店の外観を注意深く観察し、マドカは店に入っていたネイサンに付いて行こうと、USPにマガジンを挿す。その光景を見たレームはやんわりと止めに入った。
「おっと、マドカちゃん。心配しなくてもネイサンだったらすぐに戻ってくるから車から降りる必要はないぞ」
そう言われ、マドカはUSPをホルスターに仕舞い座席に座り直す。
店の中に入ったネイサンはカウンターでコップを磨く男性を見つけ、相変わらずだなと思いながら近付く。
「相変わらずお客さんが居ないな、ギャズ」
「ん? おぉ、ネイサン! 久しぶりじゃないか!」
そう言いコップを置きカウンターから出てきて手を差し出す。
「久しぶり、ギャズ」
そう言い差し出された手を握り返すネイサン。再会の握手を終え、ギャズはカウンターの中へと入って行き、下の戸棚から何かを探すように屈む。
「お前が帰って来たという事は、必要な物はこれだな」
そう言い戸棚から取り出したのは、キーホルダーが付いた鍵だった。
「ありがとうギャズ。俺が居ない間、何時も掃除とかしてくれたんでしょ?」
「まぁな。それとこいつも持って行け」
そう言い下から花束を取り出す。
「サルビアの花? 確か花言葉は……」
「思い出そうとするのはいいが、外で仲間が待ってるんじゃないのか?」
そう言われネイサンはそうだったと思い、花束を受け取り扉へと向かう。
「それじゃあギャズ、また時間が出来たら来るよ」
「おう。俺は何時でも此処に居るから、気長に待ってるよ」
そう言われネイサンは店を後にした。
ネイサンは車へと戻り、車を出発してもらいネイサンの家へと向かう。それから数十分後、綺麗な湖のほとりに佇んだウッドハウスへと到着した。
車から降りたネイサンは、家を見上げ朗らかな笑みを浮かべる。
「ただいま」
そう言いカギを持って扉へと近づき、鍵を開ける。そして全員を中へと入れると、ココは真っ先にソファに座る。
「いや~、それにしても相変わらず此処から見る湖は綺麗だねぇ」
ココはソファから見える湖に感想を述べている中、ルツやアールなどは持ってきた荷物などを解く。
「さてと、それじゃあネイサン。部屋は前と同じ感じでいいか?」
アールは自身の荷物を背負いながらそう言うとネイサンはそれでいいですよと頷く。
「あ! 鈴とマドカはココさんと同じ部屋だからバルメさんと一緒に荷物を持って行ってくださいよ」
そう言われ鈴は、分かった。と言い荷物を持つ。
「私は兄さんと同じ部屋が良いんだが……」
マドカはウルウル目でお願いする。
「えっ!? さ、流石に良い年した兄妹が同じ部屋は……こうお互いのプライベートな事とかあるし」
「大丈夫。別に兄さんに見られて恥ずかしい物なんて無い。……もし見られたら責任を「駄目に決まってるでしょうが! それと嘘泣きして懇願するな!」……チッ」
ココはそう言いマドカの尻の部分のポケットに手を突っ込み、目薬を引っ張り出した。
「全く油断も隙もあったもんじゃない!」
そう言い荷物を持ってドアプレートがしてある扉を開けようとするが
「ココさん、貴女も言えるような立場じゃないでしょ」
そう言いネイサンはココの肩を掴む。ココが入ろうとした部屋はネイサンの部屋なのだ。
「むぅ~、今日なら行けると思ったのにぃ」
そうぶつくさ文句を言いながらバルメ達と共に二階へと上がって行った。
そして時刻は進みお昼前、ネイサンは部屋で愛銃であるコルトカスタムを分解し一つ一つ油を挿したり、汚れを拭きとったりしていた。
「さて、掃除はこれで終わりっと。後は組み立てる『兄さん、入ってもいいか?』 ん? 鍵は開いてるぞ」
そう言うとマドカは大きめのアタッシュケースを持って部屋へと入って来た。
「どうしたマドカ?」
「この銃のカスタマイズを手伝って欲しいんだ」
そう言いアタッシュケースを床に置き、ふたを開ける。中に入っていたのはネイサンと同じACRであるが、ストックを固定式にし、装弾数20発のPマグを付けた物だった。
「これは?」
「博士の所で世話になっていた際にスコールの相方が選別にくれたんだ」
マドカの説明を聞きつつネイサンはACRを手に取る。
「ふむ、ストックを固定式にした理由は分からないが、マガジンを20発にしたのは恐らく操作性をあげるためだろうな。30発のマガジンよりかは素早くマガジンを挿せるし、重さも抑えられるからな」
そう言いながら構える動作を取る。
「それで、このライフルをどの様にカスタムしたいんだ?」
「私が扱いやすようにカスタムして欲しいんだ」
「……なるほど、身丈に合わないんだな」
ネイサンの理由を察したかのような言い方にマドカは口を尖らせる。
「う、五月蠅いぞ兄さん。それで出来るのか?」
「外装のカスタマイズだったらすぐに出来るよ。それじゃあ地下の射撃場に行こうか」
そう言い机の上に置かれているコルトを手早く組み立て、マドカと共に地下の射撃場へと向かった。
地下へと着いたネイサンとマドカ。ネイサンは机の上にマドカのACRを置き、ストックを取り外し折り畳みが可能なストックへと変え、更に色々な光学照準機器やライトなどを取り付ける。
それから数分後
「出来たぞ」
そう言いマドカにカスタムしたACRを渡す。
「ありがとう兄さん。早速撃ってみるよ」
そう言いマドカはACRを持って射撃場へと入って行く。すると階段から
「あら、ネイサンじゃない」
そう言いながら鈴は階段から降りて来てネイサンの元へと向かう。
「おや鈴、どうかしたんですか?」
鈴はちょっとね。と言い、ネイサンの隣にあった椅子に座り射撃場の様子を見る。其処にはネイサンがカスタムしたACRで狙いを付け的確に的を射抜くマドカが居た。
「彼女、自前の銃を持ってたの?」
「博士の家から出立するときに彼女の同僚から貰ったそうです」
「ふぅ~ん。あ、実は私もココさんから明日なんか新しい装備に一新する予定だったから武器を渡すって」
「装備を? それはまた突然ですね」
そう言いながらマドカの射撃姿を眺める2人。鈴は目線をマドカから外し部屋の奥に掛かっている銃器に向ける。
「色んな銃があるわね」
「全部父さんが、集めたものです。そうだ、鈴の射撃練習と行きましょうか」
ネイサンはそう言い立ち上がり、ガンラックから一丁の銃を取り出す。
「MP5、
そう言い鈴に手渡すネイサン。
「命中精度が高い銃でも、使い手が下手じゃあ意味無いんじゃないの?」
「まぁ確かにそうですが、扱いに慣れておくだけでも損にはなりませんよ」
そう言われ鈴はまぁそうだけど。と呟き、MP5とマガジンを受け取り耳あてを持って中へと入る。
マドカは入って来た鈴に一瞬目を向け、また目線を的へと戻す。
マドカの射撃術を見ていたネイサンは賞賛の声を送った。
「いい腕だなマドカ。流石僕の妹だ」
そう言い鈴が先に入っている射撃レーンへと向かう。突然褒められたマドカは顔を真っ赤にして明後日の方向を撃ってしまった。
「……不意打ちはずるいぞ兄さん」
そう言いマドカは空になったらマガジンを抜き、射撃場から出て飲み物を取りに行く。
鈴がいる射撃レーンの後ろに立ち鈴の射撃の様子を見るネイサン。鈴は最初にセミオートを選択し、一発ずつ的確に的を射抜く。そして数発撃った後にフルオートでマガジンの残りを撃ち切った。
「本当に撃ちやすいわね、これ」
「使用している弾丸が、拳銃用の9㎜口径だからですよ。その為低反動で速射性に優れているんです。但し中遠戦には向きませんけどね」
そう言い射抜かれた的を見る。
「35mですと、若干弾はばらけますがいい感じに中心付近を当ててますね」
「この銃のお陰よ。さて、もう少し射撃訓練するから付き合ってくれない?」
「えぇ構いませんよ」
そう言いネイサンは鈴の射撃訓練に付き合った。
時刻はお昼過ぎになり、学園から出された夏休みの宿題を淡々と進めていると扉をノックする音が部屋に木魂した。
「ん? どうぞ」
そう言うと入ってきたのは普段のリクルートスーツから普段着を着こんだココが立っていた。
「ココさん、どうかしたのですか?」
「いやぁネイサンが暇だったら、買い物に付き合って欲しいなぁと思って来たんだけど、勉強中みたいだね」
「別に買い物位でしたらいいですよ。丁度夕飯の食材を買いに行かないとマズかったですし」
そう言いペンを置き、引き出しに入れていたコルトカスタムを取り出し、ショルダーホルスターを身に付けホルスターに銃を仕舞う。
「それじゃあ行きましょうか」
そう言いながらハンガーポールに掛かっている上着を着こみ、入り口付近に行く。
「そうだね。レッツGo!」
そう言いネイサンの腕に抱き着くココ。
「あの、抱き着く必要あるんですか?」
「いいの! ほら早く行こ!」
そう言いネイサンの腕を引っ張って外へと出るココ。その顔は終始笑顔だった。
その頃地下では
「まだ脇の締めが甘いですよ鈴」
「す、すいません!」
鈴はバルメに銃の構え方に指摘されながら射撃練習をしており、マドカは
「す、凄いなレームは……」
「へっへへ。そりゃあ俺は超神兵だからな」
そう言いながら愛用のM4を構え降ろすレーム。レームは複数の的を的確に一発も外さずに射抜いていたのだ。
「ムッ!」(なんか兄さんの傍にあの雌猫の気配が……)
マドカは突然変な第6感が働き、家の入口がある方向に鋭い視線を送る。
家からウゴの運転で程近い街へと到着し、ネイサンと共にネイサンの行きつけの店を回る。
「さて、今日は鈴とマドカの入隊儀式を行うんですよね?」
「そりゃあ新しく我が隊に入隊するんだから、当たり前じゃん」
ネイサンが言った入隊儀式とは、ココの部隊に新しく入った者は卵を使った料理を作る儀式なのだ。この儀式を考えたココ曰く『軍・国家・家族を一新した玉子君を迎い入れるため』とのこと。
「それでは卵を多めに購入しておきますか」
そう言い卵を売っている馴染みの店へと向かう。
「よぉ! ネイサンじゃないか。何だ彼女を連れてデートか?」
「えぇ、そうなんで「違いますよ、今やっている仕事の雇い主ですよ」むぅ~」
ココが肯定しようとしたのを、ネイサンは被せる様に否定しココは口を尖らせた。
「ハッハハハハ‼ 全くお前さんはどれだけニブチンなんだよ」
「……どういう意味でニブチンと言ったのかは聞きません。それより卵10個入りを2つ下さい」
「はいはい。……お嬢ちゃん、こいつの朴念仁ぷっりは筋金入りだから頑張りなよ。あとおまけで挽肉付けといてやるよ」
そう言い卵とおまけの挽肉を手渡す店主。
「ありがとうございます」
ココは軽く会釈をしてお代を払ったネイサンと共に他のお店へと回った。
その後ろ姿を店主と厨房に居た店主の奥さんはニコニコと見ていた。
「あの子にもようやく春が来たのかしらねぇ?」
「今はまだ冬の終わり付近だが、何時か春が来るだろ」
そう言い優しそうな顔で見送った。その後他の店に行っても同じような対応をされ、ネイサンははぁ~。とため息を吐き、ココは楽しかったと言わんばかりの笑顔でネイサンの隣を歩いていた。
「皆優しい人達だったね」
「……父に引き取られた時からこの街には色々世話になってましたからね。慣れないドイツ語で必死に欲しい物を伝えて買い物をしてましたし、店の人達もそんな自分に優しく接してくれましたしね」
「そっかぁ」
食材を買い終えた頃には日が落ち始め、綺麗なオレンジ色が帰り道を照らしておりココは楽しい買い物はもう終わりかぁと思い、ふとネイサンの方を見る。
(やっぱりどんなに考えても私はネイサンの事が好きなんだって結論が行き着いてしまう。ネイサンが居なかった半年間、ずっと心の中で何かが欠けている感じがあった。プライベートの時間になっても、仕事をしているときも何かが欠けている感覚に襲われて、夜眠れなかった事もあった。……だから離したくない。もう何処にも行かないで欲しい)
そう思っていると視線に気づいたネイサンが顔をココに向ける。
「どうかしましたか?」
「ううん。何でもないよ」
そう言いネイサンに笑顔を向けるココ。仕事などで見せる仮面の笑顔ではなく心の奥から来る笑顔を。
街での買い物を終え家へと帰って来たネイサン達を出迎えたのは不機嫌顔のマドカだった。
「何処かに行くなら一声欲しかったぞ、兄さん」
「すまんすまん。夕飯の食材を買いに行くくらいだから声はかけなくても大丈夫だろうと思ったんだ」
そう言い家の中へと入って行くネイサン。そしてココがマドカの傍まで行くと。
「君がネイサンを渡さないと言うなら……」
そう言い目線をマドカと同じ位置まで持って行き、挑戦的な笑顔を浮かべる。
「私は諦めないよ。必ず貰うからね」
そう言うとマドカは、ふっ。と笑みを浮かべる。
「やってみろ。そう簡単に兄さんはあげないからな」
そう言い互いに笑みを浮かべながら家の中へと入って行った。
その後、鈴とマドカの入隊の儀式が行わられ、鈴は天津飯、マドカは出汁巻きを作った。
夕飯が済み、月が昇った夜。ネイサンは一人湖近くに作られているジェイソンの墓へと来ていた。
「遅くなってごめん、そしてただいま父さん」
そう言いながら手土産として持ってきた酒を墓にお供えする。そしてギャズから渡された花束を置く。
「ギャズから聞いたと思うけど、ISに乗れることが分かって女子しかいないIS学園に入れられるわ、元家族と鉢合うわ、ストレスが溜まる事しかなかったけど、仲間や友人が居たからそんなに苦では無かったよ。……父さん、やっぱり俺一人で伝説になるのは難しいわ。父さんがどれだけ凄い人物か改めて思い知らされたよ。けど諦めないからな。たとえ一人では無理でも仲間や友人が居れば伝説を越えられると、俺はそう考えているからな」
そして立ち上がり、また来るよ。と言いネイサンは墓から去った。そしてネイサンはギャズから手渡されたサルビアの花言葉を調べ、花言葉が『家族愛』と書かれており死して尚家族の絆は切れないって言う意味で渡したのか。と思いギャズに心の中で感謝する。
場所は代わり束の隠れ家ではけたたましい発射音が鳴り響いていた。
「こ、こんな銃撃の中どうやって反撃しろって言うんですかぁ!?」
真耶はカバー位置から一歩も動けず、泣きながら文句を言う。真耶に向けられた銃はどれも非殺傷性の武器だが当たるとかなり痛い。
『だから言っただろうが、不用意に部屋に突撃するなって‼ ……シミュレーション終了!』
すると激しい銃撃が止み、真耶はうぅぅと泣き顔で出入口へと向かう。それをモニターで見ていたオータムはハァとため息を吐き、部屋に居る束に苦言を零す。
「おい、博士。アイツを夏休み期間中に傭兵に仕立て上げるのは難しいぞ」
「確かに厳しいかもしれない。けどそれは覚悟の上でやってるんでしょ?」
そうだが。と苦い顔を浮かべるオータム。真耶の訓練を始め、最初は武器の特性や扱いには慣れている為、直ぐに成長すると考えていたのだが、人に向けて尚且つISを身に纏っていない人を銃を撃ったことが無い為腰が引け撃てず、更に小心者とあってか、積極的に攻められなかったのだ。先程は狭い空間、言わば室内での訓練を行い部屋に居る敵を殲滅する訓練を行っていたのだが、意を決して突入を考えた真耶がオータムの制止も聞かずにドアを蹴破り中に突入、そして訓練ロボ達の一斉発射に遭ったのだ。
「で、どうすんだよ。このままじゃあ夏休み終了までには間に合わないぞ」
「うぅ~~~~~~ん。どうしたものかぁ……。‼ そうだいい事思いついたぜ‼」
そう言い部屋から出て行く束。オータムは何をする気だ?と怪訝そうな顔を浮かべながら次のシミュレーションの準備をする。
その頃控え室で涙を零す真耶。
「うぅぅ。撃たなきゃいけないのは分かるけど、ISと違って当たったら死ぬって分かると……」
そう言いギュッと手を握りしめる真耶。すると控え室の通風孔から
「ヤッハロー! 束さん登場!」
「きゃぁ!? は、博士驚かせないでくださいよぉ!」
「メンゴメンゴ。……実はある事を告げに来たの」
そう言うと束はさっきまでのチャランポランタンとした雰囲気から真剣な表情に変わった。
「な、なんですか?」
「このままいくと夏休み終わりまでに、君は傭兵にはなれない」
えっ!?と真耶は驚きの表情を浮かべ、その訳を聞く。
「ど、どうしてですか?」
「この束さんが計画していたスケジュールだと、今日あたりには基礎中の基礎の更に基礎は出来上がると思ってたの。けどまだその基礎の半分しかできていない。原因は分かるよね?」
そう言われ真耶は自身の小心が原因だと思い、首を縦に振った。
「このまま基礎が完成しなかったら、……君には傭兵の道を諦めてもらう」
「っ!? そ、それだけは嫌です‼」
束から告げられた言葉に真耶は泣き顔で受け入れらないと告げる。
「けど、このままだと間に合わない。そうなると君は中途半端な傭兵となってしまう。だから――」
すると突然束は冷めた様な目線を真耶へと送る。
「ネイ君に中途半端な気持ちを持って育った君を送りたくないの」
そう言われ真耶は自身の思いを中途半端と言われ、怒りが込み上がった。
「―――してください」
「ん? なんか言った?」
「訂正してください‼ わ、私の気持ちは正真正銘ネイサン君を、彼を愛している気持ちなんです‼ 決して中途半端な気持なんかじゃありません‼」
そう言うが束は冷めた視線を送り続ける。
「だったら行動で示してよ。何時までもこんなところで泣いてないでさ」
そう言われ真耶は分かりました。と言いAKを持ち、控え室から出て行った。その後ろ姿を束は満足そうに見送った。
「上手くいったぜ。……さて後は君次第だよ真耶やん」
控え室から戻って来た真耶はオータムにもう一度シミュレーションを起動してほしいと頼み、オータムは頷きシミュレーションを開始した。真耶は今まで上手くいかなかった原因を考え出し、扉付近まで近づきブリーチングチャージをセット。そして爆破し、中へと突入する。爆風によって何体かのロボットは倒れ、残りのロボットは爆発が起きた方に銃を構えようとするが、突入した真耶が素早く制圧。そのまま奥へと進み扉の前に着く。するとHQことオータムから指令が入る。
『真耶、その部屋には要救護者が居る。無傷で助け出せ』
「了解です」
真耶は取り回しが難しいAKを置き、サイドアームのPx4を構える。そしてドアにブリーチングチャージをセットし扉横に退避する。そして扉が爆破されたと同時に真耶は中へと突入、そして4体の練習ロボの頭を射抜き、部屋の中心に居た人物に銃を構える。
「いい腕だね。さっすが真耶やん」
そう言い腕を組みながら笑みを浮かべた束が居た。
「どうして……」
「理由は簡単だよ。この目で君のネイ君に対する思いを見ておきたかったからさ」
そう言い真耶の傍に行き頭を下げる束。
「御免ね、まややん。君の思いを貶すようなことを言って」
「あ、頭を上げてください! こちらこそ、なかなか前へと進めずにいたのを思いっきり押してもらった事非常に感謝しております」
そう言うと束は顔を上げ、ありがとうね。と言い真耶と共に出口へと向かった。真耶の顔はスッキリと言った表情を浮かべていた。
(そうです。ネイサン君と同じ道に進むならこれくらいの覚悟がなければいけません。覚悟していると思っていたのですが、まだ踏ん切りがついていなかったのですね)
そう思い自虐的な笑みを浮かべながら廊下を歩いて行った。
次回予告
束が言っていた一夏の遺体が見つかったと言う言葉を信じず、千冬は家へと帰って来た。だが家ではある行事が行われていた。
次回
亡き親友の為の拳
~お前があいつを殺したも同然だ‼~