「―――では、今までお世話になりました」
そう言い鈴は中国大使館に居たIS委員会に別れの挨拶をして、ISと代表候補生の座を返却し大使館から出てきた。
門の所まで行くと、キャリーバッグと大きめのアタッシュケースを持ったネイサンが立っていた。
「もしかして迎えに来てくれたの?」
「そりゃあ僕の
そう言うと鈴は笑みを浮かべ、ありがとう。とお礼を言い、自身の荷物を背負い直す。
「さてそれじゃあエスコートをお願いね」
「えぇ分かりました」
そう言い2人は空港へと向け出発した。空港に到着した2人は荷物を預け、ドイツ行きの飛行機に乗りマドカが待っている△□国際空港へと出発した。数時間後、飛行機は空港へと到着し辺りは明るくなり始めていた。
「うぅ~ん。ねぇネイサン。今何時なの?」
「今ですか? 今は朝の6時位ですよ」
ふぅ~ん。と鈴はそれで人が疎らなのかと納得していると、黒髪の少女がネイサン同様のキャリーケースとアタッシュケースを持って近付いてきた。
「おはよう兄さん。それと鈴」
「おはようマドカ。それじゃあココさん達の所に向かいましょうか」
そう言い2人と共に空港から出てタクシーを拾い、ココが泊っているホテルへと向かった。空港を出発して数十分後、タクシーはある高級ホテルの前で止まった。
「ね、ネイサン。もしかしてアンタの上司が泊っているホテルって此処?」
「えぇ。昨日連絡をしたところ、此処の1階を丸ごと借りているそうです」
そう言われ鈴はあわわわ。と驚いた表情を浮かべ、マドカは興味なさそうな顔で見上げていた。
「さて行きましょうか」
そう言いネイサンは荷物を持ちホテルへと入る。ホテルの中に入った3人はエレベーターに乗り込みある階で下り、ある部屋の前に到着した。そしてネイサンは扉をノックする。暫くした後、鍵の開く音がし扉が開かれると扉を開けたのはレームだった。
「よぉネイサン。元気にしてたか?」
「えぇ。レームは?」
「ぼちぼちって言った所さ」
そう言いながら3人を招き入れた。中へと入る3人をレームは部屋の住人達に報告する。
「おぉ~い、懐かしい仲間と新しいお仲間が到着したぜ」
そう言うとソファに座っていた人たちは一斉に顔を向ける。そして最初に声を掛けたのは金髪のルツだった。
「よぉネイサン。久しぶりだな」
「お久しぶりです、ルツ。僕が居ない間にまたケツを撃たれたりして無いですよね?」
「撃たれてねぇよ‼」
「ハッハハハハ! 帰って来て早々それを聞くか、ネイサン?」
笑いながらネイサンにそう聞いてきたのは黒髪の日本人、トージョ。
「まぁ確認みたいなものですからね、トージョ」
「確かにこの隊では一番ケツを撃たれているのはルツだからな」
そう言い哀れんだ眼でルツを見る茶髪のアール。
「そ、そんな事「いえ、確かにルツはここ最近被弾率が高いですね。今度行う訓練は厳しめに行いましょう」 姉御!?」
アールの指摘にルツは否定しようとしたが、それを遮るように言葉を重ねたのは黒髪ダイナマイトボディの持ち主のバルメだ。
「まぁまぁそう言う話はまた今度にしようじゃないか。それよりお帰りネイサン」
黒人男性のワイリーは読んでいた本を仕舞いながらそう言う。
「ただいまワイリー。そう言えばウゴとマオは?」
「マオはお嬢の買い物に付き合わされている。ウゴは変わらず運転手だ」
なるほど。と納得していると、その背後の扉が開き大荷物のマオが入って来た。
「だ、誰か荷物を持つを手伝ってくれないか? ま、前が見えない」
「おいおい、どれだけ買ってきたんだよ」
そう言いながらレームはマオの荷物を持つのを手伝う。すると廊下から駆け出す音が響き、そして
「ネイサ~~ン!!」
と声と共にネイサンに抱き着くココ。
「あの、ココさん。いきなり抱き着くのはどうかと?」
「むぅ~、久しぶりの再会なのになんか冷たくないかネイサン隊員」
頬を膨らませながら文句を言うココ。ネイサンは何とも言えない表情を浮かべ、周りに居たレーム達は笑みを浮かべる。鈴は顔を赤らめ、マドカは面白くないと言った表情を浮かべココを睨んでいた。
「何時まで兄さんに抱き着いてるんだ。いい加減離れたらどうだ」
そう言いネイサンから無理矢理ココを引き離すマドカ。
「えっと、ネイサン。今兄さんってこの子が言ったんだけど……」
「あぁそうでした。実はこの子は僕の妹なんです」
そう言いマドカの頭に手を置くネイサン。その一言に部屋の中にいた鈴以外全員一瞬思考が停止し、そして
「「「「「えぇぇーーーーー!?!!」」」」
全員が驚きの声をあげた。そんな中、マドカは睨むような眼をココに送り続けていた。
「……」
「えっと、何かな?」
ココはマドカと同じ目線になるよう屈み、笑顔で問うとマドカはジッと睨み続けていると、ココが聞こえる程度の声の大きさで。
「……兄さんは渡さないからな」
そう言いギュッとネイサンに抱き着くマドカ。
「おっと、どうしたマドカ?」
「何でもない」
そう言いネイサンにギュッと抱き着くマドカ。ココは目の下をピクピクと痙攣させていた。その様子を見ていたレームは面白い奴が来たもんだと思いながら笑みを浮かべていた。
それから暫く経った後、それぞれ楽な姿勢を取りつつココが切り出した。
「それじゃあ今日からこの2人が我が隊の新しい仲間だ。皆仲良くするようにねぇ!」
「「「「「うぃ~す!」」」」
「それじゃあ自己紹介をお願いね」
そう言われ最初に鈴が名を名乗った。
「凰鈴音です。まだこの世界に不慣れなところがある為、色々学んでいき足を引っ張らないよう頑張りますのでよろしくお願いします」
「マドカ・マクトビア。兄であるネイサンの敵は私の敵」
マドカの自己紹介を終えた後、レーム達の自己紹介が行われ、そしてココが口を開く。
「はい、それじゃあ今日から暫く仕事とかは無いから親交を深めるってことで自由時間としま~す。ネイサ~ン、デ「兄さん、銃のカスタマイズのレクチャーをお願いしたいんですが、良いですか?」ちょっと~、私の方が先でしょうが~!」
「デートなら其処にいるバルメって言う人に頼めばいいじゃないですか。兄さん早く行きましょう」
「いや、ココさんが呼んで「……付き合ってくれないと大声で泣きます」 えぇ~」
(妹から銃のレクチャーの依頼、ココさんからはデートの誘い。どうすればいいんだ)
ネイサンは困った表情を浮かべ悩んでいる中、鈴はバルメの元に向かい話を聞く。
「えっと、バルメさん。実は私、ナイフの扱いを得意にしているんですがバルメさんも得意だって聞いたんですが本当ですか?」
「えぇ、得意ですよ。何でしたら今から屋上で見てあげましょうか?」
「本当ですか‼ ぜひお願いします!」
そう言い鈴とバルメは屋上へと向かい、レーム達はホテルに備えられているバーへと向かう。ココとマドカ、そしてネイサンの3人を残して。
「だーかーらー! 私とデートだって言ってるじゃん!」
「貴女と兄さんは一緒に居た時間が長いじゃないですか。家族である私との時間はあまり無かったんですよ。少しは家族と一緒に過ごさせると言う配慮は無いんですか?」
「あ、あの2人ともその辺で「「兄さん/ネイサンは黙ってて‼」」……はい」
2人の口論が終わるのをネイサンはただ黙って見ておくことしかできなかった。
その頃真耶は、臨海学校の一件を報告書にまとめ学園長の元に届け、部屋のベッドで体を休ませていた。
「はぁ~、凄く大変でした」
そう言いぼぉーと天井を見つめる真耶。そして頭に浮かんだのはネイサンの事だった。
(ネイサン君は今頃実家に帰省されているんでしょうね。はぁ~、私も一緒にネイサン君のお家に行ってみたかったなぁ。凰さんが羨ましいですぅ)
そう思いながら、ネイサンと鈴、そしてココが一緒にネイサンの実家で過ごしている事を想像し顔を真っ赤にする真耶。
(わ、私は何を考えているんですか!? あの3人以外にもお仲間の方々も一緒に居るんですから3人だけで過ごすわけじゃないんです! けど……)
真耶は3人だけで過ごすわけでもないのに羨ましいと言う気持ちが膨らみ、その考えを振り捨てようと顔を振りベッドから立ち上がり冷蔵庫へと向かった。
「ちょっと頭を冷やしましょう」
そう言い冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを口にする。すると急に眠気に襲われ、真耶はペットボトルを机に置きそのままベッドの上に寝ころびそのまま目を閉じる。ベランダに居るうさ耳をした女性に気付かずに。
「うぅ~ん。あれ此処は一体?」
真耶は寝ぼけた目を擦りながら辺りを見渡す。辺りは暗く自身が座っている椅子の部分だけスポットライトが当てられ明るくなっていた。
「やあやあ目が覚めたかい?」
「!?」
声が暗闇の中から響き、そして一人の女性が真耶の目の前に現れた。真耶は現れた女性の格好とその顔には見覚えがあった。
「し、篠ノ之博士!?」
「はろはろ~、お久しぶりだね」
そう言いポーズを決め終えた束は腰に手を当て、真耶を見下ろすように口を開く。
「単刀直入に聞くけど君、ネイ君の事好きなんでしょ?」
「な、何で知ってるんですか!?」
束のストレートな問いに真耶は慌てた表情を浮かべ、顔を真っ赤に染め上げた。その姿に束はニンマリとした表情を浮かべる。
「そりゃあネイ君は私のお気に入りなんだからその周辺に居る人物については詳しく調べてるからね」
そう言われ、真耶はそうだったと思い出す。そして次に想像したのが自身の立場であった。
「わ、私をどうするつもりなんですか?」
真耶は自身も箒の様に何かの実験に使われるのではと思い、恐怖から震える唇で束に問う。
「ん? もしかして束さんが君を何かの実験動物としてここに連れてきたと思ってる?」
そう束が問うと、真耶は首を縦に振った。その行動には束はクスクスと笑い出し、そして大声で笑い始めた。
「アハハハハ! 安心しなよ。君には危害は加えないよ。むしろ君が欲している道を提供するために此処に連れてきたんだよ」
そう言われ真耶は道?と頭に疑問符を浮かべる。
「君はネイ君と同じ傭兵の道を探してるんでしょ?」
「えっ!? ……まさかそれも調べ上げていたんですか?」
「もっちろん! 君が使っているパソコンをちょちょいとハッキングして検索した言葉とかサイトの閲覧履歴とか調べ上げてね」
そう言われ真耶は何時の間に!?と驚愕の表情を浮かべながら、ある推論が導いた。
「もしかして、博士が言っている提供する道って……」
「そう。ネイ君と同じ傭兵になる為の最短ルート。勿論確実になれる道だよ」
そう言われ真耶は驚いた表情を浮かべると、疑問が沸き起こった。
「どうして私にそんな道を……」
「どうしてって、そりゃあネイ君のためさ」
ネイサン君のため?と真耶は首を傾げると、束が説明をする。
「ネイ君はあぁ見えてまだ18にも満たない内に人を殺す戦場に立ち、亡き父と同じ伝説を掴もうとしている。けどそれは1人では出来ない。多くの仲間に支えてもらうことで伝説を掴むことが出来る。だからこそネイ君には多くの仲間が必要だから、君にもその一人になってもらうためさ」
そう言われ真耶はこの人は、それほどまでに彼の事を気に入っているんだと理解する。
「さて、そろそろ答えを聞かせてほしいなぁ」
束の問いに真耶は答えは既に決まっていると言った表情を向ける。
「……答えは決まってます。お願いです博士、私にその道を教えてください!」
そう言うと束は満足そうな顔で頷き、ポケットからリモコンを取り出しボタンを押す。すると暗かった周囲が明るくなり、其処から訓練用のアスレチックや、壁に選り取り見取りの銃が掛かっている射撃場が現れた。
「それじゃあ早速、始めていこうか。まややん傭兵化プロジェクトを‼」
束の宣誓に真耶は大きく頷いた。
次回予告
実家へと戻って来たネイサン達。銃のカスタマイズについてマドカに教えたり、鈴の射撃練習を見たり、ココとデートをしたりと大変なスケジュールをこなすが、絶対に此処だけは行くと決めていた場所へと向かう。
その頃真耶は束、そしてオータムの厳しい訓練を受けていた。
次回
久々の帰宅
~ただいま、父さん~