臨海学校2日目の朝、1年達は現場指揮を任されているスコールの元全員岩場へと集合していた。
「ではこれより郊外訓練を行います。では「お邪魔しま~~す!!」……どちら様ですか?」
スコールは知っているが、知らないふりをして束に話しかける。
「ん? 私に聞いてるのかい? 私はISの生みの親事、篠ノ之束さんだよ」
お決まりのポーズをとりながらそう言い、辺りを見渡す。そして目的の人物を見つけちょいちょいと手招きをする。
「はいは~い、箒ちゃ~ん。こっちにカモン!」
箒はついに自分のISが貰えると知っている為、口元が若干上がっていた。
「それじゃあ本日は箒ちゃんの誕生日って事でISのプレゼントだ!」
そう言うと上空から一機の若干薄い茶色のISが落ちてきた。
「これが箒ちゃんのIS、『天竺』だよ。箒ちゃんが得意な刀とか入れといたから有効に使ってね」
そう言い束は箒に乗るよう急かし、そしてあっと言う間にフィッティングを終えた。そんな光景を見ていた一般生徒達は不満を零す。
「身内だからって専用機を送るって……」
「なんかずるい……」
それを聞いた束はニンマリとした表情で生徒達の方へと向く。
「おんや~、この世界が何時から皆平等だって言われたのかな? 有史以来この世界に平等なんて言葉は何処にもないよ」
そう言われ、生徒達は何も言えず黙る。
「さて、それじゃあこの機体の性能を見たいから誰か相手をと」
そう言いながら首を左右に振り、相手を探す束。そんな中ネイサンは束が持ってきたISに疑問を感じていた。
(何故束さんはあのISに天竺何て名前を付けたんだ? 天竺っていうとインドの旧名が一番思い浮かぶ名前だ。それ以外に何か訳があるのか?)
ネイサンは考えに耽っていると、隣にいた鈴がネイサンの脇腹を小突く。そしてネイサンは意識が戻り辺りを見渡すと、生徒達は全員ネイサンへと顔を向けていた。
「えっと、何か?」
「何かじゃないわよ。博士がアンタをご指名よ」
鈴は呆れた表情で言うと、はい?とネイサンは呟き束の方へと向く。
「もぉ~、何度も呼んでるのに無視は酷いぞ~。君に対戦相手になってもらいたいんだぁ。良い?」
「申し訳ないDr.篠ノ之。自分は報酬が無い仕事は「それだったら大丈夫だよ。報酬付き」……なら引き受けましょう」
そう言うと、ネイサンはISを纏いに行く。すると鈴の元にネイサンからメッセージが届き、鈴は周りに見られないようにコッソリと開く。
『鈴、篠ノ之博士があのISに天竺と名付けた理由を探ってください。天竺に関連するものだったら何でも構いません』
そう書かれており鈴はネイサンに言われた通り天竺に関する情報を調べ始めた。
「それじゃあルールを説明するよ。勝負はどちらかのSEが尽きるまで。棄権とかは無しね。」
そう言いながら束はポケットから玩具の火薬鉄砲を取り出す。2人は飛び上がり武器を構える。
「ではよ~い、始め‼」
束は掛け声とともに火薬鉄砲の引き金を引く。音が鳴ったと同時に箒は刀を出して真っ直ぐ突っ込んできた。ネイサンはそれを難なく防ぎ、そのままAMWSで殴り飛ばす。
「ぐっ!? クソォ!!」
そう叫び箒はまた刀で攻撃してくるが、ネイサンはそれも難なく躱して今度は蹴りをお見舞いする。
「先ほどから突撃攻撃しかしてきませんね。そんな実力でISを願ったのですか? もはや努力して代表候補生になった人達に対する冒涜ですね」
ネイサンは箒にそう貶すと、箒は五月蠅い!と大声をあげ攻撃するが全て躱され、ネイサンから殴る蹴るを受ける。
地上に居た生徒達は、機体が最高でも乗り手が下手糞だとあぁなるのかとしみじみと実感していると、一人の生徒が束の方を見て戦慄した。束の顔が面白くないと言った表情だったからだ。
上空に居たネイサンはそろそろ終わらせるかと思っていると、突然ネイサンと箒に束が通信を入れてきた。
『御免ね~、ちょっと待ってもらってもいいかな?』
「何でしょうかドクター? まさかとは思いますが今更依頼を取り消すとは言いませんよね?」
『そんなんじゃないから安心していいよ。……ねぇ箒ちゃん』
束はネイサンに見せた笑顔から突然真顔へとなり、箒に問う。
『なんでそんなに弱いの? ISが欲しいって言うから強くなってると思ったのに全然弱いじゃん。どう言う訳?』
「っ!? 私が弱いんじゃないんです! このISが『私が作ったISが弱いって言う訳?』そ、そう言う訳じゃ……」
『もういい。そのISから降りろ』
束から突然ISから降りろと言われ、箒は信じられないと言った表情を浮かべる。
『私に電話を掛けてきたって事は、ISに乗れる位の実力が身に付いたと思ってた。けど実際はどうだ。全く機体の性能を引き出せてないじゃん。そんな奴はその機体に乗る価値は無い。さっさと降りろ』
束のドスのついた声には近くに居た生徒達は恐怖し後ずさる。
「い、嫌です! これはもう私のモノです! だから降りません!!」
箒は駄々っ子の様に拒否すると、束は真顔で返す。
『ふぅ〜ん。そう言うんだ。だったらそのまま乗っときなよ』
箒は束が折れてくれたと思った。だが実際は違った。
『死んでも知らないからね』
「え? どいう意味ですか?」
そう言うと同時に目の前にディスプレイが投影された。
「『オートモード起動』だと……。姉さんこれは一体…っ!?」
束にこのディスプレイの事を聞こうとした瞬間、自らの意思に反して突然ISが動き出した。ネイサンは突然動き出した箒に対処しようとAMWSを構え撃つが、先ほどと動きが違い躱しながら接近してくる。
(さっきと動きが違う。動きからしてアイツじゃない。という事はIS自体が勝手に動いているのか? まぁ何にしても依頼に変わりはないか)
そう思いネイサンは迎撃態勢に入る。
地上に居た生徒達は先ほどとは違う動きをしている箒に、遂に本気を出したのかと思っていると教師陣の中にいた千冬が束に詰め寄った。
「束! 貴様箒のISに一体何をした‼」
「別に何もしてないよ」
「嘘をつくな‼ あれは明らかに操縦者自身の動きじゃない!」
そう言われた束はニンマリとした顔つきで答えた。
「やっぱり気づいちゃったか。そうだよ、今あれは操縦者の意思とは違いIS自身が動かしてるんだよ」
「な、何でそんなことを?」
一人の生徒がそう聞くと、束が笑みを浮かべながら話す。
「何でかって? そりゃあ彼は私のお気に入りだからだよ。女性しか動かせないISを男性で動かした世界初の操縦者。ならあらゆるデータを取りたいのは研究者として当たり前の事。で、あのISにデータ収集用のシステムを組み込んでいたの。最初は無人で動くあのISを予定してたんだけど、ISが欲しいってアイツが言ったから有人機に変更したんだぁ。けど思っていた以上に弱くて、あれじゃあデータ採取が出来ない。だから載せたままにしておいたオートモードを起動したわけ」
そう言うと千冬は束に掴みかかる。
「今すぐあれを停めろ‼」
千冬の怒声に束はどこ吹く風の様に返す。
「無理」
「何!?」
「だってあれ、一度起動したらデータ採取が終わるまで停まらないもん。しかも外部からの停止指示も受け付けない。まぁ乗ってる人は絶対防御が張られているから大丈夫だよ」
そう言い自身を掴んでいる千冬の腕を外し、ディスプレイを確認すると嬉しそうな顔となる。
「お! さっきと違ってもう30%まで集まってるじゃん。このままいけば後数十分で終わるね」
上空では自身の意思に反して動くISを抑えようと箒は声を荒げるが、全く操作を受けつけ無かった。
「言う事を聞け‼」
そんな箒に構わずネイサンはAMWSとアヴェンジャーを構え、天竺を攻撃し続けた。そして天竺は攻撃を躱しつつデータ採取として相応しい攻撃方法を見出し、ネイサンに攻撃を繰り出す。
(束さんは一体何の為にあんなシステムを組んだんだ? データ採取くらいならハッキング等で直ぐに入手できるはずだ。それなのに依頼をだしてこんな事をさせた。何が目的なんだ?)
ネイサンは攻撃を躱しつつそう考えを巡らせるが、答えが見つから無かった。
(まぁ、夜にでも聞いてみるか)
そう思いネイサンは単一機能を発動する準備に入る。そして天竺は一気に接近してきた。ネイサンは待ってましたと言わんばかりに、AMWSを仕舞う。その行動を見た束は何をする気だ?とワクワクした表情で見る。
「単一機能、“
そう言い天竺が振り下ろした刀を両手で止めた。いわゆる真剣白刃取りである。これを見た束は大興奮となった。
「凄いよ! そればっかりは束さんも思いつかなかったよ!」
「あの博士。どう言う事なんですか?」
束の興奮に生徒がどう言う事なのか気になり聞く。束はニンマリとした顔で興奮が治まらない状態で話す。
「彼が起動した単一機能不滅の防御はSEを消費せず、どんな攻撃にも耐えられる。戦闘機のA-10は片羽が故障しようが、エンジンが一つ無くなろうが基地へと帰還し、そして修理を施してまた戦場へと飛び立つ。正に戦闘機と同じどんな攻撃を受けても戦場が自身の居場所と言っている様な単一機能なんだよ。彼が武器を仕舞い、そして単一機能をどうして起動して攻撃を止めたか? そんなことは決まっている。動きを封じるためさ」
そう言いもう決着付ける気でいるみたいだし。と付け加える様に言いまたディスプレイの確認に戻る。
刀を掴み逃がさない様にした後、ネイサンは両肩のアヴェンジャーを天竺へと向ける。
「や、止めてくれ。 頼む一夏」
箒はこの距離からの攻撃に恐怖しネイサンに懇願するが
「悪いんだが依頼を受けた以上全うするのが傭兵なんだ。それと俺は一夏じゃない」
そう言いアヴェンジャーに装填されているAPFSDS弾を発射した。近距離から発射された弾は天竺の装甲を意図も容易く貫通し、絶対防御で守られている箒へと命中していった。弾は止められても衝撃は止められず体に激痛が走るほどの衝撃が襲った。
箒は声にならないほどの声をあげ、必死に逃げようともがくがISは言う事を聞かなかった。そして束の方は投影していたディスプレイに表示されているデータ収集率が100%を迎えようとしていた。
「97…98…99…100! はい終了‼」
そう言うと同時に箒のISに機械音声が流れた。
『データ収集終了。操縦権を搭乗者に移行します』
そう言うと操縦が箒へと戻るが、箒は体の痛みから動かせずそのまま落ちていき、下にあった無人島へと不時着した。
箒はISを解除しようとしたが、解除が出来ず焦った。
「な、何故だ! 何故解除されないんだ!」
解除しようとあれこれしていると、ディスプレイが突然現れ映ったのは束だった。
『ねぇ人の話聞いてた? SEが尽きるまで勝負は終了しないって。つまりSEが無くならない限りそのISは解除できないよ』
そう言われ箒は束に解除してもらおうと声を荒げようとした瞬間、目の前にA-10を身に纏ったネイサンが降りてきた。
「も、もう止めてくれ‼ 降参する‼」
もう立つことさえままならない箒は体を引きずりながら後退り、ズタボロの顔から涙を流しながらネイサンに懇願するがネイサンはAWMSとアヴェンジャーを箒へと向ける。
「悪いが、そんな事言おうが知ったこっちゃない」
そう言いアヴェンジャー、AWMS、そしてサイドワインダーを一斉発射し天竺の残りのSEを刈り取った。天竺のSEが尽きたのをハイパーセンサーで確認したネイサンはISを解除し地面へと降り立ち、土煙が立ち昇っている方へ眼を向ける。
そして土煙が晴れた先には生気の無い瞳から涙を流し、体中に痣が出来た箒が倒れていた。
「これ連れて帰らなきゃいけないのかよ」
ネイサンは気絶寸前で止めれば良かったと後悔しながら、箒へと近づいた瞬間背後にいる気配に気づき銃を構える。
「誰だ」
そう言うと手をあげ目を閉じた銀髪の少女が草むらから現れた。
「お初にお目にかかります。私はクロエ・クロニクルと申します。ご安心ください、敵ではございません」
「だが味方だと言う証拠もない」
そう言い構わず銃を構えていると、クロエの近くに束が映ったディスプレイが現れた。
『その子は私の助手だから、敵じゃないよぉ』
そう言われ束さんが言うのなら本当か。と思いネイサンは銃を仕舞った。
「それで、何故ここに?」
「束様に頼まれましてそちらに転がっている人を回収しに参りました」
クロエはそう言い箒に指をさす。
「そうか。だが君みたいな体格が小さな子がこいつを持てるのか?」
ネイサンは身長差がある箒をこのクロエが運ぶのは無理があると思っていたが、クロエは笑みを浮かべる。
「ご安心ください。私は束様から頂いたISを持っていますので」
そう言いクロエはISを展開し箒を担ぎ上げる。
「では束様が報酬を持ってお待ちしておりますので、一緒に来ていただけますか?」
「分かりました。ではそれをお願いします」
クロエは突然口調が変わったネイサンに首を傾げる動作をし、ネイサンは訳を話した。
「普段はこっちの口調を使っているんですよ。素は先ほどの口調ですが。イライラが募るとどうしても素の口調が出てしまうんですよ」
そう言いA-10を身に纏うネイサン。クロエはなるほど。と納得しネイサンと共に束達が居る岩場まで戻って行った。
次回予告
岩場へと戻って来たネイサンに束は報酬としてネイサン用のIS武器をプレゼントする。すると真耶が大慌てでやって来て緊急任務が舞い込み専用機持ちは招集された。だが戦力が圧倒的に少ないことに悩んだスコールに束がある人物を連れてきた。
次回
銀の福音戦~この子も戦力の一人に加えてあげて~