世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士   作:のんびり日和

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19話

タッグマッチ戦中止から数日後、学園にある取調室には手枷を付けられ、目の下に隈をつくったラウラが椅子に座らさせられ、スコールに尋問されていた。

 

「それじゃあもう一度確認します、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。貴女が乗っていたISにVTシステムが搭載されていたのは貴女は知らなかった。そしてタッグマッチ戦で試合中に投影モニターに『力を欲するか?』というメッセージが突如表示され、貴女は疑問を抱かずに決定ボタンを押した所で、VTシステムだと気付いた。そう言う訳ね?」

 

「……そうです」

 

ラウラはぼそぼそとした声で答えた。

 

「分かりました。彼女を医務室に戻して」

 

そう言うと、部屋の隅に居た教師達がラウラを立たせ医務室へと連行した。一人残ったスコールは手元にある資料、報告書に目を向ける。

資料にはラウラが乗っていたISに関するデータなどが記載されており、報告書にはドイツからのVTシステムに関する報告などが書かれていた。

ラウラが乗っていたISには、確かにVTシステムらしき物が組み込まれていた事が分かり、多数のプログラムなどでカモフラージュされていた為、発見は困難を極める物だった。そしてこのシステム発動の条件が搭乗者が強い欲望を抱いた瞬間に最終チェックまで行き、後は欲望に忠実となった本人が決定キーを押すことで発動することが分かった。

そしてこのVTシステムを載せたと思われるドイツ側は、全く知らない。本人が織斑千冬になりたいと言う欲望でVTシステムに手を出したかもしれないと報告してきた。

本来ならばそれで納得するが、一人の天災はそんなことで納得するはずもなく、VTシステム開発に携わったドイツの研究員から軍の幹部、そして政府高官を次々にネット上にそのプロフィールなどをばら撒き、真相を赤裸々に晒した。その結果ネット上にあげられた人物達は次々に逮捕されていった。

報告書にはラウラの怪我の状況なども記載されていた。ラウラはVTシステムに飲み込まれた後も、何とか意識は有ったものの、体が自由に動かずにいるとネイサンと鈴の激しい攻撃、そして最後のネイサンのフルバーストを受けた結果、ISに乗ること、そして暗い場所などに行くとVTシステムに飲み込まれた記憶が呼び覚まされ、体が痙攣する症状を患ってしまったのだ。いわゆるPTSD、心的外傷後ストレス障害に陥ってしまった。

 

「これで彼に馬鹿な真似をしてくる人物が減ればいいんだけど」

 

スコールはそう言いながら、資料などをまとめ取調室を後にした。

 

寮の自室で学生服ではなく私服へと身に纏ったネイサンはレゾナンスへと向かっていた。そしてモノレールを乗り継ぎ、目的のレゾナンスへと着くと入口に目立つ人達を見つけ、近付く。

 

「お待たせしました、キャスパー」

 

「やぁネイサン。それじゃあ早速旨い料理屋を探しに行こうか」

 

そう言い私兵達とネイサンと共にキャスパーは歩き出した。暫くレゾナンスを歩いていたが、キャスパーが行きたいと思えるお店は結局無く、レゾナンスから少し離れた場所を探すこととなった。

 

「う~ん、なかなか美味しそうと思えるようなお店は無いなぁ」

 

キャスパーがそう言いながら歩いていると、ネイサンは見覚えのあるツインテールの少女を見つけ声を掛けた。

 

「鈴」

 

「ん? あらネイサンじゃない。それと、そっちは?」

 

鈴は綺麗な髪色と思いつつ誰なのか聞くと、キャスパーは名を名乗った。

 

「初めまして、僕はキャスパー・ヘクマティアルだ。彼とは友人みたいなものだよ」

 

そう言い手を差し出すキャスパー。

 

「凰鈴音と言います。中国の代表候補生をしています」

 

そう言い差し出された手を握り返す鈴。ネイサンはどうして此処に居るのか気になり、鈴に聞く。

 

「ところで、鈴。こんな所で何をしているんですか? 臨海学校の準備をするならレゾナンス内がいいはずなのに」

 

「えぇ、実はこの近くにお父さんが経営している中華料理屋があるの。昨日連絡したら久しぶりにご飯を食べようって事で今向かってるのよ。そうだ、皆さんも来ますか? 父の中華料理、凄く美味しいんですよ」

 

そう言われキャスパーと僕は賛成と即決し、ネイサンも中華も悪くないかと思い賛成し鈴と共にその中華料理屋へと向かった。

そして鈴の案内でそのお店の近くまで来たネイサン達。

 

「あそこのお店です」

 

そう言い鈴が指さした方向には『劉中華飯店』と書かれた看板が有った。キャスパーはへぇ~と声をあげている中、ネイサンと私兵達はその店の前にある車へと注意を向けていた。すると店から数人の男女が出てきて店の前に停まっていた車へと乗り込み何処かに去って行った。

それを見ていたチェキータとネイサンは鋭い目線を去って行った車へと向けていた。

 

「……ネイサン」

 

「えぇ、嫌な予感がします」

 

そう言っていると、着メロが鳴り響き鈴はポケットに手を入れスマホを取り出す。

 

「あ、お父さんからだ。もしもし、お父さん。『り、鈴、はぁ、はぁ。今、何処だ?』え、お店の近くだけど、お父さんどうしたの? 『く、来るんじゃない、鈴!……ブツッ』お父さん? お父さん!」

 

鈴は突然切れた事に不安に感じ店に向かって走り出そうとした瞬間、店の入口から突然爆発が起きた。ネイサンは直ぐに鈴を守る様に覆い被さる。キャスパーもチェキータや他の私兵達が盾となって守った。

鈴は突然の爆発に放心となっていたが、直ぐに我に返り店の方へと顔を向ける。

 

「嫌。……そんなの嫌。……お父さぁーーーん!!?」

 

鈴は涙を流し叫びながら燃え盛る店に突入しようとネイサンの腕の中で暴れる。

 

「ダメだ鈴! 入ったら君も危ない!」

 

「離して! お父さんが! まだお父さんが中にいるの!」

 

鈴は泣き叫びながら手を伸ばす。そしてお店からまた爆発がした瞬間、流石に鈴ももう父は助からないと分かり力なく項垂れた。その後消防車や警察が到着し消火活動が始まり、火は数時間後に鎮火した。そして燃えた店の奥にあるキッチンから一人の男性遺体が見つかった。遺体は警察署へと移送され鈴は元とは言え実の親の為確認するべく警察署へと向かった。そして遺体安置所へと入った鈴と付添人のネイサン。警察官はゆっくりと顔に置かれている布を捲ると、酷い火傷の状態だがそれでも顔は確認できた。鈴は顔を見た瞬間に涙が流れ始める。

 

「ち、父です。うぅぅ、お父さん、なんで……」

 

鈴は涙を流しながら崩れ落ちそうになったのをネイサンは抱き留め、安置室から退出し近くにあった椅子へと座らせる。

 

「……鈴」

 

「うぅぅ、ひっく。何で…。お父さん……」

 

ネイサンは涙を零す鈴をどう慰めるべきかと悩んでいると、キャスパーがやって来た。

 

「ネイサン、ちょっといいかい?」

 

そう言われネイサンは泣く鈴を置いて、キャスパーと共に警察署から出て人気のない場所へと移動した。

 

「それで何ですかキャスパー?」

 

「さっき知り合いの警察官に聞いたんだけど、彼女のお父さん。どうやらある組織からお店を追い出されそうになっていたようなんだ」

 

「追い出されそうになっていた?」

 

「うん。その組織って言うのがあの辺で強引な方法で土地を奪い取って新たな店を建てさせている奴らみたいでね。しかもその組織の社長は僕の大っ嫌いな女尊男卑の屑って言う訳」

 

キャスパーの説明にそう言う訳かとネイサンは納得するように頷く。

 

「なるほど。つまり鈴のお父さんは頑なに土地を明け渡さなかったために、しびれを切らしたその組織が直接手を下しに来たって言う訳ですか」

 

ネイサンはイラついた表情を浮かべていると、キャスパーは珍しい物を見たと言わんばかりに顔に笑みを浮かべる。

 

「へぇ~、君でもそう言った表情をするんだね」

 

「僕だって人間です。ムカついた事やイラっとすることがあれば、顔には出ますよ。けど普段は見せないようにしているんですが、流石に親友の親が殺されたことを聞けば我慢できませんよ」

 

そう言っていると、ネイサンはふと背後に気配を感じ振り向くと其処には鈴が立っていた。

 

「り、鈴。聞いていたのか……」

 

「……ねぇ、ネイサン」

 

鈴は真っ赤に張れた目をし、憤怒に染まった顔をネイサンへと向ける。

 

「私に人殺しの技術を教えて」

 

鈴の頼みにネイサンは難色の顔を浮かべる。

 

「……一応聞きます、一体何の為にですか?」

 

「決まっているわ! お父さんを殺したあいつ等を皆殺してやる為によ!」

 

鈴は父親を殺され、その復讐に囚われている。そうネイサンは瞬時にそれを感じ取った。

 

「……駄目です。復讐を成し遂げた所で貴女に待っているのは破滅しかありません」

 

「破滅が何なのよ! もう私には破滅以外何もないわよ!」

 

そう叫び、涙を流す鈴。そしてぽつぽつと語りだした。

 

「私の親は中学の時に離婚したの。そしてお父さんは日本に。お母さんと私は中国に帰った。当時の私は何故離婚したのか全然分からなかった。けど私が代表候補生になって数日が経ったある日に家に警察が来たの。君のお母さんは見ず知らずの男を脅迫して金を巻き上げた。って言われたわ。お母さんはそのまま逮捕されて刑務所に入れられた。そして数日後に刑務所内で首を吊って死んだ。だから私には家族と呼べたのがお父さんだけだった。けどそのお父さんが殺された。もう私には家族と呼べる人が誰一人いないのよ!」

 

鈴が涙を零し続けるのを見たネイサンは、鈴の気持ちに応えてやりたいと思う反面、復讐に囚われた人間がその復讐を成し遂げた後、その人間は目的が無くなった後に待っているのは自殺と言う悲惨な末路だと言うことを知っている為に鈴に復讐をして欲しくないと言う気持ちが有った。

 

「それじゃあ僕から提案を出そう」

 

突然のキャスパーの発言にネイサンと鈴は顔を向ける。

 

「……提案?」

 

「そうだ凰さん。君が人殺しの技術を欲するならそれを僕が提供しよう。だが世の中は物を与えるなら何かを貰わなきゃいけない。言っている意味は分かるね?」

 

キャスパーの提案にネイサンは鋭い視線を向ける。

 

「キャスパー、それは彼女の殺人に手を貸すって言う意味ですよ。どう言う訳ですか?」

 

「おいおい、まだ話は終わってないぞネイサン。凰さん、君に払って欲しいのは君のそのISに乗る腕だ」

 

「え? お金じゃなくて……私の腕?」

 

鈴は訳が分からないと言った表情でいる中、キャスパーは続けた。

 

「そうだ。実は商談に行くともう少し安くしろとか、タダで商品を渡せってISを使って脅してくる奴らが多いんだ。僕の妹も同じように商人として世界中を回っているんだけど、妹が居る地域はアジア圏に次ぐ女尊男卑が激しい場所でね。僕はチェキータさん達が如何にかしちゃうけど、妹は分からない。もしISを使って襲われたりしたらISを使えるネイサン一人では護衛が厳しい。だから君には抑止力の一人として妹に加わってあげて欲しいんだ」

 

そう言われ鈴は考えさせられた。提案に乗れば父を殺した連中に復讐が出来る。だがそれは今まで頑張って会得出来た代表候補生の地位を捨てなければならない。そして悩みに悩んだ末に鈴は答えを出した。

 

「……分かりました。貴方の提案に乗ります」

 

その答えにキャスパーは笑みを浮かべ、持っていたカバンから紙を一つ取り出し手書きでサラサラと何かを書き、鈴の方へと見せた。

 

「それじゃあこの部分に自身の名前と指印を押してくれ。それとちゃんと条件部分はしっかり読んでおくようにね」

 

「分かりました」

 

そう言い鈴は受け取った紙の条件の部分をしっかりと読んでいると、突然紙を握っていた手に力を籠めるが直ぐに力を抜き名前と指印を押し紙をキャスパーへと手渡した。

 

「うん、確かに。それじゃあネイサン、彼女の教育任せたよ」

 

「……どういう事ですかそれ? 後、さっきの答えを聞いていないんですが」

 

「おっと、そうだったね。まぁ簡単に言えばこれが彼女の一番いい選択だと思ったから提案したんだ」

 

そう言いキャスパーは鈴が署名した紙をネイサンへと見せた。紙には以下の条件が書かれていた。

 

『・今回の復讐をすべてをネイサン・マクトビアに一任する(一日で殺しの技術なんてものは身につかない)

 ・殺しの技術、知識などはネイサン・マクトビアに教えてもらう

 ・ある程度知識、技術等を身に付けたらネイサンの相棒として共に行動する』

 

「……なるほど。こういう訳ですか」

 

ネイサンはキャスパーの考えに驚きを越え、呆れた表情を浮かべる。すると鈴は俯いた状態でネイサンに近付き、袖を掴む。

 

「ネイサン。本当だったら私があいつ等に手を下したいけど……。私にはアンタみたいに殺しの技術も知識もない。だからお願い……」

 

俯いた状態でいる鈴の顔から涙がポタポタと落ちていくのを見たネイサンは、はぁ~。と息を吐き鈴の頭に手を置く。

 

「分かりました。だからもう泣かないでください。後は僕が如何にかしますから」

 

そう言いながら頭を撫でるネイサン。鈴は小さく「ありがとう。」と言った。

 

そして鈴を先に学園へと帰し、ネイサンはキャスパーにある事を頼む。

 

「今回の件、貴方にも手伝ってもらいますからねキャスパー」

 

ネイサンのジト目にキャスパーは笑いながら頭を掻く。

 

「まぁ勿論いいよ。それに潰す予定の組織は僕のビジネスにも関係しているみたいだしね」

 

そう言われ、ネイサンは首を傾げる。

 

「何処かの組織と繋がってるんですか?」

 

「組織と言うよりも同業者かな。最近女尊男卑を撤廃しようとしている国に居る女性権利団体に武器を売ってる商人が例の組織と繋がっているみたいでね。武器を買う金は組織が用意し、そして商人が武器を買って世界中に居る女性権利団体に売っているみたい。僕としては担当地域で勝手にそんなことをする奴は見過ごせないからね」

 

そう言いながら、待機していた車へと向かうキャスパーとネイサン。

 

「明日までに学園に戻れば大丈夫だよね?」

 

「えぇ、明日も休みだし担任の教師にも会社から呼び出しが有った為帰りが最悪明日の朝になりますって伝えてありますし、問題ないですよ」

 

「それじゃあ今日の夜にでも決行しちゃいましょうか」

 

キャスパーはそう言いながらネイサンと共に車に乗り込み、その場を後にした。




次回予告
チェキータ達と共にネイサンは鈴の父を殺した組織へと乗り込み、組織を壊滅させた。そして学園へと戻ってきたネイサンを出迎えた鈴。そしてネイサンは殺しもとい傭兵としての技術を教え始めた。数日後、臨海学校が始まった。
次回
相棒(バディー)

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