世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士   作:のんびり日和

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18話

トーナメント戦が行われる数日前、ネイサンは食堂で昼食をとっていると鈴がラーメンの器が乗ったトレイを持って向かいの席へと座ってきた。

 

「やっほー、ネイサン。此処座るわよ」

 

「やぁ鈴。別にどうぞ」

 

鈴は席に着きラーメンを啜っていると、何かを思い出したのか顔を上げる。

 

「そう言えばネイサン。来週のトーナメント戦、ルールが変更されたって聞いてる?」

 

「えぇ。何でもタッグマッチ戦を行うと聞いてますよ。噂では次のモンドグロッソで組み込まれる競技の一種で、そのテストも兼ねて今回変更されたって言うのが一番有力な説です」

 

ネイサンの話に鈴はへぇ~。と納得するような返事をした後、ある紙をネイサンへと渡す。

 

「これは、タッグ希望票?」

 

「そっ。私のクラス他に出る子が居なくてね。で、仲の良いアンタに頼もうと思って」

 

「なるほど。……いいですよ。僕も相手が居なかったので当日のランダムで決めようかなと思ってたので」

 

そう言いネイサンは持っていたペンで紙に自身の名前とクラスを書き、自身の名前が書かれた紙と一緒に鈴に渡した。鈴もネイサンから渡されたタッグ希望票に名前とクラスを書いてネイサンに手渡す。

 

「それじゃあ放課後に訓練ね」

 

そう言うと鈴は食べ終えた器を持って食堂を後にした。

 

 

 

そしてそれから数日が経ちタッグマッチトーナメント戦当日。

ネイサンは整備等を終えた後、対戦相手を確認しに待機室のモニターへと向かっていた。するとモニター付近に鈴が居ることに気付き手を挙げる。

 

「鈴、対戦相手は誰だか分かりましたか?」

 

「えぇ。自分の目でも確認してみたら」

 

鈴はうんざりと言った感じでそう言うと、ネイサンは相手を大体察したがそれでも確認する。モニターには『ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒対ネイサン・マクトビア&凰鈴音』と出ていた。

 

「やれやれ、面倒な人達と当たっちゃいましたね」

 

「そうね。ラウラって言う銀髪の方は実力は分かるけど、この篠ノ之箒って言う子実力ってどれ程あるの?」

 

「さぁ? ウチのクラスにいる剣道部の子が言うには中学に剣道で優勝したことがあるとは聞いた事があるって言ってました」(まぁどうせ力任せにやって勝ったんだろうが)

 

ネイサンはそう言うと、鈴はふぅ~ん。と大して脅威にはならないと判断した。

 

『これより、Aグループの第一試合を始めます。出場する選手はピットへと移動してください』

 

真耶のアナウンスにネイサンと鈴はピットへと移動した。

ピットでISを展開しながら鈴はネイサンにあることを尋ねた。

 

「それでネイサン、どう言う戦法で行くの?」

 

「そうですね、ドイツの方は僕がやります。彼女のISにはAICって言う物体を止めたりすることが出来る機能を持っているので、接近戦を得意としている鈴では不利なんで僕が対処します。もう一方はお任せしますね」

 

「分かったわ。と言うよりも剣道を得意としてても、所詮は一般生徒。実力はたかが知れてるわね」

 

鈴は余裕と言った表情で言うと、ネイサンは苦笑いで答える。

 

「確かにそうですが、油断だけはしないでくださいよ」

 

「分かってるわよ」

 

そう言いながら出場準備を終える。

 

『では双方アリーナへと出て下さい』

 

そのアナウンスと共に2人はアリーナへと出ると、向かいのピットからも対戦相手の2人が出てきた。

それぞれ武器を取り出し開始地点で待機する。

 

『ではこれより試合を開始します。カウント5秒前!』

 

アナウンスのカウントを聞きながら双方睨みあった。

 

『2…1…試合開始!』

 

その合図とともにネイサンは持っていたAWMSでラウラをけん制し箒から引き離す。

 

「ふん。私と一騎打ちと言う訳か。いいだろうその挑発買ってやる!」

 

そう言いレールキャノンで攻撃するラウラ。ネイサンはアヴェンジャーで弾幕を張るなどをして距離を一定にとっていた。

一方鈴と箒の方はと言うと、ほぼ一方的な勝負だった。バランスが訓練機の中で一番良い打鉄を箒は使用しているのだが、箒は近接の刀以外一切使おうとしない。その為打鉄の良さをほぼ無駄にした状態で勝負しているのだ。一方の鈴はネイサンの訓練によって龍咆の目線での照準合わせをしなくなり、ワザと目線の先に撃つように見せかけ反対に撃ち込むなど出来る様になっていた。更に近接でも無駄な大振りをしないようにし、地面を這う蛇の如く相手の懐に入り込み斬り込んでいった。

箒は逃げ場として上に飛んだが、鈴はそれを見逃さなかった。

 

「くっ! さっきから飛び道具を使うとは卑怯だぞ!」

 

「馬鹿ね! ISを使った勝負に卑怯も何もないのよ! それと上に飛ぶって言う事はどうにでもしてくれって言う合図よ!」

 

そう言い鈴は龍咆を飛び上がった箒に向け、圧縮空気を叩き込んだ。箒は避ける間もなく圧縮空気によって壁に叩きつけられ、残りのSEを削り取られ敗北した。

 

「さて、ネイサンはと。別に手を貸さなくても良さそうね」

 

そう言いながら鈴はネイサンとラウラが戦っている様子を眺めた。

ネイサンとラウラの戦いは熾烈で、ネイサンは一定の距離を取りながら戦っておりその付近には空になったマガジンが数個程落ちていた。ネイサンは特に焦っているといった様子はしておらず、逆にラウラの方は呼吸を荒くしており、焦った表情を浮かべていた。

 

「どうした? AICに集中し過ぎたせいで呼吸が荒くなってるぞ?」

 

「クソ!」

 

ラウラは一定の距離を開けながら戦う戦法に苛立ちを募らせていると、突然何かがモニターに表示された。

 

『力を欲するか? YES/NO』と。

 

ラウラは何の確認だ?と疑問にしながらも、力を欲していた為ラウラは躊躇いなくYESを押した。

 

『VTシステムスタンバイOK』

 

と表示された瞬間、ラウラは違法システムだと気付いたが時すでに遅かった。意識はそのまま暗い闇の中へと落ちていった。

ネイサンは突然動きが止まったラウラに警戒した様子で観察していると、突然機体からスライム状の物体が現れラウラを包み込んでいった。そしてその形は暮桜へと変貌しつつあった

 

「……VTシステムか」

 

ネイサンはココから教えてもらった違法システムの一つだと気付き、そう呟いていると傍に鈴がやって来た。

 

「ちょっと、何よあれ?」

 

「違法システムの一つのVTシステムです。鈴、あそこで転がっている奴を引っ張ってピットに「駄目よ。アンタ一人でやれる相手じゃないでしょ」……ですが、下手すると奴を殺す事になります。貴女にそれが出来るのですか?」

 

ネイサンは鈴に覚悟があるのか、確認をすると鈴は一瞬肩を跳ね上がらせるが、覚悟したかのような目つきへとなる。

 

「……えぇ」

 

「分かりました」

 

ネイサンは残弾を確認し、管制室に連絡を入れる。

 

「スコール先生、これよりVTシステムに取り込まれたISを破壊します」

 

『無茶よ! 相手は恐らくモンドグロッソ時代の織斑千冬よ。勝てる可能性は「今やらなきゃ被害が多く出ます

。許可を」……分かったわ。撃退の指示を出します。但し無茶だけはしないように』

 

「了解です。それと劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾(HVAP)等の使用許可も下さい」

 

『……了解、許可するわ』

 

許可を貰ったネイサンはアヴェンジャーの弾種を36㎜のHVAP弾へと変更した。

 

「鈴、近接攻撃は控えて圧縮空気で援護を」

 

「了解よ」

 

鈴は龍咆を展開し、圧縮空気を撃てる様構える。

完全に乗り込まれたのか、ISは刀を振り上げながら迫ってくるがネイサン達は特に慌てた様子を見せずにその場から離れ、ネイサンはHVAP弾を叩き込む。鈴も圧縮空気を放つが大してダメージがある感じでは無かった。

 

「くっ! 威力不足だって言うの!」

 

鈴は悔しそうな目で暮桜に向ける。一方ネイサンのHVAP弾は腕や脚を的確に射貫いていた。だがどれも決定打となるダメージを受けている感じでは無かった。

 

「これじゃあらちが明かないな」

 

そう言いネイサンは弾種を120㎜の劣化ウラン貫通芯入り仮帽付被帽徹甲榴弾(APCBCHE)へと変更し一気に勝負に出た。

 

「鈴! 一斉射で叩くから退避してください!」

 

「分かったわ!」

 

鈴は出力限界の圧縮空気を暮桜に放ち、ネイサンの背後に移動する。

 

「これで墜ちろ!」

 

そう叫び、ネイサンはAWMS、そしてアヴェンジャーとサイドワインダーを暮桜に向け一斉射した。鈴の出力限界の圧縮空気で動きにムラが出来ていた暮桜はネイサンの攻撃をもろに喰らい、そのまま弾丸の雨に晒された。

そしてアヴェンジャーの弾丸、そしてAWMSの36㎜チェーンガンの弾が切れ、ネイサンはトリガーを離す。

 

「やったの?」

 

鈴はネイサンにそう確認の声を掛けながら煙が蔓延している方へと目線を向ける。

 

「分かりません」

 

そう言いながらネイサンは警戒しながら、アヴェンジャーの弾種を変更しAWMSのマガジンを交換する。

そして煙が晴れた先の地面にはラウラが倒れ込んだ状態でいた。鈴はホッと息を吐いて、ラウラを回収しようと近付こうとしたが、ネイサンが止めに入った。

 

「何で止めるの?」

 

「これをやらないと、鈴も汚染されますよ」

 

そう言いながらネイサンは特殊なグレネードを取り出し、ラウラに向け投げた。それは放射性物質を除染する特殊な物質が入った物だった。グレネードは爆発し、辺りに白い粉状の物が舞い広がった。

 

「これで良し。スコール先生、教師達には後5分は彼女に近付かないよう伝えておいてください」

 

『分かったわ。2人ともご苦労様。あと学園長が今回の件を聞きたいから学園長室に来て欲しいそうよ』

 

「分かりました」

 

そう言いながらネイサンは通信を切りピットへと向かった。

 

その後、教師達がアリーナへとやって来てラウラを回収し、放射線を確認する。ネイサンが投げた放射性物質除去用のグレネードが功を奏したのか、ラウラは体に害を成すほど量を有しておらず拘束し医療室へと連れていかれた。

 

その夜、束は隠れ家の研究室である人物からの電話を待っていた。そして目的の人物が掛かってくると、仮面を付けたかのような顔付で電話に出る。

 

「モスモス終日~! 久しぶりだね、箒ちゃん!」

 

『姉さん、あの……』

 

「分かってるよ! 箒ちゃんだけのISが欲しいんだね。大丈夫! もう作ってあるから、今度持ってくるから待っててね!」

 

そう言い電話を一方的に切った。そしてふぅ~。と息を吐いて口をニンマリとさせた。

 

「ちゃんとデータ採取に協力してよね、私の大っ嫌いな箒ちゃん」

 

そう言いながら目の前にある一機のISを見つめた。そして束は隣にあるケーブルに繋がれたISへと目を向ける。

 

「もうすぐだ。もうすぐ君は彼の隣で立つ女性の一人に渡す。その時は彼女に手を貸してあげてね」

 

そう言いながら束はその研究室を後にした。束が見つめたケーブルに繋がれたISはネイサンと同じA-10ThunderboltⅡだった。




次回予告
タッグマッチ戦から数日後、ネイサンはレゾナンス近くに行きキャスパーと合流し、料理の上手いお店を探して歩いていると、鈴と会った。鈴は父親の中華飯店が近くにあるとのことでキャスパー達を誘うと、キャスパー達は承諾し鈴の父親の中華飯店へと向かった。
次回
別れは唐突に~お願いネイサン、私に人殺しの技術を教えて~

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