ラウラが喧嘩を吹っ掛けてきてから翌日、ネイサンは漸く用意された一人部屋で朝食を済ませ部屋を後にした。
そして何時もと変わらない時間に教室前へと着いたネイサン。
「おはようマクトビア君」
ネイサンはそう声を掛けられ目線を掛けられた方へと向ける。其処には作った笑顔を浮かべたシャルル事シャルロットが立っていた。
「今度は何だ? また挨拶だけならもう教室に入りたいんだが」
「その、ほらお互い世界に二人しかいない男性操縦者なんだし仲良くしたなぁ~と思ったんだけど……」
シャルロットは必死に仲良くなるきっかけを作ろうとしたが、ネイサンはそんなきっかけを作る隙すら与えなかった。
「そうか。悪いが、俺は本当に仲良くなれる奴と思った奴しか仲良くする気はない」
そう伝えネイサンは教室へと入って行った。シャルロットはまた失敗したと落胆した表情を浮かべ、もうあの手しかないと思い教室へと戻って行った。
昼休み。ネイサンは食堂へと向かおうと廊下に出ると、丁度隣のクラスから鈴が出てくる。
「あらネイサン、今から食堂行くところ?」
「えぇ。鈴も今からですか?」
「そうよ。そうだ、一緒に行かない?」
鈴の提案にネイサンは頷き、鈴と共に食堂へと向かった。
食堂へと着いた2人はそれぞれ昼食を注文し席へと着く。
「そう言えば、アンタってもう就職してるらしいけど本当なの?」
「えぇ、HCLI社社員の警護しているPMCの一人です。その前はフリーの傭兵をしていましたけど」
ネイサンの最後の傭兵と言う言葉に鈴は驚いた表情をネイサンに向ける。
「アンタ元傭兵なの?」
「えぇ。父も傭兵で、戦場にいる傭兵達からは伝説と言われるほど凄い人なんです」
ネイサンは嬉しそうな顔で父ジェイソンの事を語りだす。鈴は本当に自慢のできる父親なんだと、その顔を見て理解できた。
「……本当に良い父親なのね」
「えぇ自慢のできる父でした」
「え?」
ネイサンのでした。と言う過去形に鈴は思わず声を漏らす。
「数年前に父はガンで亡くなったんです」
それを聞いた鈴は思わず顔を逸らす。
「ごめんなさい。辛い事思い出させたわね」
「いや、大丈夫ですよ」
ネイサンはご飯を食べながら空気を換えようとある提案をする。
「そうだ鈴。話は変わるんですが、放課後暇ですか?」
「放課後? まぁ時間はあるわよ。何? 訓練に付き合ってほしいの?」
鈴はネイサンが空気を変えようと、話題を変えたことにはすぐに気付き心の中で感謝しつつ答える。
「えぇ。ほら、もうすぐトーナメント戦があるじゃないですか? だから模擬戦をして技術を磨きたいのでね」
「なるほどね。良いわよ、あたしもアンタとの訓練のお陰か最近教科書に載ってる訓練が物足りない気でいたのよ」
では、放課後に。とネイサンは伝え昼食を終えた。
そして放課後、ネイサンは約束した通り隣のクラスにいるはずの鈴に会いに行くべく向かい中へと入る。
「すいません、凰さんいますか?」
「えっと、鈴だったらさっきアリーナへと向かったわよ」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言いネイサンは2組から出て、アリーナへと向かう。アリーナからは激しい戦闘音が聞こえ、ネイサンは誰かが模擬戦でもしているのかと思いつつ入口付近まで近付くと、鈴が立っていた。
「あら遅かったわね」
鈴は若干イラついたような表情でネイサンを迎えた。
「……何かあったんですか?」
「昨日の銀髪がまた絡んできたのよ。ネイサンの忠告通り頭に血が昇り来る前に一呼吸入れたらスッて頭が冷静になったから挑発に乗らずに済んだんだけど……」
鈴は哀れんだ眼をアリーナの方へと向ける。
「あたしが此処に来た時に丁度1組のイギリス代表候補生と会ったのよ。一緒に訓練しないかって誘われて断ろうとした時にあの銀髪が来たのよ。で、例の如く挑発して来てあたしは乗らず、彼女だけが挑発に乗って今中で戦っているみたいなのよ」
そう言われネイサンはアリーナから聞こえる激しい戦闘音はそれが理由かと納得する。
「そうですか。それじゃあ終わったらやりましょうか」
「そうね」
そして鈴とネイサンはアリーナへと入ろうとすると、一人の生徒が慌てた様子でアリーナから出てきた。
「た、助けて! セシリアさんが殺されちゃう!」
そう叫びながらネイサン達に助けを求めてくるが、ネイサンは若干嫌な顔を浮かべる。
「いや、助けてくれって言われても」
「模擬戦してるんだったら監視をしている先生が止めるんじゃないの?」
それぞれそう言うが生徒は首を横に激しく振る。
「そ、それが管制室に誰もいないのか全然止めに入らないの!」
そう言われ2人は呆れたような顔つきとなりため息を吐く。
「どうする鈴?」
「今日はもう訓練は中止して止めに行きましょう」
「得にならない仕事はしたくないんだがなぁ」
そう言って鈴はアリーナへと入って行った。ネイサンは嫌な顔になりながらも付いて行く。
そして2人がアリーナへと入ると、ISをボロボロにされ地面に今にも倒れそうになっているセシリアと全く余裕な表情で佇んだラウラが居た。
「本当に止められていないな」
「あれ下手したら国際問題になるんじゃない?」
鈴とネイサンはそんなことを言いながらピットへと入る。ピットへと入ったネイサンはスマホを取り出し何処かに電話を掛ける。
「あ、スコール先生。何人か教師の方々を連れてアリーナに来てください。トラブルです。はい、どうやらイギリス代表候補生とドイツのが模擬戦をして一方的にイギリス代表候補生を攻撃している様です。いえ、管制室に人はいないのか止めが入ってないです。はい? ……そう言う事ですか。分かりました、失礼します」
ネイサンは電話を切りISを纏う。
「アンタのところの担任に電話したの?」
「えぇ、教師部隊の出動をお願いしました。それとある事を教えてもらえました」
そう言うと鈴は疑問符を浮かべながらそのある事を聞く。
「ある事って?」
「どうやら管制室にどうやら人はいるみたいですよ。で、その人って言うのが―――」
ネイサンからそのある人物を聞いた鈴は呆れた顔を浮かべ、息を吐く。
「なにそれ。つまり今の現状は問題無しって捉えているってこと?」
「恐らくそうでしょうね。全く教師として最低ですね」
「そうね。まぁいいわ、早い所あのイギリス生徒助けに行きましょうか」
鈴はそう言いネイサンと共にアリーナへと出た。アリーナへと出ると待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべるラウラ。
「漸く出てきたか。さぁ私と勝負しろ!」
「なぁ鈴。やっぱり帰っていいか? あれと戦うとか本当に面倒なんだが」
「あたしだって嫌よ。さっさとあれを拾って帰りましょう」
鈴にそう提案されネイサンはやる気の出ない自身に何とか言い聞かせ、武器を構える。
「機動力はあたしの方が上だから、アンタはあれを抑えて。あれを回収したらサッサとピットに引っ込みましょう」
「了解です」
鈴の作戦を聞いたネイサンはアヴェンジャーとAMWS-21をラウラへと向け、トリガーを引く。大量の弾丸がラウラに迫るが、ラウラは何かを展開し攻撃を防ぐ。
「……例のAICとか言う機能か」
ネイサンはココに以前教えてもらったドイツが開発した機能を思い出す。そして本来だったら全体的に覆われるはずのAICはラウラは一部しか展開できないことにネイサンはまだ未熟という事かと瞬時に読み取った。
(あれは結構集中力が必要だから、弾幕を張り続けておけば時間くらいは稼げるか)
そう思いネイサンは攻撃を続け、動きを取らせまいと撃ち続けた。
流石のラウラはネイサンの弾幕にイラついたのか、罵声を浴びせる。
「それだけしかしないのか! 伝説の傭兵の息子だと聞いたが聞いてあきれる!」
その言葉を聞いたネイサンは一瞬眉をピクッとさせるが、挑発にそうやすやすと乗らなかった。
「そうか、ならお前はどうなんだ? あの織斑に訓練を付けて貰いながら、今何も出来ないお前は?」
そう言うとラウラは目をキッと鋭くさせ睨む。だがそれと同時に集中力が切れアヴェンジャー、そしてAMWS-2の弾幕に曝された。
「クッ!? 舐めるな!」
そう叫び、ラウラはネイサンを攻撃しようとしたが、そこにネイサンは居らず、アリーナ内にはラウラ一人だけしかいなかった。
「何処へ行った!」
そう叫ぶが、自身の声しか返ってこなかった。
「誰もお前と戦うなんて言ってないだろうが」
ネイサンは鈴達と共にピットに避難しており、ピットで呟く。
「さて、救助は成功したしこの子どうする?」
鈴はセシリアに目を向けながらネイサンに聞く。セシリアは既にISがボロボロな状態で体も痣などが出来ていた。
「取り合えずもうすぐ来る教師達に引き渡そう。後の処理はやってくれるだろうし」
そう言うと、鈴はセシリアをピット近くにある椅子へと座らせる。そしてピットから出ると丁度教師が入ってきた。
「スコール先生が言っていた生徒ね?」
「えぇ。彼女のことお願いしますね」
ネイサンはそう言うと教師は頷き、セシリアの容体を確認しに傍へと向かった。そしてネイサンと鈴はアリーナを後にした。
その頃アリーナにいたラウラは、ピットから現れた教師部隊に囲まれ大人しく拘束され連れていかれる途中だった。
そして近くにいたスコールが罰則を伝えた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒさん、学生規則に則って貴女を拘束するわ。期間は次のトーナメント戦までよ」
そう言われラウラは舌打ちをするも大人しく教師達に連れていかれた。
すると教師達の前に千冬が現れ道を阻む
「そいつをコチラに引き渡せ」
突然現われた千冬に教師達は警戒し何時でも動ける様構える。
「それは出来ないわ。彼女に言い渡された罰則は学園長直々に下したもの。貴女がそれを取り消す権利は無いわよ」
スコールは千冬の前に立ってそう言い放ち、教師達に先に行く様指示する。
スコールの指示を聞いた教師達は千冬に警戒しつつラウラを罰則用の牢屋へと連れて行った。残ったスコールと睨むような目線の千冬はその場でジッと動こうとしなかった。
「織斑先生、貴女にも学園長からの伝達事項があるからよく聞きなさい」
「なんだ?」
千冬は睨む視線をスコールへと向けたままその伝達事項の内容を聞く。
「今回のボーデヴィッヒさんの一方的な攻撃でオルコットさんが多大な被害を受けたにも関わらず、貴女は管制室に居たのにそれを止めなかったことで、学園長は貴女に任されている全ての主任権を全て凍結との事よ。以降の主任権は私が引き継ぐことになったから」
そう言いスコールはその場から去ろうとする。
「待て! 全ての主任権を凍結だと、そんなのが認められるか!」
「貴女が認めなくても、これは学園長がお決めになったこと。貴女に拒否権は無いわ」
「私はブリュンヒルデだ!」
スコールは千冬のブリュンヒルデと言う発言を聞いて呆れた様にため息を吐く。
「ブリュンヒルデは只の称号であって、何の権力も無いわ」
そう言いスコールは今度こそその場から去って行った。千冬は苛立ちから壁を思いっきり殴りつけた。
その頃アリーナから戻ったネイサンはと言うと、部屋で草臥れ儲けした。とぼやきながら部屋で寛いでいた。すると部屋の扉がノックされ誰だと思い声を掛ける。
「どちら様ですか?」
『あの、1組の相川清香って言うんだけどちょっといいかな?』
ネイサンは声の掛け方、声量などから相手がどういった人物か観察し、女尊男卑の生徒じゃないと判断し、扉を開ける。
「僕に何か用ですか?」
「えっと、私のクラスのデュノア君がマクトビア君に話があるから呼んできて欲しいってさっき連絡を貰ったの」
「? 本人が直接来れないのですか?」
「なんか、今手が離せないって言ってたの」
ネイサンは怪訝そうな顔を受けながらも、チラッと部屋を見た後目線を相川の方へと向ける。
「分かりました。それで今どこに?」
「うん、ピットに居るって言ってたよ。それじゃあ私はこれで」
手を振りながら相川は去って行き、ネイサンは部屋に鍵を掛けてピットへと向かった。
ネイサンが部屋を後にして数分、脱衣所の扉が急に開かれシャルロットが出てきた。
「……ごめんね、マクトビア君。でも僕が自由になれるにはこれしかないんだ」
そう言いつつシャルロットは机に置かれているISの待機形態と思われる物にコネクターを挿しデータをコピーする。そしてデータの抽出が完了したと画面に表示され、シャルロットは安堵した表情を浮かべる。
「よし、これで僕は自由に―――」
「なれる訳ないだろ」
突然今此処にいないはずの人間の声が聞こえ、シャルロットはその方向へと顔を向けると、其処にはシャルロットに拳銃を構えているネイサンが立っていた。
「ど、どうして……」
「初めからお前がこの部屋に侵入していたことは気付いていたよ。で、スパイ行為の証拠を掴む為に本物に似せたISの待機形態を置いておいたわけさ」
そう言われ、シャルロットはさっき抽出したデータは全て偽物だと気付かされ、逃げないとと思ったがその前にネイサンの方が早かった。持っていた拳銃でシャルロットの眉間を的確に射貫いたのだ。眉間に強い衝撃を受けそのまま後ろに倒れ込んだシャルロットは衝撃から意識を失ってしまった。
次回