「ぜひ君の腕を僕の妹に貸してあげてくれないかな?」
一人のプラチナブロンドの男性は目の前にいる人物にそう言う。その人物は黒髪で年頃はまだ中学生くらいだがその目は多くの死線をくぐり抜けてきた兵士の目だった。
「何故僕にそんな依頼を頼むんですか?」
「実は君のことを妹に話したらぜひ自分の部隊に入れたいって言ってさ、それで連絡先を交換し合ってることを知ってぜひ聞いてくれって頼まれたんだ」
「なるほど、そう言う事ですか」
「それでどうだろうか?無論君には毎月給料も支払われるし、あっちこっち戦場を渡り歩くより楽しいと思うよ。後は君次第だ、ネイサン」
ネイサンと呼ばれた人物は、暫く考えた後首を縦に振り、依頼を引き受ける。
「いいでしょう。貴方には色々お世話になった恩もありますし、引き受けます」
「そうか!いや~、ありがたいよ。妹から連れてくるまで連絡するなって言われてて、断られたらどうしようって思ってたんだ」
「キャスパー、それでこの荷物はどうするんだい?」
そう言って黒髪の女性がキャスパーと呼ばれたプラチナブロンドの男性の背後から荷物を持って現れた。
「あぁ、チェキータさん。その荷物は彼に渡してください」
そう言われチェキータと呼ばれた女性は大きめのアタッシュケースをネイサンに渡す。
「これは?」
「以前の仕事で僕誤って君に渡すはずの報酬を少なめに渡してたんですよ。それはその時の残りの報酬の代わりと今回の依頼を引き受けてくれた僕からの餞別だ」
そう言われネイサンはアタッシュケースを開けると中にはブッシュマスターACRをカスタマイズした物が入っていた。アンダーレールには小さめのヴァーティカルグリップが付けられており、サイドレールにはフラッシュライトが付けられており、マウントレールにはホロサイトとAN/PEQ-15レーザーポインターが付けられていた。
「気前がいいですね、これだけカスタマイズされた銃を渡すなんて」
「君の銃に関する腕は僕やチェキータさん達が認めるほどですからね」
「ネイサンにはそう簡単に死んでほしくないっていうキャスパーなりの親切心よ」
「ちょっ、チェキータさん!」
チェキータの言い方にキャスパーは一瞬焦るがすぐに平静を取り戻す。
「兎に角、妹は今東欧のF国の首都に居るから会いに行ってあげてくれ」
そう言われネイサンはキャスパーから飛行機のチケットを受け取り、F国へと行く。
F国へと着いたネイサンは空港の出入り口で立っているキャスパーと同じプラチナブロンドの女性を見つけ目的の人物と思い、近づく。
「貴女がキャスパーの言っていた妹さんですか?」
「そうだよ、ネイサン・マクトビア。今日から君の雇い主になるココ・ヘクマティアルだ。」
そう言って手を差し出され、ネイサンも同じように手を差し出し握手をする。
これが一人の兵士と武器商人の出会いだ。
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「……ネイサン。お~い、ネイサン!」
「…う、うん?」
トラックの助手席で寝ていたネイサンは目を擦りながら体を起こすとトラックを運転していた壮年の男性が漸く起きたかと呟く。
「レームさん、もしかしてもうすぐ目的地ですか?」
「あぁそうだ。仮眠も此処からはするなよ。」
レームにそう言われネイサンは頷き、手元にキャスパーから餞別で貰ったACRを持ち窓から景色を眺める。
「…君にとっては久しぶりの光景か?」
「いや、僕の記憶にはこんな景色ありませんよ。街の景色なんて何処もほとんど同じですし」
そう返されレームはポケットから煙草を取り出し火をつける。レームとココとその私兵たちはネイサンのある過去を知り、出来るだけ触れないようにしているのだが今日の仕事だけは彼には外してあげたかったが、本人はそれを拒否しこうして一緒にトラックに乗り目的地へと向かっていたのだ。
『ネイサ~ン、起きてる?』
ネイサンは首に掛けていた片耳用のヘッドセットを耳にかける。
「起きてますよ。」
『それは良かった。…もうすぐ目的地に着くけどやっぱり「ココさん、僕のことは大丈夫ですから」…分かった。けど無理だと思ったらトラックに乗ってていいからね』
そう言って通信は切られた。ネイサンは苦笑い気味となっていると他のトラックに乗っている仲間からも心配される。
『ネイサン、あんまり無理すんなよ。お前にもしものことがあったらお嬢が心配して仕事が手に付けられなくなっちまうからな』
「大丈夫ですよ、アール。自分のことは自分がよく分かってますから」
ネイサンはアールと呼んだ男性に心配ないと伝えると他の仲間からも心配の言葉が送られてくる。
『本当に無理すんなよ』
『そうだぞ、お前はまだ甘えていい年なんだから年上に時には甘えて、何処かでぱぁーとしてきた方がいいぞ』
『子供を持っている親としてもルツの案に賛成です』
『そうだな。時には甘えてもいいと思うぞ』
『ネイサン、ココや皆は貴方のことが心配してこう言っているので今からでも休みに行った方がいいですよ』
『無理して倒れたりしたらみんなが心配するからな』
それを聞き、ネイサンは苦笑いで答える。
「皆心配してくれてありがたいですけど、僕だけ省かれるのは流石に寂しいので止めてください。あとこれ以上休むように言ってくる場合は、向こう一週間料理を作りませんよ」
『『『『『『『それだけはやめて‼』』』』』』』
ネイサンの料理を作らないと言うとレーム以外全員からやめてと叫ぶ声が通信越しで聞こえ、ネイサンは笑いながら冗談ですと言う。そうこうしている内に目的地が見えてくる。
『みんな~、目的地が見えて来たよ~』
ココからの通信を聞きネイサンは目的地の建物を見る。その目つきは嫌悪感等が籠ったモノだった。
「あれが…」
―――IS学園
次回予告
IS用の武器を届けに来たココとその私兵たちは荷物を発注したIS学園の学園長である轡木と会う。ココはその背後に付添人として山田真耶と織斑千冬がいることに気づく。そしてトラックに積んでいるIS用の武器を下ろしている最中、千冬はトラック近くにいたネイサンの顔が数年前行方不明となった一夏に似ていることに気づく
次回兵士とブリュンヒルデ~俺はネイサン・マクトビアだ~