恋する八幡は切なくて   作:れーるがん

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第3話

と言うわけでやって参りました、三井ショッピングパークららぽーと。

高校時代には奉仕部連中に何度か買い物に連れてかれた時にお世話になったりしていたのだが、雪ノ下と二人で、と言うのはあの時以来なのである。

更に言ってしまえば、登下校と食材などの買い物以外で二人で出掛けるのは初めてである。

っべー、これってデートだよな?どうしよう今日も今日とて服装なんてものには気を遣ってなんていないし目は腐ってるしゾンビだし、俺って本当に雪ノ下の隣歩いてて大丈夫なの?

 

「貴方、挙動不審になってるわよ?もっと堂々としてなさいな」

「いや、つってもよ......」

 

お前の恋人役だぞ?

 

とは口に出せなかった。言葉にしてしまえば何かとんでもない罵倒が飛んで来て心をへし折られそうで怖かったから。

 

「恋人役なら前回もしたのだから、特に意識する必要もないでしょう」

 

それが前回と状況が違うんですよ。主に俺の心情的に。

俺が心の中でウンウン唸っていると、雪ノ下はカバンを持っていない空いてる方の手をこちらに差し出して来た。

 

「どしたの?」

「相変わらず察しの悪いゾンビさんね。恋人のフリなのだからこれくらいは当然でしょう?」

「いやでも前回は...」

「今回は店員さんに恋人であると分かってもらう必要があるのだから。最も目に見えて分かるような方法がこれしかないの。分かったならさっさと手を取りなさい」

 

そうは言われてもこの滝のように流れ出る手汗がですね。

緊張しすぎだぞ俺。そう、手を繋ぐだけだ。これはパンさんティーカップの為の致し方ない犠牲と言う奴だ。

なにが犠牲になるかって?そんなもん俺にも分からん。

 

ズボンで手汗を念入りに拭ってから雪ノ下の手を、まるで割れ物でも扱うかの様にそっと取る。

あ、柔らかい。

 

「そんなに怯えなくても、別に貴方程度の握力では私の手は潰れないわよ」

 

ふふ、と可笑しそうに微笑む雪ノ下だが、彼女の手は想像以上に柔らかく、そして小さい。どれだけ完璧超人だなんだと持て囃されても雪ノ下雪乃が一人の女の子なのだと再確認させられるようだ。

やばい、雪ノ下の顔直視できない。

 

「さ、行きましょうか」

「おう」

 

なんだか手玉に取られてる感が凄いが、チラリと彼女の横顔を盗み見た時、耳の下が赤くなってるのが見えてなんだか緊張してるのがバカらしくなってしまった。

 

 

 

「以上で10872円になります」

 

結局、パンさんティーカップ以外にもいくつかのパンさんグッズを買ってしまった俺の手を握るお姫様は、ホクホク顔で夢の国の出張所を出た。

そしてそこを出たと言うのに雪ノ下は未だに俺の手を離してくれない。

いや、俺としては嬉しいんだよ。そりゃ好きな子から手を繋ごうと言われて実際にそうしているんだから単純な男心は揺れ動いてしまうわけで。けどそれよりも恥ずかしさが勝ってしまうわけで。

 

「ねぇ、私と手を繋ぐのは嫌かしら?」

 

複雑怪奇極まる感情をどうにか抑えつけようとしていた折に雪ノ下から声が掛かる。

その顔はどこか不安そうだ。

 

「......嫌なわけねぇだろ。あれだ、男子ってのは単純だからな。可愛い女の子から手を握られると普通の男は一瞬で落ちる」

 

ソースは俺

 

「それは貴方も?」

「さあな。そもそも俺は普通の男子じゃないから分からん」

「あら、普通じゃない自覚はあったのね。でも、嫌じゃないなら良かったわ」

 

安堵したかのように、雪ノ下は微笑んで見せた。

うーん、あざとい。

我らの後輩並みにあざとい。ちょっと雪ノ下さんどこでそんな技を習ったんですか。そして何度俺の心を撃ち抜けば気がすむんですか。

 

「んな事よりその荷物貸せ。なんだかんだと色々買ってたから重いだろ」

「あ......」

 

何か言い返される前にディスティニーショップの袋を無理やり取る。

思ったよりも重くはないな。だが手を繋いでまでいるのに相手の女子に荷物を持たせると言うのは男としての色んなものが許さなかったのだ。別にポイント稼ぎとかそんなんじゃない。

 

「別に良いのに...」

「今日の俺はお前の彼氏役なんだろ?じゃあ彼氏に甘えるくらいはしとけよ」

「そう......。なら遠慮なく」

 

ってあれ?手離しちゃうの?今の発言の中で何か気に触るようなことでもあったかしら。

なんて離れていった雪ノ下の手に一抹の寂しさを感じていると、今度は手のひらだけでなく腕全体に柔らかな感触が伝わってきた。

何事かと見てみると、なんとあの雪ノ下が俺の腕を抱いてるじゃありませんか!

 

「ちょ、お前......!」

「今の貴方は彼氏役で、彼氏には甘えても良いのでしょう?なら文句は言わないで暫くこのままでいなさい」

 

確かに、確かにそう言ったのは俺だけども!

つーかなんだよ雪ノ下真っ平らだと思ってたけど意外と膨らみはある「比企谷君?」ごめんなさいでした。

 

「てか、良いのかよ。こんな所誰かに見られたら確実に誤解されるぞ?」

「数日前にも同じ様な事を聞かれたのだけれど、まさかそれすら覚えられない程に脳が腐敗してしまっているのかしら?」

「腐ってるのは目だけで脳は腐ってないからね」

 

ちょっとちょっと、そんな幸せそうに微笑まないでくれます?勘違いする準備は出来てるんですよ?

まぁ、幸せそうに俺の腕を抱きしめて来る雪ノ下を見てたら誤解がどうとかそんなことはもうどうでも良くなってしまったんだけどな。

それにそんな都合良く知り合いとエンカウントしてしまうとも思えない。そもそも俺も雪ノ下も知り合いと呼べる間柄の人間が少ないのだし。

そんな数少ない知り合いに出会ってしまうなんてご都合主義はアニメや漫画の中だけで十分なのだ。

と言うわけで、俺は好きな子が腕に抱きついて来ているという、幸せな時間を噛み締めさせてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ〜?雪乃ちゃんと比企谷君だ!」

 

さよならハッピータイム

こんにちはアンハッピータイム




次回、魔王襲来

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