恋する八幡は切なくて   作:れーるがん

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ハーメルンの投稿スタイルに全く慣れてなくて四苦八苦しております。


第2話

入学式から数日が経った。

流石はあの雪ノ下雪乃の希望した大学とだけあって講義のレベルはどれも高くしがみつく様にしてなんとか授業について行ってると言う体たらくだ。

分からない所は雪ノ下に聞く様にしているので今の所は大丈夫だが、彼女も大学でやりたい事などが出来た時、それも出来なくなるだろう。そうなった時苦労しない様に、今のうちからどうにかして自分一人でもなんとかなる様にしておかなければならない。

 

でもそれはそれで雪ノ下との時間が減るんだよなぁ...

いや、俺は別に彼氏と言うわけではないので彼女の時間を奪ってしまうのは非常に申し訳ないと思っているのだが、好きな子とはなるべく一緒にいたいと思うのが男と言う生き物だ。

まぁどちらにしても勉強は頑張らないと行けないんだけどな。留年なんてのは以ての外だが、雪ノ下に相応しい男になる為には彼女を超えるのは無理でも並ぶくらいの成績を叩き出したい。

その時まで、この想いは雪ノ下には打ち明けない。

当面の目標はそんなところか。

そしてそれとは別に目下の脅威も把握しておこう。

 

「おはよう比企谷君。朝ご飯出来てるわよ」

 

朝っぱらから我が物顔で我が家に侵入し、更にはキッチンを占領している、エプロン姿が可愛らしい我が想い人だ。

入学式の次の日の朝はマジでビビった。当日は俺からなんとか一緒に入学式に行こうと噛み噛みになりながらも言えたのだが、いざ大学が始まるとなると俺と雪ノ下では受ける授業にも差が出てくるかもしれない。

だから毎日一緒に学校まで行くのは無理かなぁなんて思ってた矢先、こいつは俺の家に突撃してきやがったのだ。

なんでも小町から合鍵を受け取っているらしく、どうせだからと朝ご飯にお昼の弁当まで用意してくれる事になってしまった。

流石にそれは申し訳なさが天元突破するので固辞したところ

『朝を一人で過ごすよりも比企谷君と過ごした方が楽しいもの。それに料理も好きだから何も私と負担になってないわ』

と丸め込まれてしまった。

ちくしょう可愛い事言いやがるじゃねえか。そんな事言われたら許しちゃうしかなくなる。

 

だがしかし。俺個人のみの話になるとそれでも良いのだが、雪ノ下の事を考えるとそうもいかない。

あの雪ノ下雪乃が男の家に朝から入り浸っている、なんて噂が何処かしらにでも流れてみろ。彼女のブランドに傷が付く。

先に述べた通り俺は俺が彼女に相応しい男になるまで気持ちは伝えないつもりだ。

遠回しにそんな事(俺の気持ち云々を除いて)を伝えてみると

『昔言ったでしょう?私は近しい人が理解していればそれでいいと。周りには好きな様に思わせておけば良いのよ。それに、周りがそうやって誤解してくれた方が色々と都合も良いのだし......』

後半なにやら聞いては行けないことを聞いた気がするが俺は難聴系主人公なので聞こえないフリを決め込んだ。

とまぁ、そんな経緯があってそれから毎日、なんなら休日にも雪ノ下は俺の家に押しかけては朝飯と弁当を作ってくれる。

 

「......比企谷君」

「お、おう、なんだ雪ノ下」

 

数日前のことを思い出してたり考え事をしたりしているとつい黙ってしまっていたため、雪ノ下がズイッとこちらに一歩近づいてくる。それに気圧されるように上半身を仰け反らせる俺。だから近いんですって雪ノ下さん。

 

「おはよう比企谷君」

「......おはよう雪ノ下」

 

よろしい、と満足そうな顔で雪ノ下は弁当の盛り付けの続きに戻った。

1Kの狭いアパートのリビングに鎮座ましましているテーブルの上には既に朝飯が用意してあったので、速やかに顔を洗いに行くとしよう。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

 

何度食べても飽きない絶品の朝食を平らげてから後片付けをしてしまおうと雪ノ下の分も纏めてキッチンの流しに持っていく。

食わせてもらっているのだからせめて後片付けくらいはと初日に俺が申し出た故だ。

さて、その雪ノ下だが、こいつはいつも俺の食事風景をとても穏やかな笑みを浮かべて眺めている。

以前に無遠慮に浴びせてくる視線について尋ねたところ

『貴方が美味しそうに食べてくれるからつい嬉しくなって...』

と頬を赤らめながらそう言った。

つまり俺は美味しいご飯を食べれる上に雪ノ下の幸せそうな表情を見れて、雪ノ下はそれを食べる俺を見て嬉しくなる。なんとも理想的なwin-winだ。

『こうしていると私達新婚夫婦みたいよね』

その後にいらぬ爆弾を投下されたりもしたが至って問題はなかった。実際に雪ノ下との結婚生活を生まれてこの方最高の思考速度でもって妄想したりもしなかった。

 

 

 

 

昼はいつも大学の食堂にあるテラスで二人並んで食べている。リア充達もおらず、涼しい風の吹き抜ける俺たちの新しいベストプレイスとなりつつある場所だ。

俺と雪ノ下は基本的に同じ授業を受けているので一緒にそこへ向かうのだが、今日は別々の授業を受けていたので俺が先に着いていた。

いつも座っている席に陣取り、カバンから文庫本も取り出して彼女が来るのを待つ。

弁当は雪ノ下が持っているのでそれまではこうして時間を潰しておこうとページを捲る。

 

ダメだ、全く話の内容が頭に入ってこない。

え、なに?俺ってそんなに雪ノ下のお弁当楽しみにしてたの?雪ノ下とちょっと別行動しただけでこれってどうなのよ俺。

チラッと時計見てみたらテラスに来てからまだ三分も経ってないし。俺の体感時間もっと長かったよ?

もーやだー、なにこの恋する乙女回路。誰得だよ。

 

「ごめんなさい、待たせてしまったかしら」

 

声のした方に顔を向けると、そこには風で靡く髪の毛を右手で抑え、左手で弁当の入ってるであろうカバンを持った雪ノ下が立っていた。

そして例に漏れずそれに見惚れる俺。

雪ノ下に見惚れるの何回目だよ。

 

「いんや、今来たところだ」

「意外ね。貴方なら『待った待った、超待ったわ。待ち過ぎて目が腐り落ちるところだったわ』とか言うと思っていたのだけれど」

「マジで今来たところだってのと、俺の真似が微妙に似てて怖いってのと、流石にそんな自虐はしないってのと、どれから突っ込んで欲しい?」

 

て言うかモノマネの中でも俺への罵倒を忘れないあたり流石ですね雪ノ下さん。

比企谷罵倒選手権とかあったら優勝しちゃうレベル。そんな大会あったら俺の心がポッキリ逝っちゃうわ。

 

「所で比企谷君。今日の授業が終わった後暇でしょ?」

 

俺の向かいの席に腰掛けてそう尋ねて来る。

なんで俺の周りの女子は人の予定を聞くのではなく断定してくるんですかね。

はちまんだっていそがしいときがあるんだぞ

 

「分かってて聞いてんだろそれ。特に予定はねぇよ」

「なら荷物持ちに付き合いなさい。ららぽーとに行くわよ」

「またなんで?」

 

雪ノ下とららぽーとに行くのは高2の時、由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買った時以来だ。

あの時は魔王と初遭遇したり、由比ヶ浜に勘違いされたりとなんだか大変だったような思い出がある。

昔を懐かしんでいると、雪ノ下は頬を染めながらボソボソと小声で何か口にした。

 

「そ、その......」

「え、なに、そんなに言いにくいことなの?ちょっと怖いんだけど」

「いえ、そうじゃないのだけれど、ディスティニーショップで、カ、カップル限定のパンさんのティーカップが、今日から、発売で......」

「.........さいで」

 

恥ずかしさのあまりか、耳まで真っ赤に染めてしかも上目遣いの雪ノ下に対して返せた言葉はたったのそれだけだった。

 

「だから、その、比企谷君には特別に彼氏役を任命するわ。だから今日はよろしくね」

 

そう言えば高2の時も恋人役だったなぁ...

本物の恋人になれる日に想いを馳せながら、なんだか変な雰囲気の中二人で弁当を食べたのだった。

 


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